THE NOVEMBERSは、唯一無二と言えるスリリングな美しさをアップデートし続けることで、常に時代を切り裂くかもしれない可能性を持ち続けてきた、サウンドスタイルの文脈からくるジャンル分けよりも、アティチュードに対して「オルタナティヴ」という言葉を送りたいバンドだ。
そんな彼らの歴史に敬意があるからこそ、ここに届いたニューアルバム『ANGELS』を安易に「最高傑作」とは言いたくない。しかし、出音一発目から、ロックバンドが今のポップシーンから見れば大きく衰退した、昨今の時代性をひっくり返すかのような 「THE NOVEMBERSらしさ」の革新的爆発を感じたこともまた事実。
いったい彼らは今作をどのような意図で作ったのか。自分たちの立ち位置をどうとらえているのか。その答えには、意外なほどに肩の力が抜けたフラットなスタンスによって獲得した、強い意志があった。
Interview:THE NOVEMBERS
――今作『ANGELS』の大きな特徴の一つに、打ち込みサウンドへの大胆なアプローチが挙げられます。そこには近年隆盛を極めるヒップホップ/トラップ以降の流れもあれば、これまでにも示してきたニューウェーヴやポストパンク、エレクトロニックなどの要素もありますが、現在のポップシーンにおけるトレンドは、どのくらい作用しているのでしょうか。
Ryosuke Yoshiki(以下、Yoshiki) 世の中的に今は何がきてるとか、なんとなくは把握してますけど、だからどうってことはないですね。
Hirofumi Takamatsu(以下、Takamatsu) トレンドにはまったくもって疎いです。
Yoshiki そこはメンバーのなかで、Kobayashiくんがいちばんアンテナを張ってるよね?
Yusuke Kobayashi(以下、Kobayashi) どうだろう?対トレンドとなると、僕は基本的に遅れています。それはエッジィな人と比べた謙遜的な意味ではなくて、その良さがわかるのに1、2年くらいかかるということ。例えば、D’Angeloの『Black Messiah』が出た時に「おお!すげえな」って思いはしたんですけど、自分が好きな音楽としてハマったのはけっこう先のことで。だから、僕は自分の「今」に対する価値観を信用してないんです。トレンドに適応する速度的な意味で。
――遅れていることに自覚的、すなわち意識はしていると解釈してもいいのでしょうか。
Kobayashi トレンドはすごく大切だと思います。でも、そこと競い合おうとした瞬間、もう遅れてるってわかるから、結局僕には関係ないって感じですかね。自分が手に持っているもの、頭の中にあるもののなかで、カッコいいと思うものを作るだけ。その参照点には比較的新しい音楽も入ってくる、くらいのことです。
――では「ロックバンド」についてはどうでしょう。ギター、ベース、ドラム、ヴォーカルの4パートで鳴らすプリミティブなエネルギーに価値を置くことは、もはや古典なのか。
Kobayashi 近年よく言われることですけど、そのロックサウンド的なものがポップシーンのなかで機能していないことは確か。その理由はアップデートをしないから。発想が「古き良き」にある限り、この先永遠に今の情報には勝てないように思います。
――そこで、THE NOVEMBERSはバンドとして、何を思い活動しているのでしょう。
Kobayashi もっとエッジィなもの、刺激的なものと、同じルールのもとで並走するのを目指してしまうと、人間が空気を震わせて演奏する生楽器のみのバンドは限界にきているように思います。もはや「ロックバンドがロックサウンドを鳴らしてロック的に機能する」ということは破綻している。張り合わないで別の良さを目指せばいいんです。だから今の僕たちは、いわゆるステレオタイプな「ロックサウンド」を求めようとする発想は持ってないんです。やりたいようにやるだけ。確実に、プログラミングとの区別はなくなってきています。
――かと言って、オルタナティヴロックの文脈から脱したバンドなのかと考えると、私はそうではないと思っていて。
Kobayashi 近年は、「ヒップホップの人たちのほうがロックしてるよね」ってムードがあるじゃないですか。それって、ギターがトレンドだから採り入れてるアーティストが多いとか、サウンドのことじゃない。言うべきことを言うことがクールで、言いたいことを言えない奴が終わってるって話。それってもともとはロックやパンクが担ってたはずなんですけど、ポップシーンのなかでロックが形骸化していってお茶の間に入っていって、「そうですよね、タモリさん」とか言ってるうちに、そうなっちゃったと思うんですよね。タモリさんは関係ないですけど(笑)。
――お茶の間の象徴ってことで(笑)。
