2011年の発足から、昨年10周年を迎えたカルチャーパーティ・SETSUZOKUのアニバーサリープロジェクト。第1回目がDJ NORI × MURO、第2回目がDJ KENSEI× 瀧見憲司、第3回目が須永辰緒×沖野修也と毎回特別なゲストを迎えて行われる同企画。その第4回目が2022年12月、渋谷のミュージックバー・INC COCKTAILSで開催された。

ゲストには、国内ヒップホップの黎明期にキミドリのメンバーとして大きく貢献し未だ多くのリスナーに多大な影響を与え、長きにわたって場所やジャンルを問わずさまざまなフロアをDJとしてメイクしてきたクボタタケシと、ソロでのライブや作品のリリースだけでなく、FNCYのメンバーとして、そしてDJとしても活躍するG.RINAの2人。

キャリアの長さこそ違えど、オルタナティブかつ越境的なアプローチで音楽と人を繋いできた両者は、この10年何を感じ、考えてきたのだろうか。イベントに先駆けてFACE RECORDS MIYASHITA PARKでレコードの選盤を終えた直後に話を訊いた。

対談:
クボタタケシ × G.RINA

━━今日レコードを選ぶにあたって意識した点はありますか?

クボタタケシ 今回は、ラテンの人じゃない、ロックの人とかがやっているラテンの曲が入ったレコードを3枚選びました。あと1枚は今日の気分で、という感じです。

G.RINA 私は、踊らせることを意識せずにという話もあったんですけど、あんまりラウンジーになりすぎないような、ジャズ系のレコードの中でもソウルフルな曲が入っているものを探しました。

━━クボタさんは最初に7インチのコーナーから見ていましたね。

クボタタケシ 7インチはもう自分の趣味ですね。あと自分が欲しいものを探していただけなんです。だけどお店でかけるシチュエーションだから、ある程度考えなくちゃいけないなと思って、ラテンじゃない人がやっているラテン音楽を見回って。

━━ご自身の趣味で探していたものはあったんですか?

クボタタケシ ラテンのレコードも自分の趣味といえばそうだし、かけるレコードは全部自分が好きなものなんです。ただ今回は、最近はそんなにかけてない、よく昔かけていたなというレコードを懐かしいなと思って選んだ感じです。

━━レコ屋はよく行く方ですか?

G.RINA 以前はよく通っていました。お世話になったレーベルがあったDisc Shop Zero
、イベントを一緒に主催していた仲間もHotwax、Moonwalk、Beamsだったりレコード店で働いている子が多かったんです。今は地方に行ったりしたときにレコード屋さんを覗いたりはしますが、あんまり数を増やさないように心がけていて……。

━━SESTUZOKUが昨年10周年を迎えていますが、G.RINAさんが出演していた初期からでいうと2011年あたりですか?

G.RINA その頃はデータとレコード共存でやっていました。今はまたレコードがたくさん作られていますけど、いろんなメディアの変遷がある中で、データでしか手に入らない曲が多くなった時期もあって。私は世界のどこかの、聴いたことのないようなダンスミュージックを探すことも好きなので、そういった音楽とみんなが知っているものをミックスして近い質感でかけるには、どうしてもデータで集める必要がありました。今はレコードでかけてくださいというオーダーがあったときにレコードでDJするようにしています。

━━長年ヴァイナルでDJしているクボタさんは近年のレコードブームに対して何か思うことはありますか?

クボタタケシ いや、考えたことなくて。ずっとレコードを変わらずに買っているんで。さっきみたいに新譜とかはレコードになっていないものもいっぱいあるから、そういうのはCD-Rに焼いてかけたり。でも誰も知らないようなダンスミュージックだと逆に7インチで出ていたりするものもあるし、例えばトラップとかでも7インチがあったりもするから。そういうものを見つけてDJでかけているとパッとお客さんがブースに来て「あ、これって7インチあるんですか?」「そうそうそう」っていう会話が生まれたりして。

━━東京だと渋谷のレコ屋に行くことが多いですか?

