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MaMaREMONe、777INCH、HARD STAR BORAD
大阪でメロディック・ハードコアの時代が到来

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左から、Takayuki(POP DISASTER)/ TomohiroOhga(waterweed) /植野秀章(HOLIDAY! RECORDS)

多くの人が知る由もないのに、知らぬ間に影響を聞いている’90-’10年代の大阪バンドシーン。今はオーバーグラウンドで認知されている大木(メジャーシーン)にも、仄暗い地下に(決して燃え盛ることはなかったが)熱く深い根が張っている。デジタルやサブスク、つまり、配信の仕方や経済の在り方に変化が訪れてもその根は変わらない。音楽はどこまでいっても、誰かにとっては毒でしかないような感覚や刺激で、それでしか救われない者にとっては「唯一(逸脱)」だ。

時を遡り1990年代。大阪でメロディック・ハードコアの時代が到来していた。

Takayuki 当時はメロディックハードコアが流行ってて、俺らも大阪のファンダンゴとかのライブハウスに、SPREADとかEASY GRIPのライブを観に行っていた。まだそんなに客がおらんかったけど、その中に「あいつ前もおったよな」みたいなのがチラホラいて。何回かライブに行くうちに「自分、毎回来てない?」みたいな話になって、それがのちに777inchのボーカルになるmaco。山梨出身で、一緒に777inchを始めたのはたぶん98年とかやったんちゃうかな。

植野秀章(以下、植野) 実は僕、けっこう早い段階で777inch を知っていて。というのも自分は19で広島から大阪にバンドをやりたくて出てきたけど、当時は(バンドを結成できずに)まだフリーターで時間があったのもあって、音楽関係のお店によく行ってました。その中でそれっぽいなと思ってたまたま入った服屋で、腰履きDickiesにスタッズベルトでゴリゴリに刺青が入った人がいて。その人に「バンドやりたいんですよ」って言ったら「このバンドがオススメだよ」って勧めてくれたのがFINCH。さらに「自分もバンドやってるんだよね」って教えてくれたのが、HARD STAR BOARDでした。

Takayuki おおーー! それHARD STAR BOARDのベースのShunくんや。Shunくんはガオっていう、当時流行っていたSURFブランドのHURLEYとかを置いている店にいた。

植野 そうだったんですね。そのShunさんが、スプリットCDを教えてくれて。たしかそれに、MaMaREMONe、777INCH、HARD STAR BORADが入ってたかと。

Takayuki ああ〜アメ車のジャケットのやつ(『BITCH BITCH BITCH』)。

植野 あとそのときに店員さんだったのかな、777inchのドクターさん……?

Takayuki あー! そいつは俺らが抜けたあと、777inchのドラムになるやつやねんけど。たぶん、客としてガオに来てたんやろな。

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777inchは、macoがMaMaREMONeのメンバーとリハーサル・スタジオで出会ったことや、ドラマー同士が同じ大学だったこともあり、交流を深めていく。また、MaMaREMONeでベースを弾いていたDoigeは、MaMaREMONeを脱退後にHARD STAR BOARDを結成(そこではGu & Vo)。さらにHARD STAR BOARDのベースは、macoの山梨の同級生だった。

MaMaREMONeはライブハウスで続々と企画を打ち、そこに777inchやHARD STAR BOARDなども出演。物販では自分たちの音源だけではなく、ほかのバンドの音源も取り扱っていた(いわゆるディストロ)。実はそのころに、植野さんはMaMaREMONeに出会っている。

植野 MaMaREMONeも当時から知っていて、メロディが良くてめちゃくちゃ好きでした。会ったのはSTRUNG OUTとNERF HERDERとEASY GRIPが出ていたイベントに行ったときで、MaMaREMONeの人がサンプルCDを会場で配ってて、そのときにちょっと喋りました。当時の自分はバンドがなかなかカタチにならなくて、3年ぐらい何もしてないというか。大阪が楽しすぎて、バイトしながらライブハウスばっかり行く感じでした。777inchとかMaMaREMONeを初めて聴いたときは、こんなに海外のバンド直結のスタイルで、ちゃんとカッコいい人たちがいるのかと思いましたし、自分が知る限り、ほかにそういうバンドがいなかった。

