ギター・ロック復権が騒がれている英国はロンドンから、とびきりフレッシュでダンサブルなニューカマーをご紹介しよう。彼らの名はシーム・パーク(英語表記はTheme Park)。双子の兄弟であるマイルス・ホートン(ヴォーカル&ギター)とマーカス・ホートン(ギター&ヴォーカル)に、エルフ顔の美青年オスカー・マンソープ(ギター)を加えたリズム隊不在の3人組で、ニュー・ウェイヴ、ポスト・パンク、ポスト・ディスコ、エレクトロニカ、そしてトロピカリアを鮮やかに横断するそのサウンドに、フレンドリー・ファイアーズやデロレアン、あるいはマイアミ・ホラーのようなバンドを思い浮かべる者もいるだろう。
事実、彼らに心底惚れ込んだエド・マクファーレン(フレンドリー・ファイアーズのフロントマン)は、自身初のプロデュース・ソングとしてシーム・パークのシングル“Tonight”に全面協力。するとUKの人気FMラジオ局Amazing Radioでチャート1位を記録し、追い風に乗った彼らはブロック・パーティー、ミステリー・ジェッツ、ザ・テンパー・トラップといった人気バンドのサポート・アクトに次々と抜擢され、UK音楽シーンのブライテスト・ホープとして大きな注目を浴びることになった。
満を持してリリースされるデビュー・アルバム『シーム・パーク』は、元Clor(なつかしい!)のメンバーにして、フォールズやザ・マッカビーズを手がけてきた才人=ルーク・スミスがプロデュース。まるで3人兄弟のように息のあった美しいコーラス・ワークと、脱力しつつも無条件で躍らせる多国籍ポップスの数々は、見事なまでにシーム・パークの魅力をキャッチしている。現地メディアには、彼らをトーキング・ヘッズの再来かのように語るジャーナリストもいるようだが、そのあたりも含めて訊いてみました。
Interview:Theme Park (G.Oscar Manthorpe)
Theme Park – “Jamaica”
僕らには王道的なソングライティングを愛する心が刷り込まれているんじゃないかな。
――とても楽しそうな響きを持つバンド名ですが、自分たちを「Theme Park」と名付けたのはなぜ?
そもそも、名前の由来になっているのが面白い場所だね。元メンバーのルイが休暇でブエノスアイレスに行った時、そこでイエス・キリストをテーマにした奇妙なテーマパークに行ったんだ。一時間毎に巨大なアニマトロニクスのキリストが山から出て来て「復活」したりするらしい。そこから帰ってきたルイは、バンドの名前を「ジーザス・シーム・パーク(イエスのテーマパーク)」にしようと言った。僕ら残りのメンバーは「うーん、ジーザスの部分さえ抜きにするなら、それでいいよ」って言って、名前が決まったんだ。
――バンドはホートン兄弟を中心に結成されていますが、2人の音楽の原体験を教えてください。小さい頃、両親がよくニール・ヤングの『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』を聞かせてくれたそうですね。
マーカスとマイルスはそれぞれ、マーカス・ミラーとマイルス・デイヴィスにちなんで名付けられたんだ。音楽的な家系なのさ。2人とも以前クラシックのダブル・ベース(コントラバス)を習っていて、彼らのお父さんはまだ2人が小さい頃、よくトム・ペティを聴かせていたってマイルスは言ってたよ。クールなお父さんさ。僕ら全員、王道のシンガーソングライターとかを聴いて育ったと思うな。『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』は僕の青春時代の愛聴盤だったし、僕がレナード・コーエンやニーナ・シモーンが好きなのも両親の影響さ。彼らそれぞれが皆、素晴らしいミュージシャンであるのと同時に優れたストーリーテラーでもあったところがすごく好きなんだ。僕らには全員、そういう王道的なソングライティングを愛する心が刷り込まれているんじゃないかな。
――元々は4人組でスタートしていますが、ルイス・ボータの脱退によってバンドは何かしらの音楽性の変化を強いられましたか?
特別劇的な変化はないかな…実際彼はバンドでは、セッションミュージシャンとしてベースを弾いていただけだったからね。だからマーカスとマイルスが初期のデモで描いた青写真みたいなものは、彼がバンドを離れてもそのまま存続したよ。でも今も彼とは良い友達だし、次のツアーには彼もまた参加してくれる予定だよ。いずれにしても、バンドの名前自体が彼の遺産として残っていくさ。
――セルフ・タイトルのデビュー・アルバム『シーム・パーク』は、どこか懐かしさを感じさせると同時に、すごく未来的なエッセンスもあります。これまでのシングル作品も完璧にフィットしていますが、アルバム全体を通してのコンセプトなどはあったのでしょうか?
