――今回の制作プロセスはどのような形で進んでいったのでしょうか?

最初、トラックもなにもなく、無音の状態から作詞しようとしたけど難しくて。さすがに拍のあるドラムは必要だなぁ、ってなって、歌詞だけ先に作ってましたね。あとはそれぞれの作曲家に、みんなが気持ちいいって思うようないい感じのトラック作ってください、ぐらいのアバウトなオーダーだして、出来たものは大体使わせてもらって。って感じです。

――歌詞、トラックととてもマッチしているように思えたんですけど、先にあったものなんですね!“台風”なんてすごいマッチしている感じがしたんですよね。

あれは、もともとHimuro Yoshiteruさん名義で普通に正規でCDになってる音源を俺が選んで、これ使わせてくださいってお願いして使わせてもらいました。Himuroさんとやるときは、過去にもそういう方法論でやってきてます。そういうのにも全然対応してくれるフレキシブルな考え方の人ですね。あんまり細かいこと気にしないっていう。

――トラックありきで歌詞を書いた曲はありますか。

トラックから先に出来た曲は11曲目の“いまここ”ぐらいですかね。あれは途中で変拍子になったり、ドラムが倍速になったりして、展開が少しプログレっぽい。さすがにあれは合わせながら書かないと無理でしたね。三浦康嗣が作ってくれたんですが「このくらいやらないとおもしろくないよ」って言ってくれて挑戦しました。結果的に自分の幅も広がって考えることも増えたので良かったです。彼はいつも制作毎に素敵な提案をくれて、いい先輩って感じです。作詞についても沢山アドバイスをもらいました。

――せっかくなので、他の人についてもお聞きしていきます。ゴンドウトモヒコさんは?

ゴンドウさんはヒップホップをほとんど通ってないんですよね。そこが面白い。サンプリングの話とかしたら「パクリじゃん」って言っちゃう人です。彼が通ってきたアカデミックな文脈からしたらそう思うのも当然かも、ってところが面白かったですね。彼は打ち込みが上手なのは勿論、エンジニアリングも相当な手練れで録音全般でもすごく尽力してくれました。音楽のことをよく知ってる尊敬できる大人って感じです。

――では次に、ライブも一緒にやってるART-SCHOOL戸高さん。

トディ(戸高)はUMBっていうMCバトルの全国大会とかを一人で見にいくくらいのラップ好きで、俺のことも知っててくれてて、ある時ツイッターで俺のこと話題にしてくれてたんですね。で、俺もART-SCHOOLのことを知ってたから声かけて、一回スタジオ入って遊ぼうよって話になって。そこから仲良いですね。彼が担当してくれた曲は、俺が家で作った完全なデモ曲をフルアレンジしてもらって形になりました。ヒップホップとシューゲイザーを混ぜてみよーよ、みたいな話をしてああいう曲になりましたね。

――では最後に蓮沼執太さんの話をお願いします。

執太は、2008年くらいにライブハウスで一緒になってからずっと友達ですね。彼は、音楽はどこから音楽で、どこからが音楽じゃないのか。っていう根本的なスケール感で作曲してるってイメージです。インスタレーションとかも音楽表現の一部って解釈して活動してる人。楽器を作ることに挑戦してたりすごくシームレスです。なので、ヒップホップなんて作らないだろうな、って思ってたんだけどある時そういう会話になって、実はかなりヒップホップを通ってきてるってことがわかって、じゃあやってよ、ってお願いして。すごく俺の文脈を大事にしてくれて寄り添う形になるように努めてくれました。

――かつては様々なコラボレーションでEPをリリースしたり、最近だと、蓮沼執太フィルや、U-zhaan さん、三嶋章義さんとの共演だったり色んな人とコラボレーションをされていますが、どのような意図がありますか?

