今年4月、13年ぶりの来日公演を実現させ、ハイエナジーな演奏で観客を圧倒したラカンターズが今度は11年ぶりにリリースする3rdアルバム『ヘルプ・アス・ストレンジャー』でロック・ファンの頭をぶっ飛ばす。
ラカンターズはホワイト・ストライプスでのブレイクを機にロックの救世主と謳われたジャック・ホワイト(Vo/Gt)がデトロイトで旧友たちと04年に始めたバンドだった。メンバーはジャックの他、ブレンダン・ベンソン(Vo/Gt)、JLことジャック・ローレンス(Ba)、そしてパトリック・キーラー(Dr)の計4人。共通のロック体験を、ラカンターズならではと言えるサウンドに昇華させながら、『ブロークン・ボーイ・ソルジャーズ』(06年)、『コンソーラーズ・オブ・ザ・ロンリー』(08年)という2枚のアルバムを立て続けにリリース。精力的にツアーも行っていたが、インタビューでも言っているとおり、それぞれに忙しい彼らは11年のツアーを最後に、それぞれ自身のキャリアを追求することに励んできた。
その彼らが1人も欠けることなく、再び顔を揃えることができたのは奇跡に近いと思うが、音を鳴らせば、一瞬で10年近い空白を取り戻せる絆の強さが、この4人にはあるようだ。そんな4人に来日公演の本番前にインタビューすることができた。ジョークを交え、4人が掛け合いながら新しいアルバムについて饒舌に語る様子からは、彼らが心底、ラカンターズの活動を楽しんでいることが伝わってきた。
Interview:The Racounters
Photo by Steven Sebring
――昨夜、ライヴを見せてもらいました。一切、ムダのないハイエナジーかつハイテンションの演奏に圧倒されました。
ジャック・ホワイト そう言ってもらえてうれしいよ。
――ラカンターズのみなさんがステージに立つとき、一番大事にしているのは、どんなことでしょうか?
ブレンダン・ベンソン 歌詞を全部覚えていること(笑)。
――それは大事です(笑)。
ジャック 僕は、観客を自分たちの演奏に引き込んで夢中にさせたいから、時には自分から、“Come on! Let’s go!”と盛り上げなきゃって思う。
パトリック・キーラー 彼らもステージに引き上げたいって感じ?
ジャック そう。ハイエナジーであればあるほど、いいライヴになるからね。ダンス・ミュージック、パンク、ロックンロール、カントリー……どんな音楽だろうと、観客を巻き込んで、一緒に盛り上がらなきゃ。
――昨夜は、まさにそういうライヴでしたね。
ジャック 日本でこれまでやったライヴの中で一番の観客だったと思う。
――『ヘルプ・アス・ストレンジャー』からも6曲、演奏していましたが、みなさんのようなベテランでも新曲をやる時は、お客さんの反応って気になるものですか?
ブレンダン もちろん興味はある。どう反応するか楽しみだし、いい反応が得られればうれしいからね。
ジャック・ローレンス どの曲の反応が他の曲と比べていいのかってのもわかるしね。
――昨夜のお客さんの反応はいかがでしたか?
パトリック 正直、感動したよ。彼らにとっては初めて聴く曲を演奏したわけだけど、一緒に歌ってくれるくらい盛り上がったし、みんな踊っていたし。すごくうれしかったね。
――さて、その『ヘルプ・アス・ストレンジャー』は前作『コンソーラーズ・オブ・ザ・ロンリー』から11年ぶり、そして、今回のツアーが8年ぶりになるのですが、なぜ、そんなに時間が空いてしまったのでしょうか?
ジャック みんなに聞かれるんだけど、まだいい答えが見つからないんだ(笑)。
パトリック 時間が経つのが早いんだ(笑)。
ジャック それが一番手っ取り早い答えだ。それに、それぞれに別の活動で忙しかったしね。パトリックはアフガン・ウィッグスがあって、ブレンダンもソロ活動があって、JL(ジャック・ローレンス)はカーニバルで働くのが好きで(笑)、僕自身も、この10年、サード・マン・レコードを軌道に乗せるため本当に忙しかった。ついこの間、10周年を祝ったばかりなんだ。それを考えただけでも、うわ、もう10年か。本当に忙しかったんだなって感慨深いものがある。だから、これだけ時間がかかってもしかたなかったんだ
ブレンダン お互いのことが好きだし、一緒にプレイするのも大好きだとは思う。でも、他にもやりたいことがあるんだ。毎晩、ブロッコリーばかり食べるわけにはいかないだろ? 変化がなきゃ。豆やニンジンを食べたくなる時だってある。
ジャック 僕たちはラッキーでもあると思う。いろいろ違うことができるというのは、ミュージシャンとして非常に恵まれた立場にいるということなんだ。僕がもし一生、ホワイト・ストライプスしかできなかったとしたら死んでしまうかもしれない。1つのバンドを続けるために、あらゆる手を尽くしてがんばらないといけないというのは、相当なプレッシャーだ。そういうプレッシャーは創作活動に悪影響を及ぼすと思う。だから、今の立場は本当に恵まれていると感じているんだ。それがやれているアーティストって、そんなにいないだろ。たとえばニール・ヤングぐらいはクレイジー・ホースとやったり、他のプロジェクトをやったりしているけど。
ジャック・ローレンス クロスビー・スティルス&ナッシュとかね。
ジャック そうそう。彼ぐらいだろ? だから、ラカンターズのメンバー全員にとって、複数のプロジェクトに関わることができるのはありがたいことだと思うんだ。
Photo by David James Swanson
――でも、こうしてまた集まるということは、この4人でなきゃできないことがあるわけですよね?
