平成の終わりまで私たちが中国文化へ抱くイメージは、長年の歴史に育まれた重厚長大なものが主だった。しかし令和の今、古典的なモチーフを現代的に解釈したコスメブランド「花西子」、中国発のアニメ『魔道祖師』『羅小黒戦記』など、さまざまなジャンルにおいて、新しいかたちのポップカルチャーが同時多発的に輸入されている。

ライブハウス文化に目を向けると、中国にはそれぞれの土地に根付いた、個性的なバンドが存在する。たとえば、2011年に武漢で結成され、7月に日本ツアー敢行したポストロックバンド「Chinese football」や同じく2011年に成都で結成、石野卓球とのコラボレーションが話題になったエレクトロ・ダークウェイブの「STOLEN 秘密行动」が挙げられるだろう。

そして次の世代の注目株は、2016年に結成され重慶を中心に活動を展開し、このたび8月に初来日ツアーを行う「完美倒立 The Upside Down」。

現地の音楽ファンからは「かなりオシャレで、非常にセンス良く、大人の雰囲気で盛り上げてくれるバンドです。日本でも受け入れられると思いますよ」というコメントも。今回は、そんな彼らについてインタビューを交えながら紹介する。

INTERVIEW:
完美倒立 The Upside Down

完璧な逆立ちをするために世界に肩を並べて|完美倒立 The Upside Down来日インタビュー interview230810_TheUpsideDown-01
左から Gt.&Ba/シャオチン 小勤、Support Key./シャオルー 小卢、Dr/ラーラー 乐乐、Vo&Syn/ ファンジン 黃晶

バンド名は、私たちが書いた歌詞、『碎裂』の一文、“完璧な逆立ちをするために世界に肩を並べて(肩并肩向这个世界做一个完美倒立)”から来ています。世界中を相手に戦いたい少年・少女たちは、自分がかっこいいと思う方法で自分が世界とは違うことを表現します。たとえ中二病でも、発信する勇気が必要です」(Vo/Syn. ファンジン)

 

「完美倒立 The Upside Down」は、ファンジン(Vo&Syn/黃晶 通称 “豆豆”)、シャオチン(Gt.&Ba/小勤)、ラーラー(Dr./乐乐)の3人によるシンセ・ロックバンドだ。彼らの最新のサウンドは、PREPを彷彿とさせる80sレトロシンセポップサウンドを基調に、Satin Jacketsのような涼し気なエレクトロニックサウンド、インディーポップ、ニューソウルなどを融合させたオリジナリティあふれるセンスで、地元のライブハウスを中心に人気を博している。

完璧な逆立ちをするために世界に肩を並べて|完美倒立 The Upside Down来日インタビュー interview230810_TheUpsideDown-02

2017年に自主製作でリリースされたアルバム『The Upside Down 完美倒立』を皮切りに、中国のロック音楽チャートで連続ランクイン。その後も2020年の“Dream Tide 曳梦潮汐”はハート形のレコードをリリースして話題となった。

2021年には台湾のインディペンデントレーベル〈ROCK RECORDS〉の40周年を記念したカバー・プロジェクト『Rock 40 and Bands』にも声がかかり、シャオチンが子供のころ好きだったという台湾ポップスの名曲、フィッシュ・リョン(梁 靜茹)の“愛你不是兩三天”のカバーで参加。原曲のさわやかな雰囲気はそのままに、サウンド面は完美倒立らしく現代的にがらりと変え、好評を呼んだ。

ユニークな音楽スタイルを育んだ重慶の音楽シーンについて聴くと、それぞれの言葉で答えてくれた。

完璧な逆立ちをするために世界に肩を並べて|完美倒立 The Upside Down来日インタビュー interview230810_TheUpsideDown-03

重慶のインディーズ音楽はパンクバンドが多いです。なのでもしかすると、義理社会というか人情を重んじるような雰囲気に見えるかも。しかし、実際には重慶にはさまざまな側面があり、私たちの音楽を通じて重慶のモダン、曖昧さ、チルを皆さんに見てもらいたいと考えています」(ファンジン)

重慶の夏はとても暑く、冬はとても寒いですが、その気候も音楽スタイルの多様性に影響しているかもしれません」(シャオチン)

