本企画は広告クリエーターでありつつ、マイノリティの意味を別角度から掘り起こし、「ゆるスポーツ」をはじめとする活動が圧倒的に仕事の比重として大きくなった澤田智洋さんが、自身の活動を纏めた著書『マイノリティデザイン』を刊行したことに端を発する。が、そもそもマイノリティデザインって何? マイノリティにフォーカスして仕事になるの? と疑心暗鬼の人もいるかもしれない。

今回、澤田さんの指名で、ミュージシャンの柴田隆浩さんとの対談が実現した。15年以上の付き合いがある二人ならではの、言わずもがななクロストークが炸裂。対談が進むにつれ、柴田さんをマイノリティデザインするとどうなるか? にまで発展して行くことに。だからこそマイノリティもマイノリティデザインの意味もグッと自分ゴトになるはず。

対談:
澤田智洋×柴田隆浩

対談:澤田智洋(『マイノリティデザイン』)×柴田隆浩(忘れらんねえよ)|負けてる世界は美しい、それを愛して歌うというデザイン interview210419_sawada-01

「弱い人とか負けてる人にしか見えない景色」

久々の再会でもすでに服のデザインで“会話”している二人――澤田さんは忘れらんねえよの真逆の“忘れた”ロゴプリントのパーカ、柴田さんは知人が小ロットで作り高価になってしまい買い取った解剖医ウィリアム・カウパーをプリントしたスウェット。なんて話が早いんだ……。

━━今と20代の頃と比べ、“マイノリティ”ってどういう人、もしくは状態なのかについて捉え方は変わりましたか?

澤田 “マイノリティ”って言葉、柴田くん使わないよね。置き換えるとどういう言葉になる?

柴田 “弱さ”とか、“負けてる”ってことじゃない?

澤田 柴田くんの歌にもよく出てくる「負けてる人」かな、社会の、何らかの観点で。そういう意味では柴田くんもマイノリティ?

柴田 そうだね。それで思い出したんだけど、中学時代にスクールカーストがあって、2軍でそれがすごいコンプレックスだった。当時は嫌で、どうにか1軍に上がれねえかみたいなことを毎日考えてたから。

澤田 考えるよね、当時はね。

柴田 今日は1軍のやつといい感じで喋れたとか、近づきになれたみたいな日があったけど、翌日になるとやっぱ全然仲間になれてなくて、風呂場で髪洗いながら「クソが!」って思うっていう。

澤田 その時にもう忘れらんねえよの原型ができてた。

柴田 もう始まってたんだよね。その後、高校生になって高校デビューして、1軍的なものにいたんだけど、コンプレックスは消えなかった。大学生になっても社会人になっても消えなくて、いまだにあるもんね。

澤田 高校に入ってバンド始めて人気が出たわけじゃん。

柴田 そうだね、それでも全然消えなかった。

澤田 小中で受けた傷って引きずるよね。僕も一緒だから。小学校の時に足が遅かったから、クラスメイトの足が速い子にイラっとして。足が速いからって言って年収高くなるわけじゃないってずっと思ってた(笑)。なんでそれでモテるんだろうなって。いまだにそれ引きずってるけど、これってみんな消えないのかな。

柴田 どうだろう、消えてる人が多い気がするけど、消えてるようでうまく隠してんのかね。

澤田 蓋してるのかな。でも消せないのって大事だよね。

柴田 大事大事。それがエンジンになってるし。

澤田 でも、僕は息子が生まれるまでは蓋をしてたからね(*)。その弱さに対して、なんか強く生きなくちゃいけないんだろうなみたいに思っていた。だけど、障害のある人に会いに行ったら、車椅子とか補聴器とか、ある意味での“弱さ”が目の前にあるから。

※澤田さんの息子さんは先天性の視覚障害を持つ

柴田 目に見える形だもんね。

澤田 そうそう。そうすると、会って5分後くらいに悩みとかを打ち明けてくれる。車椅子の友人がラーメン屋入ろうとしたんだけど、狭い店で入れなくて拒否されて、食べられなかったんですみたいな。うまいラーメン屋ほど狭いんですって聞いて、知らなかったなってなったよ。

柴田 それ言われないとわからないもんね。

澤田 言われたら、親身になる。知り合いのラーメン屋に今度お願いして、開店前だったらいけるんじゃないかなとかみんなで作戦会議して。“弱さ”ってこんな周りを熱くさせるんだなって。

柴田 だから弱い人とか負けてる人にしか見えない景色とかを見てるよね。みんな気にしなかったのに、「実は俺すげえ気にしてんすよ」みたいな。気にしてるで言うと、俺は飲み会とかで「乾杯する時」に緊張してる、というか意識を集中させてる。

澤田 仲間内でも?

