ボノボが主宰するクラブイベント<OUTLIER>が、5月18日(土)に渋谷O-EAST + DUO + AZUMAYAにて日本初開催。その中でもコアなハウスミュージックのファンたちが来日を待ち望んでいたのがソフィア・コルテシスだ。彼女が昨年〈Ninja Tune〉よりリリースしたデビューアルバム『Madres』は、ルーツであるペルーで体験した幼少期の記憶をダンストラックへと昇華した傑作として、各方面より大絶賛。<Glastonbury>をはじめとした世界中のフェスティバルからも招かれるなど、まさにトップDJへの道を駆け上がるタイミングでの来日公演となった。
<OUTLIER>開演の数時間前、ソフィアは自身のトラックを通してオーディエンスと繋がる時間を「まるで天国みたい(Just like heaven)」と表していた。まさにその通り、<OUTLIER>で彼女がDJブースの上に立って満杯のオーディエンスと共に『Madres』のタイトルトラックを歌っている瞬間は、今・ここにしかない楽園として煌々と輝いていた。自身のルーツであるラテンの陽性なサウンドとベルリン仕込みのハードなベースが入り乱れる極上の2時間。今回はソフィアのユーモラスな人物像に触れつつ、ルーツを組み込む意義や自身のトラックへの想い、さらには映像方面にも関心を抱いているという彼女の今後の展望まで訊いた。
INTERVIEW
Sofia Kourtesis
──今回の<OUTLIER>で来日する前にも、何度か日本を訪れたことがあるとお聞きしました。
コロナが流行する前に訪れたことがあります。日本の文化が好きなんですよ。特に田舎の方で聞いた日本の伝統的な邦楽が忘れられません。とても疲れた日に聞く、日本の伝統的な歌だけが入ったプレイリストがあって、それを流して休日を過ごしたりしてます。あと、邦画も好きなんです。
──どんな邦画を観たんですか?
ソフィア・コッポラの『Lost in Translation』! 実際に日本へ来た時に、ビル・マーレイやスカーレット・ヨハンソンが体験したことに共感しました。今回の旅の間も、映画みたいに日本で迷子になりたい(Lost in Japan)気分というか(笑)、色々な場所を訪れたいですね。新譜が既に完成しているので、それに関連した仕事もこなしつつ、フィールド・レコーディングを行う予定です。
──日本を離れた後もツアーで世界を回るんですか?
そうです。まずはジョージアに行って、次にスペインの<Primavera Sound>へ出演する予定。その後に控えているのがイギリスの<Glastonbury>、個人的に重要なステージなのでとても緊張してます。『ロッキー』の主人公みたいに鍛えておかなきゃ……両手にMPCを持って筋トレしてます(笑)。MPCジムに通わなきゃ!
──(笑)。今回のツアー中に観たいアクトはいますか?
ラナ・デル・レイ、アルカ、それにパルプ。パルプの“Common People”を聞いたことはありますか? あれはギリシャからイギリスに来たクレイジーな女の子の歌なんです。実は私もギリシャにルーツがあるんですよ。だから“Common People”が好きなんです、一度はライブで聞いてみたいですね。私もスーパーマーケットに連れていかれたい(笑)。
Pulp – Common People
──ソフィアさんはギリシャとペルーにルーツを持っていて、歌詞や過去のインタビューでも幼少期の記憶によく言及していますよね。特にペルーに住んでいた頃のトピックが多い印象です。DJ/プロデューサーとして活動するまで、どのような音楽を聞いていたのでしょうか?
幼少期はキューバ発祥の「トローバ」という音楽を聞いていました。詩的かつ政治的な音楽で、響きも完璧でしたね。
silvio rodriguez OJALA
あとはサルサやロックも同時期に聞いていました。その後に両親がクラフトワークを聞いていた影響でエレクトロニカにハマりました。それと、以前はベルリンでライブのプロモーターとして働いていたんですけど、そこで出会ったプレイヤーたちのことがとても好きになりましたね。
──具体的に、どのような人たちとプロモーターとして接していたんですか?