自然に友達になった人と、今まで自分がやってなかったことをしよう、っていう発想が根本で、それだけといえばそれだけですね。でも、飛躍した話ですけど、日本って極東っていうじゃないですか、あとガラパゴス携帯とか言ったりもするでしょ。空間的に辺境なんじゃないかなって思っていて、もっというと、そんな場所なら、めちゃくちゃ多様性のある文化でいいのかなって考えているんですね。で、ヒップホップ自体も生まれてからまだ40年ちょいで若いし、まだ定義が曖昧でもいいのかも。って思っていて、そういう定義みたいなものを拡張するというか、多様性の種をまいておく係りになるというか、そういうのは意識してるかもしれないです。

――環ROYさんはラッパーからミュージシャンへ、そしてそこから更に拡張させようと、自分の存在でもって証明しようとしているように見えます。それは係りの認識がある?

掃除係りとか、生き物係りとか、そういうのと一緒で、多様性の種まき係りっていう認識はある気がします。表現者でありたいとは思っているので、澱まないように動機を生成したいって考えてるかもしれません。理由をずっと問い続けるみたいな。じゃないと続けられない気もしています。またちょっと飛躍しますがポップミュージックって初期衝動を主体としてる気がして、だから、そういうアプローチがあってもいいんじゃないかなって思ってます。やっぱりいまは、大局的かつ、総体的な解釈でなにかを作れるように頑張りたいですね。そういう解釈とかスケールってテクノロジーがだいぶ発達した2010年以降に暮らす人間の特権のようにも思えるし。

――では最後に少し違った角度から質問を。環ROYさんの活動がヒップホップシーンからはじまっているということは意識しますか?

しますよ。すごくします。そこから出てきている。これって結構重要な話で、ということは、なにをやったとしてもラッパーなんだよな、ってことは最近よく考えます。いろいろやってみても、結局「2000年代の、日本のラッパーの1つのスタイル」って類型には回収されちゃうわけですよね。そういうことを掘り下げていくとちょっと切なくなったりして(笑)。けど、この作品が出来て、ここ最近は、そうじゃない道もあるのかなぁとか考えたりしてます。そこに向かう糸口っていうのが、さっきも言った大局的で総体的な尺度、あと、多様性の話ですかね。未来はだれもわかんないですからね、なんかそんな感じです。

――でもそれでも進まなきゃいけないっていう・・・アルバムのテーマにも繋がってくるのではないでしょうか。

確かに。そうかも。なんかいいですね。己を弁えて、やれることに全力で向き合うって感じ。そういう感じ、最近すごく好きですね。がんばろ(笑)。

――最後にQeticの読者に一言頂ければと・・・

頑張って作ったんで是非聴いてみてください!

――ありがとうございました!!

こちらこそ!

text&interview by Yuu Nakazato

環ROY – 最新MV“YES”


Event Information

環ROY ミニライブ + トークイベント+ サイン会
2013.04.29@タワーレコード新宿店7F
LINE UP:環ROY+SPECIAL GUEST:戸高賢史(ART-SCHOOL)

参加方法:観覧フリー。予約者優先で新宿店、渋谷店にて4月3日(水)発売『環ROY/ラッキー(POP-140)』をお買い上げの方に、先着で「サイン会参加券」を差し上げます。

★その他環ROY出演イベント
●Homeward Journey vol.3 帰路
2013.04.21@福島県いわき市 明賢寺本堂
>>詳しくはこちら

●蓮沼執太フィル
2013.04.25@渋谷WWW
>>詳しくはこちら

●月刊ウォンブ!
2013.04.30@渋谷WOMB
>>詳しくはこちら

Release Information

Now on sale!
Artist:環ROY
Title:ラッキー
POPGROUP Recordings
POP140
¥2,600(tax incl.)

【インタビュー】最新作をリリースする環ROYに聞く――稀有な立場のラッパーが見るフリースタイル、尺度、流行とは―― badge_itunes-lrg

Track List
01. ワンダフル
02. Kids
03. そうそうきょく
04. 台風
05. little thing
06. VIEWER
07. 電車
08. いいやつ
09. date
10. 仲間
11. いまここ
12. YES