独自の感性で紡がれる音楽、曲ごとに多彩な世界観に寄り添いながら聴く者の感情を時に激しく、時にやさしく揺さぶる歌声で2003年のデビュー以来、確固とした存在感を放ち続けるシンガーソングライター、安藤裕子。2019年に、きのこ帝国の西村“コン”を中心に結成され、大きな注目を集める期待の新バンド、Lilubayのボーカリストにしてメインソングライティングを担うタグチハナ。互いにタイプは異なるが、それぞれに唯一無二の個性を有したシンガーであることは間違いなく、また、両者ともに音楽のみならずジャケットのアートワークやMVを手がけるなどアーティストとしてどこか相通ずるものを感じさせる。

このたびQeticでは、11月17日に11作目となるアルバム『Kongtong Recordings』をリリースした安藤と、10月16日に新曲“FAITH”を配信リリースしたLilubayのタグチによる対談を実施。これが初対面になるという二人だが、安藤の“衝撃”がエンディングテーマとなっているアニメ『「進撃の巨人」The Final Season』の話題から会話は弾み、曲の作り方から歌について、さらには創作の源泉にも及ぶ実に濃厚な1時間となった。はたして安藤にとって、タグチにとって音楽とは、創ることとは。共鳴し合うアーティスト同士が織りなす対話の妙をぜひ堪能してほしい。

対談:
安藤裕子 × タグチハナ(Lilubay)

対談:安藤裕子 × タグチハナ(Lilubay)──作詞作曲、MV、アートワークを手がける創作力の源泉 interview211217_taguchihana-ando-yuko-01

人が作ったものに自分の想いを乗せる難しさと楽しさ

──安藤さんはLilubayの音楽をお聴きになったことはありますか。

安藤裕子(以下、安藤) すごく綺麗なミックスボイス、実音(地声)とファル(ファルセット)が混ざっているような素敵な声をなさっていて。

タグチハナ(以下、タグチ) ありがとうございます。私はアニメ『「進撃の巨人」The Final Season』を観ていて流れてきた安藤さんの“衝撃”にまさに衝撃を受けまして。メンバーやスタッフに「聴いた? 本当にすごいんだから」ってめちゃくちゃ話してたんですよ。

──“衝撃”のどういったところにいちばん衝撃を受けたんでしょう。

タグチ 実は私、アニメをまったく観てこなかった人間なんですよ。『進撃の巨人』は漫画で読んでいて、そこからアニメに移行していったんですけど、主題歌やエンディングテーマがどんな感じでプロットにハマっていくのか、よくわかっていなかったんです。でも『進撃の巨人』で“衝撃”を聴いたときに「ああ、こういうことなのか!」って。それ以来、毎回エンディングが楽しみになったんですよ。“衝撃”がエンディング映像と一緒に流れることで、アニメがその回ごとに完璧な終わり方をすることにすごく感動したんです。

安藤 ありがとうございます。実は“衝撃”ってすごく大きな勘違いが大元になっていて、私は本当の意味でのファイナルだと思って作ったんですね。そしたらファイナルシーズンが2部に分かれていて、しかも私が担当するのは前半だったっていう(笑)。

タグチ 2部なんだ!って私もびっくりしました。

安藤 しかも“衝撃”を作ったあとに出た最終巻を読み終えてから、さらに自分の中での最終回みたいな曲を勝手に作ったりもしてるんですよ。それが今回のアルバム『Kongtong Recordings』に入っている“森の子ら”と“Goodgye Halo”なんですけど。作品にハマりすぎて『進撃の巨人』由来の曲がアルバムに3曲も入ってるっていう(笑)。

TVアニメ「進撃の巨人」The Final SeasonノンクレジットED【安藤裕子「衝撃」】

──でも、その3曲がとてもいいフックになっていますよね。そんなふうに自分の外にある作品や物語にインスパイアされて楽曲を制作されることってよくあるのですか。

安藤 わりと多いタイプだと思いますね。制作するにあたり元になるお話があったりするほうが楽しくのめり込みやすいタイプかもしれないです。

タグチ 私はバンドを組んだこの1〜2年でその楽しさを教わったような気がします。私もそれまではずっと一人で歌っていたんですよ。今もバンドと並行してソロ活動は続けているんですけど、ずっと弾き語りでやってきていて。そこではかなり個人的な、むしろ自分のことを歌にすることが多かったんですね。でも、バンドを始めて映画だったりドラマだったり、他の芸術作品とコラボレーションさせていただく機会が初めて訪れて。変な言い方になりますけど、お題があると、ちょっと気が楽に書けるというか……(笑)。

安藤 でも、わかりますよ。私もそのほうが楽だし、楽しい。自分だけのことに限定されると、嘘に敏感になりすぎちゃうけど、お題があると妄想でどこまでもその世界を膨らませていいじゃない?

