――ワァールというタイトルをつけた理由を教えてください。

ジェイムス (スマートフォンを取り出して)僕らは日ごろから、一ヵ月前に思いついたものとか、最近思いついたものとか、色んな言葉をここに沢山リストアップしているんだ。その中から曲に合わせて選んでいくんだけど、今回の作品の雰囲気がワァール(=らせんのひと巻、渦巻き)という言葉に合っているように感じられた。最近の僕らは自分たちが立ち上げたレーベル〈デリカシーズ〉から食べものの名前を付けた楽曲シリーズを出していたよね。ハチノコとか、イケヅクリとか……(笑)。でも、もうネタが尽きちゃって。タイトル候補の珍味を教えてもらえればこのシリーズも続けようと思うんだけど……。

――(笑)。この新作を引っさげてのライヴは、これまでとはまったく違うものになると思います。どんな変化を感じていますか?

ジャス まだ2回しかやっていないけどね。でも今回はやる場所を厳選してるんだ。というのも、だから古い曲を期待されても出来ない部分があるからね。まずは僕らのことを分かってくれそうな、自分たちの好きなフェスだけを選んでライヴをやっているんだ。

――もともとシミアン・モバイル・ディスコのライヴは特にお互いの役割が決まっているというわけではなかったですよね。必要な音が決まっていて、それを出来る方がやるというスタイルでした。今回のライヴにおいてはどうでしょうか。

ジャス もともと僕がジェイムスの音に手を出すことは彼も許さなかっただろうけど(笑)、今回はそれぞれのシンセに入っている音が決まっていたから、それは実質的に不可能だった。でもそうすることで、それぞれがアドリブを入れることが出来る状況を作れたということなんだ。今回は余計なことをやるだけが能じゃない、トゥー・マッチなものは逆効果だという発想でね。あまり色々なことをやっても人間の耳というのはそれを全部聞き取れるわけでもないから。ミュージシャンにとって、音をシンプルにそぎ落とすというのはとても自制心が必要なことではあるけれど、余計なことはしないって思ったんだ。でも、そうして出来たものを聴いてみると、それで十分だなって思えることも多いんだよね。

――これまでの作品を振り返ってみて、それぞれについてどんな違いを感じていますか。

ジェイムス そうだな。上手く話すのは難しいけど、ファースト・アルバムはシミアンというバンドをやっていた僕らが、エレクトロニック・ミュージックが刺激的なものだと思われている時代に、新たな領域に踏み込んだものだった。当時の僕らは、とにかく楽しいパーティー・アルバムを作ろうってことを考えてたんだ。そしたら、その作品が予想以上に多くの人に受け入れられた。そしてセカンド・アルバムでは、ファースト以降に知り合った人たちとコラボレートして、色んな人たちとパーティーをするような作品にした。結果も素晴らしかったし、素晴らしい人たちとコラボできたと思う。でもたぶん、あの作品ではちょっとコラボレートが多過ぎたんだろうね。その結果、自分たちの個性が一番薄れてしまった作品になってしまった。ほぼ全曲でヴォーカルを入れた結果、何よりもその人たちの個性が際立ってしまったんだ。その反動で、サード・アルバムではよりテクノ色を押し出して、クラブ・ミュージックとしての魅力を前面に出す方向に戻ってきたんだと思う。僕たちがエキサイティングだと思えるものだけを追究して、ヴォーカルを入れるにしても基本的にはサンプルを使って楽曲を仕上げていった。そうやって自分たちのパーソナルな魅力を大切にしようと思ったんだね。そして今回のアルバムでは、そこからさらに足を進めて、僕らだけの完全にオリジナルなシステムを作った。そしてついに、自分たちのスタジオすら飛び出してしまったんだよ(笑)。

――これからに繋がる新しい可能性も見えてきましたか?

ジェイムス そうだね。自分たちのツアーも本格的に始まっていくし、今回のアルバムのテーマになった、ライヴでの魅力を追究する日々でより新しい可能性に気づいていくことになるだろうな。あと、この後は、僕らが運営するデリカシーズ・レーベルにも力を入れていくと思う。今回のアルバムの反動で、色んな人たちとのコラボレーションに力を入れていくだろうね。あとは2人とも他のバンドのプロデュースもやっているし、これからまた忙しくなるだろう。

――ジャスはどうですか?

ジャス (肩をすくめながら)僕の場合、今回のアルバムを作ってる間だって何も考えていなかったんだから。これからのことなんて、完全にお手上げだよ(笑)。

(text&interview by Jin Sugiyama)

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Release Information

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