「もし君が、ロックンロールはもう死にかけで、本来の遊び心や原始的なエネルギーを失っていると思うのなら、それはまだスタークローラー(Starcrawler)に出会っていないということだ」──そう語っていた〈ラフ・トレード(Rough Trade)〉の創設者、ジェフ・トラヴィス(Geoff Travis)の目に狂いはなかった。この名門レーベルが送り出した4人組は、2018年のデビュー・アルバム『Starcrawler』を皮切りに、狂気の血まみれパフォーマンスと荒削りなロックンロールで世界中を震撼させる。ここ日本でも初のツアーは軒並み完売し、昨年の<FUJI ROCK FESTIVAL’18>でも度肝を抜くステージを披露。身長188センチのヴォーカリスト、アロウ・デ・ワイルド(Arrow de Wilde)がステージ上でかますブリッジも大いに評判となった。

あれからおよそ1年、スタークローラーが早くも2ndアルバム『Devour You』をリリースする。生々しさと疾走感はそのままに、音楽性はよりハードかつメロディアスなものに。歌・リフ・リズムと練り込まれた本作は、イロモノ的なイメージを裏切るように、ロック・アルバムとして王道感すら漂う一枚となった。ちなみに、本作のプロデューサーはニック・ローネイ。80年代のポスト・パンク期からパブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Ltd)やキリング・ジョーク(Killing Joke)などを手がけ、近年はニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッド・シーズ(Nick Cave and the Bad Seeds)やヤー・ヤー・ヤーズ(Yeah Yeah Yeahs)に関与。獰猛かつ艶やかサウンドメイクで知られる人物である。

この新作を巡っては、きっと誰もが「大人になってつまらなくなった」パターンを心配をしていたはず。このあとのインタヴューを読めば、それが杞憂であることがよくわかるだろう。アルバムの制作背景はもちろん、フェミニズム、故郷LAへの想い、話題の映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』まで、アロウが奔放に語ってくれた。

Starcrawler – She Gets Around

Interview:Starcrawler

──瀕死状態のあなたをドクターが治療している写真がInstagramにありますよね。<グラストンベリー・フェスティバル>での出来事みたいですけど、あれは本当に死にそうだったんですか?

アロウ・デ・ワイルド(Vo. 以下、アロウ) 実を言うと、その医者は私の友達。あれは自分たちで計画したパフォーマンスだったの。でも、みんなにはヤバいことが起きてたって言ってもいいよ(笑)。オーディエンスを興奮させたかったし、やっぱり<グラストンベリー・フェスティバル>には100組以上のバンドが出てるから、何か特別な事をしないとみんなの記憶に残れないだろうなと思って。ステージ上で死ねば話題になるかなと思ったんだよね(笑)。

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Remembering that time at glasto fest when i almost died. Fun times! Pic by @lilly_creightmore

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──あれだけステージ・アクションが激しいから、どこかで死んだと言われたら信じそうですよ。ケガとか日常茶飯事じゃないですか?

アロウ うん、ケガはよくする(笑)。その中でも一番酷かったのは<サウス・バイ・サウスウエスト>の時だったかな。ステージ上で滑って転んだ時に頭を打って、頭の横がかなり大きく腫れ上がったの。残りのパフォーマンスは立たずにそのままステージに座り込んだ状態でやって、ライヴが終わってすぐに病院に行ったよ。全然大丈夫だったんだけどね。ただ、見た目は酷かったし、すごく痛かったけど大きな怪我じゃなかったよ。

──ニューアルバムのリード曲“Bet My Brains”のミュージック・ビデオでも、頭をマイクで叩いたり、ビニール袋を被って死にそうになってる演技をしていますよね。

アロウ 撮影自体は楽しかったんだけど、あのMVはいきなり撮ることが決まったから色々とギリギリだったの。ツアー中にレーベルから突然言われて、本当は一回(LAに)帰る予定だったのにそのままロンドンに残って、ドタバタしながらの撮影だった。しかも結局、MVを撮り終えたあと、そのまま家に帰らずツアーを続ける羽目になって。大変だったよ。みんな睡眠不足で撮影に臨んだから、かなり素の表情で映ってるんだよね(笑)。