Kobayashi 一昔前って、ロックは反権力とか仮想敵を作ってとか、クリシェのように言われていたじゃないですか。そこで思ったのが反権力とか言ってる時点で行き詰まり。それこそ権力によって生かされていることの象徴。僕は権力って、全然オッケーだと思うんです。加担する対象としての、選ぶ権力を間違えなければ。だから、世の中がどうだとかではなく、自分たちが自分たちらしく何かをすることで、少なくともその半径何メートルかはよくしていきたい。それが結果「今はこれがクールなんだ」って、広く世の中にも影響を与えられたら素晴らしい。そういった流れが、今はヒップホップやポップシーンの先鋭に多くて、それ以外の人が臆病に音楽をやってるんだと思います。
――今作はその「らしさ」のアップデートがすさまじいレベルで表れていると思いました。そこで聞きたいのがリズムについて。フィジカルなドラムと打ち込みが溶け合ったり、並走したり、それぞれが威力を発揮したり。これまでも、変則性や手数の抜き差しで独特の時間軸を生むリズムは大きな特徴だったと思うんですけど、今回は「どこでどう乗るか」において、すごく多面的な楽しみ方があります。
Kobayashi 僕らはもともとリズムの塩梅に関して繊細なところがあるんですけど、今回はいつもより「どう乗るか」を考えることに比重がありました。作っていくプロセスは、これまでに積み重ねてきたことと大きく変わってはいなくて、最初はどんなリズムを作ってもいい360度の可能性があって、そのなかの一つを選んで階層を降りたところでまた360度の可能性がいろいろある。そうやって、いらないものがおのずとふるいにかかって円が小さくなっていってピントが絞れてくる、「ここしかない」と思えるものが見つかる、みたいな。そういったプロセスを4人でやっていくわけですが、そこで大事なのは技術的なことではなく、ムードなんですよね。メンバー同士が、相手やバンドを意識しながら手を動かしていく。日本的に言うと「空気を読む」みたいなものをあえて機能させるというか。
Kengo Matsumoto(以下、Matsumoto) 「あいつ、ぜんぜん楽しそうじゃないな」とか(笑)。
Kobayashi 「リズムは気にいってないけど、音色は好きっぽいな」とか(笑)。だから曲は僕が作ってるんですけど、一人だと絶対にTHE NOVEMBERSの音楽は生まれない。それがバンドとして4人でやることの醍醐味なんだと思います。
――その作業が生むバンドらしさ。感覚的なことですけど、あると思います。
Kobayashi 僕は自分が手を動かして作曲しているがゆえに、曲に対して愛着が湧いているし慣れもある。でも愛着や慣れは、初めて再生ボタンを押した人には何の関係もないことなんです。僕のなかでの達成度でしかない。そのことは僕が作った曲をいちばん最初に聴くメンバーの客観的な一言が物語っています。
Yoshiki となると、僕は客観的な意見を言う一人ってことになるんですけど、実はKobayashiくんの言う個人的な「達成度」にいちばん振り回されていたタイプ(笑)。でも今回は曲のテーマに合わせて臨機応変に制作していけたのが良かった。生ドラムと打ち込みを等価値に扱ったので、生ドラムを叩いてない曲もあります。
Kobayashi 僕も今回は半分くらいギターを弾いてませんし。
Yoshiki Kobayashiくんに、はっきりと「曲によっては音源は打ち込みでもいいよ。ライヴはライヴでしっかりやるし」って話しましたから。
――打ち込みのリズムとYoshikiさんが叩く生ドラムの関係性で、私がもっともハッとしたのは“BAD DREAM”です。打ち込みのハイハットの細かい連打と、腰の据わった肉体的な生ドラム。間違えればただ乖離していくだけの音色とリズムが、絶妙な違和感になって生まれる、二つのようで一つのようなグルーヴ感がすごくおもしろかったです。
Kobayashi リズムのグルーヴにおいて頼りになるのがTakamatsuくんで、曲のBPMに関してよくヒントをくれます。ちょっとした速さの違いで体感的にはずいぶん違うとか、複雑なことをやっていても大きく取れるとか。それらは、さっき話したような「どこで乗るか」、すなわちBPMに対して半分や倍速といった考えでやるとさらに重要になってくる。そこでギリギリのラインを突いてくれるんです。
THE NOVEMBERS「BAD DREAM」(OFFICIAL MUSIC VIDEO)
――もっとも刺激的で気持ちいいポイントはそこにありますよね。
Kobayashi そして、音色やサウンドスケープのことはKengoくんが大きな役割を担っています。“BAD DREAM”のマシンによるハットと生バンドの音は、おっしゃったように、普通にやればただ別々の音が鳴ってるだけ。打ち込みと生音を、うまく溶け合わせたり、心地いい違和感を生んだりするためにはどうするか。
――そこでMatsumotoさんとKobayashiさんの関係性も、すごくパワーアップした作品だと感じました。
