「Honda VEZEL TOURING」のCMソングに「Do Well」が抜擢されて以来、シーン最前線で目を見張るほどの活躍を見せているシンガーソングライター、SIRUP。5月25日には<GREENROOM FESTIVAL ’19>への出演も果たし、さらには単独公演を控えるロンドンの新世代を担うアーティスト、トム・ミッシュ(Tom Misch)のサポートアクトを務めた。そんな勢いに乗る彼が、1stフルアルバムとなる作品『FEEL GOOD』を5月29日にリリース。最近彼のことを知ったという方の中には意外に思う方もいらっしゃるだろうが、今年で12年目のキャリアを迎えるという彼。満を持してのリリースとなる本作にはきっと並々ならぬ想い入れがあるはず。本作についての対話を通して、音楽制作における重要なファクターや制作中のエピソード、さらにはSIRUPとしてのこれからの展望について伺ってみた。
Interview:SIRUP
--前回僕がインタビューさせてもらったときが、ちょうどCMが決まったっていう話を聞いたタイミングで。
そう。言わなかったやつっすよね。何かは言わないっていう。
--そう(笑)。あのCMが放映されてから、どんな反響がありましたか?
体感でいうと、去年(CMが)流れる前から(ライブ)現場に来るお客さんの数が目に見えて変わった、っていうわけじゃないけど、徐々に増えていってて。4月に出演した<ARABAKI ROCK FESTIVAL>で、一番体感しました。2、3000人のキャパシティの会場がパンパンになるぐらい。それがロックフェスやったこととか。あとは、ワンマンツアーもめちゃくちゃ一瞬で完売したりとか。
--あのツアーは即日のソールドアウトだったんですよね?
何回かに募集を分けたんですよ。一般は1、2分で売れ切れちゃったみたいで。
--先日は神戸で活動するSTEEZのクルーでもあるRYOTAさんが手がけているブランド「APARTMENT」とのコラボTシャツも15分ほどで完売したそうで、その凄まじい勢いが感じられるんですが、そんな中で今回フルアルバム『FEEL GOOD』を製作するに至った経緯は?
『SIRUP EP 1』(以下EP 1)、『SIRUP EP 2』(以下EP 2)とリリースしていたんで、流れ的にアルバム自体は出そうという話にはなっていたんですけど、今回もEPにするか、フルアルバムにするかっていうのは悩んでいたところで。元々は夏にアルバムを出す予定にはしていて、それで「Do Well」がCMに決まって。きっとすごく広がるやろうからこの勢いがあるうちに、これまでリリースしていたEPから何曲か入れたフルアルバムにしようと。ただ、EPから5曲入ってるから、それを越えるぐらいの曲数は作ろうっていう話で、もう1枚EP出せるぐらいの新曲ができて。結局、5月に出そうということになりました。
SIRUP – Do Well(Official Music Video)
--新曲含め今作には12曲が入ってますが、SIRUPさんのルーツとなるようなネオソウル感だったり、R&Bテイストはもちろんのこと、これまでにはなかったバレアリックなサウンドが入っていたり、新しい要素が盛り込まれているな、という印象でした。アルバム制作中には何かテーマはありましたか?
テーマはないんですよ、常に(笑)。基本的には常に作っていく中で、今やりたい音と歌いたいことを詰めていってて。大きいテーマがあるとしたら、今の僕を詰め込んでいってる。それができるだけフレッシュな状態で保たれるようにはしてるかもしれないです。今回『EP 1』、『EP 2』から入れた曲も(EP 1、EP 2の中でも)強い曲で、不変的な自分の強い意識が反映されていて。そこにもっとフレッシュな今の自分の意識とか、僕自身が抱えている概念を詰め込んでいる気はします。
--そういう考え方はリリックに表れてたり?
そうですね。そのときに思ったことは点やけど、大きく人生に渡って線で繋がっているように考えてリリックを書いたり。逆に恋愛についての曲は、その点を深く深く歌ってることが多いんですけど。「Why」は友達が体験した話を聞いて、インスピレーションを受けたことを歌ってて。それは今までやってこなかったやり方かな。
--前回インタビューさせていただいた時も自身の体験が主にインスピレーションとなっているとおっしゃってましたが、今回制作した楽曲の中に自身の体験が反映されているものはありますか?
「Evergreen」ですかね。最初は恋愛について書いてたんですけど、今は会うことのない自分の友達とか、やめていった(自身も所属しているアーティスト集団の)Soulflexのメンバーとのことが心に残ってるんだなと思い浮かんできて。自分が歌い出したときから比べると、一緒に始めた周りの人たちっていうのは今のSoulflexのメンバー以外あまりいない気がしてて。書いているうちにそういう別れとかを噛み締めて、今自分が置かれている状況はこれまでのすべてが作用してるなって感じて。
--そういう人生観が伝わる曲で、正直にいうと一番好きな曲でした。
あ、俺も一番好きです(笑)。一番は言い過ぎかもしれないですけど、ミュージシャンとしてのSIRUPとしてというよりかは、シンガーとしてのSIRUPを生み出せてよかったな、と。思い入れは強い曲ですね。
SIRUP – Evergreen(Official Music Video)
--今回制作する上で、邦洋限らず参考にしたアーティストだったり、楽曲はありますか?
