簡にして要を得る。Still House Plantsと出会い、私が真っ先に抱いた感想だ。今年4月にリリースされたアルバム『If I Don​’​t Make It, I Love U』は、バンドサウンドの固定観念を内側から爆破した問題作だ。

彼らはボーカル/ギター/ドラムの3人組で……いや、わざわざ編成を書き出さなくても、Still House Plantsの作品を一聴すれば、バンドの低音部を担うベースの不在にはすぐ気づくはずだ。ただし、彼らはその空白を塗りつぶそうとはしない。ろくろの上の丸皿が毎秒ごとにその姿を変えるように、アンサンブル全体が伸び縮みを繰り返し、定型に落ち着かない。まるで「レス」であること自体が一つのパートであるかのようなデザインであり、リスナーはその「レス」の中に無限個の行間を幻視する。これはLightning BoltやGong Gong Gong(工工工)──よりポピュラーな例を挙げるならばThe White StripesやThe Jon Spencer Blues Explosionになるのだろうか──など、同じく「レス」の感覚を共有するバンドがノイズによる空間の充満を図ったのとは全く別のアプローチだ。

今年のインディー/エクスペリメンタル・シーンきっての話題作となった『If I Don​’​t Make It, I Love U』を生み出したStill House Plants。今回は9月21日(土)に開催される<MODE AT LIQUIDROOM>でgoatとのダブルビル公演を行う彼らに、貴重なメールインタビューを行う僥倖に恵まれた。私は有り余る疑問を11個の質問に落とし込み、メンバーはそれに答えたり答えなかったりした。以下はその一部始終である。

INTERVIEW:
Still House Plants

絶えず伸縮を繰り返しながら、あらゆる音楽は進化を続ける──Still House Plantsへの11の質問、その回答 unnamed-8
Still House Plants
左から)Finlay Clark/Jessica Hickie-Kallenbach/David Kennedy

Q1)
インタビューをお受けいただき、誠にありがとうございます。今、窓の外からは何が見えますか?

Jessica Hickie-Kallenbach(以下、J):夏が終わり、雨が降っているね。

Finlay Clark(以下、F):安物の淡い色したブラインドが暗闇を隠している。

David Kennedy(以下、D):スクリーンの光、暗い部屋、隅に蜘蛛。

Q2)
今のメンバーがどのように集まったか教えてください。

J:私たちはみんなグラスゴーで出会った。アパートが広いおかげで、騒音の苦情を心配することなくリハーサルをすることができたから、ギターとドラムで音楽を作り始めるには最高の場所だったね。お互いに変わったスタイルで演奏していたから、自分たちのやり方で遊ぶ方法を学べたんだ。そして2020年、それまでの3年間で別々の都市に住んでいた3人がロンドンに戻ってきたとき、再びバンドが始動した。まぁ、ロンドンは騒音苦情のせいで音楽を作るには最悪な場所だね。

F:わからない。各々の直感に従い、運を天に任せ、それぞれの部品が自然と結合し、今に至る。

D:2015年からグラスゴーで活動してたんだ。その時点では数年間ドラムをやめていたんだけど、二人に出会ってからまた叩き始めたんだ。最初は──技術的なことよりも、実存的な意味で──演奏に飛び込むことが難しいと感じていたけど、このバンドには飛び込む気にさせる何かがあったんだと思う。二人についてはわからないけど、僕は白紙の状態からスタートしたんだよ。

絶えず伸縮を繰り返しながら、あらゆる音楽は進化を続ける──Still House Plantsへの11の質問、その回答 SHPLive_70

Q3)
バンドを始める前、熱心に聞いていたアーティストを教えてください。

J:音楽の全てをリスニングから学んだと言っても過言じゃないね(笑)。子供の頃、新しい音楽を見つけるために、ブログスポット(注:Googleが提供する無料のブログ作成サービス「Blogger」のドメイン名)を漁ってた。兄弟と一緒に、グライムやR&B、ヒップホップとかをたくさん聞いたね。Björk、Dizzee Rascal、あとはDestiny’s Childとか。その後にCap’n Jazzとか映画の中で使われていたUSエモに触れて、自分の興味の幅が広がった気がする。

D:僕はメタルやパンクに夢中で、14~15歳くらいからクラブミュージックにどっぷり浸り始めたんだ。友達と一緒にディグってたよ。AutechreにBurial、それと数多のドラムンベース。当時のドラムの先生は僕にジャズを勧めてきたけど、まだ興味が湧かなかったな。

Q4)
現在の拠点であるロンドンのシーンに関して、固有のローカリティを感じたことはありますか?

J:ロンドンにいること自体はとても大変。でも、目にするものや経験するもののバラエティには溢れている。物事がうまくいったり、みんなが好きなことをするために一生懸命努力しているのを見ると、自分の中にモチベーションが生まれる。お互いにそういう影響を与え合っているんだ。

D:あぁ、まさにそうだね。

Q5)
バンドではどのようにして作曲を進めるのですか?

J:壮大な「こおり鬼」みたいなものなんだ。同じことを何度も何度も繰り返し、曲のように感じられるまでいろいろな部分を切り貼りしながら、お互いにお互いを追いかけ回している。

F:言葉/リズム/ハーモニーを伸縮させて、現在進行形の会話を紡ぐ。あるいは、たのしい演奏!