Tomohiro Ohga(以下、Ohga) そのころ俺はまだ高校生。当時の岡山ってWATSON、LIDLESS TOYBOX、THE COWS JACKSONとかめっちゃバンドがいて。友達が卒業イベントみたいなのをMAMA 2(CRAZYMAMA 2ndRoom)を借りてやろうとしたら、箱の人に「東京から来るバンドを出してあげてもいい?」って言われて、来たのがFACTとASIAN HAND。個人的にはFACTが衝撃的やった。ちなみに、そのときの自分のバンドがエスカルゴっていう名前で……フフ。FACTのHiroくんには、いまだに「エスカルゴのギターボーカルの人ですよね」ってイジられる。

Takayuki ハハハハハー! もうあいつぐらいしかイジれるやつおらんやろ。

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ポップパンク・エモ・スクリーモなどへシーンが変遷
POP DISASTERとwaterweedがバンド結成

2000年代の初頭、90年代に流行ったメロディック・ハードコアが徐々に多様化し、ポップパンク・エモ・スクリーモなどへシーンが変遷。その代表格であるレーベル・Drive-Thru Recordsが台頭していく。

Takayuki あの頃はハタチ超えたぐらいで就職するやつもけっこういたし、活動を止めるバンドも多くなってきて。俺は俺で777inchを続けてたけど、2000年代の最初ぐらいはそれこそFINCHがいたDrive-Thru Recordsのバンドにけっこう影響を受け始めて、DoigeとかとNew Found Gloryのカバーバンドをしてるうちにそっちが楽しくなってきて……。それで777inchを抜けてPOP DISASTERを組んだ。それがたぶん2003年とかかな。

Ohga 俺は大学進学で大阪に出てきたけど、岡山の同世代でバンドをやってたやつらは、大阪に出る場合が多くて。そういうやつらに連絡したらけっこう近くに住んでいて、初代のwaterweedのギターになるやつもめっちゃ家が近所で。バンドやるのが目的で大阪に出てきたわけじゃないけど、そいつと一緒に遊びでスタジオに入ったりはしてた。WATSONが大阪に来たときは一緒に観に行ったりもして、そこに777inchとかもいた。最初は……マジで怖かったよ。

Takayuki そんなことないって。めちゃくちゃ(人間として)ポップやったはずやで。

Ohga いや、怖かった。まあそもそも(新神楽の)あの建物が怖い。めっちゃ暗くて、まず「エレベーターのボタンどれなんだろう……」みたいな感じで、なんとか上がって開いたら怖い人ばっかり。岡山から出てきたOhga青年にはだいぶ衝撃的で。そこから狂った、人生が。

当時、Ohgaと同じ大学の1つ上に、COCK SUCK RECORDSというレーベルもやりながら、Now Or Neverというバンドで活動するZORI(井上)がいた。ZORIはMaMaREMONe、777inch、HARD STAR BOARDなどに影響を受けており、Ohgaはさらにその彼から強く影響を受ける。ちなみにZORIはディストロもやっていて、Ohgaはそれを見て初めて“ディストロ”の存在を知った。

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Ohga 777inchしかり、その辺ってけっこう先輩だけど、井上くんは1個上で大学も同じ。大阪に来てからすごい良くしてくれた。でも、音楽マニア過ぎてついていけない部分もあった。BBS(かつてインターネット上に存在したファンやアンチが自由に書き込める掲示板)に、否定じゃなく批判を書かれたこともあって。でも、全部含めて、めちゃくちゃ影響を受けた。彼は大学に行きながらバンドをやって、自分のレーベルを作って。その姿を追いかけてたところは正直ある。

植野 僕はまだそのときもバンドは始められていなくて。でも大阪は楽しかったですね。広島にいたときは市街地まで電車で1時間ぐらいかかったけど、大阪ではチャリでどこでも行けたので。ライブは有名なところしか行ってなかったですけど。ラモーンズとかの影響を受けたバンドとかが好きで、ZORIさんはそういうのも好きだったし、本当にマニアだと思う。僕もNow Or Neverは好きで、のちのち話せるようになりましたけど、その時点ではまだ出会ってないです。

Ohga waterweedは2003年に結成だけして、ずっとドラムを探してた。俺は元々ギターボーカルだったけどギターの友達とふたりだったから、じゃあどっちかをベースにしたほうが早いなってことで、俺がベースボーカルになって。1年経ってようやく、岡山からメタリカのコピーをやってたやつが大阪に出てくることになって、しかも同じ大学に入ったから連絡して。2004年の4月にそいつが来るまで曲は作ってたから、ドラムのやつには2ヵ月で曲を覚えてもらって、6月にはなかば無理やりオリジナル曲でライブをし始めて……。

