tricotやジェニーハイのボーカリストである中嶋イッキュウと、The Cigavettesやsunsite、Benlouでソングライティング&ギターを務める山本幹宗による新しいプロジェクト、好芻(スース)による5曲入りミニアルバム『Gakkari.』がリリースされる。ディレイやリバーブをたっぷりとかけた、まるで白昼夢のようなサウンドプロダクションと、ほのかにオリエンタルな香りをまとったメロディライン、そして中嶋のキュートでどこか官能的なボーカルが印象的。ドリームポップやシティポップ、ヴェイパーウェーブのエレメンツをちりばめながら、そのどれとも違う独自の世界観は、この二人が出会ったからこそ生じた化学反応の賜物だ。

INTERVIEW:好芻

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──まずは結成の経緯から教えてもらえますか?

中嶋イッキュウ(以下、中嶋)  確か去年の年明けくらいに幹宗さんとご飯を食べていて。……なんで「一緒にやろう」ってなったんでしたっけ。

山本幹宗(以下、山本) イッキュウさんとは定期的にお茶を飲んだりご飯を食べに行ったり、もちろん現場でもあったりしていて。そのたびに「何かやれたらいいね」みたいなことを言っていたような、言ってなかったような感じだったんですよ(笑)。でも、前に一曲だけやったことがあったよね? 深夜に新宿を徘徊するっていうやつ。

中嶋 ああ、私のソロ活動ですね(笑)。で、「やろうぜ」ってなって割とすぐ、後に“Blue Boat”になるデモを送ってくれましたよね。それはすぐに歌を入れて送り返したような記憶が。

山本 そうだね。それと、後に“YES”になるデモをサクッと最初に作って。イッキュウさんから送られてきたメロディとボーカルを聴いて、「ええやんええやん!」ってなって。

中嶋 そのあとすぐにtricotが事務所を抜けるなど、他のことでかかりきりになってしまうんですよ。1年半くらいは個人事務所みたいになって、私の手が回らなくなって放置していたんですけど、ようやく事態が落ち着きそうになってきたので、幹宗さんに「あれってまだ生きてます?」とLINEをして。

山本 実は、最初に二人で盛り上がった段階ですでにレーベルから契約条件はもらっていたんですよ。で、しばらく経って今年になってイッキュウさんからLINEが来た。あれが3月くらいだっけ。そこからはあっという間に完成までたどり着きましたね(笑)。

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──そもそもお二人はどんなふうに出会ったのですか?

中嶋 もう何年前だったか忘れてしまったんですけど、ブンブン(BOOM BOOM SATELLITES)で幹宗さんがサポートギターを弾いていた時に、ツーマンライブの相手としてtricotを誘ってくれたことがあったんです。大阪と名古屋の二ヶ所で演奏したんですけど、その時にドラムを叩いていたyoko(福田洋子)さんは、もともとtricotでもドラムを叩いてくださったことがあって。

山本 そうだったんだ。

中嶋 それで交流もあったんですけど、幹宗さんとは打ち上げの時に仲良くなったんでしたよね。その時はまだ私、関西に住んでいて、上京してからは幹宗さんによく遊んでもらえるようになって。それで交流が始まった感じですね。ギターを買いに行くのについて来てもらったこともありましたよね。

山本 吉田君(雄介:tricotのドラマー)と3人でね。イッキュウさんは、もちろん素晴らしいシンガーでありソングライターだけど、今こう、イッキュウさんがいろいろやっている中で、「こういうこともやってほしいな」と思うことがなんとなく頭に浮かんだので、それを一緒にやりたいと思ったんですよね。

中嶋 私は初めてソロ活動をやることになった時、幹宗さんにギターを弾いてもらいたいと思ってオファーしたんです。それが、初めて「仕事」として一緒に音楽を奏でたきっかけでしたよね。そのあと超忙しくなって自分のソロをやる時間はなかったんですけど、ずっとやりたい気持ちはあったので、このプロジェクトで自分の中の、ジェニーハイでもtricotでもない部分の表現ができるなら、しかも幹宗さんとならめっちゃ嬉しいと思いました。トラックまで作ってくれるというし、歌を乗せるだけでいいなら楽やなと(笑)。音楽的には100パーセント信頼できる人だからこそ、任せておけばいいやって思えるんですけどね。

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──二人とも超多忙でありながら、さらに新たなプロジェクトを立ち上げるということは、相当モチベーションも高かったんじゃないかと思ったのですが。

山本 最初は「令和の川谷絵音を目指す」とかふざけたことを言ってたんですよ。「いっぱいやってるな、この人」って思われたいみたいな。

中嶋 あははは。

──実際の曲作りはどのように進めていったのですか?

