カルチャーパーティー・SETSUZOKUは今年で10周年を迎える。2011年の発足から、2018年以降のタイを皮切りとする東南アジアへの進出に至るまで、このパーティーは常に歩みを止めず、音楽とアート、ファッション、フードを融合させながらアンダーグラウンドカルチャーを発信し続けてきた。

2021年、SETSUZOKUはアニバーサリーイヤーと称してアーティストや様々な業界とのコラボレーションを企画。第1弾として、タイ(イサーン)料理店『モーラム酒店』、タイのエナジードリンク『M-150』とのコラボレーションを発表、その第二弾として、都内有数の良盤を揃えるFACE RECORDSと、上質な音響設備とドリンクを提供する渋谷・INC COCKTAILSとのコラボレーションイベントを発表する矢先、相次ぐ緊急事態宣言によって、約1年の延期を余儀なくされた。そんな、イベントプロジェクトが、いよいよ来年1月から実施されることとなった。

イベントは全6回のシリーズ企画。出演者やコンテンツなど気になるイベント内容はまだ明かされず、これからとの事だが3社ならではな強力なコンテンツ内容が期待できる。今回はイベントに先立ち、SETSUZOKU・プロデューサーの西堀 純市、FACE RECORDS・広報の佐取 温子とINC COCKTAILS店長・森岡 賢二の3人による鼎談を実施。各業界の10年間を振り返る彼らの言葉からは、イベントに賭ける想いと、次の10年へ込める期待が滲み出ていた。

INTERVIEW:
SETSUZOKU × FACE RECORDS × INC COCKTAILS

制作・店舗・アーティスト ── 点と点を線でつなげるイベントを目指した

──まず、SETSUZOKUの主催である西堀さんにお聞きしたいのですが、なぜこういったレコードショップ、ミュージックバーとのコラボレーション企画に至ったのでしょう?

西堀 純市(以下、西堀)これまでの経験から、キチンと点を線で結びつけるような企画じゃないと、やる意味が無いと思っていたんですよ。今回のようなイベントでは、意図せずともレコードやお酒などを介してコミュニケーションが生まれます。ブースに立つDJの方々はレコードや音を掘り続けてきたプロフェッショナルですし、バーテンダーなんかもその道の専門家じゃないですか。気になるモノがあれば、そこでアクションが生まれるので。そういった状況を作るのが、今回の僕らの役目だと思う。個人的にはいいバランスの企画を落とし込めたんじゃないかな、と思っています。

──単に会場にポップアップ的にレコードを買えるスペースを作ったり、フードを出店してもらうような形態ではなく、DJの選曲する行為と絡めた企画に至ったのが面白いな、と思いました。

西堀 今までもクラブという空間にこだわらず、飲食店など面白い空間の中で、フードやアート、ファッション、音楽の融合にチャレンジしてきました。ただ、様々な要素を詰め込んでも、それが面白さには繋がるとは限らない。結果「何がしたかったんだ……?」ってことも多いんですよね。

また、この10年で日本のクラブカルチャーが様変わりしたことも、今回のアニバーサリーの開催と関係しているかもしれません。僕自身がクラブという空間をあまり面白いとは思わなくなったことも一因かもしれませんが……。

──ええっ、そうなんですか。なぜ面白くなくなった、と感じるのでしょう。

西堀 この10年間で選択肢と情報にあふれ、あらゆることが出尽くしたじゃないですか。例えば、ライブペイントやフード出店なんかも今では新しいとか珍しいなんて感覚はないし、クラブという空間で非日常感を獲得することが難しくなったと思います。

本来、クラブって“非現実な場所”だったと思うんです。僕がクラブで遊んでいた10年以上前は、遊び場も限られていて、その中で、クラブという空間は非日常で刺激的でした。ドレスコードがある場所もあれば、遊び方を間違えれば怖い経験もする。自分の生活との差に価値を感じていた。

そこから徐々に遊び場が細分化され、飲食店やギャラリーなど、クラブじゃなくても音楽を鳴らせる場所、というのが増えて、コンテンツも細分化されたように感じてから、自分にとってスペシャルな場所でなくなっていってしまったんですよね。

──「非日常感が薄れた」というのは、必ずしも「ライフスタイルに溶け込んだ」というわけではない、ということですよね。

西堀 それは別ですね。例えば、東南アジアのシーンと日本のシーンを比べた時、むしろ東南アジアの方がライフスタイルに溶け込んでいる印象を受けます。浸透している分、情報の広がり方や、文化を取り込むスピード感が明らかに日本よりも速い。日本よりもグローバルな分、メジャー/アンダーグラウンドといった線引きが薄い印象です。

音楽やお酒など、本当の意味でのエンタテインメントがライフスタイルの中に浸透していけば、国外との差は縮まるのでは、と期待します。

-Culture Party- SETSUZOKU 2019 in Thailand Vol. 5 クボタタケシ

2019年、タイ・バンコクで開催されたSETSUZOKUの様子
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SETSUZOKU・プロデューサー 西堀 純市

インバウンドやレコードブーム再燃を経て訪れた変化

──ある意味で、参加者のライフスタイルに浸透させるようなアプローチをイベントで仕掛けていくのですね。では、そこで一緒に組むパートナーとしてFACE RECORDSINC COCKTAILSというチョイスに至った経緯は?

