現行のシーンの中で、スクイッドSquid)ほどポップと前衛を兼ね備えているバンドも珍しい。2021年にデビューアルバム『Bright Green Field』を〈Warp〉よりリリース、彼らはオルタナティブ・ロックの急先鋒として世界的な注目を集めた。ツアーと共に制作を進め、ジョン・マッケンタイア(John McEntire)をミキサーに迎えた最新作『O Monolith』は、バンドの成熟を既に感じさせる一作だ。

先日開催された来日公演でも顕著だったが、彼らのステージはロックバンドのフォーマットを採用しながらも極めて特異的だ。パーカッションと電子音が幾重にも押し寄せ、インタールードと呼ぶにはあまりに挑発的なグリッチ・ノイズが空間を塗り尽くす。アンビエントをはじめとした実験的な電子音楽に親しんでいたバンドのルーツを想起させられる、唯一無二のステージだった。

現在も世界中をツアーで回っている彼らだが、そのアティチュードはバンドにとっての地元であるブリストルをはじめとした周囲のバンドとの繋がりによって支えられている。実際、彼らは同世代の友人たちについて積極的に言及し、その影響を隠そうとしない。五人としてのアイデンティティを確認しながら、スクイッドは柔軟にその帆を進めてきた。

今回はバンドより、ルイス・ボアレスLouis Borlase)とアントン・ピアソンAnton Pearson)がインタビューに登場。スクイッドの先鋭的なサウンドを支えるギタリストである二人に、周囲のミュージシャンからバンドの重要な拠点であるブリストルのシーン、さらには二人のリスナー遍歴についても聞いた。インタビューに際して作成した、スクイッドがこれまでに共演や言及をしたミュージシャンをまとめたプレイリストを参照しながら、彼らの影響の源を共に探ってほしい。

INTERVIEW:Squid
ルイス・ボアレス、アントン・ピアソン

スクイッドという新たなシーン——地元ブリストルと周囲のミュージシャンを大いに語る interview231208-squid4
Squid
後列左がルイス・ボアレス、後列中央がアントン・ピアソン

──長旅お疲れ様です。昨年の<SUMMER SONIC>での初来日の際に「ハドソン・モホーク(Hudson Mohawke)の新作が完璧な旅のサウンドトラック」とX(元Twitter)に投稿していたのを見つけました。今回の旅のサウンドトラックは何ですか?

ルイス・ボアレス(以下、ルイス) それは多分、オリー(・ジャッジ)が投稿したんだ。僕は今、クリス・エイブラハムズChris Abrahams)とオレン・アンバーチOren Ambarchi)とロビー・アヴェナイムRobbie Avenaim)の3人で録音した『Placelessness』ってアルバムに夢中なんだよ。オーストラリアの音楽家で、クリスはザ・ネックス(The Necks)っていうジャズバンドでも活動している。彼らのレコードは5〜6年前から聞いてたんだけど、このアルバムはピアノとドラムとエクスペリメンタル・ギターによる即興パフォーマンスで、僕自身も実験的な即興演奏をやりたくなったよ。

アントン・ピアソン(以下、アントン) 僕はティム・ヘッカーTim Hecker)の最新アルバムを聞いているよ。それまで聞いたことがなかったんだけど、最近はそればっかりだね。

──スクイッドはインタビューやSNSで周囲のミュージシャンについて言及したり、拠点であるブリストルのバンドについて積極的に紹介していますよね。今回はこれまでにスクイッドが名前を挙げたミュージシャンを集めたプレイリストを作成したので、これを見ながらお話を伺いたいです。

アントン おー、僕たちが一緒にツアーをしたバンドも入ってるね。

ルイス ウォーター・フロム・ユア・アイズWater from Your Eyes)は来年のアメリカツアーでサポートしてくれるバンドだ。僕らの一歩先にいるみたい(笑)。

──このプレイリストを眺めてみて、周囲のミュージシャンには共通点があると思いますか?

ルイス 共通点はないかもね。みんな独特な音楽を演奏していて、僕らは共演してお互いに影響を与え合っているよ。

アントン このリストだと、ザンヅ・ダガンZands Duggan)は一緒に演奏してくれたパーカッショニストだね。僕らのライブにも出演してくれてたんだけど、今までで一番大規模だったロンドンのライブの時にパートナーの出産に立ち会っていて参加できなかったんだ。ライブは成功したけど、僕らにとっては貴重なプレイヤーだよ。ちょっと自己中心的かな……(笑)。

──ザンヅ・ダガンについて、日本ではまだ知られていないミュージシャンなので教えてください。今年リリースされたアルバムも素晴らしかったですし、スクイッドとも共通する実験精神を感じます。

アントン 僕らがパーカッショニストを探している時に、プロデューサーのダン・キャリー(Dan Carey)が教えてくれたんだ。ザンヅは素晴らしい即興音楽家でありながら、指示したことを最良の方法で完遂してくれる。パーカッションを大量に持っていて、信じられないようなセクションを組んだりするんだ。『O Monolith」はライブ・レコーディングで制作を進めたんだけど、彼とビンゴ・フューリー(Bingo Fury)のヘンリー・テネット(Henry Terrett)を含めた7人での作業だった。僕らにとって、とても重要なミュージシャンだね。

──個人的にはスティーブ・ライヒ(Steve Reich)のような、パーカッションが多層的に連なる様を連想しました。

アントン そうだね、僕らもライヒは大好きだよ。

──他の参加ミュージシャンについても教えてください。『O Monolith』と『Bright Green Field』のどちらにも参加しているマーサ・スカイ・マーフィー(Martha Skye Murphy)について、どのようなシンガーなのでしょうか?

