本年日本で公開された映画『ルードボーイ トロージャン・レコーズの物語』で〈TROJAN RECORDS〉の新たな魅力に惹きつけられた人も多いのではないだろうか?
そんな2023年の年末に、DJ HOLIDAYが〈TROJAN RECORDS〉の音源をセレクトしたMIX CD『OUR DAY WILL COME』をリリースした。聴き、調べ、探し、集めていくことでそれぞれの物語が生まれていく。20年以上に渡りラヴァーズ・ロックのコンピレーションアルバム『RELAXIN’ WITH LOVERS』をリリースし続けているYABBY(薮下晃正)との対談を通して、また新たな”トロージャン・レコーズ”の物語が浮かび上がる。
映画『ルードボーイ トロージャン・レコーズの物語』日本版予告編
対談:DJ HOLIDAY × YABBY
DJ HOLIDAY 薮下さんが〈TROJAN RECORDS〉の作品を最初に聴かれたきっかけはなんでですか?
YABBY 大体皆これだよね。多分、新宿のウッドストックで買ったかな、これ買う人ってやっぱり、SPECIALSのオリジナルがこの辺に入ってることに気付いて。
DJ HOLIDAY 例えば?
YABBY “MESSAGE TO YOU RUDIE”とかかな。それからSYMARIPとか。SKINS系の曲や、2TONEでSPECIALSとかがカバーしてる曲のオリジナルが〈TROJAN〉ということに気が付いて。この3枚組とか多分みんな持ってたよね。
DJ HOLIDAY あとグリーンのやつと。
YABBY 白と黒の2トーン・ジャケのコンピとか。曲は重複してるけど、この辺から〈TROJAN〉入ったんじゃないかな。多分これ3枚組だけど過去音源のコンピだから、3000円もしなかったんじゃないかと思う。輸入盤安かったし。
DJ HOLIDAY 〈TROJAN〉のレコードって当時どこで見つけてました?
YABBY ウッドストックっていう新宿西口のところとか、あとはタワレコとか輸入盤屋には結構いくつかあったような。当時、〈TROJAN〉はタイトルは生きてて。まだ現行で出てて。
DJ HOLIDAY 現行で出てたのって例えば何とかですか?
YABBY それこそTOOTS & THE MAYTALSとか、結構、おおむね有名なアルバムは出てたような気がします。
DJ HOLIDAY 当時は輸入盤屋で、レゲエのレコードの専門店じゃなくて、色々なジャンルの中の一つとして入って来てるじゃないですか。
YABBY 〈STUDIO ONE〉は輸入盤なんだけど、〈TROJAN〉は日本盤が出てたんだよね。それこそこれ、トリオ・レコードの日本盤帯付きだもんね。普通にトリオが流通してたんで、その前はフォノグラムから日本盤が出てたから買いやすかったっていうのはあるかな。
DJ HOLIDAY 『FROM’BAM~BAM’ TO ‘CHERRY OH! BABY’』とかも日本盤で出てますよね。
YABBY これはまだちゃんとオリジナルと同じジャケットで出してるけど、多分、このままだと日本で売れないと思ったのもあるんじゃないかな? PABLO(AUGUSTUS)とか日本盤のジャケットになってるもん。細野晴臣さんの『泰安洋行』とかのジャケで有名な八木康夫さんのイラストで。TOOTSも確か八木さんのジャケットで出てるんですけど。日本独自っていうか、ちょっと変えたんですよね。
DJ HOLIDAY トリオとかフォノグラムが手がけていたっていうことは、街の商店街のレコード屋さんとかにも普通にあったってことですか?
YABBY 多分あったと思いますよ。映画の感じだと〈TROJAN〉ブームって1回終わっちゃってるじゃないですか。87年にBOB MARLEYが盛り上がったときに国内の各社で「レゲエ出そう!」と思った時に、そのレゲエのカタログを〈TROJAN〉は持ってるから、たぶん出しやすかったんじゃないですか? あの時ルーツが売れてたから、多分どんどんライセンスしてたんじゃないですかね。これ昔のPOPEYE(1979年8月25日号)、79年ですよ。カリブ特集で昨日見つけたんだけど、79年でBOB MARLEYブームのタイミングでやってるんすよ。BOB MARLEYのインタビューとかやってるんですけど。何がすごいかってディスクガイドがね、山名昇さんが50枚選んでるんですよ。その中に普通に、やっぱりルーツレゲエが中心なんだけどTOOTS & THE MAYTALSの”FUNKY KINGSTON”の日本盤とかも普通に入ってる。この頃は日本盤は結構出てたんです。この50選やばくて、もう既にTRADITIONから、SOUL SYNDICATEも入ってる。
DJ HOLIDAY 〈TROJAN〉って当時は少し大衆的なものだったのかなと思ったんですけど。
YABBY やっぱりすごく売れたから。映画のインタビューでも言ってたけど、ヒットした頃ぐっとSKINHEADS MOVEMENTもあって、1回終わったものだったのを2トーン・スカが出て来て、今までのカタログもまた息を吹き返したんじゃないですかね。
DJ HOLIDAYその頃ってレゲエだけが好きな人以外も聴いてました?
