須田景凪が、映画『水曜日が消えた』主題歌の新曲“Alba”を発表した。

中村倫也主演、映像作家の吉野耕平が監督をつとめ、曜日ごとに入れ替わる“7人の僕”を主人公にした物語を描く『水曜日が消えた』。そのストーリーに寄り添うべく須田景凪が書き下ろしたこの曲では、ミュージックビデオも吉野耕平が監督をつとめ、全編CGで仕上げられた映像に“7種類の靴”“7種類のペン”が登場する内容となっている。

「バルーン」名義でボーカロイドを用いて活動していた頃から彼の楽曲のMVを多数手掛ける“盟友”アボガド6を筆頭に、様々な映像作家やアニメーターと共作してきた須田景凪。“Alba”以外にも、開催中止となったライブツアー『須田景凪 TOUR 2020 はるどなり』振替公演初日の4月24日に公開した“MUG”や、6月より放送を開始した、須田景凪書き下ろしのNHKみんなのうた“Carol”など、彼の繊細な音楽とイマジネーション豊かな映像がリンクする表現を旺盛に発表している。

今回のインタビューでは、新曲について、そして彼のユニークなクリエイティブのあり方についてオンラインで話を訊いた。さらには吉野耕平監督にもメールインタビューを行い、「映像と音楽との関係」を深く探った。

Interview:
須田景凪

━━緊急事態宣言による外出自粛の日々はどんなふうに過ごしてらっしゃいましたか?

ツアーも結局中止になってしまったので、基本的にはずっと制作をしていました。もともとライブ期間以外は家に引きこもって制作をしているだけだったので、正直そんなに大きくは変わらない感じで。あとは昔の友達と連絡を取って、お互いの近況を話したり、他愛のない話をする機会がすごく多かったですね。

━━それこそ最初から基本的に自宅で完結するタイプのアーティストだったわけで、そういう意味では今までと変わらないスタイルで制作に没頭することができたわけですね。

とは言っても、1年半前の『Quote』というアルバム以降、ここ最近はずっと生音でレコーディングをやってきたので、久しぶりに自分の中だけで完結する音楽を作った感じです。しばらく生音にこだわってやってきたけど、それを踏襲してまた自分一人の音楽に昇華する時期だった。今だからこそまた一人で作れるものが新しい感じでした。

━━“Alba”は映画『水曜日が消えた』の主題歌の話を受けて書き下ろした曲ということですが、どんなことを思って制作されたんでしょうか?

話をいただいていろいろ想像したんですけど、去年の年末に本編を見させていただいて、自分の本当にツボにハマったというか、本当に大好きな映画だったんです。すごく感動したし、衝撃を受けて。そこからもう一度監督の吉野さんとお話しする機会をいただいて、どんなサウンドをリクエストされているかという話を詰めていきながら作っていきました。

━━この映画を好きになったポイント、衝撃だったところというのはどういうところだったんでしょうか?

もちろん物語の設定や主演の中村さんの鬼気迫る演技も本当に素晴らしいんですけど、自分の中で一番感動したのは、めちゃくちゃ細かく洗練された演出がすごくふんだんに使われていたことです。視覚芸術みたいな細かいギミックが沢山あって、それがすごく自然、かつ美しい形で本編の至るところに落とし込まれている。物語自体は淡々と進むんですけど、それがあることですごく華やかに見える。そういう魅せ方も相まってストーリーが際立つところもすごく感動しました。

『水曜日が消えた』主題歌予告(主題歌:須田景凪「Alba」)6月19日(金)公開

━━映画は「曜日ごとに性格が異なる主人公」という突飛な設定のストーリーですよね。けれど、たとえば同級生と話す時と上司と話す時で自分の振る舞いや話し方が変わるということと同じだと考えると、誰にでも当てはまる話だと思います。そういうモチーフに関してはどのように受け取ってどのように感じられましたか?

