T: 先日、イタリアに行った時、移動中にたまたまドライバーが、あなたの2時間くらいのインタヴューを車内で流していたんだ。偶然だよね(笑)。その取材の中で、あなたがセカンド・サマー・オブ・ラヴやバレアリック(注:ダンス/ パーティーカルチャーの聖地として発展したスペインのイビザ島で生まれたダンスミュージックのスタイル。特定のカテゴリにこだわらず、オープンマインドな精神に基づいたミクスチャーな選曲が特徴)などについて話していたのがとても興味深かったんだ。アンドリューとしてもキャリアの初期の頃の話で、色々な想い出があると思うんだけど、改めて詳しく聞かせてもらえないかな。
A: アシッドハウスがホットだった頃だ。みんなアシッドで飛んでたり、ヒッピーみたいな服を着たりしてね(笑)。でも、僕自身は実はそうしたシーンにどっぷりと浸からなかったんだ。ちょっと斜に構えてた節もあって。どちらかというとパンク・ロック畑から来たから、ヒッピーは嫌いだったんだよ(笑)。他のユース・ カルチャーと同様に、はじめは非常にDIYでアイディアに溢れているのだけど、次第にお金が絡んでくるとどんどん商業的になっていくものだ。セカンド・サマー・オブ・ラヴも例外ではなかった。きっとセカンド・サマー・オブ・ラヴは、1988年の夏くらいまでしか持たなかったんじゃないのかな。純粋なムーヴメントとしてはね。とにかく僕はヒッピーに関しては、懐疑的だった。みんな口を揃えてピース&ラヴって言ってるんだけど、そんなものは単にエクスタシーをやってるからだろってね(笑)。
T: ハハハ(笑)あなたにとってバレアリックとは何を意味しているのかな?
A: 人によって様々な解釈がある言葉だ。定義は難しい。特に90年代末頃はとても多義的な使われ方をしていて、インディ・ミュージック、エレクトロニック・ミュージック、ハウス、テクノ、アンビエント……様々な音楽のことを指していた。現在はどんな意味で使われているのだろうか……。チルアウトするためのBGMみたいなものなのかな。僕自身にとっては、ニュー・ビート、ポスト・パンク、ディスコ、テクノとしての意味を持っている。僕にはそう聴こえたんだ。ただ、いま多くの人はチルアウトと関連づけて捉えているんじゃないかな。残念だけど。僕は、もっとダークでヘヴィですごく緊張感のあるものだと思ってる。チルアウトとかバックグラウンド・ミュージックでは決してないと思う。もうとっくに失われたニュアンスかもしれないけどね。
T: 自分も特定のスタイルやフォーマットを指す言葉じゃないと思っているけど、バレアリックという言葉が生まれてから20年近くを経て、バレアリックという価値観自体が現在の音楽シーン全体に定着しているという印象を受けるのだけど、あなたはどう感じてる?
A: 人によっては、僕の作る音楽の一部をバレアリックと表現する人がいるけど、どうだろうね。現在の骨抜きな意味でのバレアリックだと言われてるんなら、少し心外だ。さっきも言ったように僕にとってはダークでヘヴィなもので、そこが好きなんだ。でも人によっては特定のテンポだったり、スパニッシュ・ギターだったり、そういうものがバレアリックだと思っているのかもしれない。僕が初めてアムネシア(泡パーティで有名なイビザの代表的なスーパー・クラブのひとつ)に行ったときに感じたのは、音楽がすごくヘヴィだったってことだ。DAFやニュー・ビート周辺、あるいはクラッシュ、スミス、ウッデン・トップスもかかっていた。全くチルアウトなんかじゃないんだよね。トランシーでダークなインディ・ミュージックの奇妙な融合のことなんだよ。人は僕の音楽をよくバレアリックと呼んだりするけど、僕自身は敢えてそう呼ぶ事はないかな。
T: あなたのDJとしてのキャリアはもう30年くらいになるのかな?
A: 25年くらいかな。いや、もうちょっと長いかもね(笑)。ずっと人の前で音楽をプレイしてきたから。12歳とか13歳の頃も、一杯レコードを買って、沢山の人を家に呼んで、一緒に聴いたもんさ。そんなことが毎日の中で普通にあったから、DJとしてある程度名が知られるようになってからも、自分をDJとして認識していたわけじゃなかったんだ。単に人びとに向けて音楽をプレイし続けてきただけ。はじめたばかりの頃からテンポもスタイルもあまりに異なる多く のジャンルをプレイしたもんだから、ミックスなんてできるはずもなくてね(笑)。で、ハウスとかテクノをプレイするようになってから、ようやくミックスというものを意識しだして……、そこからだな、DJになろうと思ったのは。それまでは、レコードをかける人ではあったけど、DJではなかった。
T: 今でも現役で活動しているDJでシンパシーを感じる人はいますか?