その頃、TakayukiのPOP DISASTERは結成当時から親交の深いHEAR FROM HERE(2003年結成)との共同企画で、国内外のツアーバンドを迎えて大阪のシーンを外に向けて発信する『PASSING TIME』というイベントを開催。そこにwaterweedも出演するようになる。

Ohga waterweedは初期から出させてもらった。ほかにもNAFT、SAMSON FIVE、JT301とか、MaMaREMONeや777inchの影響下で生まれたバンドがけっこう出てて。

植野 JT301は、僕ものちに自分のバンド(THE ANTS)で対バンしたことがあります。

Ohga 当時は普段、新神楽で1,500円を15枚、合計22,500円のノルマで、月に2・3本のライブをする地獄みたいな日々を繰り返していて。もちろんお客なんて呼べないから、毎回22,500円を払って帰るっていう。でも『PASSING TIME』はノルマなしで呼んでくれたから、当時の自分からしたらボーナスステージみたいな感じで。しかもカッコいい人たちとやれるのがうれしかった。

アングラで音楽性を模索したTHE ANTS
シーンの盛り上がりを先導するバンドたちの躍進

2005年、POP DISASTERがCAFFEINE BOMB RECORDSから7曲入りのEP『ALL BEGINNINGS』をリリースし、徐々に頭角を現す。それでも、地方のリリースツアーは自分たちで直接電話をして組み、広島では客がゼロということもあった。東京では、FACTとも共演している。

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Takayuki NEW STARTING OVERが2004年くらいにCDを出したあと、森くん(CAFFEINE BOMB RECORDSの代表)を紹介してくれて。大阪にライブを観に来てくれた結果、一緒にやろうってなって『ALL BEGINNINGS』を出した。そこから大阪はツアーファイナルが多くなって、東京とかほか地方にツアーで行くことが多くなったな。

Ohga waterweedは動員もクソもない時期。友達がギリ来てくれるか、みたいな。

植野 自分はTHE ANTSってバンドをようやく結成したけど、新神楽とかに出させてもらっても、もう全然で。KICK ROCK MUSICやCAFFEINE BOMB RECORDSのコンピとか、Roadrunner Records Japanからリリースされていた『SUMMER RHYME』とか好きで、あとK.O.G.A RECORDSもかなり好きでした。

2007年にPOP DISASTERが初アルバム『Make A Promise』をリリースし、スマッシュヒット。当時、植野もリスナーとしてよく聴いていたというアルバムであり、Ohgaはそのライブを観てシーンの盛り上がりを実感したという。ちなみにツアーファイナルはclub massive(2020年に閉店)で、NEW STARTING OVER、TOTAL FAT、BIGMAMAなどを迎えて開催された。

Takayuki 『Make A Promise』は千葉のNESTって、FACTとかも録ってたインディー界隈では有名なスタジオに泊まり込んで作って、そのあとツアーもした。あれが出てからライブの動員も一気に増えた。東京の方が大阪より動員が多くなってったけど、東京に行こうとは思ってなかったな。

Ohga そのレコ発に遊びにいったとき、シーンの盛り上がりはめちゃめちゃ感じた。2005年から2007年くらいは、ブッキングのライブに出たくなくて、自主企画をやり出した時期。新神楽にノルマ払うより、ハコ代を払った方がええわっていうので、自分の好きなバンドを呼んで企画を打つようになってた。2007年に初めてtheory & practiceからEP(『Killing the earth means our suicide 』)を出して、東京と大阪でレコ発はやったけど、ツアーはやらなくて。それはバンド内の意見の相違で、そいつはのちにバンドを抜けることになった。

ちなみに東京はtheory が組んでくれて、新宿のACB に350人ぐらい入ってソールドアウト。そのときに、知らない人が俺らの曲でモッシュやダイブをするのを初めて見て衝撃的やった。あとその日にtheoryから初めてのギャラをもらって。たしか2万くらいだったけど、初めて音楽で稼げたことにキャッキャしてた。

そのEPが話題となり、waterweedの知名度は急上昇。収録曲の“Revelation”は、今なお日本のスクリーモの金字塔と称されている。一方で植野もTHE ANTSで2006年に1st DEMO『SHE IS COOL ep』、2007年に2nd DEMO『ONE LAST CHANCE』を制作。自主企画イベント「ONE LAST CHANCE!! vol.1」を新神楽で開催し、ソールドアウトさせている。