おっしゃる通りで、吉野さんともそういう話をしました。『水曜日が消えた』という話の主人公は僕らからしたら一見突飛な設定ですけど、彼にとってはそれが普通の日常なんです。彼は別に特別なことをしているわけではなく、あくまで自分なりに当たり前に過ごしている。そういうところと自分がどういう部分でリンクするかを考えた時に、今おっしゃったように中高の友達と話す時、上司と話す時、自分の親と話す時って、自然と変わるじゃないですか。人格とまでは言わないまでも、喋り方とか、性格とか、誰でもスイッチが変わる時がある。そういうところがこの物語とリンクする部分なのかなって考えて。それで歌詞に落とし込んでいきました。

━━そこからどういうテーマが膨らんでいったんでしょうか。

この曲を作る上で最初にあった大きなテーマとして、さっきの主人公の話にも繋がるんですけど「特別な日々はいらない」っていうワードがありました。今の時期がまさにそうだと思うんですけど、100人いたら100通りの当たり前がある。そういうところから、誰が聴いても自分だけの当たり前を愛せる歌詞にしたい気持ちがありました。

━━誰かの普通とか、誰かの常識を押し付けられるのではなく、それぞれの日常や暮らしが肯定されるべきだということを、社会的なメッセージというよりも詩的な言葉で表現している感じがしました。

そうですね。「普通」という言葉はよく使いがちなものとしてあると思うんですけど、改めて考えると「普通」なんてものはあまりないというか。みんなが寄せていった結果、大衆的に重なった部分が普通と呼ばれていると思うんです。でも、そうじゃない部分にフォーカスしていけたらとは思っていました。

━━曲調やサウンドに関してはどうでしょうか?

吉野監督とお話しして「洋楽っぽいサウンドにしてほしい」というリクエストをいただきまして。自分も幅を広げたいというか、純粋にいろんなことをやってみたい時期だったし、カイゴ(Kygo)やエド・シーラン(Ed Sheeran)のような好きなアーティストのサウンドを取り入れてみたりして、そこにメロディと歌詞を乗せて作っていきました。ダンスミュージック的なサウンドって、良くも悪くも、どんなメロディーでも綺麗にハマると思うんです。聴きやすいものになる一方、違う目線で見るとサラッと流れて聴こえちゃう部分も多いのかなと思うので。違和感を混ぜたかったので、サビの後半の方で突飛なメロディにしてみたり、そういうアレンジをしながら作っていきました。

━━おっしゃったカイゴやエド・シーラン以外にも須田さんの最近の好みのテイストをあげるならば?

有名どころになってしまいますが、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)はもちろん、ショーン・メンデス(Shawn Mendes)とか、MAXっていうNYのシンガーソングライターも大好きで。最近はそのあたりを聴いています。よりシンプルに、ソリッドになってるものが多くなってきている印象がありますね。

須田景凪「Alba」MV

━━“Alba”のミュージックビデオも『水曜日が消えた』の吉野監督が制作されていますが、これはどういったやり取りで作っていったんでしょう?

吉野さんとご一緒できるということで、映画に通じるモチーフやアイディアをMVに取り入れていただきたいとリクエストさせていただいたんです。この時期なのでオンラインでお話しさせてもらって、そこから吉野さんがいろいろと考えてくださった。自分の作品としては初めてCGのみで完結しているものになっています。MVだけ見ても美しいんですけど、映画を観た後にMVを観たり、MVを観た後に映画を観たりすることで、映画とのつながりを面白く感じられるんじゃないかと思います。形は違えど、同じようにグッとくるものがあるというか。そういう意味でのつながりはあると思います。

須田景凪が語る自らの音楽を昇華させるアボガド6、吉野耕平らの映像表現 interview200615__sudakeina_03
“Alba” MVより

━━今回の曲にかぎらず、須田さんは、自身の音楽と映像とのつながりや親和性についてはどんなふうに考えてらっしゃいますか?

アニメーション、実写と両方ありますけれど、どちらも映像があることによって楽曲の背景や感情的な部分、歌詞にもサウンドにも描かれていない新しいバックグラウンドが見えてくるものだと思います。アニメーションでできることと実写でできることは違うと思うので、それぞれの良さはあると思いますけれど、どちらも重要だと考えています。

━━アニメーションと実写の違い、それぞれの良さというと?

雑多な説明になってしまいますが、実写の場合はより生々しい、より身近な見え方をするものだと思います。だからこそ伝わるものがあるし、ライティングの色ひとつで悲しい気持ちなのか温かい気持ちなのか、感情が伝わるようなところもあります。あくまで個人的な意見なんですけど、実写の方がドラマチックになるところがある一方で、アニメーションだとより一層ありえない世界ありえないシチュエーションを描けるんですよね。実写では再現不可能な頭の中のイメージをそのままアウトプットできるものだと思います。アボガド6さんと作る映像もそうですけど、この間公開した、大谷たらふさんが映像を制作してくれた“MUG”という曲のMVもそうですね。

━━“MUG”のMVはまさに物理法則を無視した動きや物体が変形するような表現がありますが、これはどんなふうに作っていったんでしょうか?