A: そうだなあ……。もし25年もキャリアを続けられているDJがいるんだったら、音楽性は抜きにして、それだけで尊敬に値するよ(笑)。珍しく非常に外交的な答えをしてしまったかな(笑)。
T: じゃあポール・オークンフォールドなんかは?
A: ハハ、彼の音楽自体は好きじゃないけど(笑)。DJとしては尊敬すると思っている。キレ者のビジネスマンだよ。彼はDJカルチャーが大きなものになることを予見してたんだ。で、金を稼いだ。ビジネスマンとしての鋭い嗅覚を持っている。
T: 先日、オランダで一緒にプレイしたDJハーヴィーはどう?
A: そうそう。ちょうど1ヶ月前にアムステルダムで一緒にプレイしたんだ。お互いに似たものを感じたよ。一番近いスピリットを持ったDJなんじゃないかな。
T: どういうあたりが近いと思う? 過去の音楽を現代に紹介するというスタンスとかかな?
A: もっと人間的な部分で、DJ以外のことが出来ないあたりかな(笑)。お互いに「DJをしなければいけないからする」というタイプではなくて、純粋に「DJをしたいからしてる」ってことだと思う。この歳になってつくづく思うんだが、この違いは実はとても大きいんだよ。DNAみたいなもんさ(笑)。
T: アムステルダムではどんな風にお互いにプレイしたの?
A: 30分ずつ交互にやったよ。
T: 30分ずつの交代でやったの!?
A: そうさ。それより短いとグルーヴが生まれないんだよね。とっちらかった印象を与えてしまう。30分あればある程度のグルーヴは構築できるんだ。
――おふたりには多分共通点がたくさんあります。DJであり、プロデューサーであり、レーベルのオーナーでもあり、さらには、元編集者でありと。長い間、ブレずにこういう活動を続けることができたモチベーションというか秘訣は何でしょうか?
A: 音楽が大好きだからだよ。作品を作るプロセスもだし、音楽にはまだまだ興奮する。レコード・ショップから帰る時なんて、いまだにウキウキして小走りになっちゃうくらいだ。この世にはまだまだ聴かなきゃいけない沢山の音楽が溢れている。来年には50歳になるから、僕にはもう少ししか時間が残されていないんだよ(笑)。本やアートに関してもそうだ。読んだり、見たいものが山ほどある一方で、時間は限られている。一般的には年をとるにつれて、ゆったりしてくんだろうけど、僕の場合は全くの正反対だね。情熱は冷めないよ。
――瀧見さんはどうですか?
T: それしか出来ないっていうのがあるけど(笑)。DJっていうのは依頼されないと続けられない仕事だよね。やりたいと思っても自分だけでは出来ないというか。そこは常に意識してる。オファーがあるうちは続けたいと思っているけどね。
A: いっそ自分のクラブを始めればいいじゃない(笑)?
T: ハハハ(笑)。あとはお客さんの反応も常に考えなきゃいけないじゃない?
A: たしかにね。踊らせなきゃいけないよね。それもあるけど、いい意味で期待を裏切る事もしたいかな。これまでに聴いたこともないような音楽を聴かせて驚かせたいんだ。テクノやハウスのお気に入り20曲を聴かせるのは簡単なことなんだ。そうしたら、お金にもなるだろうし、大きいところでプレイできるかもしれない。でもそうじゃなくて、重要なのは「驚き」へと導くことなんだ。フロアで踊っているお客さんを見ていて「普通だったらこういうの嫌いなんだけど、これはイイネ!」 って顔をしてくれているのが嬉しいんだ。例えば、突然お客さんがやってきて、「すごく良かったよ、お名前は?」 って僕の名前を聴いてきたり、「いつもロックばかり聴いているんだけど、これすごく良いよ。なんていう音楽なの?」 なんていう風に身を乗り出してきてくれたりするときは、すごく満たされた気分になるよ。それまでは見向きもしなかった人たちを振り向かせることが出来たわけだから。
T: 全面的に共感します。
――東京は一時期に比べて街からレコード・ショップがずいぶんと減ってしまったけど、ロンドンの状況はいかがですか?