Starcrawler – Bet My Brains

──ニューアルバムではサウンド面が大きく進化している印象です。音楽的なテーマやコンセプトについて教えてください。

アロウ すべての曲がキャッチーで、最高にかっこいいロック・レコードを作ること。それ以外は特になかったかな。その通りの内容に仕上がったと思うし。私はそもそも、「人に聴いてもらえなくてもいいや」ってレベルの曲は、絶対にアルバムに入れたくないの。そんな曲を入れる意味ある? って思う。だから、アルバムを作るにあたって一番意識したのは、繋ぎのためだけの曲を入れないことだった。

あと、今回のアルバムは前回とちょっとやり方を変えて、(アイデアが)降ってきた曲は全部信じるスタイルでやってみたの。“No More Pennies”とかちょっとカントリーっぽいサウンドに仕上がったから、「変かな? やめた方いいかな?」ってみんなで話し合った。でもイイ曲だし、そんなのどうでもいいやと思ってアルバムに入れちゃった。

Starcrawler – No More Pennies

──破天荒なロックンロール・バンドが、2作目で小さくまとまって肩透かし……というパターンは昔から多いですよね。でも、何一つ変化してないのもどうかなと。その難しい綱渡りを見事にクリアしている気がしました。

アロウ 私もそう思うわ。個人的には(前作と)全く違うものを作ったとは思わないんだよね。私たちのサウンドを残しながら成長した姿を見せたいけど、あんまりかけ離れすぎたものは作りたくなかった。2枚目をブロードウェイ・アルバムにするとか、そういうの微妙じゃない(笑)?

──前作と比べて、音楽面でチャレンジしたことは?

アロウ 私の場合は、テンポがゆっくりな曲が結構チャレンジングだったな。今までにない感じの曲だし。割と好きなんだけど、ライヴでどう歌うかって部分で苦戦してる。でも、すごく楽しいの。しばらくこのチャレンジと向き合っていくと思う。

──実際、あなたは派手なパフォーマンスばかり注目されがちですけど、この新作ではヴォーカルがだいぶ表情豊かになった気がします。

アロウ 私のヴォーカルは確実に変わったと思うよ。物凄い数のライヴをこなしてきたおかげで声も成長したし、それをアピールしたかったというのもある。以前はヴォーカルのパートもかなりシンプルだったし、そこまで歌を重視してなかったんだけど、今は歌うことがとても楽しいんだ。これまではパフォーマンス重視でやってきたけど、今は両方とも大事。今回のアルバムでいうと、“Born Asleep”でのヴォーカルがお気に入りかな。あとは“Bet My Brains”も好き。

──今回のアルバムについて、特に影響を受けた音楽を教えてください。

アロウ ジェーンズ・アディクション(Jane’s Addiction)、ブラック・サバス(Black Sabbath)、ザ・ディスティラーズ(The Distillers)……他のメンバーはわからないけど、私は今まで好きだった音楽ばかり聴いてる。新しいのは聴いてないね。

──同郷LAの先輩、エル・セブン(L7)のドニータ・スパークス(Donita Sparks)と一緒に映っている写真を見かけました(エル・セブンの20年ぶりの新作『Scatter the Rats』もニック・ローネイがプロデュース)。彼女たちはフェミニストであることを主張してきたバンドとしても知られていますよね。あなたのパフォーマンスに勇気づけられる女性も多いと思いますが、自分にとって女性性やフェミニズムは重要なテーマだと言えそうですか?