あの曲では音楽を作っているときに思い浮かんでいた1つのモチーフを伝えて広げていってもらったんです。鶴が首を動かしながら踊っているイメージがあったんですけど、それって、実写だと難しいじゃないですか。でもアニメーションだとすごく面白い形で描けるので。わかりやすく無限の可能性があると考えています。

須田景凪「MUG」MV

━━新曲“Carol”についても聞ければと思います。NHK『みんなのうた』のために作った曲ですが、まずそのお話を受けてどう感じました?

単純に、自分にその話が来るんだという驚きが一番大きかったです。なにしろ有名な番組じゃないですか。1961年からある番組で、自分も大好きで観ていたし、『みんなのうた』がきっかけで知った音楽も多かったので。

━━すべての世代に届く曲という意味では、いろんなタイアップや主題歌とはまた違った機会になると思うんです。それを受けて、どういう曲を書こうと考えましたか?

そのこともすごく考えました。自分の話になるんですけど、小学校低学年とか幼稚園の時に、たとえば「寂しい」という感情があったとしても、それをまだ「寂しい」と言語化できない状態のときがありました。自分の感情をまだうまく吐き出せない時期がある。それで自分はいろいろ辛い時期があったんですけど、それも「辛い」と言えなくてすごく苦しかった経験があって。そういう経験をしている人って少なからずいると思うんです。

トラウマとか辛い記憶とか、人格を形成するに当たって幼少期の記憶ってものすごく大きなものだと思っていて。人によってはそれがすごく苦しい記憶として残っている人も多くいると思うし、結局、それって昔の自分を肯定できていない状態なのかなと思うんですね。自分も肯定できているかと言われるとそれはわからないし、振り返ったら美しくない記憶なのかもしれないんですけど、そういう記憶だとしても赦してあげたいと思っていて。

あの曲を作るにあたっては、賛美歌にしたいというテーマがあったんです。どんな経験であったとしてもそれを赦して美しいものだということを伝えたかった。そういうテーマをもとに広げていった形でした。だから今聴いてくれている幼稚園児や小学生が、いつかふとした時に思い出してくれたら嬉しいなと思います。

みんなのうた “Carol”

━━NHKみんなのうた“Carol”の映像はアボガド6さんが制作されています。これはどんなふうに作っていったんでしょうか?

いつも通りのやり方なんですけれど、曲の解釈を彼に話して、オンラインでアボガド6さんのラフスケッチしている画面を共有してもらいつつ、どんな世界にしようかという話をしました。この曲は歌詞を一番大事に伝えるべき曲だとなって、サビ以外はシンプルな映像で、サビで開けるものにしたいと決めて。そこから彼といろいろな話をして、少し不思議な空間というか、亜空間の中の美術館みたいな空間を一緒に作って、そこからは彼の表現の形で作ってもらいました。

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1st EP 『teeter』 アートワーク by アボガド6

━━曲が完全に出来上がってからアボガド6さんが手掛けるというような感じだったんでしょうか?

曲によっていろいろあるんですけれど、この曲の場合はワンコーラス仕上がった段階だったと思いますね。そこからお互いで作業を進めていった感じです。

━━アボガド6さんは須田景凪さんのMVを多く手掛けていますが、どういうきっかけで付き合いが始まったんでしょうか?

2013年から「バルーン」という名義でボーカロイドを使って音楽を作っていたんですけど、2013年の終わりくらいに、風の噂で、どうやらアボガド6さんがバルーンの音楽を知ってくれているらしいと知って。僕はアボガド6さんのただの一ファンだったんで、めちゃくちゃ嬉しかったんですね。そこで、半分断られてもいいと思いつつTwitterのDMで是非一緒に何か作らせていただけたら幸いですという長文を一方的に送らせていただいて。それで受けていただけることになりました。

キャラクターが7人くらい出てくるMVの制作だったんですけど、「キャラクターはこういうのがどうですか?」って7キャラ分くらいの絵コンテをいただいて、それがめちゃくちゃ格好よくて。その7人のキャラの中の1人を曲にしたいんですって勝手に僕が曲にして、こっちもやってくれませんかってまたお願いして、図々しくも何作か一緒にやらせてもらうことになって。そこからどんどん彼とプライベートの話もするようになって、単純に仲良くなって。気付いたら曲を作るときにアボガドさんだったらどういう表現をするのかなって自然に考えるようになっていったんです。ただ、お互いに専属みたいなことは絶対にしないようにしよう、互いが一緒にやりたいから一緒にやる関係が一番いいよねという話をしています。その時々でお互いが一緒にやりたいと思っているから長くやれていると思うし、お互いのことを尊敬しながらできているのかなって思います。

━━そもそもファンだったということですけど、アボガド6さんの作品や表現のどういうところが自分の好きなところや共感するポイントなんでしょう?

