チャンネル登録者数80万人を超えるYouTubeや、ポップな世界観を発信するファッションブランド「POPPY」のディレクターなど、多岐にわたってクリエイティビティを発揮しているあさぎーにょ。性別問わず、その天真爛漫な人柄に惹かれるファンも多い。そんな彼女が、今回「Sunny Sunny」という名義で音楽活動を本格始動する。新たな名義に込められた意味、そして彼女にとっては新鮮なチャレンジともなる、「人の力を借りる」クリエイティブワークについて聞いた。
音楽を通して伝えたいことが明確になった
──あさぎーにょさんはYouTuberとしてもかなり知名度がありますし、これまでにも楽曲をリリースしたことがあったと思いますが、このタイミングでのデビューにはどんな意味合いがあるのでしょうか?
私は10年前、「音楽をやりたい」という漠然とした夢を持って、関西から上京してきました。でも当時、オーディションで「なぜ歌手になりたいんですか」と聞かれたときに、言葉がつかえる感覚があって。「誰かに感動を与えたい」ってよくあると思いますけど、私はそれとは違うかなって。質問に答えていても、ちょっと美化してしまっている自分がいるな、という感覚があったんです。
──本心とは違うかも、みたいな?
そうです。結局、音楽を通して何を伝えたいか、どうしたいのか、どういうものを作りたいかが明確ではなかったんですよね。それから10年、SNSやYouTube、アパレルブランド、いろんなことにチャレンジさせていただく中で、自分の「らしさ」だったり、何を伝えたくて活動してるのかというテーマが見つかった。
今は音楽を通して届けたいものがちゃんとあるし、活動を一緒にするソニーミュージックのメンバーとも巡り会えた。そのタイミングが今回だったという感じです。
──Sunny Sunnyの構想自体はいつ頃から始まっていたんでしょうか。
1年半ぐらい前に、ソニーミュージックさんと「一緒にやりましょう」という話になって、曲を作り始めました。ただそのときは「あさぎーにょ」としてやるのか、新しい形でやるのかは固まっていなくて。音楽を通してやりたいことが定まってきたときに、「Sunny Sunnyという名前でやったほうが、この世界観は作れそうだな」と思って、それに向けて準備していったのがこの1年という感じです。
──アー写も拝見しましたが、「あさぎーにょ」とは全然違うテイストですね。
今まではシャープな質感の写真や動画が多かったんですけど、Sunny Sunnyではおひさま感をすごく大事にしています。「日向」と「日陰」、そのどちらともに向き合うことを大切にしているので、ちょっと色が混じったり、光がフレアになっていたり、ニュアンスの部分を大切にして、今回は作りました。
──撮影は嶌村吉祥丸さんが務めています。撮影はどんなふうに行いましたか?
たまたま生まれたブレ感や反射による色の出方を見ながら、いろんなことを試していきました。たくさん話し合ってイメージを固めてから撮るというよりは、とにかく撮って見せていただく、を繰り返して。吉祥丸さんが着ている服の反射で色味が変わる部分もあるので、着替えてもらいながら撮ったりもしました。
──あさぎーにょさんとしては、これまでの活動の延長にこの音楽活動があるイメージなんでしょうか? それとも、「新しい方に知ってもらいたい」という思いがあるのでしょうか。
もともとのファンの方にももちろん聴いてほしいですけど、延長線上というよりは、新たな位置からアーティストとしてやっていきたいという思いがあります。最初にあんまりあさぎーにょを連想させないほうが、純粋に曲のことを好きになってもらえることもあるのかなと。だからこそアー写でも、顔をはっきり出していないんです。
アウトプットは何かを与える行動のようでいて、むしろもらう行動
──Sunny Sunnyのコンセプトには、日常における日向の時間と日陰の時間、どちらもを大切にしたいという思いがあるとのこと。あさぎーにょさんは常に明るいイメージがあるんですが、日陰の時間帯もあるんでしょうか?