今回リファレンス一個も出してなくて。一曲一曲にこの曲をイメージしたとかはないかもしれないです。だんだんそういうリファレンスはなくなってきてます。
--自身の中では、オリジナリティが固まってきているというイメージ?
そうですね。無意識ですけど、どんなトラックが来てもSIRUPとしての落とし所がわかるようにはなってきてるかもしれないです。『EP 1』、『EP 2』を制作していた頃は、EPとしての立ち位置の曲があった方がいいやろな、って考えながら作ったりとか、SIRUPとしてここまではやっていいやろなっていうイメージをしながら作ってたんですけど。今回はそれぞれのEPから強めの曲を入れてるから、後7曲は何してもいいやって思って。純粋に作れたかもしれないですね。
--そんな中、今回フィーチャリングゲストとしてTENDREさん、BIMさんを起用されてます。TENDREさんは関係性から考えても、音楽性から考えてもすんなり納得できたんですが、BIMさんの参加が意外でした。
よく言われますね、それ。BIMはどう思ってるか知らないですけど、僕的にはめっちゃ普通やって。なるべくしてなってるなって感じで。経緯としては、BIMもTENDREも一緒なんですけど。
TENDREはソロとして活動し始めた時期と、僕がSIRUPに名前を変えた時期が一緒やって、その頃からお互いに気になってて。そしたら、showmoreのリリパで対バンすることになって。で、会ってみたら一瞬で意気投合して。仲良くなって飯行ったり、喋ったりしているうちに流れで曲作ってみようってことになって。
BIMは俺も聴いてて、Instagramのストーリーにそのことをあげたときに、BIMの方からDMくれて、曲作りましょうってなって。その前に共通の友達にセッティングしてもらって飯食いに行って、喋ったりして曲作ろうってなって。
このふたりに共通しているのは、ふたりとも同じようなラッパーの曲を聴いているっていうところなんですよね。例えば僕がやたら推してるスミーノ(Smino)みたいなシカゴ系のバンド・サウンドのラッパーやったり、バディ(Buddy)っていうラッパーがふたりとも好きなんです。だからふたりとは音楽の相性がもともと良くて、今回の製作に参加してもらった、っていう感じですね。
--実際制作中はどんな雰囲気でしたか?
TENDREとはがっつり家で5時間ぐらい喋ったりとかして、曲を作るまでのコミュニケーションに時間をかけました。僕が曲の土台を作って、7割ぐらいの状態で2日間スタジオをとって完成させました。録ってる最中は色々ふざけながらレコーディングしてましたね(笑)。TENDREはプロデューサー的な視点もあるし、演奏も全部自分でするから、シンガーとのコラボとは全然違う感じでした。基本曲を作るときは僕が主導でやることが多いんですけど、TENDREの場合は彼から「これだけトラックのストックがあるけどどう?」っていくつか提案してもらった中から聴いていって、ひとつを選んで作りました。
BIMとレコーディングしようってなった時期は、BIMがソロで一番ツアー回ってる時期で。その合間に飯食いに行ったり、電話したりして詰めていったんですけど。BIMが「Type Beat」で気に入ったトラックを見つけてきて、僕に提案してくれて。ドイツの19歳のトラックメイカーが作ったトラックを買いました。
--TENDREさんとの楽曲「PLAY」は、SIRUPさんの良さやこれまでにない音楽性をTENDREさんが引き出しているように感じました。逆にBIMさんとの楽曲「Slow Dance」は、BIMさんのベストソングだなと感じるほど、BIMさんらしさが現れている楽曲だなと。ご自身は出来栄えについてどう思われますか?
確かにそう考えると、TENDREは導かれてる感はあったかも。リリックも普段ふたりで話していることをそのまま出してる感じで。BIMとの楽曲はめっちゃアンセム感があって、これは(ライブで)良い感じにフロアが一体になってやれそうだなと思います。TENDREとの楽曲も「ラララ」が多いから、お客さんと一緒にシンガロングできるし。あれはあれで、クラブじゃなくてライブハウスとかフェスで一体になれそうな感じがしてて。TENDREとの楽曲は、確かにゆるいこと言ってるけど、ずっとエモさが漂っているような。言葉では説明できない空気感をちゃんとパッケージできたな、って思いますね。それが一番嬉しかったです。
--プロデューサー陣にも同レーベルのMori ZentaroさんやChocoholicさん含め、今までともに楽曲製作してきた方々を起用しています。その理由とは?
いろんな人たちとやってみたかったですけど、一旦今まで一緒にやってきた仲間たちからトラックをもらってみようと。そしたらその仲間たちからもらったトラックが最高やった、って感じですね(笑)。
−−以前インタビューさせていただいた時も感じたことなんですが、やはりSIRUPさんにとって、人との”縁”だったり”つながり”というのは音楽製作においても重要な要素なんでしょうか?