柴田 そう。カチンって合わせない人が出てはいけないっていう緊張感。結構合わせられない時とかあって、俺そんな重要視されてないのかってすごい気にするの。

澤田 寂しいもんね、透明人間になっちゃうもんね。

柴田 そう、それ歌にもしちゃってて。“君は乾杯のとき俺とだけグラスを合わせなかった”っていう。好きな子とかちゃんとやってくれるかなとか。だから…マイノリティデザインですね。

澤田 ちょっと違いますね(笑)。うそうそ。

忘れらんねえよ『君は乾杯のとき俺とだけグラスを合わせなかった』Music Video

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「作為的なものはウケない」

柴田 例えば、よく東大のいけてる人とかに対して「お前苦労してねえんだろ」とか言う人いるけどさ。でもしてるんだよね、一回くらいはこっぴどい振られ方とかしてるし。芸能人とか美人な人とかさ、「どうせフラれたこととかねえんだろ。痛みとか知らねえんだろ」とか思ってたけど、きっとあるんだよね。そういう人も自殺したりとかするでしょ。きっと負けた経験はみんなあるんだなって

澤田 負けた過去の自分を葬り去っているだけだよね。それか、あくまで地下室に閉じ込めてる。だけど、そういう人ほど、だれかの傷や痛みを知らないうちに土足で踏みにじってることがある。

柴田 澤田くんの本で、スポーツ業界のお偉いさんに対して怒っていたよね。そういう人たちってひどいの?

澤田 ゆるスポーツの話だよね。スポーツができない人と新しいスポーツをつくってるんだけど、偉い人から「全人類が楽しめている完成されたスポーツををいじるな」みたいに言われたことがあった。今日本人の45%はスポーツしてないのに。

柴田 すごく取り損ねてるよね。しかも、スポーツで偉くなった人なんて、要は勝ち続けた人だからね。基本勝ちが多いよね。

澤田 だから、僕がスポーツ嫌いです、苦手ですって言うと、「えっ、そんな人いるの?」ってリアクションをされる。

柴田 いないわけないよね(笑)。あと、読んでてびっくりしたのが、スポーツのお偉いさんからすると「ゆるスポーツ」とか邪道だみたいに言ってる人がいるとか。

澤田 今もいますよ、もちろん。

柴田 こんな美しいものでも反感を覚える人がいるっていうのは衝撃を受けたな。

澤田 音楽やってるとどうなの? 柴田くんの音楽ってなんか不思議だと思って、タレントの固有名詞が入るじゃない、ベッキーとか。色あせそうだから使わないみたいなことはないの?

柴田 俺は使いがちだね。でも割と音楽作ってる人とかミュージシャンとして活動してる人はみんな自由にやっている。こういうのがウケるっていうのをほんとに考えてない。結果考えない方がウケるっていうループになってて、作為的なものはウケないことを経験上みんな知ってる。当てに行くと当たらんのよ。バレるんだよね、お客さんは馬鹿じゃないから。

澤田 いきなり変わったなとか思うもんね。

柴田 本当に思ってることとかその瞬間言いたいなって思ったことを歌詞にしないと、というかそれ以外意味がないってみんな思ってるから、固有名詞思いついたら出すしかない。俺は思いつきがちなの。そこがウケるかウケないかは、ウケてほしいけど、出てきたから出すしかない。ウケない時も全然あるけど、それも反省点を……とはならない。もうしかたないなみたいな。澤田くんの本読んでると、もちろん広めていかなきゃいけないから作戦みたいなのを立ててるけど、根本はやりたいからやるとか、息子の世界を変えたいからやるみたいなアーティスト的なものを感じて、アートだなって思ったんだよね。やる理由が自分にあるというか。自分を認めて欲しいからとかじゃなくて、初期衝動。

澤田 マーケティングとかしてないからね。

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「負けてる世界は美しい、
それを大事にすればいいよって歌うこともデザイン」

━━“マイノリティ”に“デザイン”をつけていること、“デザイン”って言葉を使うときに、何を指しているのかというお話を聞きたいです。澤田さんは社会福祉活動を行っているとは思っていない?

澤田 結果として福祉だけど、福祉をやっているつもりはないです。デザインは僕の中で「再解釈するふるまいや行為」と定義していて、例えば富士山ってただの土が盛り上がっている物体だけど、誰かが富士山だってデザインしたわけじゃないですか。犬から見たら、ただの盛り上がった土だから。なんで祈ってんのみたいな。

柴田 なるほど、見方を変えて価値をつけるってこと?