ルイス 彼女は最近レーベルと契約したばかりで、新しいプロジェクトやアルバムの制作に向けた旅の最中なんだ。どこへ向かうかはわからないけど、とてもエキサイティングで、スクイッドの作品にもユニークな質感を与えてくれた。彼女は2つの曲(注:“Narrator”と“After the Flash”)にボーカルで参加したんだけど、全然違う側面を見せてくれたね。

──ありがとうございます。ここからはスクイッドの拠点であるブリストルのバンドについて伺いたいです。今年の11月にアルバムをリリースしたばかりのクエイド(Quade)について、彼らはどのようなシーンから登場したのでしょうか?

ルイス 僕の大好きなバンドだね。彼らはブリストルのアンダーグラウンド・シーンがルーツなんだ。だから日本でまだ認知されていないのかもね。でも凄く新鮮なサウンドなんだよ。バイオリンの音色がバンドサウンド全体を推進させるんだ。ヘッドバンキングできる曲もあれば、アンビエントのように美しくて雄大な曲もある。これから大きくなっていくバンドじゃないかな。

──ブリストルのシーンからは、他にどのようなバンドが登場してきているのでしょうか?

ルイス ビンゴ・フューリーは重要なバンドだと思うよ。それとマイナー・コンフリクトMinor Conflict)はスクイッドとも親しみがあるバンドなんだ。シンガーはオリーのガールフレンドだし、ベースとドラムも古くからの友達だよ。とても面白い音楽を作ってる、注目してほしいね。

──ルイスさんとオリーさんは出身もブリストル周辺ですよね。自分たちの育ったシーンについて特殊性を感じることはありますか?

ルイス 僕はブリストルのすぐ近くのチップンハムで育ったし、そういう意味ではイギリス南西部からの影響をたくさん受けたのかもしれない。ただ僕も含め、スクイッドは南西部のシーンにずっといるから、あまり相対化して捉えられてはいないんだ。それでも、ブリストルは世界中の都市から人が集まる港だし、多くのカルチャーが入り乱れていると指摘されることはあるよ。小さい都市だけどグローバルで、シーンが鮮やかなんだ。

──ブリストルはレゲエやダブ、そして後のトリップホップに繋がるサウンドシステムの文化がよく特徴として挙げられますよね。

ルイス そう、ブリストルには<St Pauls Carnival>というフェスティバルがあるしね。第二次世界大戦の後に、多くのカリブ系移民がイギリスへとやって来た。ブリストルは移民を迎える港として、彼らの仕事場や奴隷貿易の拠点となった過去がある。とても暗い歴史だね。その後、ブリストルのカリビアン・コミュニティはどんどん広がっていって、80年代にはレゲエやブルースのパーティーが盛り上がった。<St Pauls Carnival>も拡大されていって、今では一年に一回開催される大規模なフェスティバルになったんだ。

──なるほど。お二人は子どもの頃から地元の音楽に親しんでいたんですか?

アントン 僕はロンドンの北東部にあるノーフォーク州で育ったんだ。10代の頃はノリッジの街までよくライブを観に行ってたよ。地方都市だけど、多くのインディーバンドとそこで出会った。

ルイス マッカビーズThe Maccabees)とかも観たの?

アントン そう、何回もライブに行ったよ。あとはフォールズFoals)とかクラクソンズKlaxons)とかボンベイ・バイシクル・クラブBombay Bicycle Club)とか。13歳くらいまではレッド・ツェッペリンLed Zeppelin)とかピンク・フロイドPink Floyd)を聞いてたんだけど、ライブに通うようになってからはインディーロックにハマったんだ。レディオヘッドRadiohead)に夢中だったよ。

ルイス 僕には姉がいて、彼女によくライブへ連れて行かれたんだ。姉は僕の4つ上で、とても音楽に詳しかった。印象的だったのは、バーミンガムまでドライブして観に行ったブライト・アイズBright Eyes)のライブ。ステージにトランペットとかペダル・スティールとか色んな楽器があって、凄く興奮したのを覚えてるよ。それからアメリカーナを聞くようになって、シャロン・ヴァン・エッテンSharon Van Etten)が初めてUKツアーをした時にもブリストルまで観に行ったね。あと、サマーホリデーに家族と<End of the Road Festival>へ行ったこともある。沢山の音楽とそこで出会ったよ。

The Maccabees Tear Through ‘Pelican’ Live At Norwich Arts Centre

Bright Eyes – Full Performance(Live on KEXP at Home)