タグチ はい。逆になんでも挑戦してみていい気がして。 

──タグチさんは安藤さんの『Kongtong Recordings』をお聴きになっていかがでした?

タグチ 今回、この対談をさせていただくにあたって、安藤さんのインタビュー記事をいろいろ読ませていただいたんです。その中で「アルバムを作っていくうちに最初に決めたテーマからどんどん方向転換していった」というお話をされていました。けど、周りのみんなと一緒に作っていく過程でテーマを変えていくのって、私だったらドキドキしちゃうなと思ったんですよ。

安藤 話が違うって言われるんじゃないか、とか?(笑)

タグチ そうなんです。私はまだフルアルバムというものを作ったことはないのですが、すごい信頼関係がないとそういうふうには進められないだろうなって思ったんです。

安藤 私の場合、基本的には一人で名前を背負ってるから。もちろん一緒に作っている人、例えば今回を含めた3部作(2018年『ITALAN』、2020年『Barometz』、2021年『Kongtong Recordings』)はサウンドプロデューサーのShigekuni(DadaD)くんと一緒に作業をしているんですけど、基本は私の作りたいものを作っていくので「変わっちゃった、ごめん」っていうのは特にないんですよ。

今回は“衝撃”が制作のスタートで、お題ありきの始まり方をしたから、あまり自分の世界を刻んだアルバムというより、もう少し作り物感のある怪しげな世界で作品をまとめてしまおうかなと思っていて。なので、デモもちょっとダークな香りがするものを作っていたんですね。

そのデモには私の好きな映画から名前を取って、“サスペリア”というタイトルをつけていたんですけど。ただ、やっぱりコロナ禍でなかなか思うように動きが取れないと、世の中的にもそうだけど、自分自身もだんだん病んできて、そうなるとダークな曲が嘘っぽく聴こえてしまって。

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安藤裕子

──現実のほうがよっぽどダークじゃないか、と。

安藤 そうそう。そのうちにだんだん明るい曲がやりたくなって、Shigekuniくんとわちゃわちゃ音を作り始めたものが、どちらかといえば今回のアルバムの軸になっていったんです。だからある意味、『Kongtong Recordings』は自然な欲求を時間の経過とともに切り取ってアルバムにしているんですよね。

タグチ アルバムを聴いていて、すごく羨ましかったんですよ。それこそ1曲目はカーペンターズ(Carpenters)みたいとインタビューでもおっしゃっていましたけど、あんなに明るい始まり方をしているのに、最後まで聴き終えたときにはまた全然違う印象になっていて。流れも含めて、どの曲も必然というか、とにかくやりたいことをやっていった結果、こうなってるんだなって。あと、これも変な言い方になってしまうんですけど、人間が作っているということをすごく感じたんです。

安藤 それは嬉しいですね。バンドだとどうやって音を作ってるんですか。

タグチ 基本的には最初に私が弾き語りで作って、それに二人が音を重ねていって。そこから楽曲アレンジをしてくださっているSUNNYさんというキーボーディストの方や、サポートギターの方と一緒にプリプロしながら固めていくという感じですね。どんどん音が増えて、どんどん強化していく、みたいな。そのうえで最終的には弾き語りでも成立するものにしたいので、バンドサウンドでも一人でもかっこいい曲というのを目指しているんですけど。

安藤 なるほど。

タグチ でもドラムの(西村)コンちゃんが曲を作ることもあって、私は初めて人の曲に歌詞をつけるという作業をしたんですよ。そのときは人が作ったものに自分の想いを乗せるってこんなに難しいのかと思ったんですけど、最近はすごく楽しくできるようになってきて。それって一人ひとりバラバラに作ったものを組み合わせるんじゃなくて、バンドで曲を作るっていう感覚になってきたからだと思うんです。人に委ねる部分と自分が頑張る部分を分けてもいいんだなって最近わかってきたというか。