クボタタケシ いや特にどこってことはなく、近くに行ったらですね、ユニオンとか、FACE RECORDSもそうだし。まあでも一番いいのは個人の家なんですけどね。誰かがアナログを手放すっていう情報を聞くと飛んで行く。

━━そういう情報が届くんですか?

クボタタケシ 来る場合もあるし、手放しそうな顔の人とかもいるから(笑)。「この人手放すな」と思ったらね。

G.RINA そういうものの中にはクボタさんが求めてるものってなかなか無いんじゃないですか?

クボタタケシ いや、そんなことないですよ。逆にそういうものの中にこそあったりするんだよね。よく地方のレコード屋さんとかでも「クボタさんが買うようなレコードなんて置いてないですよ」とか言われるんだけど、「こういうのも買うんですね!」って驚かれることも多いですね。

G.RINA クボタさんの集め方はいわゆるコレクターという感じとも違うんでしょうか?

クボタタケシ コレクターじゃないですね。自分でかけるものだったり、アイディアになるものとかしか買ってないし。でも〈B-Boy Records〉っていう、ブギ・ダウン・プロダクションズ(Boogie Down Productions)とかを出しているレーベルがあって、そこからリリースされたものだけはコレクションしてたり。

━━DJでかけなくなったレコードを手放すこともあるんですか?

クボタタケシ もちろんあります。“ヴァイナルロンダリング”してます、ずっと。

━━なるほど……。

クボタタケシ “ヴァイナルロンダリングって今作った言葉なんですけど(笑)。

G.RINA それ何ですか?って聞こうと思ってたのに(笑)。

クボタタケシ なんか流されてたんで(笑)。でもニュアンスでなんとなくわかるでしょ?

G.RINA 安く買って高く売るみたいなことですか?

クボタタケシ いや、主に状態がいいものが手に入ったら持っているものを手放したりとかね。

━━若い世代の方でもレコードでDJを始めている方も最近多い印象があります。

G.RINA どうですかね。いつの時代もレコードを愛する人、今だからレコードに意味を見出す人がいるだろうと思います。DJの練習のスタートとしてレコードを使うのは、自分の経験からいっても、すごくいいことじゃないかと思います。

わたしは最初レコード屋さんのレーベルからアルバムを出していたり、今もレコードを愛する方とお仕事することが多く、ありがたいことに今まで自分の関わってきた作品はかなりレコードになっているんですね。12インチだったり、最近は7インチが多いですけど。DJ目線というより作品をレコードにしている制作者からの目線だと、それを手に取ってくれる人がちょっとずつ変わってきているかなとは思います。

クボタタケシ どう変わってるの?

G.RINA 今はDJじゃない方も買ってくれている気がします。アイテムとして、CDじゃなくて7インチとデータで買うっていうリスナーの方がいらっしゃるのかなって。もちろんDJで買ってくれている方もいると思うんですけど。

クボタタケシ 20代のDJがアナログでかけてることが結構多いなと思う。

━━クボタさんの注目している若手のDJはいますか?

クボタタケシ 今まで一緒にDJした人たちは、みんな素晴らしい。もっと知りたいですね。

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━━ここ10年でクラブシーンも状況が大きく変わっていると思うんですけど、具体的に変わったことなどありますか?

クボタタケシ なんだろう、分煙でクラブでタバコが吸えなくなったとか(笑)。

G.RINA バー形態のお店は増えましたよね。

クボタタケシ DJバーね。

G.RINA システムを整えているミュージックバーで、踊ってもいいし、基本は美味しいお酒を飲んで各々で楽しむっていうところが増えてますよね。いざクラブに行こう! という感じじゃなくて。

クボタタケシ DJバーは渋谷にもすごいいっぱいできたよね。

━━そういった形態の違いでDJのスタイルを変えたりしていますか?

