INTERVIEW

Shure

     

人気の『SE高遮音性イヤホンシリーズ』などを筆頭に、音楽リスナーが選ぶイヤホンの定番として高い人気を博しているShure(シュア)。米イリノイ州シカゴ近郊ナイルズに本社を構えるShureのスタートは、1920年代にまでさかのぼる。

1925年、創業者のシドニー・N・シュアは、工場製造による無線機製品が市販される以前に無線機部品キットを販売する「シュア・ラジオ・カンパニー」を設立。その後マイクロホンメーカーへと事業を拡大し、世界初の単一指向性マイクにして通称「エルヴィスマイク」と呼ばれる『Model 55 Unydine』、“スリラー”といったマイケル・ジャクソン作品のボーカル録音時にエンジニアのブルース・スウェーデンによって採用された『SM7』、そして「ハンドマイク」の最も基本的な形となった『SM58』など、様々なプロ・ミュージシャンに愛されるマイクロホンを開発した。

そして1997年には、Shure初のパーソナルモニターシステム、PSM600とE1イヤホンを発表。このE1イヤホンがShureが開発した最初のイヤホンとなる。この製品はミュージシャンたちのライブを支えるイヤモニの定番として人気を博し、さらに彼らがE1をツアーバスなどでオフ時にも使ったことで、「あのイヤホンは何?」と、一般ユーザーにも人気が波及。今では『SE高遮音性イヤホンシリーズ』を筆頭に、音楽リスナーの定番ブランドになった。

そうした歴史を持つブランドならではのShureの最大の特徴は、どのアイテムも「プロのミュージシャンのために」開発されていること。『SE高遮音性イヤホンシリーズ』の特徴となっている高い遮音性も、もともとはミュージシャンがライブで最大限のパフォーマンスを発揮するために生み出されたもの。また、Shureのアイテムのもうひとつの特徴として知られている断線時に交換可能な着脱式のケーブルシステムも、もともとは緊急を要する「ミュージシャンのライブ時の断線」に対応するため生まれたものだった。そしてもうひとつの特徴は、ミュージシャンの録音した音源を可能な限りそのままリスナーへと伝える「再現度の高い」音像。そうしたプロの現場で支持されるクオリティの高さが一般ユーザーにも広がり、2011年の発売以来イヤホンの定番としてロングセールスを続ける『SE215』を筆頭に、その上位モデル『SE315』『SE425』『SE535』『SE846』など、現在では様々な製品が人気を博している。

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SE215
ダイナミック型MicroDriver搭載で、温かみのあるディテールサウンドを再現するShureイヤホンのエントリーモデルです。より厚みのある低域を楽しめるSE215 Special Editionも展開。

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SE315
高精度MicroDriverは、低域性能を提供する最適化設計されたベースポートを搭載し、フルレンジオーディオを再現します。

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SE425
シングルツイーターとシングルウーハーの2つの高精度デュアルMicroDriverが、正確でバランスのとれたサウンドを再現します

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SE535
シングルツイーターとデュアルウーハーの3つの高精度トリプルMicroDriverが、豊かな低域を伴った奥行きあるサウンドを再現します。特に高域を強化した周波数特性にチューニングされたSE535 Special Editionも展開。

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SE846
本物のサブウーハーのレスポンスを提供する4基の高精度MicroDriverが、豊かな低域と明瞭で伸びのある高域を実現。
各イヤホンの画像元:https://www.shure.co.jp/company/about_shure

では、なぜShureのイヤホンが選ばれるのか。そして、それぞれのアイテムにはShureのどんな思いが込められているのか。1998年の入社以降米イリノイ州の本社でプロユースの製品開発にかかわり、現在はワイヤード・カテゴリー・シニアディレクターとしてマイクロホン、イヤホン/ヘッドホンなど、コンシューマー製品の開発総責任者を務めるマット・エングストローム氏に、Shure製品の魅力や、その開発秘話を聞いた。

Interview:マット・エングストローム

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開発総責任者に聞く、Shure製品が選ばれ続けるその理由

――Shureのイヤホンの歴史は1997年、プロ向けのインイヤーモニターシステムからはじまっています。Shureの製品がプロに支持された理由は何だったのでしょうか?