彼の作品もどんどん変化していっているので一概には言えないし、あくまで個人の意見なんですけど、彼の一番の魅力は発想自体にあると思うんです。彼はTwitterで毎日作品を投稿しているので、それを見てもすぐわかると思うんですけど、なんでも作品にできるんですよね。どんなモチーフでも作品にできるし、それを普通では思い浮かばないような角度から描いたりする。彼にしかない発想をたくさん持っていると思います。表現の仕方や絵柄は年々変わっているんですけど、そういう発想の根っこの部分は昔から変わらないし、むしろどんどん洗練されていると感じていて。自分が一番彼に感じる魅力はそこですね。

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2nd EP 『porte』 アートワーク by アボガド6

━━アボガド6さんがこういう風に社会を見ているという、その視線にはドキッとさせられるようなところがありますよね。世の中のルールや、皆の無意識、社会や教育の歪みのようなものを戯画化する形で、ときにはグロテスクなものとして表現している。それもわざとグロテスクに描いているというよりは、社会の日常の皮を一枚めくったらそれがあるというような表現になっている。

ただ1枚フィルターを剥がしただけというか。よく鋭いことを描いてらっしゃるんですけれど、決して無理やり描いてるわけじゃなくて。社会的にも教育的な側面から見ても、すごく難しいテーマが、彼のフィルターを通すととてもわかりやすく視覚化されていると思うんですね。なかなか簡単に出来ることじゃないと思います。

━━僕としては勝手にバンクシーと同じ位置づけで捉えているんです。それをストリートでやるかTwitterでやるかの違いだけで、表現の本質的な部分では通じ合うところがある。

なるほど。たしかにそう言われてみるとそうかもしれないですね。

━━アボガド6さんとの共同制作はどんな感じで進めていくんでしょうか。先程はいろいろなやり方があるって言ってましたけども、どんな風に楽曲のイメージを伝えて曲の仕上がりに持っていく感じですか?

一番よくある方法は、まず楽曲を彼に送って、歌詞の意味を伝えて、漠然としたモチーフや風景やふわっとしたイメージを彼に伝えるんです。それからオンラインで画面を共有しながら作業を進めるんですね。お互い無言で、彼はラフを描いたり消したり、その間に僕は自分の作業をしたりしながら、淡々と時間を過ごしていて。その間で格好いいモチーフを描いてたら「それめっちゃいいね」って言って。そこで1つモチーフが生まれて、またそれを繰り返して、2つ、3つと出来ていったら「じゃあこれを中心にストーリーを考えてみよう」みたいに話し合ったりして。実写のミュージックビデオとか他のアニメーターさんの方だと、最初にイメージを伝えたらあとは基本ほとんどお願いして、後でちょっと修正をリクエストするくらいの感じが多いんですけれど、アボガド6さんとはずっと一緒に作業することが多いですね。

須田景凪が語る自らの音楽を昇華させるアボガド6、吉野耕平らの映像表現 interview200615__sudakeina_06
“レド” MVより
映像 アボガド6
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“mock” MVより
映像 アボガド6

━━ということは、アボガド6さんの描いた映像のラフスケッチやアニメーションのモチーフに音楽制作をする側である自分が影響を受ける、っていうこともある?

めちゃくちゃありますね。たとえば“veil”という曲はアボガド6さんにMVを作ってもらったんですけど、あの曲では1コーラスでは「ここはこうしよう」という感じで詰めていって、2コーラス目からは彼にお願いしたんです。その映像が出来上がって「この音を使ったらアボガド6さんはこういう表現をしてくるんだな」とか「彼の中でこの音はこういう色のイメージなんだな」とか、そういった発見がありました。

須田景凪「veil」MV

━━そうなんですね。その話を聞いて、ある種のバンドみたいだなと思いました。たとえばプレイヤーの癖で楽曲のアレンジが変わるように、トラックメイクの方向性がビジュアルアーティストの感性で変わっていったりする。それも曲ごとに1つのプロジェクトとしてタッグを組めるという。新しいバンドのような形態だと感じたんですが。

