『A Steady Drip Drip Drip』で体現した
ポップ・ミュージックの可能性

来年で活動50周年を迎えるLA出身の兄弟バンド、スパークス(Sparks)。フランスの鬼才、レオス・カラックス監督の新作映画でサントラを担当したり、エドガー・ライト監督がスパークスのドキュメンタリーを制作中だったりと何かと注目を集めるなかで、新作『A Steady Drip Drip Drip』が完成した。

ロック、エレクトロ、クラシックなど、多彩な音楽性を独自のポップ・センスでブレンドしたサウンドは、まさにワン&オンリー。独創的でいながら、それでいて優雅に洗練されたスパークス美学の結晶ともいえる新作について、兄のロン・メイルに話を訊いた。

Sparksインタビュー|ロン・メイルに訊く、『A Steady Drip Drip Drip』で体現したポップ・ミュージックの可能性 sparks-interview-02

Interview:ロン・メイル(Sparks)

━━前作『Hippopotamus』(2017年)は完成したばかりのラッセル(弟のラッセル・メイル)の自宅スタジオで制作したそうですが、今回もラッセルのスタジオで?

そうだね。アルバムの半分の曲は私が自宅で書いて、残り半分はラッセルのスタジオで白紙の状態から二人で書いた。あれこれ試しながらメロディーを探っていくんだ。ラッセルのスタジオだったら時間やお金のことを気にしなくてもいいからね。エンジニア的な作業はすべてラッセルがやってくれるし。

━━音は緻密に作り込まれていますが、滑らかに仕上げられていてメロディーを際立たせていますね。

緻密に作り上げた感がしないように聴こえることが大事なんだ。裏では手の込んだことをやっていても、結果としてできたものは技巧の跡を見せない。自然発生的に聴こえるサウンドでなければいけないんだ。だから、いろいろ配慮しながらひとつひとつのサウンドを作っている。パズルを完成させるようなところもあって楽しいよ。

━━スパークスは歌詞もユニークですよね。“iPhone”“Lawnmowe”(芝刈り機)みたいに物を題材にした曲や、“Stravinsky’s Only Hit”(ストラヴィンスキー唯一のヒット曲)なんていうのもある。

ほとんどの曲で歌詞は曲ができた後で書くけど、歌詞に時間と労力をかなり費やすのは、歌詞が音楽の質に合っていることが大事だと思っているからだ。ポップ・ミュージックで残念でならないのは、音楽面にはすごく力を入れているのに歌詞が平凡だということ。私たちはそれだけは避けたいと思っている。今回は歌詞に初めて下品な言葉を使ったんだ。これまでは避けてきたんだけど。

Sparks – Lawnmower

Stravinsky’s Only Hit

━━そういえば、スパークスにしては珍しく「Fuck」のような放送禁止用語が登場しますね。

そういう言葉を使うのはスパークスらしくないと思っていたんだ。でも今作では、数曲で絶対に必要だと感じた。例えば“Please Don’t Fuck Up My World”。これを別の表現で言い換えるのは難しい。“iPhone”には《put your fucking iPhone down, listen to me(お前のクソiPhoneを置いて俺の話を聞け)》という歌詞があるんだけど、あの曲では歌詞的な表現よりも会話風に描くことが大事だった。曲を作っている時は自己分析し過ぎないようにしているけれど、こういう言葉を使用することに関しては二人でじっくり考えたよ。

━━“Please Don’t Fuck Up My World”では、子供達のコーラスが美しい歌声で「Fuck」と歌い上げています。

その対比が気に入ったんだ。スラッシュ・メタルのようなサウンドではなく、ある意味、希望に満ちていて壮大な曲だからね。もし、全編で絶叫しているような曲だったら、わざわざあの言葉を使わなかっただろう。この曲調で使うからこそ奇妙な味わいが出るし、子供の合唱団が歌うことで違う意味合いも出てくるところが面白いんだ。