ひとつは「耐久性」だと思う。イヤホンも、マイクもそうだけれど、プロの現場で使われる製品というのは、何十時間も続くレコーディング用のものにしても、ぶっ続けで高いパフォーマンスが求められるライブ用のものにしても、どんな状況であれ音を途切れさせるわけにはいかない。そう考えたときに、どんな状況でも音を届けることができる耐久性への信頼は、とても大切なことだと思うんだ。Shureというブランドは、その耐久性や信頼性に強みを持っているブランドで、そこが多くの方々が愛してくれた魅力なんじゃないかと思う。そしてもうひとつは、Shureが90年以上事業を続けてきた中で、たゆむことなく品質向上のために改善を続けてきたこと。マイクというのは単純な構造で出来ているものではあるものの、それでも満足することはなく、「もっと何かできるんじゃないか?」と絶えず改善を繰り返してきたことで、製品のクオリティが、世界のトップ・ミュージシャンに支持し続けてもらえるようなものになっているからだと思う。安定性も、音質のクオリティも高いことで、多くの人に使えてもらっているんじゃないかと思う。

――実際にプロの方から、印象的な感想を聞いた経験はありましたか?

もちろん色んな人たちから聴いているんだけれど……たとえば、ヘンリー・ロリンズ(ブラック・フラッグの元ボーカリストとしても知られるハードコアレジェンド)はShureの大ファンで、ハンドマイク『SM58』をずっと使ってきてくれたアーティストなんだ。彼はShureの新製品が出るたびに試してくれるんだけど、『SE846』(SE高遮音性イヤホンシリーズの最上位モデルとして知られるフラッグシップアイテム)が発売されるという噂を聞きつけて、僕の方に長文のメールを送ってきてくれたこともあった。それで彼に試してもらったら、「このイヤホンは今まで使った中で一番素晴らしい」と言ってもらえたよ。

――現在ではShureのイヤホンは一般の音楽リスナーにも人気を博していますが、プロユースに耐えうる技術を一般ユーザー向けに提供するきっかけはあったのでしょうか?

ひとつ言えるのは、僕らは決して「一般ユーザー向けに製品を開発しよう」と思ったことがないということなんだ。Shureが最初に作ったイヤホン『E1』は、プロ用の機材に付属するいちアクセサリーだった。でもそれを、ミュージシャンたちがイヤホン単体で気に入ってくれた。そこで、2002年に『E2』という製品でイヤホン単体での販売をはじめたんだ。そうすると、仕事用に使っている製品ではあったものの、多くのミュージシャンが移動中の飛行機をはじめとする様々な場所で、自分が音楽を楽しむためにShureのイヤホンを使ってくれるようになった。そこから、徐々に一般ユーザーにもShureの製品が広がっていったんだ。つまり、僕らはどのラインナップについてもプロの現場に耐えうるものを作っていて、それが一般の音楽リスナーにも受け入れられていった、ということだったと思う。当時はちょうど、iPodが世にではじめた頃で、多くの人々の音楽の聴き方が変わっていった時期だった。色々な人々が、より音楽を「持ち歩くようになった」。その頃のShureのイヤホンは5万円ほどする高額なものだったけれど、それでも多くの人々がiPodと一緒にShureのイヤホンを買ってくれたんだ。そして、2003年頃になると、生産が追い付かないような状態になった。音楽を持ち歩いて楽しむ文化がアメリカにより根付いていく中で、ただ単に安いイヤホンを使うのではなくて、いい音で、いい音楽を聴きたいと思う人々が増えていったことと、Shureの歴史がリンクしていたように思えるよ。

――リスナーが音楽を楽しむ環境がより広がったことで、Shureのイヤホンにもより注目が集まることになったのですね。現在では『SEシリーズ』を筆頭に様々な価格帯のラインナップが揃っていますが、プロ用の高い技術が使われているものを、様々な価格帯で製品化することには、苦労もあったんじゃないでしょうか?