もちろん人並みにあります。みなさんも悩みを抱えた日があると思うんですけど、それを発信することってなかなか難しいですよね。心配かけてしまうな、と。
音楽は、そういう「影」の部分も織り込みながら、それでも最終的にはポジティブに変換することができるアートだと私は思っていて。だから、ネガティブなことも表現しやすいなと感じます。自分の影の部分も盛り込んで、それをいろんな方が解釈して、その人の日常に寄り添う形で発信できる。
──「元気出せよ! 気にすんなよ!」みたいな力強い音楽じゃなくて、あくまで優しく寄り添って、その人が気分を転換するお手伝いができるような存在を目指していると。
そんな感じです。Sunny Sunnyには「人生という物語の一瞬を照らす音楽を届けたい」というテーマメッセージがあって、決して「Let’s 〇〇!」と促すような音楽ではない。本当にささいな一瞬や、日常の平凡なシーンに、「ここから物語が始まるかも」と期待してもらえるような、温かく包むような存在でありたいなと思っています。
──日向の時間についてはいかがですか? 自分の中で、「今、自分テンション高いな、アガってるな」と感じるのはどんな時間ですか?
お仕事の中では、何かを作っている時間が一番アガりますね。あとは、何のためにやっているかが見つかったり、自分の新しい面を知ったりしたときです。Sunny Sunnyでいうと、さっきのテーマメッセージが見つかったときとか。
──「自分ってどうなんだろう」と掘っていくような、内省的な作業も結構される?
むしろ、それが私の人生でいちばんずっとやっていることですね。YouTubeを始める前、暗黒期みたいな時期があったんですよ。路上ライブやってても、「音楽がしたくて上京してきたけど、これがやりたかったのかな、なんのためにやってるのかわからないな」って。YouTubeを始めて、毎日、投稿というアウトプットをしていたんですけど、そうすると自分と向き合い続けるし、ファンの人からのコメントで「なんでこれが好きなの?」って聞いてもらえたりするんですよ。それに対して、また私は「自分がどうして好きなのか」を話すわけです。
だから、アウトプットは誰かに何かを与える行動のようでいて、自分にとってはむしろもらう行動なんです。個性とか、らしさとか、自分の好きなものの理由とか。何のためにやっているかみたいなところまで向き合うことができたからこそ、今こうして、「音楽を通して伝えたいこと」までたどり着けている。自分と向き合うことは、もはや趣味です(笑)。
──でも、けっこうエネルギーを使いませんか? 負の感情とも向き合うことになりそうです。
そうですね。たとえば何か嫌なことがあったり、人とけんかしたりしたときに、「このけんかはなぜ起きたのか」「なんでこんなにつらいのか」「なぜ人にこう思われたくないのか」ということを、めちゃくちゃ考えるんです。クセになっているかも。でもその中で答えを見つけたり、「あ、こうだったからか」という理由が見つかったりしたら、すごく気持ちが明るくなります。
そうして自分で解決できたことも、解決できなかったことも含めて曲にしていけるのがうれしくて。感情を整理する過程とか、まだ中途半端な心情のときって、人にうまく話せないじゃないですか。「なんでかわかんないけど、なんかめちゃくちゃ悲しいんだよな」とか。でも、そのもやもやした段階も、音楽だったら大切に抱きしめることができる。
──内省したり感情を整理したりするときは、どんな方法を取っているんでしょうか?