澤田 そう、それが嫌な方じゃなくて、いい方に価値をつけるっていうか。

柴田 それは幸せが世界に一つ増えるってことだもんね。

澤田 柴田くんは歌詞で負けてる世界は美しいみたいなこと、それはそれで大事にすればいいよみたいなことを歌っている気が勝手にしていて。だから、それもデザインだよね。負けた世界って恥ずかしい、汚点だって思いがちだけど、その解釈も変えてるわけじゃない。それはデザイン行為、デザイナーなんだよ。

━━活動していく中でも売れてないっていうコンプレックスなどの弱さが積み重なってきたりするんですか?

柴田 そうですね、駆け出しの当時は辛くて辛くて。本当ね冗談じゃなくて病気だったよ、5秒に1回エゴサしてたから。頭痛くなって、疲れ果てるけど寝れないし。澤田くんってそういう時期あった?

澤田 もちろんあるよ。有名CMプランナーみたいな人たちに囲まれてた環境で、何かが決定的に違うんだなって。

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「より高く、強く、速く。
その3種類のゲームしかスポーツで測れないのは非人道的」

柴田 でも、側から見てて、広告プランナーとしてもイケてるとこにいるイメージだったけど本読んだら違った、辛さは感じてたの?

澤田 自分のブランディング、見せ方を工夫していただけなの。だけど15秒の枠にどれだけ情報を収めるかゲームはやっぱり辛かったよ。当時はマスメディア全盛だから、オリンピックで言うと100m走みたいな競技をやっている感覚だった。それに向いてなかっただけ。音楽業界で言う売り上げとかオリコンっていうのが100m走で。みんなが100m走に向いているわけじゃないのに。

柴田 みんなと同じレースやらされてたもんね。

澤田 そこは向いてない人とかはストレス溜まるし、人格変わってくるよね。「もっと速く走れ」と言われても「向いてないです」って言えない。

柴田 言えないよねー、言えない空気あったよねきっと。

澤田 ゲームの数が少ないなって思って。スポーツで言うと、高い人が勝つか、強い人が勝つか、速い人が勝つかってこれオリンピック憲章に書いてあるんだよね。より高く、強く、速くって。

柴田 そこ面白かった。違うんじゃないかって。

澤田 それってゲームが少ないんじゃないかって。人間の魅力ってパーマが似合うとか、パーカーが似合うとかもあるから。人の話を聞いて必ず笑ってくれるとか。人が「高い、強い、速い」の3種類のゲームしかスポーツで測れないのってどう考えても非人道的というか。だから、母性がある人が勝つとか、価値基準を増やしてったんだよね。スポーツって競技というゲームはいっぱいあるけど、価値基準で言うと3つのゲームしかないから、もっと色んな勝ち方が見つかるゲームを作ろうってやってるというか。それは服も一緒で、服はSMLしか基本ないけど、人の体が3パターンに分けられるわけないから。

柴田 3種類に分けるのは無茶だよね。血液型判断くらいわけわかんない。 

澤田 大抵のものを3・4種類の基準にまとめているのが現代社会の構造だからそりゃ生きづらい人多いよね。だけど、生きづらいのは自分のせいだって思ってる。そうなると、スポーツ苦手なのも自分のせいだって思ってるしまうけど、社会とかスポーツに責任があるよねって。だからスポーツに逆ギレしたっていうか。「あなたの方に、我々へのホスピタリティが足りないでしょう」って。

柴田 面白い、そんな奴いなかっただろうねスポーツに。今まで誰にも気付いていない、マジで革命的なことやってるのかもね。

澤田 それは自分がスポーツポンコツだったから、できない人の気持ちとかできない人の世界がわかるし、よく見えてるし、いまだに本当に今日の出来事かのように鮮明に記憶を覚えてるから。だったら、その景色を生かして何かやるしかない。

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「柴田くん、“ラブマイノリティ”っていう曲書いてよ」

━━柴田さんは自分は“弱い”ということに自覚的だと思いますけど、それを音楽的に活かしている意識はありますか?