──ありがとうございます。最後に、お二人が日本のリスナーに紹介したいミュージシャンを教えてください。

アントン (プレイリストを眺めながら)うーん、みんな友達だから悩んじゃうね(笑)。

ルイス そうだね、今回の当選者は誰かな(笑)。

アントン 今回のUKツアーでサポートしてくれたクラリッサ・コンネリーClarissa Connelly)、彼女のアルバムは最高だね。あとはグラスゴーのカプットKaputt)、一緒にライブをしたことがあるんだけど凄いバンドだった。彼らとは親友で、ステージではエナジーを共有しているよ。

ルイス アイルランドのマオルM(h)aol)ってバンドを紹介したいね。ダブリンのライブでオープニング・アクトを務めてくれたんだけど、彼らの破滅的なアティチュードは最高だね。ヴィジュアルも印象的で、久しぶりに衝撃を受けたよ。

SQUID Japan Tour 2023
2023/11/27@WWW X
ポストパンクとジャズと電子音楽が混ざったような音楽は
頭の中に過去と未来を行き来する!

イングランド、ブライトンで結成されたバンド、スクイッド(個人的には、UKのインディシーンのバンドを数多く手がけるプロデューサー、ダン・キャリーと一番相性が良いのはこのスクイッドなのではないかと思っている)。彼らは2022年のサマーソニック以来の来日で、今回のライヴが初めての単独公演となる。会場となった渋谷のWWW Xは 様々な年齢の人たちが詰めかけていて、開演前の空気も心地が良かった。会場内に静かに流れるWater From Your Eyesに耳を傾け、時折手に持ったグラスを口に運び、談笑する人たち。同じ日にアレックス・Gのライブがあるというさながらフェスのタイムテーブルのような状況の中でここにいるのはスクイッドを選んだ人たちだ。サマーソニックでスクイッドを見た人も、そうでない人も、等しく今年リリースされた2ndアルバム『O Monolith』以降のスクイッドの登場をワクワクしながら待っている。

会場全体に漂う静かな高揚感に包まれながらスクイッドを待つ。そうしてまるで近所に散歩に行くみたいな気楽さでラフな格好の5人が現れる。登場曲はなし。あたりも暗くはならない。だけども彼らは観客に大歓声で迎え入れられる。暖かさと期待感が入り混じったわずかに緩やかな空気の中、ドラマーでメイン・ボーカルのオリー・ジャッジが袋から取り出したスティックを1本、左利きのギタリスト、ルイ・ボレアスに渡す。まるでウォーミングアップのように静かにドラムとカウベルが叩かれてそこにアントン・ピアソンのギターが入ってくる。徐々に緊張感が高まる中、ステージの端に立ったアサー・レッドベターがシンセサイザーで「Swing (In A Dream)」の始まりを告げると緩さが完全に消えて、そこからほとんどノンストップでスクイッドは最後まで大きな流れを作り続けた。

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ドラムセットが前に出され、ほぼ真一列に5人が並ぶという他のバンドでは中々見られないような編成の中で幾度となくアイコンタクトが交わされる。基本の楽器の他にパーカッションやシンセ、トランペットと一曲の中で何度も楽器を持ち替えジャムのような展開を繰り広げながらスクイッドは観客をこの流れの中へといざなう。ポストパンクとジャズと電子音楽が混ざったような音楽は頭の中に過去と未来を行き来する断片的な出来事を浮かばせる。音源よりももっと咆哮に近いようなマントラを唱えるオリーのボーカルは意識に輪郭を与えて、そうしてまた次の場所へと運んでいくのだ。

「Swing (In A Dream)」に続いて2ndアルバムから「Undergrowth」が演奏されるとスクィッドはエクスペリメンタルな空間に突入する。薄いドローンノイズが流れる中で曲の最初にトランペットを持っていたローリー・ナンカイヴェルが身をかがめ足元のつまみをいじり続ける。そうこうしているうちにその曲は電子音が荒れ狂うダンスミュージックへと姿を変える(セットリストによるとこの曲はLECCY JAMというらしい)。万事がこの調子でスクィッドはアルバムの曲をアレンジしMCなしの曲間をアンビエントなサウンドで繋ぎ1時間20分の会場全体を巻き込んだ一幕ものの前衛舞台に変えていく。1stアルバムから「G.S.K.」「Narrator」が演奏されて2ndの「After The Flash」を挟み再び1st「Peel St.」へと帰っていく。もともとスクィッドのエクスペリメンタル的な側面が強く出ていた「DFM」はドーロンが接続されてさらに深化を遂げる。「Paddling」「Pamphlets」そして「The Blades」、最後まで心をつかんで離さない。

アンコールはなし。でもそれが当然に思える得も言われぬ満足感があった。終演後明かりのついた会場で皆は笑顔でスクィッドの話をする。興奮の渦に巻き込まれたというよりも、スクィッドの作り出した流れの中に身を委ねていたようなそんな感覚だった。

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Text by Casanova.S
LIve Photo by Yukitaka Amemiya

INFORMATION

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来日公演

東京 2023.11.27(月) 渋谷・WWW X
京都 2023.11.28(火) 京都メトロ

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O Monolith

2023.06.09
Squid
〈Warp / Beat Records〉

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