Sparks – Please Don’t Fuck Up My World

━━組み合わせの面白さでいえば、“One for the Ages”でクラシック風の壮大なサウンドとシンセ・ポップが融合しているのもユニークです。

長く活動してきたことの利点のひとつは、いろんな音楽的要素を自在に取り入れることができること。大昔になるけど、ジョルジオ・モロダーと作った『No.1 In Heaven』はエレクトロニックなアルバムだった。また最近では、映画音楽にも携わったことで壮大なサウンドに惹かれる面もある。その二つの世界を融合させることで、単なるダンス・ソングで終わらせない壮大さを曲に持たせることができると思ったんだ。

No.1 In Heaven

━━グラム・ロックだったり、テクノだったり、クラシックだったり。これまでスパークスは、いろんなサウンドを取り入れて独自の世界を作り上げてきましたが、今回のアルバムでは、これまでやってきた音楽性が詰め込まれているような気がしました。

私たちは可能な限り、同じような作品を作らないようにしてきた。それでも、自分たちが手がける音楽には一貫した感性があるんだ。過去には前のサウンドから完全に決別した作品もあった。例えばドラムとギターを使わずに作った『Lil, Beethoven』とか、エレクトロニックに徹した『No.1 In Heaven』のようにね。今回は『Hippopotamus』でやった「歌モノへの回帰」に手応えを感じて、それをさらに追求してみた。曲単位でじっくり取り組んだから『Hippopotamus』よりさらに深みが増しているんじゃないかな。ポップ・ミュージックには、曲の長さやメロディーの反復など制約が多い。その可能性をどこまで押し広げられるかを、このアルバムで追求してみたんだ。

Lil’ Beethoven (Deluxe Edition)

Hippopotamus

━━活動50年を迎えるベテラン・バンドなのに、いつも新作には新鮮な驚きがある。そんなスパークスのマジックが、このアルバムからも感じられます。これまでの50年を振り返って、どんな感想を持たれますか?

今もこうして新作のインタビューを受けているなんて信じられないよ(笑)。ファースト・アルバムを出した時は、このまま解散してもいい、と思えるくらい嬉しかった。長年応援し続けてくれる人たちもいれば、私たちの音楽に魅力を感じてくれる若い人たちや、私たちのことを新人バンドだと思う人たちもいる。長年応援し続けてくれる人たちにはもちろん感謝しているけど、私たちのことをアルバム1、2枚くらいしか出していないような新人バンドと同じように感じて気に入ってくれる人たちがいることにすごく刺激を受けるし、手応えを感じているんだ。

Sparksインタビュー|ロン・メイルに訊く、『A Steady Drip Drip Drip』で体現したポップ・ミュージックの可能性 sparks-interview-03

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Sparks
デビューから(ほぼ)半世紀。世界各地でカルト的人気を集める、完全無敵のポップ・デュオ、スパークス。ロンとラッセルのメイル兄弟からなるこのデュオは、1971年のアルバム・デビュー以来、グラムからパワー・ポップ、エレクトロにダンス・ポップ、さらにはチェンバー・ポップまで、時代時代のポップ・ミュージックを己の中に取り込みながら、一貫してスパークスだと分かるような音世界を創り上げている。 2018年は兄弟自らキュレートしたベスト・アルバムと、通算16作目となる『GRATUITOUS SAX & SENSELESS VIOLINS(邦題:官能の饗宴)』の発売25周年記念デラックス・エディションをリリースしていたスパークスだが、2020年、2017年の『HIPPOPOTAMUS』以来約3年ぶりとなる通算24作目のアルバムをリリースすることを発表。昨年バンドのツイッターに”ニュー・アルバムにとりかかっている”とのコメントを投稿し、ファンの期待を集めている。

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RELEASE INFORMATION

Sparksインタビュー|ロン・メイルに訊く、『A Steady Drip Drip Drip』で体現したポップ・ミュージックの可能性 sparks-interview-05

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Sparks
2020.07.03(金)

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