アロウ そうね。私の表現の仕方は他の人と違うだろうけど。「ガールバンド」とか「女性ヴォーカル・バンド」って言われるのは嫌い。そういうのは逆フェミニズムだと思う。バンドなのに女性ってだけで別のカテゴリーに属させられている感じがする。なんで普通に「バンド」じゃダメなの? クイーン(Queen)やレッド・ツェッペリン(Led Zepplin)をわざわざ「男性バンド」って誰も言わないでしょ? 女性も男性も平等なのであれば全員「バンド」でいいよね、余計なネーミングはいらない。

本当に不思議なの。私以外のメンバーは全員男で、明らかに男の方が多いのに、それでも「ガールバンド」って言われるんだよ? どう見たって男性バンドの方が言葉的に合ってるし(笑)、女性がどれだけ性的なものとして見られているのかよくわかるでしょ。スタークローラーでは全員が平等だし、みんな同じくらい努力している。それなのに、女っていう部分でしか見てない人が多いんだよね。


──前作には地元へのラヴレターともいえる“I Love LA”という曲があったのに対し、今回の新作に“Hollywood Ending”という曲が収められているのも気になりました。

アロウ あれは親友が私の元カレとヤったと知ったあとに書いた曲。別に未練があったとかハートブレイクを感じたとかそういうのじゃなくて、いつになったらこの男とのクソみたいなドラマが終わるんだよ、もうどうでもいいのにって言う気持ちで書いたの。「いつ終わるの? そしていつ始まるの?」って感じ。新しいスタートを求めている曲だね。

Starcrawler – Hollywood Ending

──プレス資料であなたは、「私が生まれ育ったロサンゼルスは、今ではある意味、消えかかっている」と語っていました。このコメントが意味するところを詳しく教えてもらえますか?

アロウ たぶんどこでも、それこそ日本でも起こる事だと思うんだけど、何かが流行ったりカッコイイって話題になりだすと、古き良きロマン溢れる場所が壊されて別の物にされてしまうよね。タコス・スタンドがTOP SHOPになったり、サンテリア・オカルト・ショップが流行りの喫茶店になったり。ここ数年のLAでは本当によく見られる光景で、つい2週間前まであった店がなくなって、トレンドに乗った店に変わってたりして凄く残念なの。
想像してみて。自分が生まれて育った街に大好きな場所があって、地味な場所かも知れないけどそこに対するセンチメンタルな気持ちがあって……なのに、ある日突然流行りの喫茶店になっていた。そんな気持ち。


──LAといえば、映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ってご覧になりました?

アロウ 観た観た。私はあまり好きじゃなかったな。基本的に3時間もある映画は全部好きじゃないんだよね。最後のくだりは好きだったけど、(監督の)タランティーノっぽさを感じたのはそのシーンだけだったかも。そこ以外は「60年代のLAをお見せしますよ〜」って感じでいかにもSONYの映画っぽいし、スタイリングもそんなにいいとは思わなかった。チャールズ・マンソン一族の描写も、髪や足の汚れ具合が全然足りてないよね。FOREVER 21から出てきた感というか(笑)。

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告2 8月30日(金)公開

──あなたが演じたほうが説得力ありそうですね。

アロウ ディスりまくるつもりはないよ? 『ハリウッド・ブルバード』を再現したシーンとかカッコよかったし、演技もよかったところが多かったと思う。俳優どうこうよりもプランニングと実行の部分が微妙だったかなーって感じ。

──あの映画にもそういうメッセージが込められているようですが、最近は何かと規制や自粛が求められるのもあって、過激な描写や悪趣味な表現がしづらくなっている気がします。スタークローラーはロックンロールを通じて、そういった風潮に抗っているようにも映るんですけど、その辺りどうでしょう?

アロウ 意識してやっていると言いたいんだけど、私たちはロックが作りたくて、というかロックしか作れないからやってるんだよね。私たちから出てくる音楽がロックなだけ。でも、そりゃもちろんそうだったら……かっこいいよね(笑)。

──自分が表現するうえで、リアルとファンタジーのどちらがより重要だと思います?

