tricotやジェニーハイのボーカリストである中嶋イッキュウと、くるり、BOOM BOOM SATELLITES、銀杏BOYZなど数多くのバンドでサポートギタリストを歴任する山本幹宗による音楽プロジェクト、好芻(スース)が約1年半ぶりとなる5曲入りの2nd Mini album『Mitaiken』をリリースした。

前作『Gakkari.』で発揮した、オリエンタルなエレメントを散りばめた、異世界に迷い込んだような印象は変わらず、1990年代のロックと電子音楽を繋ぐムーブメントの影響も感じさせる作品となった。また、山本は初めてミックスにも挑戦。意欲的に向き合ったという本作について話を聞いた。

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INTERVIEW
好芻(中嶋イッキュウ × 山本幹宗)

好芻(中嶋イッキュウ × 山本幹宗)、2ndミニアルバム『Mitaiken』で確立した「足並みをそろえない面白さ」 interview2406-su-su6
中嶋イッキュウ
好芻(中嶋イッキュウ × 山本幹宗)、2ndミニアルバム『Mitaiken』で確立した「足並みをそろえない面白さ」 interview2406-su-su
山本幹宗

──前回Qeticでインタビューしたのが2022年秋で、それから約1年半が経ちました。アフターコロナの中でどのように『Mitaiken』を創り上げたか、まずはその振り返りから聞かせてください。

山本幹宗(以下、山本):コロナ禍に突入する時は世の中が一気にズバッと変わりましたが、コロナ禍明けは三歩進んで二歩下がるような生活でした。その流れの中で日常が戻ってきたので、ツアーが増えるにつれじわじわと忙しくなっていった印象がありますね。

中嶋イッキュウ(以下、中嶋):『Mitaiken』は通常のお仕事もある中での制作だったので、本当に忙しくて。歌詞の中にある「衝動買い」や「大遅刻」という単語が浮かぶくらい時間がなかったので、曲を聞きながら携帯でバーって詞を打ち込んで書いていました。

山本:お互い多忙だったので、基本的にリモートでファイルのやりとりをしながら制作を進めました。“衝動買い”と“大遅刻”の制作中は一度も会っていないし、ミュージックビデオの撮影で初めて会ったくらいでしたね。打ち合わせのような会話も殆どなくて、雑談をしたくらいで。

中嶋:幹宗さんから届いたスケッチ的な音源は、楽しんで歌を入れたいなって思うものばかりで。ただ、「ここがこうでいいですね!」みたいなことは特に言わず。傍から見たら淡々としているかもしれませんが、それは幹宗さんの楽曲を心から良いと思っているからこそなんです。

山本:それはお互いにそうですね。イッキュウさんがつけてくれた歌は、褒めるということも忘れるぐらい当たり前にいいものなんです。基本的には曲を作る上で「もっとああしてくれ、こうしてくれ」というのは言わず、カッコよく言えば「音楽で会話している」状態でしたね。

──『Gakkari.』と『Mitaiken』を通して、オリエンタルな雰囲気やイッキュウさんの歌い方が共通しています。

中嶋:昔からアジアのファッション、音階、食べ物などポップカルチャーが感覚的に好きで、オリエンタルな雰囲気が幹宗さんの曲を聞いたときに合いそうだなと思ったんです。オリエンタルテイストをメロディーとか歌詞にも散りばめて、PVもその方向に自然と寄っていきました。

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──『Mitaiken』の収録曲はいつごろから制作していたんですか?

中嶋:2021年の夏頃に“Delivery”ができ、その次が“未体験”。“大遅刻”、“衝動買い”、“カカオ”の3曲は、2023年3月のライブの時に曲数が足りないことに気づいて、一気に作りました。

山本:“大遅刻”と“衝動買い”は、当時の自分のモードが反映されていますね。前作が緩んだムードだったので、ノリのいい曲も作りたいと思って2曲完成させて、ノリノリはもういいかなとなって“カカオ”を作りました。

──前作『Gakkari.』のリリース以前から、今作の曲も入っていたんですね。

山本:『Gakkari.』の収録曲を決めるときに、僕は“Delivery”も推していたんですけど、イッキュウさんは“Gakkari”を推していたんです。僕よりイッキュウさんの方が上なので、バンド内ヒエラルキーが(笑)。

──(笑)。“Delivery”はサウンドの雰囲気も、詞の選び方も、1990年代のU2に通じるものがあるような気がします。

山本:“Delivery”は明確なリファレンスがあるわけではないんです。僕にとってオーセンティックではない、うっすら聞きかじってきた「イケている感じ」のフィーリングを、うっすら第六感で持ってきました。ただ僕、U2はかなり好きですね。『Zooropa』(1993)、『Pop』(1997)あたりのアルバムも含め。昔、iPodに自動的にダウンロードされて、皆が「ちょっとうざいなあ…」と思う曲すら好きでした。

中嶋:幹宗さんから曲を貰って聞いた時に、不思議なSFのようなイメージ浮かんだので今・現在について書くよりも、時代をごちゃごちゃさせた感じにしました。

山本:最初に歌を聞いた時、《強運をデリバリーしたい》が、《今日もデリバリーしたい》って聞こえて、「制作中に晩御飯作るの面倒くさくて連続でUberEatsしちゃったのかな?」って。その後レコーディングの時に初めてプリントアウトした歌詞をもらって読んでみたらすごく良い内容で。「こんないいこと歌ってたの!? 君、天才じゃないか!」って言いました。