おっしゃる通りで、『SE846』は10万円前後の価格帯のモデルだし、『SE215』だと1万円代の価格帯のイヤホンで、ラインナップには様々な幅がある。でも、どの製品に関しても「プロがステージで使える」ということに対して妥協は一切していなくて、実際、『SE215』にしても、多くのプロ・ミュージシャンが実際に仕事で使ってくれているんだ。「すべてがプロのクオリティだ」と言えるものを提供しているということだね。でも、そうしたことを実現すると、ある程度の価格帯にはなってしまう。そこで僕らが考えたのは、MMCXというコネクタを使って、イヤホンのケーブルを着脱可能にするシステムだったんだ。イヤホンの最も重要な部分はモニター部分だけれど、多くのイヤホンは、ケーブルの断線によって使えなくなってしまうことが多い。それなら、ケーブルを取り換えられるようにすることで、断線が起こってもその製品を長く使えるようなものにしようと考えたんだ。これは大きな投資だったし、初めは採算もギリギリだったけれど、そうすることで「いいイヤホンを買って、それを長く使うことができる」というラインナップ展開を実現することができたと思う。

――そのシステムの実現には、実際に一般ユーザーの声が関係していたんですか?

そういった声は一般ユーザーからもたくさん届いていたよ。ただ、僕らはプロ用の製品を作っていることもあって、最初に重要な声としてあったのは、ミュージシャンのライブの現場でケーブルが壊れたときに、すぐに対応できるということだった。そこで、もともと通信機器の高周波アンテナに使われていたコネクタを、おそらく世界で初めてイヤホンに取り入れた。それ以降、僕たちも意図しなかったことが起こっていて、人々がiPhoneで音楽を聴くようになって、ジャックの形が変わっても、ユーザーが長年の自分のお気に入りのイヤホンをずっと使い続けられるような環境が生まれていった。変わり続けるリスニング環境の変化にも対応できることになったんだ。

――Shureがそうした新たな挑戦に乗り出せるのは、なぜなのでしょう? それにはShureならではの社風や、開発環境も関係していると思いますか?

僕らが一番大切にしているのは、「お客様の声を聴く」ということなんだ。Shureの製品は、実際に使ってくれている人たちのリアルな声を聞いて、その人たちの声に応えるために開発されている。僕自身も、日本にももう15回ほど来ていて、日本のユーザーの方々とも実際に話をさせてもらったりしているんだ。そうやって実際に話を聞くことで、多くの人に受け入れてもらえるような製品を生み出すことができると思うんだ。

――いち音楽好きとして、ユーザーのリアルな要望に耳を傾けるということですね。今お話を聞いていても、マットさんは音楽好きとして気さくに話してくれる雰囲気が印象的です。

メーカーとしての人間として話すよりも、同じ音楽好きとしてフランクに話した方が、色々なことをリアルに話してくれると思うし、お客さんと同じ目線で商品が作れると思うんだ。たとえば、僕は日本でイベントに出演すると、そこに集まってくれた一般のお客さんとセルフィーを撮ったりするんだけど、それをFacebookに上げると、一日で日本のFacebookフレンドが一気に増えたりすることがある(笑)。でも、そういうことが、音楽好きが本当に求めていること、お客さんの声を丁寧に聞くことに繋がっているのかもしれないよ。

――マットさんは、普段はどういう音楽が好きなんですか? また、実際にShure製品を日常的に使ってみて感じる魅力と言いますと?

僕が最初にShure製品を使ったのは、シカゴでライブハウスのPAをしていた時のことだった。シカゴに住んでいると、Shureは地元企業としてとても身近な存在なんだ。僕自身は、インディ・ロックを中心に聴くリスナーだよ。小さい頃からピアノもやっていて、今でもピアノ音楽も聴く。シカゴのローカル・ミュージシャンの音源はたくさん聴くし、車に乗りながら、自分がレコーディングした自分の音源も聴くよ。ずっと音楽が好きな人生を歩んできて、Shureに入社して、約20年間楽しく働かせてもらっているね。

――リスニングスタイルによってその人に合うイヤホンは変わってくると思うのですが、たとえば『SE高遮音性イヤホンシリーズ』だと、それぞれのモデルが得意な音楽などはあるのでしょうか?