YABBY いやあ、あんまり聴いてないんじゃないかな。僕らの世代はTHE SPECIALSに代表される2トーン・スカとかから入った人が多かったと思う。だから、パンク、ニューウェーブ好きな人は聴いてた。その前にワールドミュージックが盛り上がってた時に〈TROJAN〉って紹介されてたけど、2トーン・スカの影響でニューウェーブとかパンクの人がスカに行ったっていうか。〈STUDIO ONE〉の輸入盤とかから入って。
DJ HOLIDAY 〈TROJAN〉の作品って比較的手に入りやすいじゃないですか?それって元々のプレスの枚数が多いからなんですか?
YABBY 何度も引き合いに出してるけど映画の中でもね、たくさん出しすぎて在庫がやばくて潰れるみたいな、いわゆる倉庫に在庫がたくさんあったんじゃないですか。途中でその価値が下がっちゃうからって自分達で割って破棄したりするっていう。相当に売れたんでしょうね。DESMOND DEKKERとかTHE UPSETTERSとか。
DJ HOLIDAY でも日本だとあんまり店頭で中古とか見ないですよね。
YABBY そんなに日本では売れてなかったのかも。MILLIE SMALLとかDESMOND DEKKERとかってレゲエって認識じゃない、たぶん「イスラエルちゃん(原題:israelites)」とか「マイ・ボーイ・ロリポップ」とか、単純にポップスの新しいリズムのヒット曲で、レゲエとかスカっていうジャンルとしては多分、認識してなかったんじゃないかな。
DJ HOLIDAY 集め始めたとき、聴いて良いなって思って買うと、意外とお手頃な価格でした。
YABBY でも今〈TROJAN〉の値段上がってません?
DJ HOLIDAY ちょっと上がってると思います。
YABBY リー・ペリー・プロデュースのSusan Cadoganとか万単位ですよね。
DJ HOLIDAY 『RELAXIN’ WITH LOVERS』で〈TROJAN〉しばりのものもあったじゃないですか? あれはどうやって製作したんですか?
YABBY あれは当時ビクターが〈TROJAN〉のライセンスを持ってて、ビクター傘下に〈TROJAN〉の大元のサンクチュアリがあったから、っていうことでやった記憶があります。トリオ・レコードが持っていた時期もあるから何年かごとに契約でライセンスが変わったんじゃないかな。サンクチュアリはビクターになってからだから〈TROJAN〉が買われた後じゃないですかね。
DJ HOLIDAY 『RELAXIN’ WITH LOVERS』は今年で何周年ですか?