安藤 私はバンドってやったことがないけど、その感覚はわかりますよ。自分でも曲を書きますけど、人の曲をいただくこともよくあって、私もいちばん最初の頃はなかなか詞が乗せられなかったんです。人の体から出てきた時点で、その音にはその人ならではの話が宿っているんだけど、私はその話を知らないから全然ピンとこない、みたいな気持ちになってしまって。でも徐々に、メロディの持っているストーリーに「こういうことなんだな」って自分が共感していくということに慣れて、音が鳴らしているお話を見つける作業が、むしろ楽しくできるようになっていきました。

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タグチハナ

メッセージを伝えたいよりも、何か創りたい

タグチ ずっと気になっていたんですけど、ご自身でまず最初に曲を作るときはどうされているんですか。

安藤 いろいろあるけど、自分の中では「歌もの」と「音もの」で分けてるんですよ。「歌もの」はふと口から出てきたものを広げるというか、わりと言葉のついたフレーズが鼻歌みたいな感じで出てくるので「これは曲になりそうだな」と思ったら、立ち止まってその場でずっと歌っていると、例えば最初はAメロだけだったのがBメロまで伸びて、じゃあ次はサビだ、みたいな感じで曲になっていくんです。

タグチ アカペラですか?

安藤 そう。だから街中とかでそれをやってるとすごく怪しいんですよ。突然知り合いに3回くらい肩を掴まれたことがありますから、「大丈夫!?」って(笑)。それ以外では、ギターを触ってその音で作ったり、キーボードで簡単な和音のループを作って、そこにメロディを重ねていったり、打ち込みでリズムトラックとか曲調を先に作ってからメロディを作ったり、作り方は結構バラバラですね。

タグチ 私は安藤さんの音と歌声のマッチ度というか、一緒に動いている感じが特にすごいなといつも思っていて。だから今、楽器を使わずに曲を作るときもあると知ってすごく驚いたんです。どうやったらこんなにも歌と音が一心同体のように進んでいくんでしょうか。

安藤 声色はすごく変えるんですよ、曲によって。デモ段階ではただ素で歌っている声色を、できあがったオケに合わせてボーカリゼーションを変えていくんです。例えば、曲に対して「ここはイントロにクラビネットを入れたいな」とか、そうやって楽器を選ぶじゃないですか。それと同じでボーカルも「ここにはこういう声がほしいな」って。

タグチ すごい! たしかにこのアルバムでも少女のような瞬間があったと思ったら急に魔女みたいになったり、逆にすごくやさしいお母さんに思える瞬間もあって。

安藤 私、お母さんですから(笑)。

タグチ そうでした(笑)。でもほんと自分が子供になったような気分になるんですよ。もう誰が何人いるんだっていうくらい、たくさんの安藤さんがいて、すごく興奮します。

安藤 もともと私はすごい鼻声なんです。今回のアルバムでいちばん地声に近いのは“UtU”という曲なんですけど、本来、わりとファニーな声なんですよね。だけど、デビューした頃からバラードを歌う機会が多くて。それまでバラードなんて聴いたことも、歌う機会もほぼなかったから歌い方がわからなかったんですよ。なので、普通に歌ったら、まったく切なくもなんともないものになってしまって(笑)。「こんな声、イヤだ!」って思い、そこからいろいろ研究しましたね。どう口を開けたら、どう発声したら、どう空気を混ぜたら、マイクに乗ったときにそういう声になるのか、発声の仕組みとかすごく研究しました。

『UtU』Lyric Movie

──まるで職人のような。

安藤 もともと私、歌手タイプじゃないんですよ。歌が歌いたくて音楽を始めたとか、メッセージがあって届けたいとか、そういう欲求はゼロなんですね。そうではなく何か漠然と「モノを創りたい」んです、たぶん。料理でもなんでもいい、自分が生きている時間のなかで、ただ何かを作っていたくて。その中でたまたま得意だったのが音楽だったというだけで、だから、いわゆる歌手とはちょっと部類が違うんだと思うんですよね。

タグチ 私は最初、音楽を始めたときはすごく言いたいことがあったんですよ。聞いてほしいことがたくさんあって。もともと文章を書くのが好きで、プラス歌うのも好きだったので、結果として自分で曲を作って歌うというがたぶんいちばんベストな方法だったんです。音楽を始めるまではずっと作文とかポエムとか、勝手に読書感想文とか書いたりしてたんですけど。

安藤 読書感想文ってかわいいな(笑)。でも、私もそうですよ。やっぱり高校生ぐらいのときにエッセイとか小説みたいなものを書いていましたから。本当は私、それで映画が作りたかったんです。

タグチ そうなんですか!