クボタタケシ 自分のスタイルは変えないですけど、その場の雰囲気でやってます。ハマるときはハマるし、スベるときはスベる(笑)。

G.RINA 私は呼んでいただくイベントによってこういう風にしてくださいっていうリクエストを聞いた上で選曲しています。かけたい音楽にも幅があるので、10年の変化というより、ずっとそういう風にやってきているので、あんまり変化はないかもしれません。

━━リクエストがあった方がやりやすいですか?

G.RINA 特定のジャンルでDJやっています、という感じではないので、ひたすら歌のない最新のダンスミュージックがいいのか、80’sのダンスクラシックがいいのか現行R&Bがいいのか、少しリクエストがあった方がイメージを持って行きやすいので。データではもちろん色々持っていけるんですけれどね。

クボタタケシ えーごめんね。1、2ヶ月前に自分のやっているイベントでG.RINAに出てもらって。渋谷Bridgeで自分ともう1人を呼んで、2人だけで夜10時から朝5時までやっているイベント(※<DJ BAR Bridge Wednesday>)なんだけど、その時は「好きなように」って言ったから、たぶん心の中では「ふざけんなよ」って思われてたんじゃないかな(笑)。

G.RINA いや違うんです(笑)。実際は好きなようにって言われることも多いんです。それはそのときの気分で提案します。あと、自分の中でこのサウンドシステムで聴いてみたいってものもあったりするので。むしろ贅沢な機会です。

クボタタケシ でもそこにお客さんがバーっといたらどう?

G.RINA それはそのときの様子で……。

━━G.RINAさんは自分のライブのアフターパーティーだったりだと選曲は変わってきますか?

G.RINA どこでもそうですが、その場の世界観に合うものでこういう音楽はどうですか?っていうものをプレゼンテーションするっていう感じですかね。でもDJについて、こうあるべきっていうのが私には本当になくて、あまり語れることがないんですよね。

クボタタケシ またまた(笑)。

━━ちなみにDJしているとき、フロアはどのくらい意識していますか?

クボタタケシ フロアよりお店全体を気にしてやってます。ライブとかじゃない限りは全員踊っている方が不自然なんで、人を雰囲気良くその場にいさせる音楽もあると思う。全体のムード、雰囲気かな。で、雰囲気が良ければ踊りたい人は踊るし、お酒飲みたい人は飲むし、その場にいたい人はいると思うから。「え、朝までいちゃった!」って言ってくれる人もいっぱいいますし、そういうリアクションが嬉しいかな。

━━ライブアクトの間でDJしたり、DJからバトンを繋がれたり、シチュエーションが違っているときも同じように全体を意識していますか?

クボタタケシ もちろん、そうです。

G.RINA フロアやお店への意識、生モノですよね。すごく踊っている場合だけが刺さっているとは限らないのが、面白い部分でもあります。一方で他のDJの方がその塩梅をどうされているのかなっていうのはすごく気になります。自分がDJしていないときにこそ気にしています(笑)。クボタさんは同じレコードをかけても本当に聴こえ方が違う時があって、そういうマジックはどうやって起きてるんだろうって思いながら聴いてます。

クボタタケシ ありがとう(笑)。

G.RINA でも本当にそうなんです。「箱全体を見ている」とおっしゃっていましたが、いろんなモードのお客さんが心地よくいられるようにしたいとわたしも思っています。クボタさんは箱全体を見るなかで、EQやボリュームのコントロールについて、注意されていることはありますか?

クボタタケシ よい音、心地よい音、かつボリュームは出ているのに普通に会話できるように気をつけてます。

━━ちなみにお二人のはじめましてはいつだったんですか?