言われてみればバンドって表現は近いですね。今の時代、そういうやり方で、ある種のバンドみたいになっている映像と音楽の関係性は多いのかもしれないと思います。

━━わかりました。今後に関しても聞ければと思いますが、映像も含めて、新たに取り組んでみたい表現方法はありますか。

音楽に関しては、以前から「取り入れられるものは取り入れていきたい」と変わらず思っています。映像に関しては、最近、CGの進歩が目を見張るので。アニメーションと実写の中間というか、アニメーションでも実写でもあり、どちらでもないような表現の映像が出てきている。そういった要素は自分のミュージックビデオに取り入れてみたいと思っていますね。

Interview:
吉野耕平

━━『水曜日が消えた』の主題歌“Alba”を須田景凪さんにオファーした経緯と、楽曲があがってきた感想をお聞かせください。

プロデューサーからの提案でいくつか須田さんの楽曲を聴かせて頂きました。どの曲も素晴らしかったのですが、中でも“Cambell”の楽曲やMVの世界観に、どこか『水曜日が消えた』の世界と共通したものがあるな、と感じてオファーさせていただきました。初めて“Alba”のデモ音源を聴かせていただいた時は、イントロとそこからの歌い出しまでの流れの空気感が、映画を観終えたあとの温度にちょうど良いかもしれない、と感じました。映画のエンディング曲には、その流れこそが一番大切だと個人的に思っていましたので、そこがきちんと押さえられている時点でもう大丈夫、と思いました。

須田景凪「Cambell」MV

━━吉野監督が須田さんの楽曲“Alba”から受けたインスピレーションはどのようなものですか? そのインスピレーションはMVにどのような形で反映されていますか?

2番の冒頭、《淀んだ夜の静けさ 理由もなく喉は渇く》という部分の歌詞が、自分の中で妙にひっかかるところがあり、そこから街灯の下を歩く靴、という最初のイメージが出てきたように思います。MVを作るにあたって事前に須田さんとお話しさせていただいた際に、「映画の世界観とどこか共通したものがあってもいい」という意見もいただきましたので、であれば、映画の主人公のように「入れ替わりながらも、ひとつである存在」が出せないか……と繋がり、そこから7種類の靴がコマ撮りアニメのように切り替わりながら夜道を歩く、という映像が見えてきたように思います。さらにそこに、回転させることで一連の動きが見えてくるゾートロープやフェナキストスコープといったアニメーションの技法が組み合わせて……と膨らみ、最終的には「曜日ごとにバラバラになった巨大なカレンダーを歩く靴たち」といったサビのシークエンスを含めた、全体が見えてきました。

━━映像のプロとして、映像を制作する時に音楽はどんなポイントで重視していて、どんなところが大事だと感じますか?

音楽と映像、両者がぴったり同じ方向を向きすぎない、ということを大事に思っています。音楽には映像だけでは表現できないものを補ってほしいし、逆も同じだと思います。だからこそ、音楽と映像には常にいい意味での緊張感がほしいというか、ベタベタ馴れ合わない関係でいてほしい、というか。そんな2つがたまに、ある瞬間にだけガッチリ噛み合ったりするからこそ、そこにしかない感情や感動が伝わるんじゃないか、と思います。

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“Alba” MVより
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“Alba” MVより

Text by 柴 那典

須田景凪が語る自らの音楽を昇華させるアボガド6、吉野耕平らの映像表現 interview200615__sudakeina_01

須田景凪
2013年より“バルーン”名義でニコニコ動画にてボカロPとしての活動を開始。

代表曲「シャルル」はセルフカバーバージョンと合わせ、YouTube での再生数は現在までに約8,000万回を記録しており、JOYSOUND の 2017 年発売曲年間カラオケ総合ランキングは1位、2017&2018年&2019年の年代別カラオケランキング・10代部門では3年連続1位を獲得し、現代の若者にとっての時代を象徴するヒットソングとなっている。

2017年10月、自身の声で描いた楽曲を歌う“須田景凪”として活動を開始。2019年1月、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベルunBORDEより1st EP「teeter」をリリース。8月には2nd EP「porte」をリリースし、オリコンウイークリーアルバムランキングでTOP5にランクインした。 楽曲は作詞、作曲、編曲全てを須田自身が手掛けており、中毒性のある予想外かつ大胆でありながら、隅々までこだわりの詰まったサウンドと、聴く人に絶妙な距離感で寄り添う歌詞とメロディーが、10代から20代を中心に若者から多くの支持を集めている。

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RELEASE INFORMATION

須田景凪が語る自らの音楽を昇華させるアボガド6、吉野耕平らの映像表現 interview200615__sudakeina_10

Digital Single「Alba」

6月5日(金) 配信開始

ストリーミング/ダウンロードはこちら