安藤 ハナちゃんも絵を描かれると思うけど、私も絵を描いていて、しかもお話も書くから、だったら動画じゃんって思って。なので最初はそっちの道に進もうと思ってたんですけど、いろいろ上手くいかないまま歌ってたら、そっちのほうが仕事になったっていう。

──“創る”という点にフォーカスすると、お二人ともジャケットのアートワークや、ときにはMVなども手掛けていらっしゃいますよね。音楽を軸にしつつトータルで作品と向き合っているところ、より広い形で創作や表現に携わっているところも共通項ではないかと思うんです。例えばメイクもほぼご自身でなさっていたり。

安藤 全然得意じゃないんですけどね。自分に対して興味が薄いんですよ。でも、自分が作ってるものとしての“安藤裕子”には興味があるんです。だからあんまり意識の合わないメイクさんが、違う“安藤裕子”にしてしまうことに抵抗があるというか、「それはうちの安藤じゃないです」みたいな気持ちになるんですよね(笑)。

でも何かの広告や他の方の作品とか、歌手の安藤裕子じゃない形でお邪魔するときはその世界に染まったほうがいいと思うからメイクとかもお任せするんですけど、自分が管理できないところでイメージと全然違う安藤裕子の顔貌(かおかたち)ができるくらいなら自分でやったほうがいいかなって。作品の管理という観点では自分でやるほうが手っ取り早いってことに、わりと早くに気づいたんです。

──ご自身のイメージからズレてしまうのがイヤなんですか。

安藤 ひとつの軸の中で幅が膨らむのはいいんですけど、答えを逸脱するものは違うっていう。昔はもっと人に伝えるのが下手だったので、どこまでも自分で担うというか、だったら自分で衣装を集めに行きます!て言って、車で大量の服をリースしに回ったりとか(笑)。

ただ、それだとやっぱり疲れちゃうし、年齢を重ねるにつれて人に頼れるところは頼って、そんなに欲張らなくていいことはどんどん削いで、今は自分のキャパシティの中でどんな表現だったらできるかなって考える方向にシフトしてきているんですけどね。

例えばMVも最近はアニメーションのリリックビデオにしているんですけど、それは2016年に一度休業して以降、自分が表に立つことへの違和感みたいなものが少しあったからなんですよ。なので、ずっとご一緒したかったアニメーションクリエイターのりょこさんにお願いして、公開されている3部作(“ReadyReady”、“All the little things”、“少女小咄”)を作ったんです。食パンをくわえて走る女の子をモチーフにしたアニメーションなんですけど。

『少女小咄』Lyric Movie

タグチ 観ました! すごく面白かったです。

安藤 そういったもののほうが今の自分にはフィットするのかもしれないなって思いますね。やれる範囲で自分らしく、みたいな。

タグチ 私は“創る”ことはすごく好きで。別に上手くはないですけど、絵もそうですし、映像も音楽も、それこそファッション、髪の色とかもすべてにおいて自分でやりたいという願望が強いんです。小さい頃から母がどこかから持ってきた家具に自分で色を塗ったりとか、全部自分でやればいいじゃんみたいな、わりとDIYタイプの家族だったんですよ。

なので、私にもそのマインドが深く受け継がれているのかなって思います。もちろん自分じゃできないことをやろうと思ったら人にお願いしますけど、まだその領域に達してないというか、現状では自分でやるのがいちばんシンプルに表現できるし、イメージに直結するんじゃないかなって。

──お話を伺うに安藤さんは全体を俯瞰して、ご自身をプロデュースされている感覚でしょうか。

安藤 自分自身というか作品ですね。世間的になんとなく映し出されている表立った「安藤裕子像」と本当の自分との距離は相当あるタイプだと思います。表に立ってる安藤裕子はどこか創作物なんじゃないかな。

──一方でタグチさんは今、自分がやりたいことをとにかく形にしたいという初期衝動的なエネルギーで創作に向かっていらっしゃる印象を受けます。

タグチ 自分でもそうじゃないかなと思います。でも昔に比べたら、今はそこまで言いたいことばっかりを投げつけてる感じではないというか、人に対してとにかく「えい! えい!」って突き刺すようなパワーは16、17歳の、音楽を始めた頃よりはないなって思ってるんですけど。

安藤 そんなに若い頃からしっかりしてたんだ、すごいな。

タグチ もうがむしゃらっていうか。そのときはひたすら「わかってほしい!」って思ってたんですよ。とにかく「知ってほしい」「共感してほしい」みたいな。今もそういう気持ちはどこかにあると思うんですけど、最近はちょっと弱まってきて、また別の「シェアしたい」みたいな気持ちが優先されてる感じなんです。

