Interview:travis(Dougie Payne[B]、Neil Primrose[Dr])

――はじめに、結成20年おめでとうございます。

ダギー・ペイン(以下、ダギー) ありがとう。この4人でバンドを組んでからもう20年も経つんだね。

――僕がいちばん素晴らしいと思うのは、今までメンバーが一人も代わっていないことです。

ダギー ずっと同じメンバーで20年くらい続けているバンドって、僕のまわりでもあんまりいないね。たいてい5人で始めて途中で2つのバンドに分かれたりしている。レディオヘッドくらいかな。他に思いつく?

ニール・プリムローズ(以下、ニール) ぜんぜん。これほど長く一緒にアルバムを作り続けるなんて、我ながらよくやったもんだ。5枚リリースした時点ではその先どうなるかなんてわからなかったけど、その後も活動を続けられた。つらい時期もあったけど、20年も関係を保ってこられたなんて本当にラッキーだよ。最高なファンもついてきてくれた。

――バンドにありがちな衝突やすれ違いは、どうやって乗り越えてきたんですか。

ダギー いつも仲良しというわけじゃない。バンドがヒットすると、自分たちの日常は一気に崩れ落ちていった。ツアー漬けの毎日に押しつぶされて、メンバーと精神的に疎遠になった時期もあったし。

ニール みんな年をとって分かってきたと思うんだけど、生活の半分は別々に過ごさないとうまくやっていけない。そのほうがスマートで思いやりのある関係が保てる。メンバーと終始離れず働いていると、友達にも会わなくなるだろう。このバンドって友達との繋がりから始まったようなものだから、交友関係をおざなりにするわけにはいかない。友情なしに成立するようなものじゃないんだ。

――音楽のことで言い争いをすることはありますか。

ダギー 争うことはないけど、スタジオの関係者全員が同じ音楽を好むわけではないからね。ただ、何年もバンドを続けているうちに、自分たちが作りたい曲がだんだんわかってくる。できることはすべて試して、実際に演奏しながらしっくり音楽を模索している感覚だね。自分が楽しむことは大事なんだけど、エゴを押し通すだけじゃダメだ。

トラヴィスが語る最も大切なもの。“僕たちの曲は君のために書かれている” interview160428_travis_5

ダギー・ペイン  photo by横山マサト

ニール このバンドが長続きしてきた理由は、自分たちの曲を演奏する喜びを共有できたことにある。それは、音楽的な技術で繋がることよりも大事なことさ。ミュージシャン同士が本物の関係を築くためには、自分の才能や理想を相手に押し付けるよりも、自分たちを引っ張ってくれるような曲を作って一緒に演奏したほうが手っ取り早い。個人の欲よりも音楽そのものが重要なんだから。

――デビュー当時はメディアからも大きくプッシュされていましたが、バンドのイメージよりも楽曲を優先させる考え方は、「消費されたくない」という反骨精神から生まれたものですか?

ダギー トラヴィスが大衆に飲み込まれることはありえない。アーティストは常に思考しながらその時々にマッチしたものを作って、しかるべき人たちに認められないといけないという風潮があるけれど、それじゃ勢いは続かないし、そもそも純粋さや正直さが欠けてしまう。

ニール 多くのバンドがラジオ向けに音楽をデザインしているように感じるよ。「はい、これがアバの曲。マイケル・ジャクソンに、トム・ベイリーの曲も。」ってな具合で、誰かのアイデアをカット&ペーストして、他人の成功にあやかろうとする音楽が目立つね。裏では©がいくつも並んでいそうな代物さ。1人の人間が偽りなく発する声やアイデアこそに面白みがあるのに。

ダギー コールドプレイは一晩で15,000人のオーディエンスと楽曲をシェアする必要があるけれど、僕らの曲はもっと特定の個人に向けられていると思うんだ。例えば、1,000人のオーディエンスがいたとしても、トラヴィスの曲はそのなかのある個人に向けて書かれている。今は君がインタビューをしているけど、つまり、僕たちの曲は君のために書かれているんだよ。それが音楽のあるべき姿だろう。マクドナルドみたいなファーストフードとは別物なんだ。そういうイメージで作曲したほうが曲の内容も豊かになることがわかっているからね。

――そのために、実際の作業において心がけていることはありますか?

ダギー 批評精神を捨てること。部屋に座って6曲分のAメロとBメロとコーラスを考えているとき、できるだけ批評的な思想を持たないようにしている。純粋に何かを伝えるために曲を書くのって難しいよ。それって、意識的にするべきことでもない。シャベルで大量の泥を掘り返さなければ何かを得ることなんてできないんだ。もちろん、努力したからといって一気に1曲がまるまる出てくるわけじゃなく、10〜15秒くらいほんのささいなメロディや、曲の材料になりそうな面白いフレーズが出てくるだけなんだけど。最初にバンドを惹きつけた曲の魅力がさらにたくさんの人に伝われば素晴らしいと思う。それが僕たちの目指すところかな。ラジオのための曲を書くなら、ラジオに流れている曲の要素をそのまま引用すればいい。

ニール 誰かがこの上なく大切だと思うような“瞬間”を育むことができるという点で、音楽は素晴らしいと思う。企業や政府の言うことは大半がマーケティングに基づいたものだけど、音楽や映画を通してもう一度人との繋がりを実感できるんだ。

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ニール・プリムローズ  photo by横山マサト

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