YABBY 和物編が20周年。『RELAXIN’ WITH LOVERS』自体は2001年からだからもう少し長くて22年かな。
DJ HOLIDAY 今回どうしてもLOUISA MARKSの”KEEP IT LIKE IT IS”を入れたくて。ROCK A SHACKAがBREAK OUTを2000年代頭にCDで出していて。その時期にこれ(ROCKA SHACKAからの12inch”KEEP IT LIKE IT IS”)を買ったら〈BUSHAYS〉で、探してたら〈TROJAN〉からの7inchも出てきて。当時そういうのぜんぜんわからなかったので「なんで同じ曲のレコードが違うレーベルから出てるんだろう?」って。
YABBY すごく多いんですよね。ライセンスがどこでオリジナルがどこか僕もわからなくて。色んなところでローカル・ヒットしたものが、メジャー流通で出ている時はまたレーベル名が変わってたりするから。7インチ結構あるでしょ、全然違うレーベルのやつ。ちなみに『RELAXIN’ WITH LOVERS VOLUME 4』でも〈BUSHAYS〉編、以前出しましたね。
DJ HOLIDAY 例えば〈BUSHAYS〉のものを〈TROJAN〉が出すことによって、ちょっと手に取りやすくなるというか。
YABBY 流通がね、ローカルで少ないものでも。UK流通だと盤質もいいしね。ジャマイカ盤が〈TROJAN〉経由でロンドンで出てるケースも多くて、要するに、イギリス在住のジャマイカ移民向けて出してるものがめちゃめちゃ多いんですよ。THE UPSETTERSとかも前からジャマイカで出てる7インチを集めてアルバムにしてたりするし。でもその時ちょっと新たに音をダビングしてたりするんです。ちょっとジャマイカ盤の7インチと音が違う。ロンドンで出すときにもう1回、シンセとか足してるんですよ。MOOGとか入ってます。
DJ HOLIDAY MIXも変わってたりしますよね。
YABBY 多分もともと4チャンネルとかなんですよ、ジャマイカのレコーディングは。それを8チャンネルとかにコピーして、新たにミックスしてるから、もしかしたらその時に楽器を足してる可能性が高いですよね。あの頃のやり方というかロック、ポップスのマーケットを狙って、BOB MARLERYの『CATCH A FIRE』も、4chのトラックに対して、残りは8chにコピーしてスライドギターとかクラビとか足してるんですよ。最近ネイキッド・バージョンも出てるけど、ちょっとロック市場に、白人市場向けに音を足してるんですよね。
DJ HOLIDAY 映画でもストリングスを足してますもんね。
YABBY 足してますよね。今日JOHN HOLTも持ってきてるけど(『IN DEMAND』)変っていうか。ジャケットも変なんだけど(笑)。ジャケットのラベルは〈DYNAMIC SOUND〉ですけど、でも盤は〈TROJAN〉なんですよね。〈TROJAN〉で出てるんですよ。〈DYNAMIC SOUND〉もそのライセンスの傘下だったんですよね。これもジャケットにはどこにも〈TROJAN〉って書いてないけど、盤は〈TROJAN〉のラベルじゃないですか。たぶん結構あるんだと思います。サブレーべルの数、異常に多いから、これTOMMY MACCOOKの“FUNKY STUFF”がはいってるやつ(『GREEN MANGO』)。これもサブ・レーベルの〈ATTACK〉なんで当然〈TROJAN〉なんだよね。サブレーベル、ホントにたくさんあるよね。
DJ HOLIDAY そういうのも最初よくわかんなかったんですけど。
YABBY これ(「YOUNG,GIFTED AND BLACK:THE STORY OF TROJAN RECORD」)は〈TROJAN〉のヒストリー本なんですけど、後半ほとんどディスクの品番なんですよ。サブ・レーベルが全部出てて、BIG SHOTとかもなんですよね。HIGH NOTEも。HORSEは結構スカの7インチ出てますよね。GAY FEETも。RANDYSまで入ってる。SONG BIRDとか。しかもこれトラスムンドのお客さんで翻訳してる人がいるんですよね。
DJ HOLIDAY 林さん。あれ最高ですよね。
YABBY 黒いやつね。めちゃくちゃ良かった。〈TROJAN〉に関してはこの本が教科書。映画はこれに沿ってましたよね。
DJ HOLIDAY 自分は中谷さんが送ってくれたんですが、謎の答えが結構これに詰まってる。自分にとっても教科書みたいな本です。
YABBY 以前にLEE PERRY本の原稿を書くときに、結構これで調べたんですよね。
DJ HOLIDAY 今は例えばWEBでいろんなことが調べられたりする。でもそれ以前は、それこそ山名昇さんの本とかが情報源ですよね。
YABBY 「BLUE BEAT BOP」。〈TROJAN〉って立ち上がりは〈ISLAND〉と一緒じゃないですか。同じフロアにあって、品番がちょっと近いものもいくつかあるから。その辺の話はスカ系の人が詳しいですよね。
DJ HOLIDAY 当時はどうやって欲しいレコードとか探していたのかなっていう。
YABBY 知ってる人に聞くとか、レコード屋の人に聞くとか、ロンドンとかで探すとか。海外で探してた気がします。
DJ HOLIDAY 当時から好きだった人達に聞くと、国内で海外の雑誌とか読んで、欲しいレコードを書き出して、古着とかの買い付けに行く友達に買ってきてもらってたって話してて。
YABBY ロンドンとかも安かったんで。ロンドンってレゲエ専門のレコード屋とかマニアが多かったんですよ。そういうところに行くと、レコメンドされてて知ったりとかね。あとカムデンとか行くと、自分で勝手に編集されたカセットを売ってたんですよ。そういうのに結構やっぱいろいろ入っていて。
DJ HOLIDAY ミックステープ的な?