G.RINA 何が最初かは思い出せないんですけど。

クボタタケシ そうなんだよね。

G.RINA 仙台や大阪でご一緒したこともありますよね。私は地方に1人で呼んでいただいたりすると、同じオーガナイザーさんがクボタさんを呼んでいることも多くて。クボタさんの話がクボタさん不在のところで出てくることがよくあります。たぶん地方にいるバラエティに富んだDJをされる方とか、そういうイベントをオーガナイズしている方とクボタさんが近いところにずっといらっしゃるのかなと思って、お話だけ聞いていたときはいつか現場でご一緒したいなと思っていましたね。でも、ご一緒するようになったのはきっとクボタさんのキャリアの中では近年ですよね。

クボタタケシ そうだね、うん。最初はもう亡くなってしまった下北のDisc Shop Zeroの飯島さんに「すごくよいので聴いてください」って言われてG.RINAの1stアルバムを聴いて「うわ、すごい器用だな」って驚いたな。だってあの頃いくつだっけ?

G.RINA 20歳くらいですね。

クボタタケシ 1stからずっと聴かせてもらってますよ。で、DJでもかけてるよ。

G.RINA ありがとうございます(笑)。

クボタタケシ で、今は今でFNCYもやって、ソロもやって、すごいよね。俺はずっと緩くやってるから。まだちゃんと見たことないけどDJの動画の配信もやってるんでしょ? パッて流れてきたらすごい怪しいライトの中でやってるから「これすごいな」と思って。

G.RINA あれは滅多にやってないんですけどね(笑)。

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━━G.RINAさんはDJ SENORINAという名義をお使いになっていた時期もありますよね。その名義を使わなくなった理由はあるんですか?

G.RINA 私はゲットー音楽といわれるようなダンスミュージックも好きなので、DJではそういう曲もかけたいんですが、その当時のアルバムで作っている世界観はそれとはちょっと違っていたので聴いている方を混乱させちゃうかなと思って名義を別にしていたんです。今はそういうことを気にする必要もないのかなって。

クボタタケシ じゃあゲットーベースみたいなものもG.RINA名義で大丈夫なの?

G.RINA 大丈夫ですね! リリックの中で使われる言葉は気にした方がいいとは思いますが。ずっとこんな風に横断してやってきていますし、いまは細かなジャンル意識はお客さんにも少なくなった気がします。昔はジャンル分けみたいなのがもっとガチっとありましたよね。

━━女性DJのフィールドも昔と比べて変わってきたんでしょうか?

G.RINA うーん、どうですかね、ずっと女性DJはいると思うんですよ、続けている人の割合はたぶんそんなに変わっていないんじゃないかなって思います。

━━女性DJだけで括るイベントとかもありますよね?

G.RINA そうですね。

クボタタケシ なんでこうやって括るんだろうなと思いますけどね。

G.RINA イベントの主催者が女性だったりする場合は「連帯」だと思うんですけど、外側からそういう意味を掲げてイベントやりましょうという感じのときは、お客さんはどんな風に感じているかな? と気になりますね。自然に男女両方いるのが理想ですが、出演者がほとんど男性のイベントも多いので。ただ、それは単純なことではなくて、こうあるべきっていうのは難しいですね。

クボタタケシ 意識したことはあまりないけど、アーティストやDJの割合で男性の方が多いのって日本だけなのかな。

G.RINA テクノは長く続けている女性も多い印象があります。同じように活躍の場があるということじゃないでしょうか。今思い浮かべたのはみんな外国の女性DJですね、DJがより職業として確立している国々と単純に比べるのは難しいと思います。

クラブでの女性プレイヤーが全体として少ないのは、男性オーガナイザーが多い中で人間関係を築かなければならなかったり、体力的な部分で思うようにいかない面もあると思います。多くのDJはDJ以外にも音楽あるいはそうでない仕事を兼業してスタートしていると思うので、イベント翌日にも仕事をできる体力が求められますよね。華やかに見えて、実際は体力が必要なんです。レコードを運搬するとかもそうですね。