植野 寺田町のFireloopによく出ていて、当時そこのブッカーだったJUNIOR BREATHってバンドのホシヲさんがTHE ANTSを気に入ってくれて。自分がK.O.G.A RECORDSの大ファンということを知ったホシヲさんが、ROCKET-K(K.O.G.A RECORDSのオーナー・古閑氏が在籍するバンド)が大阪に来たときの打ち上げに誘ってくれて、古閑さんにデモを直接渡したら後日、連絡くださって。結果、K.O.G.A RECORDS(傘下のGrooovie Drunker Records)からリリースすることができたんです(EP『REMEMBER IN THOSE DAYS』。

新神楽のオーナーの鹿毛さんにリリースを報告したときに、「え? お前らが?」と不安そうな顔になったのを覚えています。waterweedもNAFTも、CDを出して反応があっていいなぁと思っていました。自分たちのCDへの反応の薄さに少し寂しい想いを抱えていたのも事実で、さらにレーベルメイトのSpecial Thanksが一気に売れて、正直、嫉妬のような気持ちもありました。

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2009年、Ohgaはあれだけ恐れた新神楽でブッカーとして働き始め、現waterweedのドラム・松原(コイ)と親交を深めていく。松原はHEAR FROM HERで前任者に代わってドラムを叩いていたが、当時は活動停止だったこともあり、waterweedに加入。同年、POP DISASTERは2nd ALBUM『Take★Action』をリリースし、メジャーからも声が掛かるようになっていた。一方で植野はバンドを見直すために1年間ほど活動を休止して再びライブハウスに通い始める。

三者三様の音楽人生が次なるステージへ。そして同年4月、maxmum10から『FACT』がリリースされ、大ヒットを記録。2010年代のラウドシーンが幕を明ける──。

Writer:Rascal(NaNo.works)
Photographer:Jr.(COCKPITS)
Navigator:maximum10

▶後編つづく! 音楽とカルチャーのオルタナティブメディア「NiEW」にて連動展開中!

後編を読む

INFORMATION

maximum10 compiles ourselves. MAYDIE.3

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Nikoん、POP DISASTER、sfpr、waterweed、十五少女らが在籍する「maximum10」がレーベルコンピCDをリリース。8月には、東京と大阪でリリースイベントも開催!!

NOW ON SALE!(HOLIDAY! RECORDS専売)

収録曲:

 01. bend / Nikoん
 02. step by step / Nikoん ▶︎ https://youtu.be/jPWefQsakl8
 03. elate / POP DISASTER ▶︎ https://youtu.be/9Ejq9v5lBns
 04. 555 / POP DISASTER ▶︎ https://youtu.be/U4Gq0bwTg14
 05. water_debris / sfpr ▶︎ https://youtu.be/gBwjBYMve9w
 06. Sinking / sfpr ▶︎ https://youtu.be/3g6GHmdEAPQ
 07. Refuse / waterweed ▶︎ https://youtu.be/tT5Yx05J1CY
 08. Frontier / waterweed ▶︎ https://youtu.be/of15XvVRuXc
 09. 逃避行 / 十五少女 ▶︎ https://youtu.be/N3qHWx8qTLQ
 10. 被投降拒否 / 十五少女 ▶︎ https://youtu.be/20NXj1q-ylg

価格:2,000円(税込)

※CDのみの商品となります。※ピクチャーレーベル仕様。

詳しくはこちら

maximum10 presents MAYDIE / Issue 1

1990~2010年代の大阪アンダーグラウンドシーン、音楽史の断層に在る物語 MAYDIE_digital_flyer-1

出演:

Nikoん/POP DISASTER/sfpr/waterweed(A to Z)

※十五少女の出演はございませんので、ご注意ください。

 

【大阪公演】

会場:大阪・難波 Yogibo HOLY MOUNTAIN

開催日時:2025年8月17日(日)17:00 開場 / 17:30 開演

チケット:https://eplus.jp/sf/detail/4326310001-P0030001

料金:前売り/3,000円(税込)/ 当日/3,500円(税込)

 

【東京公演】

会場:東京・新代田 LIVE HOUSE FEVER

開催日時:2025年8月23日(土)17:00 開場 / 17:30 開演

チケット:https://eplus.jp/sf/detail/4325030001-P0030001

料金:前売り/3,000円(税込)/ 当日/3,500円(税込)

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