湯浅弘章監督、足立紳脚本、『惡の華』『血の轍』などで人気を博す漫画家・押見修造の名作を映画化した『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』が新宿武蔵野館ほか全国順次公開中。主演を務めるのは若手実力派女優・南沙良と蒔田彩珠。透明感あふれる若き2人の女優のW主演はたちまち話題に。
南沙良は雑誌『nicola(ニコラ)』専属モデルとして活躍する傍ら、女優としても活躍。三島有紀子監督作『幼な子われらに生まれ』(2017)でデビューし、浅野忠信演じる主人公・信の再婚相手の連れ子という複雑な役を演じ、報知映画賞、ブルーリボン賞新人賞にノミネートされるなど、高い演技力で注目を集めている。行定勲が監督をつとめたロックバンド・レベッカの17年ぶりの新曲“恋に堕ちたら”のMVにも主演として抜擢された。そのアンニュイな表情の下に見え隠れする、芯のある強さが彼女の演技には常に反映されている。
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』では、吃音(きつおん)により自分の名前すら上手く話せない志乃(しの)役を演じた。自分の名“すら”言えない志乃を演じた時の心境、そして音痴でコミュニケーションが苦手、無愛想だが心で通じ合える優しさを持ち合わせた加代(かよ)についても話を伺った。
Interview:南沙良
——早速ですが、完成作品を見た感想は?
通して見終わった後は、これからも志乃と加代、菊地の3人がそれぞれ自分たちのままで進んでいくんだなっていうところに気付けて、なんだかすごく嬉しくなったというか、温かい気持ちになりました。
——夢があるというか、すごい続きが気になるラストでした。原作は読まれましたか?
読みました。この間、押見さんと対談させていただいたんですが、その時に押見さんが原作のまんまだったっておっしゃってくれて、それがすごく嬉しかったです。
——よかったです。志乃と加代は段階を踏んで仲良くなっていきましたが、実際に蒔田さんと南さんは仲良くなったりしましたか?
そうですね、実際の距離感も撮影の間に変わっていきました。仲良くなりましたね(笑)。撮影以外はずっと彩珠(加代役の蒔田彩珠)と監督とみんなでご飯を食べに行ったりカラオケに行ったりしてました。あとは私と彩珠のホテルの部屋が隣同士だったので、撮影が終わってからコンビニでお菓子をたくさん買ってきて、彩珠の部屋に2人でお泊まりしたりしてましたね(笑)。
——実際監督たちとカラオケに行ったそうですが、普段からよく歌はうたわれますか?
1人でカラオケに行くことはあっても人前で歌うのは初めてでした(笑)。劇中のカラオケのシーンを撮影したのは最初の方で、彩珠と会って2日目だったからすごく緊張してたのを覚えてます。路上ライブのシーンは、歌とギターがぴったりとはまった時がすごく気持ちが良くて、楽しかったです。待ち時間とかに2人でカラオケに行って彩珠がギターを弾いて私が歌ってっていう練習をずっとやってました。
——すごく仲良くなったんですね。南さん自身も現役高校生とのことですが、映画の高校生活ではうまく話せない子や無愛想な子、目立ちたがり屋などいろんな人が出てきたと思います。自分の学生生活と照らし合わせた時に一致するようなことや違和感があると思ったとことはありましたか?
中学校の頃と映画の世界を比べた時に、一番最初の自己紹介のシーンが当時の自分とすごく重なりました。私も結局最後まで、一言も話せずに終わったタイプなんですよ。私の学校はクラスじゃなくて学年全体で自己紹介することになっていたんですが、自分の番になって立ち上がったら緊張しちゃって、何も話せないままで。最後は先生に「座っていいよ」と言われてそのまま終わりました。
——映画では高校ならではの独特の空気感がよく演出されているなと思いました。演じていて難しかったことはありましたか?
現場はすごく生々しくて、本当に学校に来ている気分になりました。一番最後に体育館で叫ぶシーンがあるんですけど、撮影前に監督から、そのシーンに全部を持っていきたいからその間に志乃が感じたことや思ったことはちゃんと忘れないで、心の中に秘めておいてくださいって言われたので、そこをすごく大切にしてましたね。自分の名前すら言えないもどかしさとか、先生に「自分の名前くらい言えるようになろう」って言われるシーンですごく胸が痛んだ気持ちとか、感じたことはたくさんありました。
——志乃は映画の中で、今後どう成長していくと思いますか?
加代とは、繋がっていてほしいなっていうのが一番、自分の中で大きいです。最後に志乃が自分を認めてあげたことはすごくいいことだし、コンプレックスが1つの個性になったってこともすごくいいことなんだけど、やっぱり信頼できる友達、悩みを打ち解けられる大事な存在……加代には志乃のそばにいてほしいなとは思います。
——作品の中で好きなキャラクターは?
加代に憧れてました。私自身はっきり言えないタイプだから志乃と重なる部分がたくさんあって。加代みたいに強い女の子にはすごく憧れます。
——志乃と加代、菊地の3人の関係性を見て思うことはありましたか?
志乃が抱えていた女の子ならではの嫉妬みたいなものはすごい共感できるというか……。中学校の時、この子は私の! とか、この子と私は一番の友達! とか、そういうのがやっぱりありましたから。
——話は変わりますが、好きな映画は?
二階堂ふみさんが主演の『蜜のあわれ』っていう映画がすごく好きです。ちょっと不思議だけど可愛らしいし、世界観になんだか憧れます。
——今年の目標、今後の予定は?
うーん……普段家にいることが多いので運動がしたいです(笑)。あと、最近の夢はバーベキューをすること! 幼い頃にやったのが最後でそれからまったくないのでやりたいですね。
南沙良がこの映画で印象に残っていること
南さんにとってこの映画で印象的に残ったものを円グラフで書いていただきました。
ご飯
私的にすごく印象に残ってるのが、ご飯。ご飯がすっごく美味しかったんですね。沼津のご飯ももちろんなんですけど、差し入れだったりとか、口にするもの全てが美味しく感じられました。そのおかげで顔が真ん丸になってたっていうのが思い出です(笑)。
吃音
吃音を演じることは、やっぱり難しいと思います。監督と吃音のシーンの度に、ここはどのくらい増やすのかここはもう少し減らした方がいいとか、そういうこともお話していたので、ずっと考えてました。
海辺のシーン
海辺のシーンは、単純に楽しかったです! 海がすごく綺麗だったんです。あんなに綺麗な海に行ったことがなかったので、それですごくテンションが上がったっていう。
加代のこと / 加代と2人で過ごした時間
ずっと加代のことを考えてました。一緒のシーンじゃない時も、今加代は何してるんだろうなとか、ずっと。
最後のシーン
最後のシーンは監督とお話して全部最後のシーンに持っていくようにという話だったので、撮影当初から気をつけてたかなと思って。
text by mine
志乃ちゃんは自分の名前が言えない
新宿武蔵野館ほか全国順次公開中!
出演:南 沙良 蒔田彩珠 / 萩原利久 /
小柳まいか 池田朱那 柿本朱里 中田美優 / 蒼波 純 / 渡辺 哲
山田キヌヲ 奥貫 薫
監督:湯浅弘章 原作:押見修造 「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(太田出版)
脚本:足立 紳 音楽:まつきあゆむ 配給:ビターズ・エンド 制作プロダクション:東北新社
製作:「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会(日本出版販売 カルチュア・エンタテインメント 東北新社 ベンチャーバンク)
2017年/日本/カラー/シネスコ/5.1ch/110分
©押見修造/太田出版
©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会