歌詞の面では間違いなくあったね。マイルスはこのアルバムの歌詞の多くは、思春期から大人の世界への境界線を越えることについてだと言っていたよ。思春期とのノスタルジックな別れ、みたいなものもあるかもしれないけど、同時に大人という未知の領域への最初の一歩でもあるんだ。そういう部分が音楽自体にも反映されていると良いなと思っているよ。アーケイド・ファイアの『フューネラル』は僕らの好きなアルバムの一つなんだけど、あのアルバムはそういう切なくて懐かしいんだけど、生き生きとして力強い、前向きな感覚を上手く捉えているよね。それに少し影響された部分もあるかもしれないね。ただシーム・パークの音楽はもっとダンスっぽいけどさ。僕らはエレクトロニック・ミュージックやシンセサイザーの変な音が好きだし、それが未来的な感じを生み出しているんじゃないかな。
――リード・シングルの“Jamaica”は、実際にジャマイカに訪れた経験を歌っているのでしょうか? また、レゲエやカリプソ、トロピカリアなどの音楽はどれぐらいバンドのサウンドに影響を与えていますか。
僕らのうち誰もジャマイカに行ったことすらないよ! 行けたらいいね。でもマイルスはこの曲の中でどこか特定の場所について歌っている訳じゃなくて、この曲で大事なのはある種の感覚を捉えることだったって言っているよ。その辺のジャンルはシーム・パークに直接的な影響を与えたことはないけど、僕らは昔デズモンド・デッカーやリー・スクラッチ・ペリーなんかを聴いたりはしていたよ。それに僕は最近ヴァン・ダイク・パークスの『ディスカバー・アメリカ』っていうカリプソ風なレコードを気に入って聴いているんだ、良いレコードだよ。無意識のうちにそういったものに影響されたりしていることはあるかもしれないね。
――トロピカリアといえばデヴィッド・バーンですが、シーム・パークのサウンドはトーキング・ヘッズとも比較されることが多いですね。この意見についてはどう受け止めていますか?
ある意味では、とても嬉しいよ! 彼らはポップ・ソングというもので色々試して遊んでいたバンドだからね。ポップなサビを奇妙な音やリズムと組み合わせることでもっとダークで踊れる曲にするっていう、彼らの哲学が好きだよ。そしてそれが、僕らがシーム・パークでやろうとしていることでもあるんだ。でも“Milk”以外の曲では、僕らはそれをトーキング・ヘッズとはだいぶ違った方法論でやっていると思う。新しい音楽を聴いて、それを既に知っている音楽と一緒にしてしまうのは簡単だけど、それよりも一つ一つをそれぞれの長所で判断する方が良いと思うな。
――“A Place They’ll Never Know”はオーディエンスとのコール&レスポンスも楽しそうなトラックですね。あらかじめ「ライヴ」を意識して作曲することもありますか?
うん、間違いなくあるね。バンドっていうのは一年の殆どをライヴで演奏しながら過ごす訳だから、ライヴで演奏して楽しい曲を作る方が絶対理にかなってるんだよ。僕ら自身ステージの上で踊ったり楽しむのが大好きだから、新しい曲を書くときはいつもそこに必ず良いグルーヴが入るようにしているよ。そして演奏する会場も大きくなるにつれて、もっとビッグでやりがいのある曲を書くことを考えるようになったね。
――フレンドリー・ファイアーズのエドがプロデュースした楽曲“Tonight”は、まさに友人たちと盛り上がるのに打ってつけのパーティー・アンセムです。エドとのコラボはいかがでしたか? また、フレンドリー・ファイアーズはバンドにとってどんな存在ですか?
とても楽しかったよ。フレンドリー・ファイアーズは良いパーティー・チューンの書き方をよく知っているバンドだから、エドと一緒に仕事をする機会が来たときは興奮したね。彼はとっても良い奴だし、とても柔軟で、出て来たアイデアそれぞれに時間をかける余裕も持っている。そしてメロディーを判断する良い耳を持っていて、曲のパーティー感を出来る限り引き出す直感的な才能も持っているんだ。
――小学生の頃から音楽活動を共にしているだけあって、コーラスワークの一体感が本当に素晴らしいです。個人的には60年代前後のドゥーワップやコーラス・グループを思い出したりもしたのですが、あえて彼らのようにキャッチーなメロディーを取り入れている?