ジャック もちろん。
パトリック ヴォーカルが2人いるからね。
ジャック それにソングライターも2人いるから、ソロや他のバンドとは全然違う音楽との向き合い方ができる。新作の「Shine The Light On Me」という曲はこの前のソロ・アルバム(『ボーディング・ハウス・リーチ』)に入れようと思ってたんだけど、ラカンターズっぽいから取っておくことにしたんだ。そしたらちょうどラカンターズでアルバムを作ることになったから、このメンバーで演奏することができた。最初の直感は当たっていて、最高の仕上がりになったよ。
――今回の来日公演からも、このインタビューの雰囲気からも4人の仲が良くて、関係がすごくいいことがわかるから、敢えて聞きますが、お互いに“こいつムカつくな”って思う時なんかもあるんですか?(笑)
パトリック ハハハ。どうだろう?(と大袈裟にウインクする)。
ブレンダン 何の話だい?(笑)
ジャック 年齢を重ねるにつれ、前より細かいことが気にならなくなったってことは言えるかもね。昔だったらすごく気になったことを傍観できるようになったのが自分でもわかる。気にならなくなると言うか、気にするだけムダだって思うようになったんだ。
パトリック 普通に人として年齢を重ねれば分別がつくしね。
ジャック・ローレンス アルバムのレコーディングもすごくスムーズに進んだよ。揉めることもなかったし、ケンカもなかったし。もしかしたら数年前までだったらあったかもしれないけど、自己顕示欲もなくなって、バンドとして1つにまとまる術がわかったんじゃないかな。
――ところで、今回、4人が顔を揃えた直接のきっかけは何だったんですか?
ジャック 覚えてたらいいんだけど。
パトリック 2人で先に曲を書き始めたんじゃなかったっけ? 連絡をもらったのは覚えてるよ。
ジャック・ローレンス みんなが集まれるちょうどいいタイミングだったんだ。ジャックはソロ・ツアーを終えたところで、ブレンダンも一段落してる状態で、アフガン・ウィッグスの活動もきりが良くて、僕もいろいろなバンドとの活動を終えたところだった。元々、このバンドが生まれたきっかけも自然な流れだった。きちんと計画を立てて動くのではなく、なんとなく気づいたら一緒にやっていた、というのは今回も変わらない。
ブレンダン さっき言っていた「Shine The Light On Me」を聴かせてもらったことが、もしかしたら今回のアルバムに繋がるきっかけだったのかもしれないね。確かジャックが車の中で聴かせてくれたんだ。“ラカンターズっぽくない?”って。その時、自分のほうがうまくやれるって思ったよ(笑)。
――新作は1stアルバム『ブロークン・ボーイ・ソルジャーズ』の頃の衝動が戻ってきたと言うか、ひょっとしたら1stアルバムよりもロック的な衝動が感じられるのですが、どんな作品を作ろうと取り組んだんですか?
ジャック 全体で目指したものは特になかった。曲ごとに、どんなことができるか、サウンドを追求していったんだ。自分としては、どんなプロジェクトだろうと、曲ごとに全力で取り組んで、音楽に導かれるままに形にするやり方が好きなんだ。今回も25曲か30曲くらい、そうやって作った中から全員がいいと思う曲や、“これは仕上げなきゃ”って訴えかけてくる力のある曲が最終的にアルバムに入ったんだ。
ブレンダン 僕も1stアルバムに通じるものがあると思ったよ。サウンドも、レコーディング方法もね。まるで『コンソーラーズ・オブ・ザ・ロンリー』が、自分たちとかけ離れたことをしてしまったんじゃないか。ひょっとしたら、ラカンターズのアルバムの作り方としては正しくなかったのかもしれないんじゃないかと思えるくらいだった。もちろん、『コンソーラーズ・オブ・ザ・ロンリー』は大好きだし、誇りに思っている。でも、今回のアルバムは1stアルバムに通じる何かを感じたと言うか、なるほど、こういうことか!って思えたんだ。1stアルバムと同じで、ものすごく早いペースで作って、自分達が何を作ったかちゃんと把握する間もなかったくらいだったんだ。
ジャック・ローレンス これまでで一番、激しい曲が入っているしね。
――今回のアルバムはいつ頃作り始めたんですか?