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好芻(SUSU) – Delivery MV

──対象的に“未体験”は内省的な雰囲気です。

山本:第六感を集めて制作した“Delivery”と違って、“未体験”はキーとかテンポが似通った、テイストが近いサンプルをたくさん集めてループさせて遊んで何かアイディアを得ようと制作していたんです。でも、いまひとつ形になりそうにないなって思ったときに、イッキュウさんがすごくいい歌をつけてくれて。

中嶋:“Delivery”みたいに時代を行き来する浮遊感というよりは、空に浮かぶ浮遊感があり、子供が物思いに耽ったり、妄想の世界にに飛んだりするようなイメージが浮かんできました。

山本:その世界観をさらに強力にするために、90年代初頭、『Screamadelica』(1991)の頃のプライマル・スクリームとか、その頃のアンドリュー・ウェザオールとかそういう感じにしていくと良さそうだなと思って、ホーンセクションやアコースティックギターを追加したり。好芻は元々全部シンセベースだったんすけど、生のベースに差し替えたりして。

──山本さんは、“未体験”を含め5曲中3曲でミックスにも初挑戦されています。

山本:僕は元々、くるりの現場で知り合った、宮崎洋一さんという素晴らしいエンジニアの方に10年ほどお世話になっていて、僕の関わっている作品の半分くらいは宮崎さんがミックスしているのですが……急に自分でもやってみたくなっちゃったんですよね。去年の冬ごろから機材を揃えて、後戻りできない状況に自分を追い込んで初挑戦しました。

──お二人がそれぞれ自分の領域で色々と試しているし、信頼関係がベースにあって制作された作品なんだな、と。

中嶋:「餅は餅屋」じゃないですけど、楽曲的には幹宗さんがリードしてくれて、オケは幹宗さんが作ったものが良いと思っているんです。それで、リファレンスは知らないまま私が自分っぽいメロディーを乗せると、自ずとまだ世になさそうな曲になりそうとは思っています。

山本:足並みをそろえて、同じ方向性を見て作ろうというよりは、出てきたものを面白がってるっていう感じかもしれないですね。イッキュウさんが考えてくれた歌って、自分が想像していたものとは絶対違っているけれど絶対に素敵で、それがすごく面白い。一言で言うとラッキーですね。

中嶋:せっかく人とやるなら、思い通りにというよりは、「そう来たか!」って思いたいし、思わせたいですね。足並みは揃えない方が面白いのかなとは思います。

──本作の特にどのあたりに注目してもらいたいですか?

中嶋:私としては、歌詞を書きながら「見たことがない言葉の並びやな」「この歌詞から始まる曲聞いたことないな」など新しい発見があったので、それを見てもらいたいです。

山本:1.5倍速とかじゃなければ、聞いてくれるだけで十分です(笑)。バリエーション豊かに、色んな曲が入っていてサウンドはいい感じにまとまったと思うんですけど。やっぱりイッキュウさんの歌詞、歌が晴らしいですよね。「好きな人にこう思われたらまずいな!」というフレーズがたくさん入っているので、それがモチベーションになったら嬉しいですね。

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──最後に今後の好芻のビジョンを教えてください。海外配信も計画していると伺いましたが。

中嶋:動きやすさが一番の武器だと思うので、柔軟に活動していきたいです。私はソロでも活動していますが、一人で全てできるタイプではなくて、協力してくれる方がたくさん必要なので、幹宗さんと2人でやっている好芻が一番ミニマルなプロジェクトです。

山本:色んな人に聞いてもらって、好きだと言ってもらえたら嬉しいです。

──イッキュウさんはtricotのツアーでよく海外に行ったり、中国のGriffOや台湾のElephantGymと対バンするなど、アジア勢との絡みも多いですよね。

中嶋:アジア圏の対バンした人たちは気さくで話しやすいんだけれど、音楽的には技巧的でストイックな印象がありますね。

山本:僕は10年以上前に韓国旅行に行っているくらいなんですけれど、先日阿佐ヶ谷の飲み屋で、来日してた韓国のシンガーソングライターと、そのバンドの方たちと飲んで、大盛り上がりしましたね。

中嶋:もし海外に行くにしても、2人ならどこでもライブができるし、自分たちのやりたいことも、応えることもしやすいのかなって。

山本:歌う人は良いと思うんですけど、それ以外のことを僕が全部やることになるので、できればバンドがいてくれると良いですけどね(笑)。

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Text by 中村めぐみ

INFORMATION

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好芻

Vocal:中嶋イッキュウ(ナカジマ イッキュウ)
tricot/ジェニーハイ/SUSU by Ikkyu Nakajima
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Guitar:山本幹宗(ヤマモト カンジ)
The Cigavettes/sunsite etc…
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好芻(中嶋イッキュウ × 山本幹宗)、2ndミニアルバム『Mitaiken』で確立した「足並みをそろえない面白さ」 mitaiken

Mitaiken

好芻(中嶋イッキュウ × 山本幹宗)
発売日:2024/5/15(水)
品番:FBAC-213
JAN:4582729914456
価格:\2,200(本体価格\2,000+消費税)
【収録内容】
1. 大遅刻
2. 衝動買い
3. カカオ
4. Delivery
5. 未体験

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