ほかにも例えば単純に楽屋に女性トイレがないとか着替える場所がないとか、失礼な対応をされる、お酒が断れない、ちょっと危ない思いをした、減ってきたとはいえ小さなことの積み重ねで心が折れることもあると思います。もちろん男性にも悩みがあるとは思いますが、その悩みを共感しあえる仲間は少ないかもしれません。
それと人生の変化で、たとえば妊娠などで物理的に活動を変化させざるをえない、休業してそこから復職する難しさは他の仕事と同様にありますよね。

━━なるほど、外側からだと見えにくいことも多いですね。

G.RINA ただ私自身が見たことでいうと、活動の中で出会った女性DJの多くは、変わらずDJを真剣に続けている人が多いです。そういった子達にも、先輩の女性DJにも、どちらの存在にも勇気づけられます。続けるということはそれだけですごいことだと思いますし。同時に先に言ったような、単純な不足、ギャップになる部分を克服していく環境や周囲の理解が進めば、続けたいと思う人、力を発揮できる人も増えるだろうと思います。

遊びに来てくれるお客さん、各地のオーガナイザーさんや同業者、周囲の理解者に恵まれて、わたしも続けてこられたんだと思います。なので私自身も年齢を重ねて活動を続けていくことが何らかのサンプルになればいいかな、という気持ちではいます。

━━G.RINAさんは出産や子育ての関係もあって、パーティーから離れていた時期もあるかと思うんですが、その時期にナイトライフに対する意識は変わったりしましたか?

G.RINA もともとそんなに多くは遊びに行かないです、自分が出演するときだけでも結構大変だなって感じなので、全然一般化できるような話はできないんですけれど。私は今も昔も1人で遊びに行くので、そこに自分と似たような気軽な大人が一人でもいてくれるとうれしいですね(笑)。

━━自分もよく1人で遊びに行きます。G.RINAさんの考える1人で遊びに行く理由はどのようなものでしょうか?

G.RINA 観たいものを観て、会いたい人に会って、帰りたいときに帰れるからですね(笑)。そういう感じで遊んでいる人がもっといたらいいのになとは思います。

━━クボタさんはコロナでパーティーから離れた時期はどのような変化がありましたか?

クボタタケシ 配信とかたくさんオファーをいただいたんですけど、本当にカメラとか映像とか苦手で、全部イラストでいいって感じで。

G.RINA イラストだったらシュールですね(笑)。

クボタタケシ 今回もG.RINAだけ本物で俺はイラストでいいのよ。

G.RINA いや私もいっしょにイラストがいいですよ。

クボタタケシ またまた(笑)。そう、だから配信とかは全部断っちゃっていて、でもこれがあと5年とか10年とか続いたら仕方なくやるんだろうなとは思っていたんですけど。今まで20歳くらいから30年くらい、レギュラーを1週間も欠かしたことがなかったんですよ、ずっと続けていて。でもみなさんと同じように全部イベントが止まって、最初は「えー」って感じだったけど、でももういいや、前向きに捉えようと思って。そのためにはどうしたらいいか考えて「そうだ、タバコと酒をやめよう」と思って、タバコと酒をやめたんです。30年間ヘビースモーカーだったのに。あと、体力が有り余っちゃってたからたくさん歩くようになって。

━━健康的になったんですね(笑)。

クボタタケシ そう、健康的になっちゃった(笑)。酒はもともとクラブでしか飲まなかったんで、簡単にやめられたんですけど、タバコをやめられるとは思わなかったな。スッパリやめてもう2年半。またDJができるようになったら吸い始めるんだろうなと思っていたけど、タバコ吸わないと身体ってこんなに調子いいの?って感じで。今まで吸ってる状態が普通だと思っていたから、もう今は体が軽くてね。

━━気分的に落ち込んだりすることはなかったですか?