西堀 酒が美味くて、音が良くて、雰囲気がいい。これが整っている場所って自分の中では少ないんです。INC COCKTAILSは音響もバッチリだし、空間もおしゃれでお酒も美味しい。真っ先にINC COCKTAILSが浮かびました。それに天邪鬼なんで少しでも自分にとって新鮮な場所でやりたいんですよね。

一方、大型店舗ではない中で国内のレコード業界を盛り上げていて、精力的に展開されているレコードショップとして真っ先に頭に浮かんだのが、FACE RECORDSさんでした。やっぱり、イベント、DJ、にイコールはレコードだと思う。その良さを一緒に表現して、世の中に発信できる企業だと思ったからです。

佐取 温子(以下、佐取) SETSUZOKUのInstagramでお店のことを紹介していただいたのが最初の出会いだったんですよね。そのご縁で、今回のコラボレーションにお声がけいただいたのが1年ほど前。コロナ禍の中でも前を向き、文化を発信し続けようとしているところに共感して「ぜひ!」と。

当時、まさにRAYARD MIYASHITA PARKで既存の店舗とは全く異なるターゲットに向けた新店舗をオープンする直前でもあったんです。従来のように玄人向けではなく、レコードを触ったことのないようなお客様に向けた準備を進めていたところ。まさにインストアライブといった企画も考えていたんですよね。

でもコロナの影響でイベントを形にするのが難しい状況だったんです。その最中にお誘いいただいたので、光栄に思った記憶があります。

──世界的なシティポップブームも相まって、FACE RECORDSの新店舗も訪日外国人観光客の需要も見込めそうでしたよね。コロナさえなければ……。

佐取 そうなんです。特にコロナ禍の直前である2019年はレコード再燃のピーク。インバウンドのお客さんがお店に訪れる頻度も増え、一番売上の動いていた年だったんですよね。

しかもシティポップ全盛期のレコードはアートワークもこだわっている作品が多いぶん、DJじゃなくても「ジャケットがかっこいい」と手に取ってもらえることもあって。ものとして部屋に飾りたい、という若い客層が目立ち始めたのもその頃でした。

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FACE RECORDS広報・佐取 温子

──私自身もレコードブームが再燃してからレコードに興味を持ち始めたのですが、今のような流行が起こる前はどういった状況だったのでしょう?

佐取 10年前はレコード市場が最も低迷していた時期だったらしいですね。弊社の代表(武井 進一/FTF株式会社代表取締役)から、10年前はインターネットの普及に合わせ、徐々にレコードの価格差が国内外で無くなってきた年だったと聞きました。買い付けや輸入が難しくなり、東日本大震災の翌年は景気が特に悪かった、と聞いています。

私も森岡さんにぜひお聞きしたいのですが、ここ数年で、ミュージックバーに訪れる客層にも変化は訪れていたのでしょうか?

森岡 賢二(以下、森岡) すごく変化は感じていました。僕たちは「良いお酒とフード、音楽を提供する」ということを目的に関西で活動していたのですが、特に2017年頃からは若いお客様が曲のリクエストをすることも多くなってきました。「ちゃんとしたお酒を飲む」ということも注目され始めた年だったんじゃないかなと。

──INC COCKTAILSが東京へ新店舗を出店したのは2018年。同年に東間屋がオープンするなど、“ミュージックバー”という形態が目立った年だったと思います。その時期に東京への出店を決めた経緯はなんだったのでしょうか。

森岡 東京で「良いお酒を提供する」ということに需要があるなと感じていたんですよね。僕らは2017〜18年頃、まさにバラエティに富んだお酒を提供しようと、世界中からレシピやリキュールを率先し、探して提供していた年だったんです。レコードを聴きに来た若い子にお酒のことも好きになってもらうチャンスだな、と。幅広い層に来てもらおうとしていました。

普段出演されるDJの方にも「どの年齢層にもフィットするような音楽をかけて欲しい」というオファーをしています。60年代製のスピーカーなので、音響機材にあったブルースやソウル、ラテンなどを選んでもらうことが多いかもしれない。クラブと違うアプローチができる空間作りは、すごく意識しています。