ジャック 僕がまだ『ボーディング・ハウス・リーチ』のツアーをやっている時に最初のセッションをやったんだ。
ジャック・ローレンス 去年の7月だったと思う。
ブレンダン それからあっという間だったね。
ジャック そう。2日くらいだった。
パトリック レコーディングも早かったね。ほとんどの曲を、2日くらいで録ったんだ。
Photo by Steven Sebring
――曲ごとに、どんなことができるか追求していったそうですが、今回のアルバムの中で、それぞれに気に入っている曲を教えてください。
ブレンダン 僕が一番気に入っているのは、「Help Me Stranger」。すごくユニークなサウンドの曲だからね。
――ファンキーでラテンっぽいところもあるという。
ブレンダン ラカンターズの曲の中でも異質だし、一般的に見ても独特な世界感がある。それにメンバーそれぞれの良さが出ていると思うんだ。ジャックと僕はアコースティック・ギターを弾きまくって、ハーモニーを重ね、JLとパトリックは素晴らしいリズムを刻んでいる。しかも、この曲のベースラインを、JLはベース・ペダルを手で演奏しながら奏でているし(「Help Me Stranger」のMVを参照されたし)、パトリックはスネアを逆さにして、抜群の演奏をしている。ラカンターズをやってきて最高の瞬間だと思う。
The Raconteurs – “Help Me Stranger”(Official Music Video)
パトリック 僕は「Bored and Razed」だな。この曲には、いろいろな要素が入っているんだ。最初はジャズっぽい、崩したバンド・ジャム風に始まるんだけど、そこからザ・フーを彷彿させるアンセム調のイントロになる。そして、最後にはヒルビリーっぽくもなる。壮大な展開だ。パンクで、ヘヴィーで、とにかく盛り上がる曲だと思う。メロディーも最高だしね。
ジャック・ローレンス 僕は「Thoughts and Prayers」。アコースティック・ギター主体のロックンロール色が薄いところが他の曲とは違うアプローチのように感じるんだ。そして、この曲にはリリー・メイ(※サード・マン・レコードからジャック・ホワイトのプロデュースでソロ・デビューした女性シンガー・ソングライター)がフィドルで参加しているんだけど、それは呆然としてしまうような、思わず鳥肌が立つ瞬間だった。個人的にはアルバムのハイライトだと思っているよ。
ジャック 僕はバラードの「Only Child」かな。理由は歌詞が一番気に入っていることともう1つ、音の組み合わせ方も気に入っているからなんだ。デモを聴きながら、生演奏で録り直そうとしたんだけど、うまく行かなくて、結局、ブレンダンが彼のスタジオで録ったものと、僕のスタジオで録ったみんなの演奏を組み合わせたんだ。そうやって曲の迫力を出そうとしたんだけど、結果、想像をはるかに超える10倍の迫力になった。ソングライティングからプロダクションまで、全ての面においてメンバー全員で力を合わせてできた曲だったんだ。
――ロック的な衝動が戻ってきたと思わせる一方で、いろいろな曲が入っている多彩なアルバムだということがわかる4曲ですね。
ジャック そう言ってもらえてうれしいよ。僕たちはその可能性を持っているという点で幸せなバンドだと思う。それができるバンドはそう多くはない。自分たちが愛して止まないアルバムだってそうだ。ストゥージズのアルバムは大好きだけど、どの曲も曲調が同じだ。曲によって、ノリが違うとか、テンポが違うとか、歌っている人が違うとかっていうアルバムを作るのは難しいけど、それができたら最高だ。僕が一番好きなビートルズのアルバムは『ホワイト・アルバム』なんだけど、なぜ、そんなに好きかというと、それぞれの曲がまるで違うスタジオで録ったように聴こえるからなんだ。
――最後にアルバム・タイトルについて聞かせてください。『ヘルプ・アス・ストレンジャー』というタイトルの元になっている「Help Me Stranger」はラカンターズがリスナーに向けて歌っているように感じられるんですけど、ロック・ファンの中にラカンターズのことを知らない人っていないと思うんですよ。それにもかかわらず、〈Help me strange〉と歌っているところがおもしろい。
ジャック 『ブロークン・ボーイ・ソルジャーズ』も『コンソーラーズ・オブ・ザ・ロンリー』も、アルバムのタイトルは、収録曲のタイトルを複数形にしたものだったんだ。だから、今回も「Help Me Stranger」を複数形にしたわけだけど、曲のタイトルは、ブレンダンが書いた歌詞から取ったんだ。あの曲のサビを、みんなで書いているとき、ブレンダンが〈Help me strange〉ってフレーズを思いついたんだ。英語の表現で、しばらく会ってない親しい人に対して、“よぉ!ストレンジャー。久しぶりだな”と声をかけることがあるんだよ(※strangerには、ずっと音沙汰がない人という意味もある)。今でも自分のことを好きでいてくれてるかって確かめる気持ちも込めてね。
――ああ、そうなんだ。
ブレンダン いろいろな解釈ができるフレーズだから、人によっていろいろな意味に取れると思うんだ。
パトリック 抽象的だよね。
ブレンダン そこが気に入っているんだ。
ジャック もっとも、俺達に助けは必要ないと思うけどね!(笑)
全員 ハハハハ! We Got This! (自分達でどうにかできるから大丈夫だ!)
ジャック それが2つ目のアルバム・タイトルだ。
Photo by David James Swanson