YABBY そうそう。それを中古レコード屋さんがやってた。もちろんイリーガルなんだけど。テーマによってMOOGものだけとか、レゲエ、ロックとか、テーマによってセレクトされていて、中古レコード屋さんなんで渋い選曲なんですよね。あとやっぱGAZ MAYALLのカセットですよね。それが、オンステージ・ヤマノとかで売ってたから。そこから曲を見つけてオリジナルを探す、っていう。スカのレコードとかそれこそ本当に努力の賜物で、DRUM AND BASS RECORDSの林さんとかDJやマニアの方々が堀りまくって、今並んでますからね。
DJ HOLIDAY 今回”KEEP IT LIKE IT IS”を入れる時に林さんに連絡させて頂いて、「MIX CDに入れたいんですけど、CD化しても良いですか?」って。僕が最初に知ったのがこれ(ROCK A SHACK からの復刻12inch)だから。林さんがこれを出されたのって快挙だったじゃないですか。すごく苦労もされて出されたと思うんで。そうしたら「全然いいよ」と言ってくださって。「俺が別に関わってるわけじゃないから、全然やってよ」って、すげえ快諾してくださって。
YABBY 今回のミックスは渋い選曲でしたね。今里さんらしいというかロマンチックな選曲でしたね。Phillis DillionとAlton Ellis、Mr & Ms ROCK STEADYの1曲目は”LOVE LETTERS”だよね。最高ですよね。あれでほぼOK。ソウルのカバーを中心に。本当に良かったです。良く頂くDJ HOLIDAYのCDRばりにロマンチックな、女子受けする。結構知らない音源もあったな。
DJ HOLIDAY 今回30曲以上リクエスト出して、16曲ぐらいしか戻ってこなくて。DOCTOR BIRDのときは25曲出して20曲ぐらいOKだったんですよ。使える曲が半分ぐらいになっちゃったから、2回ぐらい選曲やり直して。
YABBY MERLENE WEBSTER良かったですね。この人〈STUDIO ONE〉で出してる人ですよね。名前だけ見たことがあるって感じだったけど、良かったすごく。あとJOE WHITE好きなんですよね。この人、THE UPSETTERSとかLEE PERRY周りでも歌ってるんですけど、すごくいい声で。
DJ HOLIDAY ちょっと泣きっていうか。
YABBY あと今里さんしかできないKEN BOOTHEを2曲続けるとか(笑)。山名さんとか今里さん以外であまり見ないっていう。同じアーティストを順番に入れるのって禁じ手というか(笑)。すごいです。素敵だなと。
DJ HOLIDAY 今回もカバー曲を多めに選曲させてもらったんですが、いわゆる宮田信さんが紹介され続けているような音楽のカバーというか。海外だと、特に西海岸の現行のソウルのバンドとかが、レコードの裏面にロックステディを入れてたりとかしていて。表がいわゆるチカーノ・ソウルで、裏がロックステディだったりで。すごく相似性が高いなって思います。
YABBY クンビア系の人もスカやってますもんね。よりジャンルレスな感じがあるなと。
DJ HOLIDAY SAL HERNANDEZっていうLAのPUNKのカメラマンがいて、両親がギャングなんです。両親は80年代の人で、当時のギャングのホーム・パーティーでは、ロックステディがかかりまくってたぽくて。しかも何曲かアンセムがあって、その中の一つがDERRICK HARRIOTTの “EIGHTEEN WITH A BULLET”だったらしいんです。たぶん歌詞の意味とかもあると思うんですけど。自分みたいに掘り直して共通点を見出してる人もいるけど、当時のLAの人は肌感覚で聴いてたんだなって。
YABBY THE CLASHとかもそうですもんね。〈TROJAN〉と同じくらいの時代のレゲエとかスカとかある種RUDIEな、RUDE BOY TUNEをTHE CLASHがカバーしたりしてるから、あれが〈TROJAN〉が売れた一つの理由なんじゃないですかね。なんというか日本でいうと日活の映画みたいな。B級ギャング映画やカンフー映画みたいな感じなんですよ。数がめちゃめちゃ多い、LEE PERRYの原稿にも書いたんだけどプログラム・ピクチャーみたいな。ブルース・リーはやるわ、マカロニ・ウェスタンはやるわ、RUDE BOYはやるわ、あれが若者に受けたんだと思うんです。日本で毎週、ヤクザ映画が公開してたような。〈TROJAN〉は多分そこで受けてるから、どんどんそういうRUDE BOY TUNEを増やして。だからTHE UPSETTERSもジャケットが結構マカロニ・ウェスタンだったりしましたよね。あの辺のなんていうか、エクスプロイテーション的なことだったんじゃないかな。