山本 最初イッキュウさんに「何かやりたい感じとかある?」と尋ねたら、K-POPばかり20曲くらい送って来て。しかも、プレイリストにまとめてじゃなくて1曲ずつリンクを送ってくるので確認するのに気が遠くなりました(笑)。K-POPは僕も好きなんですけど、ちょっと参考にはなりにくいよなあ……って思っていましたね。難しいじゃないですかK-POP(笑)。

──お二人ともK-POPにハマっているんですね。

中嶋 私はBLACKPINKが入り口で、今はKep1erにドハマリしています。

山本 結構、バキバキ系だよね。僕はどちらかというとTWICEとかソウル、R&B、歌謡曲テイストのものが好きですね。なので「いったん、K-POPのことは忘れようか」となりました(笑)。

──“Blue Boat”は、ちょっとヴェイパーウェーブっぽい感じやシティポップっぽい感じもありますよね。

山本 この曲は、イッキュウさんから送られて来たリファレンスの中にK-POP以外の曲もいくつかあって。「これ、ええがな!」という曲を参考に、普段自分が使っているようなコード進行をはめて作っていきました。いわゆる「ドリームポップ」っぽい感じは、あえてやろうとしていたわけじゃないけど、だんだんそうなっていきましたね。

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──ちなみに幹宗さんには、K-POP以外にどんな曲を送っていたのですか?

中嶋 ずっと好きなチューン・ヤーズ(Tune-Yards)とか。割とタイトめでミニマムなサウンドが好きなんですよね。もちろん、ドリームポップみたいな曲も入っていたと思います。サブスクのリンクとかではなくて、Instagramのアカウントでセクシーなお姉さんが歌っている動画があるんですけど(笑)、それが辛うじてドリームポップでしたよね?

山本 そうだね(笑)。

中嶋 その方は、tricotでアメリカツアーへ行った時に知り合った友達なんですけど、会った時は音楽をやっているなんて全然知らなくて。後でインスタをフォローしてみたら、ある日突然シンセやベース、ギターなど一人で弾いている動画が上がって来て。それがすごく好きな感じだったんですよね。サブスクやYouTubeにも置いてなくて、マジでインスタでしか活動していないかも。

山本 その人にDMで「誰がミックスしてるの?」と問い合わせたよね。イッキュウさんのパーフェクトイングリッシュで(笑)。そういう、いわゆる「プロ」ではない人に頼んだ方が、仕上がりとしてはアクが強くて面白いと思ったんです。円安で大変でしたけどね。支払いの瞬間まで円が下がり続けて。朝起きては為替を見て「ああ、またドルが上がってる……!」ってなっていました。まさか自分がその煽りをくらうことになるとは思ってもみなかった。

──ほとんど2人で作ったのですか?

山本 2曲だけ西野恵未さんに鍵盤をお願いしました。でも全体的に、人が弾いているというより打ち込みっぽくした方がいいかなと。なので最初のデモ段階から、本チャンまでほとんど変わってないんですよ。イッキュウさんのボーカルと僕のギターはスタジオに入って録り直した以外、使っている機材も音色も最初のデモのままですね。

中嶋 唯一、大きく変わったのは“gakkari”くらいじゃないですかね。この曲はずっと放置されていたのですが、すごく好きだったので、そのことを幹宗さんに伝えたらリアレンジしてくれました。

山本 “gakkari”は1コーラスしかできてなかったんですよ。完成させるにはもっと尺を長くしなければならなくて、それが面倒くさかったんですよね(笑)。なので、一度サビが来たら後はその繰り返しで、気がついたら終わるというすごい構成の楽曲を作りました。ちなみにシンセの音は、最近新しくソフトシンセを買って、楽しくていろいろいじっているうちに出来たものです。

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──メロディと歌詞はイッキュウさんが作ったのですか?

中嶋 はい。でも、ほとんど幹宗さんがトラックを作り込んでくれて、そこにメロディを乗せていっただけですね。1コーラス分のデモがまず送られて来て、そこにメロディをつけて投げるとフル尺で作ってくれるので、そこにもう一度ボーカルを入れるという。大体2ターンくらいで楽曲は仕上がっていきましたね。

──“Night Market”はかなりコード進行が凝っていますよね。

山本 生まれて初めてオーギュメントコードを使ってみました(笑)。あれだけ比較的最近作った曲ですね。もうかれこれ1年くらいかけて作っているので、最初の頃とは違う人間になっています。

好芻(SUSU)- Night Market

中嶋 1年前と今とじゃ気分が全然違いますよね。

山本 制作を始めた頃はいわゆる3コードに6度マイナーを足したくらいの、オールディーズっぽいシンプルなコード進行だったんですけど、だんだんテンションノートを入れたくなってきちゃったんです。それと、今までシンセベースをあまり使ってこなかったので、今回は使いたかったんですよね。

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──歌詞はどのように作っていきましたか?