私が、音楽でもアパレルでも一貫して持っているメッセージに「ワクワクを抱きしめよう」というものがあります。このメッセージを見つけるときは、自己分析みたいなことをノートいっぱいに書きました。それがたぶん、今まででいちばん大変だった作業です。自分がなぜ、何のためにやってるのか、何を届けたいかがちゃんと言葉にできていないと、迷ったり悩んだりする瞬間が出てくる。そういうことが今までの活動の中であったので。
それで「ワクワクを抱きしめよう」っていう言葉が見つかってからは、もう「バーン!」って道が開いて、やるべきこと、やりたいこと、やらなくていいこと、いろんなものが見えてきました。今でも、私のいちばんの宝物です。
自分以上にSunny Sunnyのことを考えてくれるチーム
──楽曲のこともうかがえたらと思います。デビュー曲の“One Sunny Day”は、どんなことを届けようと思ってつくった曲ですか。
これからSunny Sunnyが何をやっていきたいかという大きなメッセージを、そのまま歌詞に落とし込みました。“One Sunny Day”は日本語だと「ある晴れた日に」という訳で、海外ではよく物語の初めの句として使われている言葉なんです。ただの平凡な一瞬に、「今日は何か物語が始まるかも」とか、空を見て、「今日は雲がこんなふうに見える」とか、本当に些細なことでも期待をすることができたら、自分の行動も変わってくるし、ポジティブな一日が始まるんじゃないかと思って作りました。
──作詞はましのみさんとの共作となっています。
ましのみちゃんと曲を作るときは、まずそのとき私が考えていることや、入れてほしいキーワードを羅列して、送るんです。それをましのみちゃんが歌詞の形にしてくれる。そこから「このワードはこうかな、それともこっちかな」と相談しながら、一緒に作らせていただいている感じです。
私自身の声が、目指したい世界観に合わなかったときがありました。そのときは、その部分をましのみちゃんが、浮遊感のある歌い方ができる歌詞やメロディーラインに調整してくれて。そんなふうに自分の作りたい世界観を、寄り添って一緒に作ってくれて、本当に尊敬アンド感謝です。
──尊敬アンド感謝(笑)。MVはどんなイメージの映像になっていますか?
“One Sunny Day”のMVは白を基調にしていて、それこそ今までのあさぎーにょとはちょっと違う世界観にしました。Sunny Sunnyらしさである日向と影を大切にするために、コントラストが出る布だったり、白のドレープのきいた服を使っています。クラシカルな中にもロマンチックさもあるような、洗練されたテイストを目指してみんなで作りました。
MV “One Sunny Day”の撮影風景
──あさぎーにょさんと言えばプロデューススキルの高さだと思うんですが、今回のMVも、あさぎーにょさん自身の意思がはっきり出ているんでしょうか?
むしろ、今回はたぶん今まででいちばん、「人と一緒に作った」という感じかもしれません。今までのあさぎーにょとは違って、Sunny Sunnyらしさを一緒に考えてくれる人たちがいるので、みんなの力を借りました。逆に私が全部やってしまうと、変化や挑戦の余地が減ってしまう。今回は、最終ジャッジも含めて委ねさせていただいています。
もちろん「こういう方向性がいいんじゃないか」という話し合いはしましたけど、チームのみんなが、私以上にめちゃくちゃ考えてくれるんですよ。監督なんて、撮影が終わったときに泣いちゃったぐらいで。そういうメンバーと一緒に作れたら、それがいちばん正解なんじゃないかと思っています。
──これから「あさぎーにょ」としての活動と、「Sunny Sunny」としての活動、どちらも続けられていくと思うんですが、ご自身としてはどんなバランスで頑張っていきたいと思っていますか?
理想は同じくらいにしたいですね。ただ活動が広がっていくと、どうしても自分ひとりでは完結できなくなってくる。そこで、自分のメッセージを受け取って協力してくれるメンバーをいかに増やすかが、私が今やらねばいけないことなのかなと思っています。
だからこそ“One Sunny Day”のMVのように、いろんな人にジャッジをお任せさせて頂いたり、携わってくれている人が増えたりすることは、私にとっては大きな成長でもあるんです。自分の目指す世界を一緒に作ってくれる人の輪を、これからもポジティブに広げていきたいですね。
One Sunny Day – Sunny Sunny(Music Video)
Text:ヒガキユウカ
PROFILE
Sunny Sunny
SNSで大人気のクリエイター・あさぎーにょの別名義音楽プロジェクト。
“Sunny Sunny”はアーティスト名でもあり、プロジェクト名でもある。
名前の由来はあさぎーにょが想う“おひさま感”を大切にしていきたいというところから。おひさまが照らす先には、日向と日陰が存在する。すべてがポップで明るいことばかりでなく、日向(明るく楽しくわくわくすること)がある以上、日陰(思慮深く考えることや、時には悲しく思うこと)が存在する。それをどちらも理解できる人だったり、どちらにも目を向けることの大切さを音楽で表現できるようにという想いで名づけられた。
“人生という物語の一瞬一瞬を照らす音楽を届けたい”をテーマに、2023年3月2日にデビュー。
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INFORMATION
One Sunny Day
2023年3月2日
Sunny Sunny
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