DJ HOLIDAY 90年代に入ってからガンマンものの〈TROJAN〉のコンピ「THE MAGNIFISCENT FOURTEEN/VA 」もあって、それこそ”HANG’ EM HIGH”とか”DJANGO”とか、ウェスタンの曲名ばっかりのやつで。
YABBY そこにRUDE BOYは響いちゃったんじゃないすか。ブライアン・デ・パルマの「スカーフェイス」にはまるB-BOYみたいに。マカロニ・ウェスタンとか、カンフーとかに自分を投影しちゃうっていう。東映ヤクザ映画観てなりきって肩で風切って歩いちゃうみたいな(笑)。そういうエクスプロイテーション感はTROJAN TUNEに少しあると思います。インド系ジャマイカ人2世の会計士、リー・ゴプサルがやってるじゃないですか。それでジャマイカからUKに移民した2世、3世向けにやっていくわけじゃないすか。そういうブラックス・エクスプロイテーション的な感じも〈TROJAN〉の初期にはあると思います。
DJ HOLIDAY マーケティング的な部分もあったのかな?ここの層がこういうの好きなんだったら、そこの層を狙って、みたいな。
YABBY それで失敗しちゃうんだよね。DESMOND DEKKERとかKEN BOOTHEあたりがBBCの人気番組に出たりして売れすぎちゃって、大衆路線に行ってストリングスいれて、ムード音楽みたいになったときに、ちょうどジャマイカのレゲエがブラックパワーなルーツ・ロック時代に突入した時、それに対してコマーシャルすぎて受けなくなっちゃった。いきなり数字を落とすってのは映画にも出てくるけど、多分ルーツ・ロック・レゲエとかブラック・パワーのトレンドに乗りきれなかったっていうか大衆に媚びすぎちゃったっていうか、ある種の耳障りの良いムード音楽になってしまって終わったっていう。
DJ HOLIDAY この間中谷さんにお聞きしたんですけど、〈TROJAN〉には幾つかバック・バンドが居るらしいんですけど、その中にいわゆるイージー・リスニングのバンドも居て。
YABBY レゲエアーティストがやってるレゲエじゃないムード音楽って結構ありますよね。
DJ HOLIDAY イージー・リスニングのバンドがそのまま演奏してるからそういう方法論で、使う楽器とかも他とは違ったんじゃないかなと。
YABBY そういう〈TROJAN〉のポップ・レゲエもラヴァーズ・ロックも、ルーツ・ロックがぐっと来たときに、反比例して落ちていくっていうか。やっぱり黒人としてのアイデンティティが希薄だった結果、ちょっと短命な感じありますよね。大半はアフリカ志向みたいな感じに行っちゃったんじゃないのかなとか、そんなシリアスでコンシャスな時代にやっぱちょっと合わなかったのかなって気がしますよね。
DJ HOLIDAY 自分の中では90年代後半からのCDのボックス・セットのイメージがやっぱり強くて。
YABBY 多分サンクチュアリってめちゃめちゃ大きなグループで。IRON MAIDENのマネージメントですからね(笑)。IRON MAIDENの大きな売り上げで色んな小さなレーベルをM&Aして大きくなった会社みたいだし。そこで豊潤なカタログを最大限に生かそうと思ったんでしょうね。今はボックス・シリーズのあのアナログも高くなってますよね。あのアナログのカリプソ編とかクソ高くないですか。
DJ HOLIDAY あのCDのBOXセットが出始めた時と『RELAXIN’ WITH LOVERS』を始められた時って時期は被ってますか?
YABBY おそらく概ね被ってます。で、一気にスカからラヴァーズ、スキンズ、カリプソあたりまでどーんと出て、TROJAN BOXはどんだけ出るのかなって言われてた(笑)。僕も結構持ってますけど、全部持ってないですからね。
DJ HOLIDAY 毎月ぐらいの勢いで出てましたよね。
YABBY しかも全部3枚組だからそうそう聴く時間ないですよ(笑)。現行の〈TROJAN〉もずいぶんいろいろ出してますよね。それこそ不死身亭で復刻したGREYHOUND(『BLACK AND WHITE』)も。これめちゃめちゃ良いですよね。でも、復刻したくてもオリジナル・マスターが無いって問題もあったりしますよね。僕がやってたUK ラヴァースのコンピシリーズ『RELAXIN’ WITH LOVERS』の時も相当大変だった。
DJ HOLIDAY 薮下さん、〈BUSHAYS〉に行かれたんですよね?
