すごく欲張りで完璧主義。
ひとつのことが満たされたとしても物足りない

──<The Afterglow Tour>以降の上向き調子は、『Keeper Of The Flame』で一つの到達点に辿り着いたんじゃないかなと感じていて。

the HIATUSが始まった3年ぐらいは表現の間口を広げる作業に没頭していたというか。自分の「知らないもの」イコール「面白いもの」だったから、ちょうど去年の頭ぐらいからは「これだ」と確信を得られるものが見つかってきたというか。その作業が一回りした分、腑に落ちているんですよね。だから、進むべき道が見えている。俺はやっぱり90’sの音が好きなんだということも再確認できたし。

──間口を広げる作業の中で見つけた、確信を得られるものというのは?

サウンド的な話でいうと、もともと自分にあった90’sの音とはまったく異なる、チルウェイブ以降のドリームポップとか、ポストチルウェイブという新しいジャンルが出てきた辺りのレコードからの影響がすごく強くて。

──完全に新譜ですよね。

うん。去年はクリスタル・キャッスルズ、ファクトリー・フロア、ティーン・デイズのような音響っぽい肌触りの音楽がすごく好きで。サウンド的にはその方向を向いていますね。

Teen Daze – “Ice On The Windowsill”

──なるほど。たしかに『Keeper Of The Flame』のテクスチャーは、その辺りの固有名詞が分かりやすい例ですね。ここからアルバムについて聞いていきたいのですが、the HIATUSは3枚目の『A World Of Pandemonium』までオリジナルアルバムを毎年リリースしてきましたよね。オリジナルアルバムのリリースが2年半空いたのは、理由として何が挙げられますか。

まず<The Afterglow Tour>をやって、そのDVDを作ろうとなったのは、『A World Of Pandemonium』が自分たちにとってとてもよく出来たアルバムだったということで。一度のリリースツアーで終わらせて、次のアルバムに進む気持ちはなくて、もっと向き合ってもいいアルバムなんじゃないかとメンバー全員が感じていたんですよね。じゃあ、もう一周するならばどうするのかというところから、徳澤晴弦がストリングスを入れてくれていた曲があったので、そのままオーケストラ編成でアレンジし直したんだよね。

──『A World Of Pandemonium』から感じたthe HIATUSの音楽には、沢山の音色がありますよね。『Keeper Of The Flame』にも音色を感じるものの、それは前作とは違ったテクスチャーであって。例えば、ダンスミュージック的なアプローチからは、表現の可能性を貪欲に追求している印象を受けました。

俺はすごく欲張りな人間で完璧主義なの。表現の間口を広げていた時期は、まずはひとつのことに特化していって。例えば、「甘いものってなんだろう?」と考え始めると、甘いものを徹底的に追求していたけれども、最終的にはひとつのことが満たされたとしても物足りないんですよね。だから今回のアルバムは甘くて、辛くて、塩っぱい。それでいて美味しいものを作りたかった。その柱にあるのが「踊れる」、「メロディーがはっきりしている」、「サウンドがかっこいい」という3つの要素であって、そのレシピがしっかりしているアルバムを最後まで妥協することなく作れた感じがする。詩の方向性とか、曲が軽い、暗いとかも一切関係なく。

──今挙がった要素がひとつも欠けていない音楽と出合ったことはありますか。

まだ見つけられていないかな。マセラティとかはかっこいいけど、サウンドスケープとしては生っぽすぎるというか。ボーズ・オブ・カナダとかのドローンっぽい音楽もすごくかっこいいと思うけれど、あれを実際に出来たとしても、俺はヴォーカルだから自分がやることではないわけであって。でも、あの大好きな音の中で歌いたい気持ちはある。浮遊感のあるヴォーカルが意外と張らない感じで入っている、シャウトしているのに遠い音像で仕上げてあるものはよく耳にするけれども、ドライで手前に歌があるのに、音は割と滲んでいる。しかもビートが強いというものがあったら最高だなって。頭の中にあった設計図はそういう感じですね。最初にその組み合わせを思いついた時は「無理じゃないか?」と思ったけれども。

Boards of Canada – “Reach for the Dead”

──ライブで再現される瞬間がすごく楽しみです。鍵盤やドラムのエフェクトのバリエーションが今までの作品の中で一番幅広いと感じていて。音色がたくさんあるという意味では、『Keeper Of The Flame』も間口の広い作品なのかもしれませんよね。

あー、なるほど。the HIATUSは全員でアレンジをやっているから、俺のソングライティングの範疇はメロディメーカーに限定されてくるのだけれど、ソングライティングとしては昔から、今までに作ったことのないものを作りたいというタイプなんですよね。だから、2曲作るんだったら、それはまったく違うものにしたい。でも、とっ散らかせたくはないので、バリエーションで間口を広げた感じは、今回はあまりないんだよな。1曲の中にひとネタがあると、それだけで色んなことが成立している瞬間があって。曲全体をボワボワ言わせちゃおうっていうアレンジが成立するだけで楽しいというか。

──アルバムの折り返し地点に“Interlude”が置かれていますよね。過去のアルバムには1、2分台のショートチューンがありますけど、全11曲の間にあたる位置に“Interlude”が入っていると、前半と後半を明確に分けようとしている意図を感じます。

アナログのA面B面の考え方ですね。B面の1曲目は“Roller Coaster Ride Memories”という曲順は俺の中にずっとあって。“Roller Coaster Ride Memories”は隆史(柏倉隆史、ドラム)の作った曲だけど、あいつの曲はすごく広くて深いんですよ。『Keeper Of The Flame』はだんだん深くなっていくような作品というか、一番深く潜り込んだところで最後に浮上して終われたらいいなと思っていたので、海溝の入口になっている曲。それこそ最初は、アルバムのタイトルを「Roller Coaster Ride Memories」にしようと思っていたぐらいにすごく良い曲で。

──『Keeper Of The Frame』は直訳すると「炎を守る人」というか。ロウソクの炎が消えないようにじっと見張っているシーンを連想しました。もしかしたら、それはライブで伝わってきた熱量のことかもしれないなと感じたんですが、どんな解釈が正しいですか。

ちょっと昭和っぽいけれども「情熱の炎」、自分の人生において、星飛雄馬の目の中で燃えているあれを消したくないなと。あまり頭が良くない俺には、温度を低くして生きることは向いていないと分かっているから、身体を使って、燃えて生きていたいなという想いがあって。

──細美さんにとっても熱量、人間力は大切な要素なんですね。

でも、実は微妙なところであって。自分の人間力なんて分からないし、そこで勝負しようなんて思ってないんだよね。やっぱり一番は、新しいアイデアの詰まった素晴らしい曲を作りたい。それをライブで観たときのダイナミクスってすごいでしょう。そのための技術を磨いておきたいと思いながらやってきたけれども、ライブってそれだけじゃ足りなくなる瞬間があって。そのときに引っ張り出されてきているのが人間力みたいなものなのかもしれないけれど、あまりそこに頼りたくないと思いつつ、歌っているだけですごいと言われるような歌い手になりたいというのはずっとあるんだよね。

──そこでいうと、僕が言うメンタリティのような要素は後に来るものというか。

そうそう。実は結構切り離されていて。

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