Kobayashi リズムもメロディーもコード進行も、Kengoくんの感覚や持ってる機材から、どんなスケール感が出せるか想定して作っています。そして見事、豪華絢爛に鳴らしてくれる(笑)。“BAD DREAM”を例にもう少し細かく言うと、サウンドスケープを意識したときに、あの打ち込みによる「チチチチ」と細かく刻まれるハイハットの連打は、帯域が上がっていくことになるんです。なぜなら、サウンドデザインの階層的に、低いところにいるとKengoくんが出す音と当たってしまうから。でも上に行くほど生のハイハットとの距離ができてくる。そこで生まれる違和感をいい方向に転がすには、その間に誰がいて何が鳴ってるかが重要。帯域的にぶつかるところとリズム的にぶつかるところの情報の取捨選択は、Kengoくんがいて、この4人で鳴らす音があるからこその冒険なんです。
Matsumoto 去年出したEP『TODAY』を経て、Kobayashiくんの打ち込みに対するスタンスが新しくなって、よりバンドっぽく且つ思い描く世界観を立体的に表現できる可能性が広がったんじゃないかなと思います。
THE NOVEMBERS『TODAY』
――バンドとしてすごく充実していることが伝わってきますが、ご自身でも新たな地点に立てた感覚はありますか?
Kobayashi 作品を作るために何かをインプットした感覚はまったくなくて、普通に暮らしていて目の前にあることと向き合って、よりよくなっていきたい、ただそう思ってたんです。そのなかにTHE NOVEMBERSとしての創作意欲があった。日々の営みのなかに、『ANGELS』という句読点が打たれたよう感じています。
――自然体が生んだ強さなんですね。
Kobayashi 気合いを入れて特別なものを作ろうとしなくていい。日々の営みを作品に出すことが大切だし、それは意識せずとも出てしまうもの。毎日を誠実に生きていれば、きっとこの先30代、40代、50代、きっと一生目の前にはその時だからこそのスペシャルな何かがあって、ちゃんと向き合えばそれを勝ち獲ることができるんだって、確信できたことは大きかったです。同じことを繰り返そうとしたり、何かを惜しんで「あの素晴らしい愛をも言う一度」的なモードに入ったり、その反動で無理に新しいことをしようとしたりするから、破綻したり誰かを憎んだりしてしまうわけで。
――新しい価値観が主流に取って代わる。すなわちオルタナティヴな気概を、THE NOVEMBERSに望んでいる人もいると思うんです。私もそういうベクトルで本作を聴いて「してやったり」と思いましたから。
Kobayashi さっきも言ったことですけど、せめて自分たちの半径何メートル以内かでもよくしていくために作った作品が、世の中にどう作用するかも含めて自分たちのもの。それによって救われる人もいれば、傷付く人もいるかもしれないし、いろんな人がいると思うんです。
――表現とはそういうことだと思います。
Kobayashi それらすべての感情を引き受けることを前提とした時に、ふと思ったのが、人は少なからず群れのなかで生きているということ。特に日本人は同調圧力に弱い。その同調圧力のかかる方向や対象がすごく不健康だと感じていて。
――そう思います。
Kobayashi だからいろんな差別や偏見が生まれる。世の中には違う人間同士が同じテーブルの上にいなきゃいけない、すごく狭い側面と、どこまでも見渡せる広い側面の二つがある。じゃあ後者はどこから見えるのか。それは人が人に対して寛容だったときにだけ広がる景色なんです。心が狭いとどんどん壁ができて面積が狭くなって、いよいよキャパに限界がきて、テーブルの上にすらもいられなくなる人が出てくる。そこで壁を取っ払うために、「ラブ&ピース」を掲げることは、僕は違うと思っていて。愛を与えられる対象なんてほんとうに少ないし、せめて違うまま同じテーブルについても普通だってことが、唯一必要な同調圧力なんじゃないかと。違って当然という。
――なるほど。
Kobayashi 学校でも「あいつ、なんか違くね?」って、教室に壁が増えていくことがよくありますけど、最近、校則無くした世田谷区の学校が話題になったじゃないですか。僕はすごくいいことだと思うんです。学校の規則がなくなると、ある側面においてクラスの全員が「あいつ、なんか違くね?」な人になるわけです。違っていて当たり前。そうなるとファシストだけが逆に浮いてくる。寛容と言うのも大げさ、別にあいつはお前を食おうとしてるわけじゃないんだからいいじゃんって。そういうことって、法律とかじゃなくて空気みたいなもの。ささいな言葉とか振る舞いとかだと思うんです。
――TwitterなどのSNS上では、それが一部なのか大半なのか掴めてないですけど、酷いことが日々起こっているじゃないですか。自分の意思で物事を切り取って自分に責任を持って発信することが、決定的に欠けている同調圧力が。
Kobayashi 自分で空気を作って発信してしまっていることに自覚のない最たる例がSNSなんだと思います。家族の前で、愛する人の前で、公園の子供たちの前で同じことをやれってなったらできないことも、架空の世界だと思って自覚なくやってしまう。ネットは現実の解釈の一つであって、架空の世界なんかじゃないのにね。SNSと言えば、Kengoくんどう?