YABBY あれ僕じゃなくて現在、〈zelone records〉で坂本慎太郎さんのマネージメントしてる藤原くんが当時同僚で、彼に行ってもらったんですよ。
DJ HOLIDAY LOUISA MARKが怒って電話かけてきたんでしたっけ?
YABBY 「私の音源を日本で勝手に売ってるのはお前か」って(笑)。「ちゃんとライセンスしてる」って言ったら、「そのライセンス元からお金もらってない」って。それはそっちでやってよと思ったけど(苦笑)。
DJ HOLIDAY 電話は薮下さんがとったんですか?
YABBY 藤原くんが対応したみたい。「LOUISA MARKって人から電話がかかって来てますけど?」って(笑)。でもJANET KAYもそれで再ブレイクしてますからね。「私の音源が日本でどうも売れてるらしいけど、一銭も入ってきてない」って。過去の”LOVIN’YOU”を始めとする音源をコンパイルして出した時、日本で異常に売れたんですよね。当時、日本では現行の音源だと思われてたみたい。
DJ HOLIDAY 時差があった?
YABBY 過去にも“SILLYGAMES”とか「愛の玉手箱」って邦題で日本盤の7inchなんかも出てたんですけど、コンピでブームになったのはすごく後ですよ。渋谷系ブームのときに出たと思うんです、90年代。オリジナルは70年代だったんで。
DJ HOLIDAY 『BREAK OUT』(LOUISA MARKのアルバム)って、薮下さんは当時から聴かれてましたか?
YABBY 当時は聴いてない。だから当時LOUISA MARKって日本では相当無名だったんだと思うんです。『RELAXIN WITH LOVERSを始めた頃にラヴァーズDJの中でLOUISA MARKは人気があった。LOVERS ROCKの本を見ると、LOUISA MARKの”SIX SIXTH STREET”がLOVERS ROCKの最初のHITというのは出て来るんですよね。みんなそれで集め始めて。
DJ HOLIDAY MARIE PIERREとかは当時出てました?
YABBY 出てましたね。トリオで〈TROJAN〉だったかな。LOUISA MARKは日本盤出てなかったと思う。
DJ HOLIDAY 〈TROJAN〉はコンピが多いですよね。
YABBY 90年代でもLOVERS系のコンピとかは現行で出てたからCISCOとかで買った記憶あります。これも91年のコンビだから、多分新しいコンビは割と出てたと思うんですよ、過去の音源をコンパイルして。
DJ HOLIDAY 『JUST MY IMAGINATION』とか。
YABBY そう。そういうシリーズが結構出てて、やっぱ重宝して、みんな「良いじゃないか!」ってDJが買ってた。あ、LOUISA MARKも入ってる。割と生きてる商品として手に入れやすかった。1900円ぐらいだったもんね。
DJ HOLIDAY 本根さんが「BLUE BEAT BOP」で書いてたんですけど、60年代の英国では薬局とかそういうとこでも売ってたって。コンビニでカセット・テープ売ってたみたいな感じで。
YABBY KIOSKで雑誌売ってるぐらいの感覚ですね(笑)。それぐらい売れたんじゃないですか。DESMOND DEKKERの世界的なヒットもあり。
DJ HOLIDAY 現在でも、もうちょっとみんなが手に取りやすくなったらいいな、って思ったりもするんです。
YABBY でもこういう今里さんがコンパイルしたミックスCDとかあると、どこから聴けば良いんだろう?みたいな人にはめちゃめちゃ入りやすいと思いますよ。ミックスCDって、流れで聴きやすいですよね。やっぱりあと、サブスクにない配信してない音源もあったりするから。あとサブスクって古いレゲエの音源とか結構怪しいのがあるっていうか、今回も音源もらって聴いてて、これ良いなと思ってShazamとかすると、タイトルが違うんだよね(笑)。きっとレゲエってトラックが一緒だったりする別の音源が多いから。「Shazamくん、違う曲だよ」っていう(笑)。そういうのが逆にすごい探してて面白くて。
DJ HOLIDAY 僕が〈TROJAN〉に興味を持ち出したのは、中谷さんに出会ってすぐに、『NAKANOSHIMA TROJAN SPECIAL』っていうご自身でコンパイルされたCDを頂いて。今でも指針になっているんですが、MIX CDとかセレクトCDがあると、興味を持って「これ良い!」みたいな自分の好みがはっきりしやすいんですよね。見つけやすい。だからミックスなんてされてなくても、色んなセレクトCD、色んなコンパイルCDがたくさんあれば良いな。