あなたと私が違うということはもうわかったから、それを前提として、あなたの生活のワンシーンにちょうどピッタリくるような曲を作ったり歌ったりしたいなって思うようになってきたんですよね。

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「Lilubay – “FAITH”」は「安藤裕子 – “衝撃”」に影響を受けて制作した

──お二人ともリリースされてまだ間もないですが、これから先、こういう表現をしてみたいとか、あるいは今、こういうものが見えているとか、ありますか。

安藤 結局“サスペリア”からずいぶん方向転換して『Kongtong Recordings』ができあがったので、今度はその置いておいたものを別の角度からちゃんと形にしたいなと思ってるんですよ。私はわりと回遊魚的なところがあって常に作業していたいんですね。なので、このプロモーション期間も実はすでに別の作業がしたいんです(笑)。

──気持ちはもう次に向かっていらっしゃる。

安藤 もちろん大人なので『Kongtong Recordings』のこともいろいろお話しますけど、基本的にはもう別のことを考えて生きてます(笑)。

──ではタグチさんが思い描くこの先は?

タグチ 今年になっていくつかタイアップをいただいたことで、私たちはこういうものが得意なのかもしれないなって見えてきた感覚があるんですよ。バンドとしていちばんしっくりくるまとまり方を、結成から今まで試行錯誤しながら探していたんですけど、その形がひとつ作れたのかなって。なので、それを多くの人に聴いてもらいたいっていう気持ちと、でも新曲の“FAITH”はまた全然キャラクターが違うので……。

Lilubay – FAITH

──キャラクターが違う?

タグチ 今年は“ニヒルな月”と“舌鼓”という、かなりほっこりした、チリングな曲を作らせてもらって、今まででいちばん多くの人に聴いていただけたと思うんですね。でも、“FAITH” は2曲のキャラクター性とはかなり離れたサウンドになっていて。実はこの曲、本当に僭越ながら“衝撃”に衝撃を受けまして、「こういうことがしたい!」と思って作った曲なんです。

安藤 えぇ!? 

タグチ “衝撃”をずっと聴いていた時期に作った曲が、バンドが改名して一発目の曲になったんです。私たち自身、ちょっと新しくなったかなって思うタイミングでのリリースですし、こういうこともやるんだぜっていうことを知ってもらって、もっといろんな幅が出せることを体現したいなと思って。みなさんに「次は何がくるんだ?」ってワクワクしてもらえるようなバンドになりたいんですよ。

──なんと“FAITH”は“衝撃”が発端だったんですね。

タグチ だから今日、対談をさせていただけることになってドキドキしてました。このことを言うべきか、どうしようって。あと、これだけはお伝えしたいと思って、ここに来たんですけど……“衝撃”もですが、安藤さんの“隣人に光が差すとき”が私にとって本当に衝撃的だったんです。一人の人間の言葉として痛いぐらいにバシン! と来る曲で。私もそういうものを作りたいと思って今、音楽をやっているので、本当にありがとうございますとお伝えしたくて。

安藤裕子 – 隣人に光が差すとき

安藤 こちらこそ、そんな素敵なお話を聞かせていただいてありがとうございます。あの曲はまだデビューも決まらず、ライブハウスのイベントとかでちょこちょこ歌わせていただいていた頃の曲で。対バンで当時、よく一緒になっていたユニットがいて、彼らのデビューが先に決まったんですよ。そのライブを観たときに、置いていかれたなってすごく実感して、その日の夜に作ったのが“隣人に光が差すとき”なんです。

ある意味、私が初めて私小説的なところに足を踏み入れた曲でもあって、初めて自分を吐露するみたいな曲を作ったものだから当時のアレンジャーに渡すのがすごく恥ずかしかったんですね。彼とはすぐ喧嘩になるし、わりと対抗的な立ち位置で組んでいたから、バカにされたらどうしようと思って。

でも「すごくいい曲じゃん!」って言ってくれて、とっても嬉しかったんです。極端な話、自分の曲を初めてちゃんと人と分かち合えた、その喜びを得られたのがこの曲で。その喜びを知ったからこそ、どこか人に喜んでほしいっていう想いが自分の根底に生まれたというか。私自身はそれほどフロントマン向きの性格じゃないんだけど、気がついたら20年近くもやっていたりするのは、そういうことだと思うんですよね。ハナちゃんもそのゾワゾワするような体感をぜひ強く覚えて、やりがいを強く感じていってくれたら、この先がもっときっと楽しみになるんじゃないかなって思います。

タグチ はい!