澤田 柴田くんはマイノリティとマジョリティ両方の気持ちあるよね。でも一貫してマイノリティに寄り添う。なんかミュージシャンって歳を重ねるごとに主語が大きくなるというか。だけど、柴田くんって歳を重ねても主語が大きくならない。

柴田 ずっとちっちゃい(笑)。乾杯の時グラスを合わせなかったとか言ってるから。

澤田 踊れひきこもりみたいなことでしょ? 成功するとマジョリティに知らず知らずなっていっちゃうよね。渦に身をゆだねていたら、既得権益っていう中心に知らないうちに辿りつく、みたいな。でもずっとマイノリティ性を維持してるのって、中々できないなって思うけどね。

柴田 でも事実、マイノリティだからなんじゃない? だから、俺がコンプレックスがなくなったりとか、例えばすごい好きな人と結ばれて結婚とかできたら、変わる気もするけど、どうなんだろうね。だから意識的にちっちゃいことを歌おうって思ってるわけじゃなくて……でも思ってるな。どっちもあんだよな、そういう自分じゃないといけないというのもあるし、事実そういう人物だからそういう歌詞が出てきちゃうってことはあるね。だから、恋愛弱者である自分が……。

澤田 恋愛弱者……“ラブマイノリティ”っていう曲書いてよ(笑)。

柴田 ダセえ(笑)。

澤田 どうしようもなさを人に指摘されて怒る人とかいっぱいいるけど、僕は自分のマイノリティ性を愛している人を愛していて、「俺ってしょうもないんだよ、あはは」って言える人ってすごい素敵だと思う。

柴田 怒る気持ちもわかるしね。でもネタにした方が楽になるもんね。みんな思ったほど気にしてないっていうね。

澤田 全然気にしてないし、馬鹿にもしてないし、可愛いと思って言ってるかもしれないし。だから、自分のマイノリティ性を愛した方が楽だし、楽しいよねって、すごい思う。今完全に、強さを伸ばさなければいけないいろんな働き方も含めて、何か作り方も含めて限界が来ている。過渡期だよね

━━この本で自分への企画書っていうテーマがありますが、柴田さんの場合ラブマイノリティなのだったら、それはどうデザインできるんでしょう。

澤田 たとえば、人は結婚するもんなんだっていう価値観自体が、さっきの話で言うとゲームが少なすぎるというか。でも、独身の人とかすごく増えてる。東京だと男性の未婚率が25%ぐらいで、女性が20%ぐらい。かなりのボリュームゾーンだよね。だけど、それを肯定する動きが少ないから、結婚しない自分に罪悪感みたいなものを持つ。

柴田 独身貴族って言葉いいよね、マイノリティデザインなのかな。でもやっぱ独身はやっぱ昔から辛いというか、辛い世界だよね。

澤田 でも、やっぱりだれもが結婚しなくちゃいけない空気が居心地悪いよね。

━━ラブマイノリティを起点としたら、社会をよくできる発明が。

澤田 独身って言葉も、負のイメージがつきすぎているから、新しい概念が必要じゃないかな。ソロ活みたいなのもあんまり……。

柴田 寂しげだね、孤高って言っても寂しげだし。ただ、もちろん辛い時や寂しい時ってあるけど、俺一人が好きなんだなって思う。

澤田 結婚しても辛い時や寂しい時なんて山ほどあるしね。

柴田 だから、どっちが幸せっていうのはないんだけど、やっぱり結婚とかいつかしたいなって思って悲しくなったりする。だけど、確かに良い言葉があったら、自分を肯定できるよね。

澤田 もう「ひとりで完結している」っていう概念が必要なのかも。結婚マイノリティは別にその人が悪いわけじゃないっていうのが「マイノリティデザイン」の考え方だから。結婚っていう制度しかないのが変でしょっていう。服は3サイズはあるのに、結婚は1サイズしかないみたいなことじゃない。どう考えてもおかしいでしょ。

柴田 おおすごい! 俺は今マイノリティデザインされてるんだね。でも嬉しいね。

澤田 でもね、障害のある方ともこんな感じで話すの、「ラーメン屋に入れないです」っていうのはラーメン屋が悪いからって。

柴田 泣いちゃう人いるんじゃない? 俺ちょっと泣きそうになったもん。わかってくれたって。世界は間違ってんだってちゃんと言ってくれる。

澤田 その人が悪いことが一回もなかったね。「僕なんて……」とか「全然社会に適応できなくてダメなんです」ていう障害の人が話してくれた時に、その人がダメなことは0人だった。「よく考えてください、悪いのはあなたじゃない、結婚という習慣に新たな一手を加えようよ」って。だから大きく考えないのが一番いいよね。市場がとか、クライアントが、マスがとかじゃなくて。

柴田 お前が何思ってんだっていうのが大事だからね。

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「音楽で食ってく必要ってそもそもあんだっけ?」

澤田 だから第三人称以降は廃止していいんじゃないかと思って。僕とあなただけ。第一人称と第二人称だけど世界を構成するみたいな。世界とか社会とか会社とか、第三者みたいな言葉全部廃止したほうがいいじゃないかって。そうしたら仕事とかも、「御社のため」じゃなくて「あなたのため」に仕事しましょうってなるから。じゃあ僕は何したいんだろうてってなるから。