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──「良い音」や「良い味」など上質な体験が求められるサイクル……のようなものも関係しているのかな、とも思いました。

森岡 それで言うと、1回目のサイクルは1960年代のジャズ喫茶が始まりだと思うんです。ジャズ喫茶というスタイルも日本独特の文化。そこでお酒を提供し始めたのは、渋谷だとJBSさんなのでは、と思います。2015-16年あたりにそういったスタイルが注目され、一瞬だけ下火にはなるものの、2018年頃に再び海外から注目されるようになった。そのシーンが今のブームに繋がっているのかな、と感じています。

西堀 あと先ほど佐取さんもおっしゃっていましたが、2018年くらいにミュージックバーが盛り上がっていったのは、インバウンドの影響も強かったと思います。意外と日本のようにクオリティの高いミュージックバーって海外には少ない印象です。だから海外から来た人はよく「お酒を飲みにミュージックバーに行きたい」と言う。ここ数年でグッとお店が増えたのは、オリンピックの影響を見据えたことも少なからずあったかもしれませんね。

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INC COCKTAILS店長・森岡 賢二

非日常感を獲得するための場所を生み出すには

──おそらく今回のSETSUZOKUは、年代問わず「良い音楽、良いお酒」の楽しみ方を経験するチャンスになるのでは、と思っています。企画サイドとしてどう楽しむことがオススメなのかを教えてください。

西堀 SETSUZOKUとしては楽しみ方をお客さんに投げてきた感じなんです。「これがいいですよ」じゃなくて「勝手に決めてください」って感じです。遊ぶ側も学ばないといけないですよ。僕はなんでも用意して提供するのは好きではないので。遊ぶ側も遊ぶ知識をつけないといけないし、頭を使って考えることも必要だと思っているんですよね。パーティーって音楽や企画者だけではなく、お客さんが重要なんだということが伝わると思います。

そもそも「良い遊び方」っていうのは、必ずしも良い酒、良い音楽で……という環境にいることではなくて、考えながら、自分のアンテナを張ってキャッチすること。考えて、自由に遊ぶことなんだと思います。そのキャッチがしやすい環境は、今回セッティングできていると思っています。

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──佐取さんは今回のイベントを通じ、いわゆる“レコード初心者”に対してどういったことを伝えたいですか?

佐取 レコードの音だからこそ生まれる現場の記憶やコミュニケーションっていうのは、刺激の1つとして今後も残るだろう、と個人的に思っています。レコードって音を聴くまでに、ジャケットを手に取り、アートワークを目で楽しんでから、針を落として……とプロセスが多いじゃないですか。すぐに情報を手に入れられないからこそ、音を聴いた時の空気感はすごく鮮明に覚えるんです。

今回のSETSUZOKUでは特に、説得力のあるDJが多く出演されるので、そういった「レコードならではの刺激」を若い世代にも楽しんでもらえれば、と期待します。

──気になる曲が流れたら、ブース越しにDJへ話しかけたり、ジャケットを見せてもらったりもできますからね。確か縛りではなかったかと思います。

佐取 あえて何を選ぶのかを注目していただきたいですね。それ自体が玄人でも若い世代でも楽しんでいただけそう。

──それを素晴らしいフードとドリンクの提供できる環境で聴く、というのは特別な体験になりそうです。当日の会場も少し普段とは違ったスタイル、と伺いました。

森岡 今回はお客様に着席いただく予定なので、クラブとは異なるサーブを提供したいと思っています。「ちょっといい店にきた」ようなテンションでくつろいでもらいたいです。また、僕らも臨場感を担っていることを意識しながら、アプローチをしようと思っています。

DJの先輩方によく言われるのは、僕らが鳴らす氷を割る音やお酒を注ぐ音、シェイカーの音が綺麗にハマる瞬間がある、ということ。確かにお酒を作っている時、音楽と話し声、カクテルを作る音のバランスが取れることはあるんですよね。DJが流す音楽と、僕らがお酒を作る音を綺麗にミックスしますので、環境そのものを楽しんでいただきたいと思っています。

──ありがとうございます。では最後に西堀さん、イベント10周年を迎えた今、次の10年に向けての展望を教えてください。

西堀 イベントに関して、どうしていくかは特に決めてないです。ただ、この先は幅広い意味で社会に貢献していけるようなことを目標にしたいと思っています。単なる“サブカル”や“エンタメ”という一般認識から抜け出す必要があるし、そのようなポジションを獲得する ことができれば、少しは意味があることが出来るかもなんて思ってます。

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Text by Nozomi Takagi
Photo by SETSUZOKUASIA

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-Culture Party- SETSUZOKU

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