Text:本間夕子
Photo:垂水佳菜

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PROFILE

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安藤裕子

1977年生まれ。 シンガーソングライター。
2003年ミニアルバム『サリー』でデビュー。
2005年、 月桂冠のTVCMに「のうぜんかつら(リプライズ)」が起用され、 大きな話題となる。
類い稀なソングライティング能力を持ち、 独特の感性で選ばれた言葉たちを、 囁くように、 叫ぶように、 熱量の高い歌にのせる姿は聴き手の心を強く揺さぶり、 オーディエンスに感情の渦を巻き起こす。 物語に対する的確な心情描写が高く評価され、 多くの映画、 ドラマの主題歌も手がけている。
CDジャケット、 グッズのデザインや、 メイク、 スタイリングまでを全て自身でこなし、 時にはミュージックビデオの監督まで手がける多彩さも注目を集め、 2014年には、 大泉洋主演 映画『ぶどうのなみだ』でヒロイン役に抜擢され、 デビュー後初めての本格的演技にもチャレンジした。
2018年にデビュー15周年を迎え、 初のセルフプロデュースとなるアルバム『ITALAN』を発売。
2019年6月には、 15周年を締めくくる全国4箇所のZeppツアーを開催。
2020年8月26日に待望となるアルバム『Barometz』をリリースする。
12月6日よりNHK総合にて放送となるTVアニメ『進撃の巨人』The Final Seasonのエンディングテーマ曲として「衝撃」が決定し、 解禁時にはトレンド入りを果たす。 2021年2月3日にシングル「衝撃」をリリースし、 2021年9月現在ストリーミング累計再生回数が2,600万回を突破し、 今もなお国内外にて大きな反響となっている。
2021年6月には「安藤裕子 Billboard Live 2021」を開催。 8月よりテレビ東京系ドラマ『うきわ -友達以上、 不倫未満-』オープニング曲「ReadyReady」を配信リリースする。 10月には表紙モデルと短編作品1作品が収録された「コーヒーと短編」がミルブックス刊行となり、 10月29日から公開となる映画『そして、バトンは渡された』にも出演を果たす。 11月17日には11枚目のオリジナルアルバムとなる『Kongtong Recordings』がリリース。

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Lilubay

2019年11月、 ⻄村“コン“(きのこ帝国)を中心にシンガーソングライターのタグチハナ、 バンビ(可愛い連中、ex.アカシック)によって結成。
それぞれがキャリアがあるため、 バンド結成のニュースは業界内で大きな反響を呼んだ。

個性のある3人が、不思議なほどまとまり、特定のジャンルに囚われない抜群のアン サンブルを生む。

2020年9月2日(水)1st EP『Not Enough』をリリース。リード曲「もっと もっとみたいな気持ちになってよ」は全国14か所のラジオ局でパワープレイを 獲得。
2021年、映画「Bittersand」主題歌に大抜擢。初の書き下ろし曲「ニヒルな月」を5月12日に配信リリース。 立て続けにテレビ大阪/BSテレ東7月クール真夜中ドラマ「ホメられたい僕の妄想ごはん」のエンディングテーマに決定。書き下ろしの新曲「舌鼓」を7月21日に配信リリース。
10月15日、初ワンマンライブで「Lilubay (読み:リルベイ)」へ改名を発表。10月16日に新曲「FAITH」を配信リリース。

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INFORMATION

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Kongtong Recordings

2021年11月17日(水)
PCCA.6075
¥3,300(tax incl.)
初回生産分限定安藤裕子直筆シリアルナンバー入り
track list
01.All the little things
02.ReadyReady
テレビ東京系ドラマ「うきわ ―友達以上、不倫未満―」 オープニングテーマ
03.UtU
04.Babyface
05.恋を守って
06.森の子ら
07.少女小咄 
08.Toiki
09.僕を打つ雨
10.teatime
11.Goodbye Halo
12.衝撃(album ver.)
TVアニメ『進撃の巨人』The Final Seasonエンディングテーマ
【特典】
各法人:A4クリアファイル Amazon:メガジャケ

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FAITH

2021年10月16日 (土)
Lilubay
各種音楽配信サービスにてダウンロード、ストリーミング配信
配信リンク