クボタタケシ 最初は「えー」って感じだったけど落ちないように、タイミングよく引越ししてみたり。それも自然で、今まで気に入って住んでいたところが「分譲になっちゃうんで出て行ってください」と言われて、このコロナ禍に。今までやったことがなかったいろんな申請とかもたくさんやって、忙しくしてました(笑)。

G.RINA クボタさんがお酒飲まなくなったなんて信じられない。

クボタタケシ ね、本当に(笑)。

━━コロナ禍はツアーなどで忙しくしているミュージシャンたちにとって心に余裕を持てる時間でもあったという話もよく聞きました。

G.RINA コロナ禍真っ只中のときは学校もお休みだったので、ひたすら子どもの勉強をみたり、遊んだりですよ。それが落ち着いてからは、自分のスタジオの電源の電圧を変えたりミキシングを勉強したりとか、できなかったことに挑戦はできました。でも心を見つめる時間はなかったかな(笑)。

クボタタケシ 「オールナイトのイベントに出ない」って言ってたときがあったじゃん、あれは変わったの?

G.RINA この間のイベントは特別で。今はオールナイトだけでなく、いろんなお客さんがアクセスしやすい時間帯のイベントも増えたので、そういうDJの機会が多くなっていますね。

━━コロナ禍で音楽の聴き方は変化しましたか?

クボタタケシ 変わらないかな。でも、家ディグというか、レコード屋さんも閉まっていたから家にあるレコードを探して、これもあるあれもあるって。

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━━10年を振り返るとSNSの発展も大きかったのではないかと思います。パーティーにどういった影響がありましたか?

クボタタケシ 今はオファーも2週間前とか1週間前とかに来たりもして「大丈夫かな?」と思うけど、SNSがあるからそれで宣伝してちゃんとお客さんが入ってるし。以前は考えられなかったね。2、3ヶ月前からオファーが来て紙のフライヤーだからそれを撒いたり。今のそのスピード感はいいなって。自分はSNSは何もやってないんですけど。

G.RINA 今はめちゃくちゃいいですよね、インディペンデントな活動がよりしやすくなった。私はインターネットがあって良かったとずっと思っているんですけど、でも同時に、実際に外に出てイベントで初めて来てくれた人と接したり、久しぶりの人の顔を見たり、「やっぱり外に出ると違うなー!」っていうことがめちゃくちゃあるので、両方大事ですね。
出先で聴く音楽も、出会う人とのちょっとした会話も、当たり前ですが画面の中とは全然違うので。

━━それこそ若い世代だとコロナ禍でパーティーにこれまで足を運ぶ機会が失われてしまった世代もいるんじゃないかと思います。これから初めてクラブに行く方やイベントを作る側の方に何か伝えたいことはありますか?

G.RINA いや、私の方がいろいろ聞きたいですね。どんなことを楽しみにしているのか知りたいです。若いDJの子の考えていることも知りたい。こちらが優れている立場だとは全く思っていないし……自分がDJを始めたときと今ではちがう悩みや課題があったりするんじゃないかと思うから、イベントをやろうとしていたり、やっている子には自分の周りにいる人と同じようにリスペクトしたいです。

━━現場で若い人たちと話す機会も多いですか?

G.RINA 機会があれば、ですかね。自分からなるべく話しかけたいと思ってはいて、イベントに呼んでくれる若い子とかが「どうして自分を呼んでくれたんだろう?」っていうことがわかれば、どのようなパフォーマンスがいいか見えてきますし。

クボタタケシ 俺もそう、なんでそんなこと知ってるんだろうって思うことも多い。それこそSNSの影響とかもあるのかもしれないけど、DJじゃなくてキミドリのことをすごい知ってくれていたり。逆にこっちが聞きたいよね。若いだけで素晴らしいんだから何も気にすることなくやっていってほしいね。手伝えることがあればなんでもサポートするし。

━━キミドリの影響は若い世代にも大きいと思います。G.RINAさん、クボタさんにとってもヒップホップは重要な要素かと思うのですが、10年の変化でいうとヒップホップシーンも大きく変わりましたよね。

G.RINA ドメスティックなアーティストがめちゃくちゃ活躍していますよね。昔はヒップホップ好きはまずUS好きでもあったりしたと思うんですけど、今は国内のものを聴いてるヒップホップ好きがたくさんいるように思います。

クボタタケシ 変わったんですかね。

━━今後ヒップホップシーンはさらに大きくなると思いますか?