アロウ 正直言ってわからないけど、半々かな。私は100%リアルのなかでは生きてないんだよね。半分は常に妄想とかしてるし、妄想の世界のなかで生きている。でも、100%妄想で生きるには薬をやるか、生きるのを辞めるしかないんじゃないかな。ちょっとはリアリストでいなきゃいけないと思うの。大人になるためにファンタジーやイマジネーションを捨ててしまう人を見ると悲しい気持ちになるよね。だから私は50/50。

──これまで何度も日本を訪れてきましたよね。ピーチコーラにハマったのはよく知っていますが、それ以外で印象的なエピソードを教えてください。

アロウ たくさんありすぎて、どれを話せばいいかわからないな。でも一番は初めて名古屋でライヴをした時だね。日本でやったライヴは全部最高だったけど、名古屋が一番ワイルドだったの。壁に頭を叩きつつけて血まみれになっている男の人がいたり、ライヴ中にずっと私たちのお尻を叩いてくる人もいたりして、すごく楽しいショーだった。東京より小さな街って聞いていたから盛り上がるのか不安だったけど、本当にクレイジーで最高だったよ。

──ニュー・アルバムを提げての来日ツアーでは、どんなライヴが期待できそうでしょうか?

アロウ それは実際に観るまでわからないよ! 記憶に残るライヴにはなると思うけど。具体的に何が起きるのか、私もステージに立ってみないとわからないからなんとも言えない。でも、観なきゃ損するよ!

Starcrawler アロウ・デ・ワイルドが最新作で見出したボーカルとしての真髄 starcrawler

credit Gilbert Trejo.

Text by Toshiya Oguma

Starcrawler アロウ・デ・ワイルドが最新作で見出したボーカルとしての真髄 Starcrawler-Devour-You-PR-1

credit Autumn De Wilde

Starcrawler

2015年にロサンゼルスで結成されたスタークローラー。そのインパクトのあるライブ・パフォーマンスは、エルトン・ジョン、マイ・ケミカル・ロマンスのジェラルド・ウェイ、シャーリー・マンソンと言った大物アーティストたちがこぞって支持を表明、またベック、フー・ファイターズ、スプーン、ザ・ディスティラーズ、MC5などの前座を務めるバンドへと急成長を果たした。2018年1月に発売された1stアルバム『Starcrawler』は各所で大絶賛され、その勢いを駆ってここ日本でも初のジャパン・ツアー(東京・名古屋・京都・大阪)は追加公演も含め全5公演ソールド・アウトを達成、夏にはフジロックフェスティバル’18に再来日を果たした。

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RELEASE INFORMATION

Starcrawler アロウ・デ・ワイルドが最新作で見出したボーカルとしての真髄 Starcrawler_DevourYou

Devour You

Starcrawler
RT0074CDJP
ROUGH TRADE/BEAT RECORDS
¥2,200(+tax)
国内盤特典: ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入
1. Lizzy
2. Bet My Brains
3. Home Alone
4. No More Pennies
5. You Dig Yours
6. Toy Teenager
7. Hollywood Ending
8. She Gets Around
9. I Don’t Need You
10. Rich Taste
11. Born Asleep
12. Tank Top
13. Call Me A Baby
14. Pet Sematary *Bonus Track for Japan
詳細はこちら

EVENT INFORMATION

STARCRAWLER JAPAN TOUR 2019

2019.12.04(水)
OPEN 18:00 / START 19:00
東京・恵比寿LIQUIDROOM
ADV ¥6,000(スタンディング・1ドリンク別)

チケットぴあローソンチケットイープラス

2019.12.05(木)
OPEN 18:00 / START 19:00
大阪・梅田バナナホール
ADV ¥6,000(スタンディング・1ドリンク別)

チケットぴあローソンチケットイープラス

2019.12.06(金)
OPEN 18:00 / START 19:00
愛知・名古屋CLUB QUATTRO
ADV ¥6,000(スタンディング・1ドリンク別)

チケットぴあローソンチケットイープラス

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