ありがとう! そういう要素を意識的に取り入れたつもりはないけど、僕はザ・インク・スポッツやザ・シュープリームスとかのグループや、彼らの作り出す複雑なハーモニーが昔から好きだったよ。でも60年代のバンドでハーモニーがものすごく好きなのをひとつ挙げるなら、ビーチ・ボーイズだね。ブライアン・ウィルソンのハーモニー以上に耳に満足感を与えてくれるものはなかなかないよ。
――いっぽうで、ザ・ナショナルのカヴァーに挑戦したのは意外でした。彼らは今やアメリカの国民的バンドですが、どういったところに惹かれるのでしょう?
ザ・ナショナルの音楽にはゆったりした壮大な感じがある。ビッグで重要な感じがするけど、偉そうな感じはしなくて、作曲がエレガントなんだ。ちょっと感傷的な場面でみんなで歌いたくなるような曲だね、パーティーが終わって、本当に仲のいい友達だけが残っているような時とかさ。
――メンバー3人の顔とバンド・ロゴだけのシンプルなアートワークは、ちょっとだけウィーザーを思わせました。これはどのようなテーマが?
あれはザ・フィーリーズの、僕らがとても好きなレコードのジャケットからインスパイアされたよ。すごく印象的な、寛いだようなシンプルさのある絵なんだ。このアルバムは特に難しいコンセプトのあるものとして作ったものじゃないから、それを象徴するのもああいうシンプルなイメージが良いと思ったのさ。
――アート面で言えば、“Wax”や“Milk”、“Two Hours”などのミュージック・ビデオも低予算ながら楽曲の世界観をしっかりと表現していて興味深かったです。すべてのビデオは同じディレクターが手がけているのでしょうか? また、逆に映像や風景にインスパイアされて作曲することもありますか?
ビデオは全部、それぞれ違う監督によるものだよ。でも全員、若くてクリエイティブで、低予算でも対応できる監督だった。作曲の中にある物語性っていうものを考えると、音楽に合う視覚的なイメージを持つことは間違いなく役に立つね。それによって曲に、触れることの出来ない映画のような要素というか、より一層雰囲気が出るんだ。マイルスはよくそれぞれの曲を色で連想していたけど、そういう音楽の見方が好きだね。
――メンバーそれぞれの個性的なファッションも気になります。ライルアンドスコットのインタビューに応えていたこともありますが、バンドにとってファッションはどれぐらい重要ですか?
マーカスがシーム・パークのベスト・ドレッサーだね。個性的なトロピカル柄のシャツや、上等なスーツをいくつも持っているんだ。今では僕らもよく写真撮影をされるようになったから、ファッションが大事になってきたよ。たった一日変な恰好をしているだけで、それが写真として永遠に残ってしまうリスクに晒されるからさ。
――3月のUKツアーは続々とソールドアウトしていますね。アルバム・リリース後はじめてのツアーになるかと思いますが、サポート・メンバーを入れるなど何かしらの新しい試みは計画していますか?
バンドの中心的な部分は変わらないけど、今までで一番大きなプロダクションになるし、今回はツアーバスも満員になるね。僕らは随分時間をかけてカッコよくて新しい照明のプログラミングをしたんだ、かなり骨が折れたけどすごく良いのができたよ。今はアルバム全部のリハーサル中だよ、このツアーはアルバムのリリースの凱旋ツアーみたいなものになるといいね。
――バンド内で日本に訪れたことのあるメンバーはいますか? また、もし日本でのライヴが決まったら行ってみたい場所、やってみたいことなどを教えてください。
僕らの誰もまだ行ったことがないよ! 個人的には、日本が世界中で一番行きたい所なんだ。東京にある「スキヤバシ・ジロー」っていうレストランについての、『二郎は鮨の夢を見る(原題:Jiro Dreams of Sushi)』っていうドキュメンタリーを見て以来、そこで食べることを夢見てるんだ。とにかく日本を探検してみたいね、すごく魅力的なカルチャーのある、すごく平和な所みたいだし。是非近いうちに行けるといいね!
(text & interview by Kohei Ueno)
Release Information
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