Matsumoto 僕のSNS、どうなんですかね?
――いつも興味深く見ています。
Matsumoto テーマは「上品且つエレガント」。
Kobayashi それ一緒じゃん。「甘く且つスウィートに」みたいな(笑)。
――今作には70年代後半のニューヨークから、Suicideの代表曲“Ghost Rider”カヴァーが入ってます。この曲だけ、音の質感が根本的なところから違って、ライヴ感があるんですよね。それはメンタル的な視点からも、重要なポイントだと思うんです。
Kobayashi 僕らが大好な曲で、ここ1年くらいライブでもやってたんです。Suicideって、難解だとか、キワモノみたいな扱いが多い。でも僕は「なんでこの曲のポップさがわからんか」って、ずっと思っていて。イントロ2秒くらいでカッコいいってわかるのに。だから、いろいろ試行錯誤しながらライブで演奏することを重ねるにつれて、本家を凌ぐ勢いで、この曲に対して真剣になってるんじゃないかってくらいに、おもしろくなってきたんです。そこで、今のTHE NOVEMBERSの姿として、このアルバムの並びに入れてみることにしました。
――「今のTHE NOVEMBERSの姿」とは、どういうものですか?
Kobayashi SNSの話に戻るんですけど、僕は善意とか意味とか目的のあることを発信しようとしてしまう。それに対してKengoくんは「俺のツイートに意味を見出したお前が悪い」ってタイプ。人が頑張って組み上げた「作法」という形をしたプラモデルをボキボキと折って組み直したその形は「バカ」という文字に見えるんですけど、本人は「いや、バカじゃないです。プラモデルです」って。マルセル・デュシャンみたいなところがあるんですよね(笑)。彼のユーモアが、目的にがんじがらめになってしまう僕を救ってくれる。別の言い方をすれば、ちゃぶ台をひっくり返した先のカタルシスみたいな。それはライブを通して育ってきた、バンドにとって必要な感覚。その象徴が“Ghost Rider”なんです。かたや、意味を持ったまま「好きにやろうぜ」って言ってるのがタイトル曲の“ANGELS”。いろんな僕たちらしさが詰まった、すごく健康的なアルバムになったと思います。
THE NOVEMBERS『ANGELS』
Text by TAISHI IWAMI
Photo by Kohichi Ogasahara
RELEASE INFORMATION
『ANGELS』
【収録曲】
1. TOKYO
2. BAD DREAM
3. Everything
4. plastic
5. DOWN TO HEAVEN
6. Zoning
7. Ghost Rider
8. Close To Me
9. ANGELS
XQJH-1025 / ¥2,800円(税抜)
THE NOVEMBERS
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LIVE INFORMATION
ANGELS ONEMAN TOUR 2019
北海道 3月31日(日) 札幌 SPiCE(ex.DUCE SAPPORO)
OPEN 18:00 / START 18:30 ALL STANDING
東京 4月6日(土) マイナビBLITZ赤坂
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TOMOE TOUR 2019
出演 tacica / THE NOVEMBERS / People In The Box
宮城 5月25日(土)SENDAI CLUB JUNK BOX
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福岡 5月31日(金)BEAT STATION
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大阪 6月2日(日) 梅田CLUB QUATTRO
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愛知 6月9日(日) THE BOTTOM LINE
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東京 年6月14日(金)マイナビBLITZ赤坂
OPEN 18:15 / START 19:00
チケット
4月20日(土)よりチケットぴあ/ローソンチケット/e+にて発売。