D:同じことを、何度も何度も、様々な方法で演奏して、最終的に形のようなものになる。自分が何を演奏しているのか忘れちゃうから、リハーサルのたびに録音して、後で参照できるようにしているんだ。今は各々の練習中のプレイからシンプルなコンポジションを作り出すことによって作品を組み上げているよ。

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Q6)
今年リリースされた3rdアルバム『If I Don​’​t Make It, I Love U』は、前作から約4年の歳月を要しています。この間でバンドに生じた変化、そしてそれをどのように『If I Don​’​t Make It, I Love U』へと落とし込んだのかを教えてください。

J&F&D:2020年にアルバム『Fast Edit』をリリースした後、十分なスペースを確保することが難しくて、空白の期間が生まれたんだ。それから数年の時を経て、私たちは再び同じ街に住むようになり、やりたい仕事すべてに十分時間を割けるようになった。それが大きな変化だったと思うよ。

Q7)
Still House Plantsのアンサンブルは「ミニマム/シンプル/ソリッド」というワードを用いてリスナーから評価されることが多い印象です。自身のスタイルに関して、「ミニマム/シンプル/ソリッド」であることは何か重要な意味を持っているとお考えでしょうか?

J:楽器編成に従い、首尾一貫させようとしたら、ソリッドかつシンプルなものになった。足し算というより引き算で考えることが多いんだ。

F:アイデアを複雑化させないことは、プレイに余白を与える。だから少ない編成でも多くのことができるんだ。でも、もし必要性を感じたなら、より多くの要素を盛り込もうとも思っているよ。

D:確かにセットはシンプルでミニマムだけど、そういうコンセプトで動いているわけじゃない。そもそも、ミニマリズムの行き着く先は「何もしないこと」だといつも感じているし、それは音楽を作る手段としては根本的にナンセンスなものだよね。

Still House Plants – “M M M”

Q8)
また、Still House Plantsの楽曲では様々な長さのブレイクが効果的に用いられてます。なぜこのようなスタイルになったのでしょうか?

J:静寂を貫くことはとても難しいし、それがたまらなく楽しいんだよね。

F:Bluetile Loungeの“Gm”という曲が好きなんだ。静寂も作曲の重要な要素だよ、必要なのは虚無感(void)なんだ!

D:(ブレイクが)重要かどうかはわからないけど、最初に演った時に「どれくらい静かでいられるか試してみよう」っていう挑戦をしたのを覚えているよ。

Q9)スロウコア/フリージャズ/エレクトロニック/フォーク etc.と、Stille House Plantsの音楽性は様々なジャンルの名前を挙げて説明されがちです。しかし、バンドからはそれらを包含しつつも脱構築 deconstructionを図る野心を感じます。個人的に、この脱構築 deconstructionの過程に実験性とカタルシスが同居していることこそがStill House Plantsの特異点であると考えています。つまり、既存のフォーマットへの挑発や反抗を意識したことはありますか?

J:この前、Still House Plantsの演奏を見た同居人が「3台のCDJがクロスフェードを繰り返しているみたい」と言ったんだ。それは私たちのループやサンプリングのプロセスを端的に表していると思ったよ。ともすれば、私たちはあらゆるジャンルの影響を受けているのにも関わらず、それをドラムキットとエレクトリックギター、そして1人のボーカルで表現すると、伝統的なロックミュージックをアイデンティティにしていると認識されてしまう。私たちは影響源を示しつつも、それを歪めることに喜びを見出しているだけなんだ。自分たちのフェイバリットを再生産するだけじゃなく、自分たちの中に取り入れるためのアプローチを編み出したんだ。

F:「脱構築 deconstructionの過程に実験性とカタルシスが同居している」という一文が好きだ。絶えず伸縮を繰り返しながら、あらゆる音楽は進化を続ける。

Q10)音楽でも、それ以外の領域でも構いません。自身の活動や表現形式に共鳴する(と、個人的に感じている)アーティストを教えてください。

F:Harry Pussyの“I don’t care about sleep anymore”。サウンドもムードも大好き。

D:沢山の友人。素晴らしいものを作っているよ。

Q11)
最後は楽しい質問で終わりましょう。 <MODE AT LIQUIDROOM>で来日した際に訪れたい場所はどこですか?

J:三徳ナイフが欲しい。あと、古い木も見たいね。

F:できる限り外には出ようと思ってるんだけど……今は考える時間がないんだ!

D:朝食に納豆を食べてウォーキングするのが楽しみ。もし時間があれば、午後は電車に乗って郊外へ行きたいね。

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Interview&Text:風間一慶

Live Photo:Tom R Porter

Still House Plants

INFORMATION

絶えず伸縮を繰り返しながら、あらゆる音楽は進化を続ける──Still House Plantsへの11の質問、その回答 09.21-MV-SHP-1

MODE AT LIQUIDROOM

2024年9月21日(土)
LIQUIDROOM(〒150-0011 東京都渋谷区東3-16-6)
17:30開場/18:30開演
チケット料金:前売5,500円[スタンディング]
出演者:goat(ゴート/JP)、Still House Plants(スティル・ハウス・プランツ/UK)

チケットはこちら詳細はこちら