ーーレコーディングはNYで、13年の3月に行ないました。どんな様子だったんでしょう?

場所はホセのアルバムも録ったスタジオで、キッチンもあって、ワイワイ楽しい雰囲気でしたよ。ホセが楽観的で、「毎日一緒にやってるメンバーだし大丈夫だ」と大船に乗り過ぎた結果、結局僕が全部やるはめにはなったんですけどね(笑)。でも、彼が後ろにいて作業出来たことは本当によかった。それに、これまでは自分でスタジオ代を払って、失敗したら死ぬぐらいの気持ちで全て1日で録音したのに対して、今回は4日間あったんでよりプロダクションを追究することが出来ました。ジャズって基本は一斉に演奏して終わりですけど、この作品では一度録ったものにパーカッションを足したり、キーボードを乗せたりと、音響的なところにもこだわったんです。

ーーよく聴くと色々な音が入っていますよね。聴くたびに新しい発見があるというか。

奥の方に沢山隠れているんですよね。

ーーでは、それぞれの収録曲についても少し教えてください。1曲目の“ライジング・サン(=Rising Son)”は、アルバム・タイトルでもあり、“Sun”と“Son”をかけた言葉遊びになっています。

これはホセが付けてくれたタイトルです。彼が僕のことを表現した名前ですね。

ーーどういう意味で付けてくれたんでしょうね?

“行けー!”ということじゃないですか。(朝日のように)昇ってしまえという。いや、この作品は〈ブルーノート〉から出るから、昇ったということですかね。この曲には力強いビートがあって、“これからこういうことになります。覚悟してくださいよ”という、いわばアルバムのステートメントですね。そして2曲“アフロ・ブルース”は僕が別でやっているアフロ・ビートのバンド、アコヤからの影響を出した曲。3曲目の“ピリ・ピリ”は香辛料の名前です。自家製のピリ・ピリを出してくれるレストランがあって食べたら、“こんなにソウルフルな食べ物はない”と思ったんですよ。この曲も似たような雰囲気があるんで、名前を頂いた感じです。

ーー黒田さんは、曲に食べ物の名前をつけるのが好きなんですか?

(笑)。ホセが曲名について「こんな名前はよくない」ってしょっちゅう言ってるんで、今回は1曲だけですけど。本当はもっとつけたいくらいですよ。“NEGIDAKU”とか。

ーー〈ブルーノート〉から出る“NEGIDAKU”(笑)。

頭がおかしいと思われますね(笑)。次の4曲目“マラ”はダブステップのマーラの名前から。続く2曲はロイ・エアーズのカヴァー(“エヴリバディ・ラヴズ・ザ・サンシャイン”、“グリーン・アンド・ゴールド”)ですけど、ホセが強いカヴァーを絶対入れようと言っていたんですよ。彼のバンドのセットではメンバーがそれぞれ長尺のフリースタイルをするんですけど、一回僕とホセがステージの脇にいた時に、ピアノのクリス(・バウワーズ)がちょっとしたフレーズを弾き始めたんです。するとホセが僕のところに来て「これ、あの曲歌えるよね?」 と言ってそのままステージで“エヴリバディ・ラヴズ・ザ・サンシャイン”を歌い出して、そこにバンドも演奏を始めて。そのヴァージョンがかっこよかったんで僕の作品に入れさせてもらいました。

ーー続く“サムタイム、サムホエア、サムハウ”は、亡くなったおじいさんに捧げられているそうですね。

それだけではないんですけど、30歳を越えてから、若い時にはなかった別れの瞬間に立ち会う機会が増えたんです。親族や恋愛だけじゃなくて、色々な別れがありますよね。そういう少しセンチメンタルになる出来事が続いた時期があって、その気持ちをバラードにした。アルバムの中で唯一、他の人を思って書いた曲ですね。そして最後の“コール”は去年の冬に書いた、ちょうど季節が秋から冬に変わる時のノスタルジックな記憶を呼び起こす曲。NYって冬が長い分、春と夏に向かうエネルギーが凄いんですよ。我慢した分、春になったら普通の人でも街中で“バーン!”って弾けてて(笑)。本当に普通の人なんですけど“…大丈夫?”という(笑)。この曲は、自分の家から窓の外のNYを見て“ああ、楽しかった春と夏が終わって、またあの季節が来るのか”という、そういう曲です。