YABBY その方の世界観でレコメンドされてる感じ、楽しいですよね! サブスクの時代に今CDに有効性があるとしたら、そういう昔のカセット時代のミックステープの役割を、MIX CDが担ってることだと僕は思います。ある時期のジャマイカのサウンド・システムの同録カセットみたいに、なんていうか入門編として、非常に有効なメディアなんじゃないかなっていう。CDというフォーマット自体がもうカセットと同レベルでちょっとサブ・カルチャーになってる気もしますよね。
DJ HOLIDAY さっきの、「レコードはどこで買ってたか」みたいな話になって来るんですけど。サブスクは「自分が聴きたい楽曲を探す」みたいな形で欲しいものありきで、それはそれで便利なんだけど、だけど薮下さんとかレコード屋さんに行きまくるじゃないですか。受動的じゃない、これが欲しいから買うとかじゃなくて、「これどうなんだろう?」みたいなのも楽しいから。そういう出会いの機会がちょっと少なくなってしまう気はします。
YABBY やっぱりキーワード検索で出てくるものってそれ以上でもそれ以下でもないんで。偶然出会うことってあるから、現場主義っていうかレコード屋さんが一番よく知ってる、っていうのが自分の中にあるんで。気持ちとして。そこにお金を払いたいって気持ちがあるから、サブスクはサブスクだけど、やっぱり自分的に安易に手に入るのは、その程度かなっていう。自分の中の確信があるっていうか。
DJ HOLIDAY 予想の範疇を超えないっていう。
YABBY 偶然がないですよね。だから、まだSpotifyとかはアルゴリズムやAIによるリコメンドもあるけど、基本的にはやっぱ具体的に楽曲名、アーティスト名で目指していかないと、探せないと思うんですよ。あと、正確なスペルとか名前を覚えてない人をどう探すか、ていうのがやっぱちょっと不便さを感じる。昔はレコード屋の店員の前で自分でメロディを歌って質問したりする人も居ましたから(笑)。ちゃんと答えてくれる人もいて。ネットがない時代に、評論家の方に電話口で歌って、「それはエヴァリー・ブラザーズだよ」みたいな(笑)。やっぱりカバーだったんだ!みたいな。今は中古レコード屋に行くと、「これは誰々のサンプリング元が入ってます」って丁寧にキャプションが書いてあったりするけど、昔はみんな口コミで探してたかな。試聴しまくってたから。もうそういう、情報のありがたみが違いますよね。「このレコードはなんかすごいネタが入ってるらしい」っていう情報だけで買って外れる(笑)。PHARAOH SANDERSなんて本当そんな感じでしたよ。「岩の上でチャルメラ吹いてる」みたいな情報だけで辿り着くみたいな(笑)。
PHARAOH SANDERS Thembi
1971 Impulse!
DJ HOLIDAY 『RELAXIN’ WITH LOVERS』とかも確実に入口になってますよね。
YABBY そうだとしたら嬉しいです! ちょっと話は変わるけど昔、正月、三が日に上野のシスコとか行くと、やっぱりECDさんがいるわけ。なんでそんなにレコード、正月までまだ買いに来るかっていう。三が日にいるんですよ。僕らもだけど(笑)。そういう世代なんですよ。昼飯食わないで、親からもらってるお金を残しておいてレコード買いに行って、レコード買った後も金ないから、ただで味噌汁つくからって吉野家じゃなくて松屋とかでみんなメシくって解散するぐらいだから。飲みにすら行かないっていう文化だったんで(笑)。町田のレコファンとかフラッシュ・ディスクランチの入荷日に開店前並ぶと、荏開津くんとか小山田くんたちも並んでる、みたいなそういう世代だから。情報に関してやっぱ貪欲だったし。曲名とかアーティスト名とかなんというかサブスクの情報って全然覚えられなくて。流れていっちゃいます。だからやっぱり執着度が違う。MIX CDとか、自分が聴いて本当にこれ欲しいからって買って、「自分のミックスに入れようかな」って感覚がやっぱ信用できる。それくらい欲しくないと、曲名が覚えられない。まあ年齢も多分にあるけど(苦笑)。
DJ HOLIDAY 最近あるDJと話した時に、「最近レコードとか買ってます?」って本当に何気なく聞いちゃったんですよ。そしたら、「いや、なんか全然レコード買ってないんだよ」って話をしてて。ちょっと仕事のツールみたいなものとしてしか楽曲を見てないように感じてしまって。そもそも音楽とかレコード買うのが好きでDJとか始めていたはずなのに、そういう風に流れていっちゃう感じは、やってて楽しいのかな?とはちょっと思ってしまいました。