G.RINA そんなヒップホップの中の人っていう意識はないから・・・。好きですとしか(笑)。とはいえオルタナティブな自分のような人間がそういったイベントに呼んでもらえたりするのは、裾野が広がっている証拠だと思います。

クボタタケシ 俺ももう、今はヒップホップシーンにいるわけではないからね。

━━今後クラブシーンにこうなっていってほしい、クラブシーンはこうなっていくんじゃないか、といった展望はありますか?

クボタタケシ それは自然と、来てくれるお客さん、DJ達でつくりあげていきます。

G.RINA あくまで遊ぶ場所なので、こうあるべき!ってことはなくて、ただ来た人がみんな嫌な思いをしないで安全に音楽を楽しんで帰れる場所にしたいですね。

クボタタケシ それこそ1人でもね。

G.RINA そうそう、1人で女の子が遊びに来ても怖い思いしないとか。そうなってきているとは思うんですけど。パリピじゃなくても大丈夫、自分なりに楽しめる場所ですよ、と。

━━徐々に日本から海外に行くこともできるようになってきました。2019年にタイのバンコクで行われたSETSUZOKUにもクボタさんは出演していましたね。

クボタタケシ 海外? 飛行機がなー、小さい頃から嫌いで。タイに行ったのもベルギーに行った以来だったから20年振りくらい。ブリストル、サンフランシスコ、香港とかからもDJのオファーがあったりしたんだけど。その頃はタバコも吸いたかったから、6時間は耐えられないと思ってね。

━━地方に行くときも新幹線なんですか?

クボタタケシ 博多も新幹線にしてもらってるくらい。

G.RINA 北海道とかはどうですか? 新幹線が通りましたけど。

クボタタケシ 北海道は泣きながら飛行機乗るよ。北海道、沖縄はもう我慢して。まあ別に大丈夫なんですけどね、できれば乗りたくないなって。

G.RINA なにか飛行機が苦手になるきっかけがあったんですか?

クボタタケシ トラウマになったのが9歳の頃で、家族でバンコクからクアラルンプールに旅行に行くときに乗ろうとした飛行機が全部プロペラで、その当時でもプロペラは珍しかったから「えーこれなんだ」と思って。

その日が嵐で「まあ飛ばないだろうな」と思ったけど飛ぶことになって、それがすごく揺れて。CAの方ってどんなに揺れても大丈夫じゃない? でもCAの人もすごいことになっててだいぶ焦っていて、着いたらみんなで拍手するみたいな状況。そこから俺ダメになっちゃったんだよね。

━━最後にこの10年いろいろあった中で大変だったと思うんですけど、今後挑戦したことはありますか?

G.RINA 私は作り続けたいなって。

クボタタケシ 俺は配信のオファーが来たら出れるように頑張ろうかな(笑)。すぐじゃなくてそのうちね。今まで全部断っちゃってたから。

G.RINA それはどうしてですか?

クボタタケシ 単純に撮られるのが苦手っていうのと、アーカイブとして残るのが嫌で。
でも世の中どうなっていくかわからないし、そんなことも気にしていられないかな。いろいろ注文つけると思うけどね(笑)。

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クボタタケシ × G.RINA @ FACE RECORDS MIYASHITA PARK 店

セレクトしたレコード

クボタタケシ

OST(JOE STRUMMER) / WALKER 
OST(MADONNA) / WHO’S THAT GIRL 
SUICIDE / SUICIDE 
TOM WAITS / FRANKS WILD YEARS 
JOHNNY THUNDERS & PATTI PALLADIN / COPY CATS