ーー最後に哀愁を感じさせる曲が2つ続くことで、作品全体に余韻が生まれています。

この曲順は、ホセと2人で話し合ったんですよ。彼曰く、“アルバムはストーリーなんだ”と。たとえば女性とデートしていて、ご飯を食べた後にこのアルバムをかけるとするじゃないですか。すると最初に力強い曲がきて、その後はメロウになって、少しずつそういうことになっていく…(笑)。彼はシンガーということもあって、「音楽は人の生活に密接に関係していて、流れがある」と言っていて、その考え方には“確かにそうだな”と驚かされましたね。

ーーさて、黒田さんはNYに住んでもう10年ですが、あの街でお気に入りの場所というとどこか思いつきますか。

家ですね(笑)。いや、もちろんジャム・セッションの場所とか、レストランとかも色々あるんですけど、僕の場合はそこから全てが始まった感じがするんです。あの家のリビングで、同じ志を持った同世代の連中が集まって…特に何をするわけでもないんですけど、音楽を聴きながら、たぶん確認作業をしてるんですね。ビールを飲んでくだらない話をして、“お前頑張ってる?” “さぁ明日も頑張ろうか”って。時には仕事さえない時期もあったけど、そうやって同じ気持ちでNYにいる人たちと、あの家のリビングで確認しあって、また帰っていく――あれがなかったら、僕はここまでこれなかったんじゃないかと思うんです。だから、NYで一番気に入ってるのは家ですね。そこで知り合った写真家の人に今回のジャケットも撮ってもらったし、映像もお願いしていて、まるで一つのオーガニゼーションみたいなんです。

ーーなるほど。この10年間はどんな年月だったと思いますか。

焦らず一歩ずつ、ゆっくり歩いてきたような感じですね。別に〈ブルーノート〉が目標ではなかったし、まさか自分がそこに行くことになるとは思ってなかったですし。売れなくても自分のやりたいことをやるのが一番大事だということを気付かせてくれた10年だった思います。たとえば、もし今回のアルバムが僕を大きな舞台に連れて行ってくれたとしても、自分という人間はそれが起こる前から何があっても音楽を一生やっていきたいと思っていた。仕事がなかったからこそ、そういうことを考えさせられたんです。

ーー変わらずにここまでこられたのがよかったんですね。

そうですね。実際、僕自身はNYに来た日から本当に何も変わっていない。自分を信じてちょっとずつこれたのがよかったと思うし、これからもそうありたいですね。とにかく今は、このアルバムがどう受け取られるかが楽しみなんです。このアルバムを通じて、自分がもっと他の、色んな人たちと出会えるんじゃないかって。そうやってこれからも新しい、自分がドキドキ出来るような繋がりを作っていけたら、最高ですよね。

(text&interview by Jin Sugiyama)

TAKUYA KURODA “RISING SON” EPK

Event Information

ホセ・ジェイムズ公演

●大阪公演
2014.02.12(水)@ビルボード大阪
1stステージ OPEN 17:30/START 18:30
2ndステージ OPEN 20:30/START 21:30

●東京公演
2014.02.14(木)〜15(金)@ビルボード東京
【14日】
1stステージ OPEN 17:30/START 19:00
2ndステージ OPEN 20:45/START21:30

【15日】
1stステージ OPEN 17:00/START 18:00
2ndステージ OPEN 20:00/START 21:00

Release Information

2014.02.12 on sale!
Artist:Takuya Kuroda(黒田卓也)
Title:Rising Son(ライジング・サン)
Blue Note Records
TYCJ-60050
¥2,415(tax inc.)