柴田 「御社のために」って言われるより、「あなたのために」って言われたら全然変わるよね印象。プレゼンの時も全然違いますね。言うほうも「あなたのためにやる」って言ったら裏切れない。かなり責任が生じる。

━━それは考え方のポイントですね。

澤田 元々社会って言葉も、福沢諭吉が社会って訳したんだけど、その前は仲間とか同胞っていうのも候補に上がっていて、その方がいいなって。社会貢献しようよりも、仲間貢献しようみたいになってたかもしれない。社会が仲間って訳されていたら。そっちの方がいい社会だったんじゃないかって。

━━社会とか大きな言葉に訳していたのが戦後70〜80年経って今もっとしっくりくる言葉があったんじゃないかっていう感じですよね。

澤田 社会ってちっちゃくていいんじゃない? みたいな。人間ってダンバー数っていうのがあって、社会を認識できるのは150人くらいまでだから、それ以上になってくると会社とかも結局あの社員誰だっけとかみたいになってきちゃう。昔の村とか120〜150くらいの単位で形成されていたから、みんなのことよくわかるみたいな。それくらいの社会でもともと生きてきたから、脳もそういう構造になっているみたい。それでいいんじゃないかと思う。一億人に向けてとか、100万枚とかって、すごく不自然なことで、CD150枚売れて、その150人がすごく喜んでたら、人間活動としては上がりなんだよね。

柴田 全然満足なんだよね。あと、お金もいっぱいあるのは嬉しいんだけど、年収いくらとか前ほど気になんなくなってきた。もっと言うと、周りのミュージシャンもそうなんだけど、「音楽で食ってく必要ってそもそもあんだっけ?」って。別に働きながらでいいと思う。

澤田 結局僕は本の最後に書いたんだけど、生きる基準を走馬灯に照準すること。走馬灯ってCMみたいだなって思って。生命保険のCMだと、家族の幸せなシーンがギュンッと詰まってるじゃん。あれはもはやフェイクニュースなんだけど、走馬灯ってこんな感じなんかなって思ったら、結局お金持っててウハウハやってるシーンって走馬灯に入ってこない気がして。

柴田 入ってこないのかもね。

澤田 裕福になっても入ってこないから、本当は幸福にならなきゃいけない。裕福と幸福が今ごっちゃになっているから、みんな裕福ばっか目指すけど、それどんな走馬灯になるのって。

━━最後に走馬灯の話になるなんて(笑)。

澤田 僕走馬灯めっちゃお勧めしてるんですよね。そうだ、『マイノリティデザイン』を出したライツ社っていう出版社最高なのよ。年に6冊しか出さない。この本もすごい時間割いてくれて、採算合うんですかって。

柴田 でもその方が売れるんだろうね。

澤田 そう、結果ほとんどヒットしてるんだけど。柴田くんすごく文才あるって話をしたら、小説をよければって。

柴田 俺一回ねトライしてみたけど、別にね書きたくなかったんだよね。なんかね、音楽と酒飲んでればいいかなって

澤田 でもいい発言だね、そこで偽んないほうがいいね。それがこれからのかっこよさだと思う。

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Text by 石角友香
Photo by 中村寛史

PROFILE

澤田智洋
著書『マイノリティデザイン』、『ガチガチの世界をゆるめる』を執筆。福祉クリエイターとして福祉領域のビジネスを手がけ、代表的な活動として世界ゆるスポーツ協会代表として、運動オンチでもできるスポーツを開発し近年注目される人物。そんな澤田氏、実は本業はコピーライターの顔を持つ。それ他、音楽ユニットのプロデュース、近年はゆるミュージックを立上げ新たな楽器づくりを行うなど、活動は多岐に渡る。

Twitter

忘れらんねえよ(Gt./Vo.柴田隆浩)
2008年結成。元気いっぱいの中年がやっているロックバンドです。
2018年5月にベースの梅津が卒業し、柴田のソロ・プロジェクトとして新たなスタートを切る。
2019年12月にデビュー10周年を記念したフルアルバム「週刊青春」リリース。
2020年7月には無観客配信ワンマンライブ『さよならブリッツ – マイナビバイトであざす~! -』を開催し、
配信ライブならではの演出を多用して大成功を収めた。

HPTwitter

INFORMATION

マイノリティデザインー弱さを生かせる社会をつくろう

澤田智洋
ライツ社

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