中嶋 今までのプロジェクトで、一番肩の力を抜いて作っています。“gakkari”とかはもう、鼻をほじりながら書いていますね(笑)。全然何にも考えてないけど、音の感じが言葉とメロのハマり具合がいいなと思って気に入ってます。サビとか特に。

山本 いいよね、サビのメロと歌詞。

中嶋 TikTokとかで使って欲しいです。

──(笑)。好芻(スース)というプロジェクト名はどうやって決まったのでしょうか。

中嶋 めちゃめちゃ考えてきたんですよ。「これはこういう意味があります」みたいな注釈も付けて20案くらいリストアップして。幹宗さんやスタッフの方に見せたのですが、2人とも一瞬で「これ!」って言ってくれましたよね。自分のブランドが「SUSU」という名前なんです。私のソロも「SUSU by Ikkyu Nakajima」名義で活動していたのですが、それともかかっていて。そうやってブランドとコラボしていけば、この好芻もさらに面白いものになるんじゃないかと思っていますね。

山本 不思議なのは、この好芻という名前とバンドのサウンド、そして「SUSU」の雰囲気が見事にシンクロしているところ。

中嶋 PVももうすぐ公開されますが、SUSUの服を着た人がたくさん登場するとか、すごく面白くて雰囲気も出ているのでぜひみて欲しいです。今まで自分が関わった中で、音楽を最も自由に使ってくださるチームなんですよ。ビジュアル的な部分で深く関わらせてもらえるのはとても嬉しい。音楽的な部分はもうほとんど幹宗さんに任せているので、足りないところを補い合いながら、「おんぶにだっこ」し合いたいと思います。

「Blue boat」MUSIC VIDEO

──今後、好芻をどんなふうに展開していきたいと考えていますか?

中嶋 たくさんの人に聴いてもらって、引越し代を稼ぎたいです(笑)。あと、無茶苦茶に売れたらブランド品に塗れたいですね。欲にまみれたプロジェクトなので。

山本 売れてもおかずが一品増える程度だけどね(笑)。

中嶋 でも、「聴き手」にも楽しいというメリットがないとおかずが増えないと思うので、いっぱい楽しんでもらえるように、活動の仕方や音楽そのものも工夫したいですね。このプロジェクトは肩の力を抜いてやれるのがいいところだし、それが音楽にも出ていると思うので、このままのテンションで続けられたらいいなと。30代から始めたプロジェクトなので、海外に進出できたとしても、一緒にいて楽しいメンバーを誘って行きたい。もちろんtricotも楽しいんですけど!(笑)

山本 例えば海外でライブをやることになったら、現地に5日間滞在して、ライブは真ん中に1本くらいがいいな(笑)。暖かいところでやりたい。ハワイやグアム、ニューカレドニアとかもいいですね。

中嶋 いろんな意味で余裕を持った活動をしたいです。tricotは気合の入った活動をしているしそこが魅力ですが、このプロジェクトはそことはまた違う位置にあるのかなと思います。

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取材・文/黒田隆憲
写真/ヨシノハナ

INFORMATION

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好芻

Vocal:中嶋イッキュウ(ナカジマ イッキュウ)
tricot/ジェニーハイ/SUSU by Ikkyu Nakajima
InstagramTwitter

Guitar:山本幹宗(ヤマモト カンジ)
The Cigavettes/sunsite/Benlou etc…
InstagramTwitter

インタビュー|中嶋イッキュウと山本幹宗の新プロジェクト=好芻の心地良い化学反応 interview220922-su-su-12

「Gakkari.」1st Mini Album

好芻
2022.09.21(水)
品番:FBAC-169 JAN:4582622504556
価格:\2,200(\2,000+税)

1.Blue boat
2.YES
3.Lonely
4.Gakkari
5.Night Market

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SUSU by Ikkyu Nakajima POP-UP STORE “Nuef Strikes Back~ヌーフの逆襲~”

今作は9月23日(金)から25日(日)にかけてオープンする中嶋の手がけるブランドSUSU by Ikkyu NakajimaのPOP-UP STORE”Nuef Strikes Back~ヌーフの逆襲~”でも展開される。好芻の世界観を体感できるイベントとなっているためプロジェクトにいち早く興味を持った方は是非足を運んで欲しい。

2022.09.23(金)~09.25(日)
SPACE BANKSIA(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3丁目20−3 石井ビル 1F)
原宿駅竹下口から徒歩約8分表参道駅から徒歩約10分

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