YABBY この間OKAMOTO’Sのオカモトレイジくんと渋谷のレコード屋で会って、レイジくんが「先輩の誰かが言ってたけど、レコード屋で会う人は信用できる」って、確かにね。レコード会社の人でも3年ぐらい行ってないですって平気で言う人いるんですよ。やっぱもう配信のみに注視しているというか、サブスクとか、SNSとか、そういうアナリティクスとインサイトしか見てない人が多いけど、それだけじゃつまんなくね?っていうのはちょっと個人的にはありますね。やっぱり、なんかいまだに店着とかディスプレイを観に行ってしまう自分がいる。レコード屋さんが好きだし、本屋さんが好きっていう、見かけたら絶対寄ってしまうっていう(笑)。「あと5分で遅刻だけどちょっと寄るか」っていう。大先輩の本根(誠)さんが昔、打ち合わせの時間にレコード屋に居たって伝説があって、音楽好きの度合いがやっぱ違うな!っていう。もちろん、遅刻はダメですけどね(笑)。
取材・文/COTTON DOPE
写真/植本一子
INFORMATION
アーティスト:DJ HOLIDAY A.K.A 今里 FROM STRUGGLE FOR PRIDE
タイトル:OUR DAY WILL COME : SELECTED TUNES FROM TROJAN RECORDS
レーベル:TROJAN/OCTAVE-LAB
発売日:2023年12月20日(水) / 発売中
トラックリスト:
1.LOVE LETTERS/PHYLLIS DILLON&ALTON ELLIS
2.LEAN ON ME/B.B SEATON
3.THIN LINE BETWEEN LOVE AND HATE/B.B SEATON
4.KEEP IT LIKE IT IS/LOUISA MARKS
5.LET’S GET IT ON/LLOYD CHARMERS
6.WHEN I FALL IN LOVE/JOHN HOLT
7.IT’S YOU I LOVE/MERLENE WEBSTER
8.SITTING IN THE PARK/SLIM SMITH
9.SOMEBODY’S BABY/PAT KELLY
10.ALL MY TEARS/ALTON ELLIS&THE FLAMES
11.TEARS ON MY PILLOW/DERRICK MORGAN
12.EMERGENCY CALL/JUDY MOWATT
13.OUR DAY WILL COME/THE HEPTONES
14.MAYBE SOMEDAY(Oh How It Hurts)/THE PARAGONS
15.RUDIES ALL AROUND/JOE WHITE
16.TARGET/THE GAYTONES
17.WHY BABY WHY/KEN BOOTHE
18.NOW I KNOW/KEN BOOTHE
19.I CAN’T STOP LOVING YOU/OWEN GRAY
20. PAIN IN MY HEART/DERRICK&NAOMI
『ルードボーイ トロージャン・レコーズの物語』年の瀬スペシャル
2023年12月28日(木) 20:30~ @渋谷シアター・イメージフォーラム
〈映画の上映とスペシャルゲストによるトークショー付きの特別プログラム〉
12/20にリリースされたDJ HOLIDAY (aka 今里 from STRUGGLE FOR PRIDE)の最新MIXアルバム「OUR DAY WILL COME : SELECTED TUNES FROM TROJAN RECORDS」はトロージャン・レコーズの音源を贅沢に使った話題作!シアター・イメージフォーラムでは本作品のリリースを記念して、映画『ルードボーイ トロージャン・レコーズの物語』を一夜限りの復活上映!上映後にはゲストを招いてのトークショーもあり!ソフト化や配信の予定がない本作品の貴重な上映の機会となります。お見逃しなく!
トークショー登壇:
薮下晃正さん(RELAXIN’ WITH LOVERS)
荏開津広さん
今里さん(STRUGGLE FOR PRIDE)
料金:一般1,800円/学生・シニア1,300円/会員1,200円
※オンラインチケット予約あり http://www.imageforum-reserve.jp/imfr/schedule/
場所:シアター・イメージフォーラム(渋谷区渋谷2-10-2)
電話:03-5766-0114