ボブ・ディランにカイリー・ミノーグ……それとフェニックス! フェニックスはバックヤードでも礼儀正しくて気さくだったし、大好きになりました。インディーバンドはみんな慎ましくて、接しやすかったですね。元々ずっと聞いていましたし、思い出もあります。
──様々な人やサウンドと触れ続けてきたんですね。昨年公開された『Madres』リリース時のPitchforkのインタビューでは、ご自身のスタイルを「salsa electrónica」と形容していました。
ハハハ、多分緊張して変なことを言ったんだと思います(笑)。Pitchforkのインタビューって緊張するんですよ……(笑)。
──(笑)。トローバや邦楽などのローカルな音楽を自分の作品にフィードバックさせることはありますか?
もちろんあります。ただ、創作にローカルな要素を持ち込むのならば、できる限りその歴史について知らなければなりません。それがインディーロックでも、エレクトロニカでも、レゲトンでも。
ただ、実際に制作を進めている期間はクラシックや映画音楽しか聞きません。フォー・テットやフレッド・アゲインが作ったダンストラックを聞くと、それに引っ張られちゃうんですよね。普段はそんなことないんですよ、バッド・バニーとかも聞きます。
──バッド・バニーは昨年の<Coachella>で自身のルーツにある文化をレペゼンするようなステージを披露しましたよね。ソフィアさんが仰られたように、ローカルな歴史を重要視しています。
すごく良いことですよね。特にプエルトリコは政治的な問題を多く抱えた国ですし、そこからバッド・バニーのようなスターが誕生して地元を盛り上げることはとても意義深いと思います。クレイジーな曲も多いけど、彼はプエルトリコの子供達へ寄付をしているんです。そういったコミュニティへの還元は、同じラテンアメリカの市民として素晴らしいと思います。
それに、例えばアメリカのラジオを聞いていても、スペイン語圏の音楽はごく普通に選曲されています。10年前ではありえなかった現象です。そういった意味でも、ローカルで伝統的なサウンドへの回帰は進んでいると感じています。
──ローカルな要素に加え、ソフィアさんは家族のエピソードをはじめとしたパーソナルな出来事を歌詞に組み込んでいますよね。そういった楽曲がビートを通じて多くのリスナーと共有される現象について、どのようにお考えですか?
とってもユニークですよね。フロアのみんながシンガロングしているのは少しシュールだけど、特別な時間。まるで天国みたいですね。
だからこそ、この後出演する<OUTLIER>が楽しみなんです。オーディエンスがどのような反応をしてくれるのか、とても期待しています。サイモン(ボノボ)はもちろん、初めて見るケリー・リー・オーウェンスのDJプレイも気になります。ステージでMPCを持って踊っちゃうかも(笑)。
──それは楽しみです(笑)。では、今回のツアーを終えた後の活動で、具体的に決まっていることがあれば教えてください。
まずは、先ほど話した通り、新作のリリースが控えています。それに、今は映画の脚本を書いている最中なんです。実は既に書き上げているものもあって、撮影まで貯めている段階ですね。まだ詳しくは言えないけど、音楽に関する映画の脚本です。
──音楽と同じくらい映画にもパッションを注いでいるんですね。
そうなんです、いつか映画監督もやってみたいですね。
──個人的にはソフィアさんが監督したMVを観たいです。
私自身も非常に興味があります。今は新作を作り終えたばかりだし、ツアーの真っ最中なので、十分な時間が確保できていないんです。ただ、年末に1ヶ月ほど休暇があるので、その期間でMVと映画の製作を進める予定です。
──なるほど。単純な興味なのですが、最後にソフィアさんの生涯ベスト映画を教えてください。
そうですね……『ロストボーイ』というヴァンパイア映画が好きです。カリフォルニアで撮影された、クラシカルな作品ですね。あとはフランシス・コッポラの『ゴッドファーザー』シリーズ、ギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』、NYのブロンクスが舞台の『ウォリアーズ』もよく観ます。どれもサウンドトラックが素晴らしいんですよね。それと、スパイク・ジョーンズって知ってます? 彼の作る映像はどれも美しくて、音楽のセンスも最高なんです。
──スパイク・ジョーンズはMVも多く手がけていますよね。
そうなんです。もし今度スパイク・ジョーンズに会うことがあったら、私の名前を出してください(笑)。彼の作品にサウンドトラックを提供したいんです!
──僕からも推薦しておきます(笑)。
よろしくね!
Interview&Text by 風間一慶
Translation by 湯山恵子
Photo by Kazma Kobayashi