もちろん、ひとつひとつ特徴はあって、ある程度フラットな音像のものや、やや低域が強く出るものなど、モデルごとの特性はある。でも、一番大切なのは、どんな環境で音楽を聴いているか、ということだと思う。スマートフォンで聴いているのか、オーディオ別に持っているのか、MP3なのか、Apple MusicやSpotifyのようなストリーミングサービスで聴いているのか、ハイレゾ音源なのか――。その組み合わせによって、最適なイヤホンは変わってくる。たとえば、フラッグシップモデルの『SE846』は、インピーダンスが他のイヤホンと比べてとても低いために、ミュージシャンが録音した音に限りなく近いものを楽しむことができる。でも、その代わりきちんとしたアンプが必要になるよね。たとえば、スマートフォンはあくまで電話だから、そのアンプでは『SE846』の性能を最大限発揮することができないんだ。むしろ『SE215』なら、プロでも使えるし、スマートフォンで聴いても、ハイレゾを聴いても色んな要素にバランスよく使える商品になっているんだ。

――2011年に発売された『SE215』は、日本のイヤホン市場でもいまだに定番モデルのひとつとなっています。この人気の秘訣はどんなものだと考えていますか?

いいものを作って、それを「変えない」ということは、ひとつの秘訣なんじゃないかと思う。一般的なメーカーの場合、イヤホンは2年ほどで新しいものにモデルチェンジすることも多いけれど、『SE215』は発売から8年ほど売り続けている商品で、それを僕らはまだ売り続けている。そういったメーカーは、なかなかあるものではないんだ。でも、それは僕らにとっては特別なことではなくて、たとえば、今も多くのスタジオで使われているハンドマイク『SM58』は、もう50年以上、ずっと売れ続けているものでもある。そういうものが、Shureの製品にはたくさんあるんだ。開発期間をじっくりかけて、徹底的に製品を作り込んでいるからこそ、それをユーザーの人たちにも、長く使ってもらうことができるんだと思う。だからこそ、8年経ってもベストセラーであり続けることができているんじゃないかな。

――最後に、Shureが製品を作るうえで最も大切にしていることを教えてください。

開発において大切にしているのは、やはり、お客さんの方をしっかりと見て製品を作ること。それは何も、「お客さんの要望を言うとおりにすべて聞く」ということではなくて、意見も聞くけれど、その裏にどんな気持ちが込められているかということを、きちんと見るということなんだ。この考え方は、創業者のシドニー・N・シュアが生前に言っていたことで、彼が亡くなって年月を経た今も、みんなその言葉を信じて製品を続けているんだ。また、僕らはマイクと、イヤホンの両方を製造していて、つまり「音を吹き込んだ人」と「それを聴く人」の両方を繋ぐことが仕事になっている。音が震えて生まれた振動を、電気信号に変換して、それをふたたび音の震えに戻して耳に届けているんだよね。その際、どう頑張っても、音を電気信号に変換する限り、完璧にそのままの音を届けることは難しい。でも、僕たちは、そうやって生まれた音や、生まれた言葉を、可能な限り吹き込んだときのそのままの状態で伝えたいと思っているんだ。レコーディングスタジオで演奏しているその雰囲気や、その人が音に吹き込んだ情熱のようなものまでを、取りこぼしなく、すべて伝えたい。それが僕らがやりたいことだし、それを僕らは“Shure Sound”と呼んでいるんだ。

「プロユースの現場で培った高い技術を駆使して、音楽にかかわる人々の思い/情熱を届けたい」。そんな思いで生み出されたShureの製品は、音源を制作するミュージシャンたちにとって、どんな魅力があるものなのだろう? 後日公開予定の特集第二弾では、現在の音楽シーンで活躍するミュージシャンに、その魅力を語ってもらいます!

Text by 杉山仁

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