重慶の音楽シーンは情熱的です。作り手の音楽に対する熱意と観客の期待が私たちのモチベーションを高めてくれます。受け取った力を制作に費やそう、という気持ちになります」(ラーラー)
 

曲作りを手掛けるファンジンは、日常の微妙な感情を創作の源としている、とコメント。「曲作りのインスピレーションはいつでも突然現れます。最も平凡な時間、最も微妙な感情の中に現れる可能性があります」。そしてシャオチンは、「ポジティブな感情でも、悲しい感情でも、ちょっとラフな感情でも、それがその瞬間の私たちの本当の表現です」と、音楽やライブ演奏活動を通じて彼らの心情を表現していることを明かす。

完璧な逆立ちをするために世界に肩を並べて|完美倒立 The Upside Down来日インタビュー interview230810_TheUpsideDown-04

コロナ前後のここ数年で、中国のインディーズ音楽界は数段階の変化を遂げた。この数年間でライブハウスカルチャーが少数派から注目を集め、音楽フェスティバルも台頭し始めている。結成以来の歩みを振り返って、ファンジンはこう語る。

 
2017年のセルフタイトルアルバム『The Upside Down 完美倒立』はバンド結成当初、自主製作のアルバムで、思い返すと未熟ですが、忘れられない瞬間でもありました。<困惑と自己追求>についてみんなに伝えたかったのです。

セカンドアルバム『Dream Tide 曳梦潮汐』を作ったときは、本格的なレコーディングスタジオに入り、初めてプロのレコーディング、ミックス、マスタリングのエンジニアさんと協力し制作。今を感じて、心地よくリラックスした瞬間をみんなと共有したいと思いました。ゆったりとした心地よいリズムが特徴の『Dazzling Love』はこれまで発表した曲の中で、より現段階の“完美倒立”を象徴する曲と言えるでしょうか。3枚目のアルバムは、さらに新しいテーマで制作中です

完美倒立 The Upside Down【Dazzling Love】歌词版

なお、8月に初来日ツアーとなる彼らだが、それぞれ日本の文化に親しみがある。ファンジンは、コーネリアスが好きで以前は椎名林檎もよく聴いていたとのこと。寡黙でロマンチックな印象のシャオチンは実はパンクバンド出身でdustboxが好き。そして、ラーラーはアニメや二次元文化に親しんで育ったという。この部分だけを切り取ると、不思議な組み合わせの3人であり、だからこそ多様なサウンドが生まれるといえるかもしれない。

完璧な逆立ちをするために世界に肩を並べて|完美倒立 The Upside Down来日インタビュー interview230810_TheUpsideDown-05
ラーラー/Dr

なお、ファンジンは日本食が大好きで、「今回のツアーの打ち上げでは和牛の焼肉と鳥焼きと寿司を食べたいし、レモンサワーも飲みたい」と話すチャーミングな一面も。

彼らの音楽活動を通じて、中国のカルチャーシーンが新しい息吹を感じさせる、今の姿をぜひ見てほしい。

Text:中村めぐみ
取材協力:Luuv Label、id_kz

INFORMATION

音楽サロン「Luuv Labelと学ぶ!中国インディ市場攻略2023」

2023年8月13日(日)
Open 14:00 Start 15:00
¥1,500 +1 Drink
会場:阿佐ヶ谷mogumogu
guest:完美倒立The Upside Down/CHiLi GiRL
チケット予約:メール予約はluuvlabel@gmail.com

「Chill Summer Night」

2023年8月14日(月)
Open 19:00 Start 19:30
ADV:¥3,000 DOOR:¥3,500 +1 Drink
会場:下北沢 Basement Bar
ラインアップ:完美倒立 The Upside Down/polly/evening cinema/大比良瑞希
チケット予約:メール予約 luuvlabel@gmail.com
イープラス

完美倒立 The Upside Down One-Man Live

2023年8月18日(金)
Open 19:30 Start 20:00
ADV:¥3,800 DOOR:¥4,300 +1 Drink
会場:新宿MARZ
guest:竹内アンナ
チケット予約:メール予約 luuvlabel@gmail.com
イープラス