A: 僕の好きなレコード・ショップはいまだに元気があって、すごく良いシーンも存在している。一定規模が維持されていると思うな。ロンドンの東側に住んでいるんだけど、家のすぐ近くにラフトレードがあり、西にはフォニカがあって、ダンス系のものを収集するにはまったく困らない。カムデンタウンにはサウンズアンドスウィングっていういいレコード屋さんもある。今のところは大丈夫なんじゃないかな。ことロンドンに関しては、オーディエンスもしっかりいるし、ヴァイナルを買っている人も多い。ただ郊外に関してはそうとも言えなくて、多くのレコードショップが潰れているみたいだな。
T: DJするときはヴァイナルとCDはどのくらいの割合で分けてるのかな?
A: 時と場合によるけどクラブやフェスの音響によって比重を変えてるよ。でも自分のレーベルでもヴァイナルを出してるし、フォーマットとしてのヴァイナルを捨てる事はないね。君もそうだろう?
T: 色んな国でもDJプレイしていると思うんだけど、いま一番好きな都市はどこ?
A: 東京はすごく面白い。いつもくたくたになって家に戻るんだけど、作品を作りたいっていう気持ちにさせてくれる。この気持ちは他の街にはないものだよ。どの都市も好きなんだけど、旅行で来ているわけじゃないから、それぞれを充分に味わう時間がないのがいつも惜しいよね。
T: 70年代後半のニューヨークや、80年代後半のロンドンにあるようなパワーが、今ベルリンにある気がするんだけど、どう思う?
A: そうだね、確かに。でも僕はちょっとロンドンが世界一の都市って考えてしまうバイアスにかかってるんだけど(笑)。特に、僕の住んでいる東ロンドンのエリアもパンク・ロックのエネルギーがあるしね。うん、ベルリンも好きだし、パリも好き。ベルリンは特殊だと思うけどね。ただ、どの都市もロンドンには勝てないかな。文化的にみて、最高の都市だよ、ロンドンは。音楽もアートギャラリーも、劇場もべストなものがあるし、なんてったって、ほとんど無料だ。住むのには高くつくかもしれないけど、文化的な側面をみると、すごく健全だし、ヨーロッパの中でもベストだと思う。
T: あっという間だったけど、時間がきたので、今日はこの辺で。いろいろ話を聞けてとても興味深かったよ、本当にありがとう!
A: こちらこそ、ありがとう!
text & interview by Naohiro Kato
translation by Keigo SADAKANE
photo by Nozomu Toyoshima
Release Information
[twocol_one]Now on sale!
Artist:THE ASPHODELLS(ANDREW J. WEATHERALL & TIMOTHY J. FAIRPLAY)
Title:Ruled By Passion, Destroyed By Lust
Rotters Golf Club / Beat Records
BRC-347
¥2,200(tax incl.)
Track List
01. Beglammered
02. Never There
03. Skwatch
04. Another Lonely City
05. Late Flowering Lust
06. Late Flowering Dub
07. We Are The Axis
08. One Minute’s Silence
09. The Quiet Dignity Of Unwitnessed Lives
10. A Love From Outer Space (Version 2)
*Bonus Tracks for Japan
11. Zone
12. Dub Minute’s Silence[/twocol_one]
[twocol_one_last]Now on sale!
Artist:Being Borings(Kenji Takimi & Tomoki Kanda)
Title:Esprit
CRUE-L RECORDS
KYTHMAK145DA
¥2,520(tax incl.)
Track List
01. E-Girls on B-Movie
02. Love House of Love
03. LolloL
04. Some are Here and Some are Missing
05. Skytree
06. Somewhere
07. After Post Modern
08. HF Complex
09. Discocainism Weekender
10. The Cult of Elegance feat. Eddie C[/twocol_one_last]
Event Information
Buffalo 76
2012.12.08(土)@YEBISU YA PRO
OPEN/START 22:00
ADV. ¥2,500/DOOR ¥3,000(1ドリンク別)
※18歳未満の入場不可・要顔写真付きID
GUEST:KENJI TAKIMI(Crue-L/Being Borings)、KZA(Force Of Nature)
DJ:CHORI(W.H.N.)、TETSUO(FVK)、FxJxTx、yumi、i.m.i、RYO、NANAKO、Duty.sf、HIRAO
TICKET:ローソン(Lコード :63325)
INFO:YEBISU YA PRO(086-222-1015)