そうですね。人間の”つながり”が絶対音楽にも出るんで。会ったことない人とは一緒に製作したいとは思わないし、そのつながりが強ければ強いほど良い音になるとは思ってます。別に楽曲制作を一緒にしたいがために、その人と繋がろうとは思わないし。最近インタビューを受ける機会が多くなる中で感じたことは、多分僕の周りも各々でいろんなことをやってて、上り調子になってる中で、一番良いトラックを生み出せてるタイミングが今なんじゃないかな、と。SIRUPとしての相性もそうですし。それを考えると今が一番クロスしている瞬間かも。”X”の真ん中にいるというか。ちょっとズレましたけど、なんにしても一緒にやる人はたくさん共有している人がいいとは思ってます。
--今回の制作中に、そういう「クロスしているな」と感じた瞬間はありましたか?
Chocoholicに対して一番そう思ったかな。Chocoholicってめちゃめちゃ鬼才やから、タイミングによっては「これめっちゃかっこいいけど、今回はこれじゃないねんな〜」みたいなときもある。でも、今回はトラックをもらった瞬間にめちゃくちゃかっこいい上にめっちゃええやん、って思って。「Why」とか特に衝撃的でした。
でもそう考えるとみんなそうかも。Shin(Sakiura)はこの1年半ほぼ週1回どころじゃないぐらい会ってて、一番グルーヴしてる感じなんですけど(笑)。「CRAZY」自体は元々『EP 2』の制作時期に作ってた曲で。今回やっぱりあの曲いいよなってなって、もう一回作り直して。最初『EP 2』の時期に作ったときは、まだ自分たちでも見えてない部分が多かったんですけど、改めて作り直したときにめっちゃ見えて、すぐに表現したいことができたんですね。
A.G.Oと作った「PRAYER」って曲についてもそう。A.G.OがプロデュースしてるCIRRRCLEも徐々に上り調子になってきてて、A.G.O自身もいろんな人に楽曲提供する機会が増えて。最近引っ越してきて、俺の家から徒歩1分ぐらいのところに住んでるんですけど(笑)。だからすぐバイブス合わせられるとか。
あと、ずっとすごいなと思ってるのはやっぱりMori Zentaroですね。「Evergreen」は最近じんわりリバイバルしてきてるシャッフルビートの曲で。僕もそういうシャッフルビートの曲は聴いてたんですけど、試そうとは思ってなかったんですよ。試してみたら合うんやろうな、とは思いつつ。そしたら、そのことを何も伝えてないのに、Zentaroが「Evergreen」のトラックを作って送ってきたんですよ。「絶対合うからやった方がいい」って。で、実際にやってみたら、思った通りめっちゃ合って。Zentaroとはもう12年ぐらいの付き合いなんで、そこはやっぱりすごいなって思います。すれ違った時期もあったけど、そう考えると面白いなと思います。
--Zentaroさん含め、Soulflexのメンバーとはバンドとしてツアーも回っていく予定とのことで。また今後は<CORONA SUNSETS FESTIVAL 2019>や<SUMMER SONIC 2019>などにも、Soulflexメンバーとともに出演を予定されています。そういった大型フェス出演への意気込みを教えてください。
そこに関しては、結局いつも通りやろうと思ってるっていう感想になるんですけど。きっとソロシンガーのバンド版だと思って見る人が多いと思うんですよ。「バンドでやってはるわ」って感じで。もう9年ぐらい同じバンドでやってるんで、単にSIRUPのバンド版じゃなくて、ちゃんとバンドらしさを見せれるっていう強さをみんなに体感してほしいなと思ってます。
--「オリジナリティが固まってきている」という話もあった新曲についても、今後はライブで初めて披露されていくわけですが、どういう形で魅せていきたいと考えていますか?
音源で聴いてもらうときとバンドで魅せるときとは規模を変えたくて。さっき話にも出てきたスミーノとかジャミーラ・ウッズ(Jamila Woods)とやってるシカゴのバンドって、ほぼ同期丸出しなんですよね。キックから何から同期の上に乗せて、ベースも(音源を)流した状態で上に弾いてるみたいな。それって曲自体に音数が減っていってるからだと思うんですけど。それに近いイメージで、(音源を)流してるものもあるんですけど、もっと体感を大きくするというか。一人で聴いてるときに気持ちよく聴いてもらってたものを、会場でもっと大きくする感じ。バンドでやってるときの方がアレンジは迫力が出るかなって思ってます。あとは自分で踊るっていうお客さんも増えてきたから、そういう空間をサウンドで作っていけたら。派手なところも魅せれるけど、基本的には踊ってもらえることをメインに考えてます。その上でさっきも言ったバンドの一体感は肝になってくるかなと。
Photo by Madoka Shibazaki
Text by Kenji Takeda