G.RINA

GEORGE BENSON / IN FLIGHT 
OST(HUBERT LAWS GROUP) / A HERO AIN’T NOTHIN’ BUT A SANDWICH 
HERBIE HANCOCK  / SOUND SYSTEM 
HERBIE HANCOCK / FUTURE SHOCK 
CHRIS CONNOR& MAYNARD FERGUSON / DOUBLE EXPOSURE

<SETSUZOKU>が開催された日、クボタタケシとG.RINAがメイクするフロアでは、オーディエンスたちが音楽・カクテルを自由に堪能するひとときを過ごした。

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「着席して音楽を楽しむ」というスタイルで開催された当イベント。バーカウンターやテーブルに、家族やパートナーと楽しみに来た方やお一人で音とお酒を楽しむ方が並ぶ景色が広がる。近年、新たなお酒や音楽の嗜み方も浸透している中、あらゆる要素における“なかなか経験できない上質さ”というのは、現場でしか体験できないものだと改めて思い出される。そんなカクテルをシェイクする音も鳴り響くINC COCKTAILSで、クボタタケシとG.RINAならではのジャンルを越境した空間が広がっていた。

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Qeticでは今後もSETSUZOKUのプロジェクトを重ねるごとに、イベントの様子と出演者のインタビューをアップデートしていく。ぜひ次回のイベントに期待しつつチェックしていただきたい。

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PROFILE

クボタタケシ

91年、伝説のラップグループ「キミドリ」のラッパー/サウンドクリエイターとして活動を開始。 93年、アルバム『キミドリ』と、96年『オ.ワ.ラ.ナ. イ』の2枚の公式な作品を残してキミドリはその活動を休止するが、クボタはその間から現在まで数々のリミックス、プロデュース、そしてDJとしての活動を継続中。

HP

G.RINA

東京出身、乙女座のシンガーソング・ビートメイカー/DJ。
2003年、作詞・作曲/演奏/プログラミングを自ら手がけた1st アルバム「サーカスの娘 -A Girl From A Circus-」でデビュー。以来、一貫したセルフプロデュースで5枚のアルバムをリリースする他、英国、韓国アーティスト、ヒップホップ、アイドルからアニメまでプロデュース、詞/楽曲提供、客演など多数の作品を発表。(土岐麻子、坂本冬美、tofubeats、OMSB、Negicco、キャロル&チューズデイ他)
DJとして世界の先端ダンスミュージックを掘り続け、ミックスCD:Destination1-5、Strictly Rockers14、Jazzz Time2、Terra Disco、全編現地音源にこだわったシリーズ『♡♡インド/アフリカ/ブラジル』など。イベントに応じた多彩な選曲が持ち味ながら、昨今はディスコや広義のソウル、ヒップホップを中心としたバックトゥルーツな選曲をしている。
5年間の休止を経て制作活動を再開、2015年5年ぶりのアルバム『Lotta Love』(タワーレコード)、2017年『LIVE & LEARN』(ビクターエンタテインメント)、2021年『Tolerance』(ビクターエンタテインメント)をリリース。
2018年、ZEN-LA-ROCK、鎮座ドープネスとともに3人組ヒップホップユニット「FNCY」を結成し、2019年7月アルバム「FNCY」、2021年10月「FNCY BY FNCY」(キングレコード)をリリース。
G.RINA & Midnight Sunとして、またFNCYとして精力的にライヴを行なっている。

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INFORMATION

-Culture Party- SETSUZOKU

セツゾクは『新しい“Boom”の創造』を目的にミュージックを通じて、様々な分野へセツゾクする新たな表現の場、トレンドを発信するメディア・エージェンシーです。2011年の発足から年齢や性別を問わず感性を共有し合うことができる、独自の世界観を持つ人々に向けて発信してきました。今後も国内外を問わずストリートやライフスタイルの延長にあるエンターテイメントを目指していきます。それぞれにとって目には見えない何かを。そんなきっかけを提供する事がミッションです。

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