沖縄出身の唾奇は、その独特な言葉選びのセンスと自身の人間性を曝け出すことを厭わない「生身」のラップの強烈さによって、ここ数年徐々に注目度を高めてきたラッパーだ。そして、トラック・メイカー/プロデューサーとしてここ数年、自身名義の作品も含めると膨大な数の楽曲を世に送り出してきたSweet Williamもまた、次世代ヒップホップ・プロデューサーの注目株として、年々その名がシーンに広まってきている男。

そして、Pitch Odd Mansionというクリエイター集団のメンバーであるこのふたりが、唾奇×Sweet William名義でアルバム『Jasmine』を完成させた。ジャジーなグルーヴが強いSweet Williamのサウンドと唾奇の生々しいラップ。2017年上半期最注目な日本語ラップ・アルバムを産み出した彼らに、ふたりがリンクした経緯や『Jasmine』について、大いに語って頂いた。

Interview:唾奇×Sweet William

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左から:Sweet William、唾奇

——唾奇君は沖縄出身で、現在も沖縄に住んでいますよね。で、Sweet William君は神奈川に住んでいるとのことですが。

唾奇 那覇市の中心のエリアですね。那覇市の国際通りっていう、観光客が集まる場所の裏側あたりに住んでます。

Sweet William 僕は、元々名古屋に住んでたんですけど、今は神奈川ですね。

——そうすると、地元はまったく異なるわけですよね。どのようにして知り合ったんですか?

唾奇 僕が働いてたバーがあるんですけど、その店でSHUREN THE FIRE(北海道を拠点に活動するラッパー。2003年に〈THA BLUE HERB RECORDINGS〉から『My Words Laugh Behind The Mask』でアルバム・デビュー)をかけてたら、大学の卒業旅行で沖縄に来てたウィルさん(Sweet William)が店に入ってきて。

Sweet William 国際通りを歩いてたらSHUREN THE FIREが流れてるお店があって、「ここしかないっしょ!」って思って入ったんです(笑)。

唾奇 そこで連絡先を交換したんですよね。その後に自分がやっていたクルーのデモを彼に送ったりして。

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——ふたりの中でターニング・ポイントになった楽曲は?

唾奇 “Same As”(唾奇,IO&YOUNG JUJU)と“一陽来復 feat. CHOUJI,唾奇”(CHICO CARLITO)が、僕にとっては分岐点だったのかな、って思いますね。それまでは東京に来ても「沖縄が地元のヤツ」ぐらいな認識だったけど、このあたりの曲が出た辺りから関係者の人とかとも話をする機会が増えた。MVの再生回数とかも、自分で作った曲と比べるとケタ違いだったし。

Sweet William 僕もその辺りの曲は大きかったんですけど(前述2曲ともにSweet Williamがプロデュースを担当)、僕のアルバム『Arte Frasco』収録曲の“Sky Lady feat. Jinmenusagi, Itto & kiki vivi lily”も結構大きかったですかね。自分名義の作品で大きく展開した作品はあのアルバムが初めてだったし、あの曲がMVになっていろんな人に観られたり、自分の曲がミックスCDに入ったりとか、そういうことはそれまでなかったんで。

——そうした楽曲制作を経て、ふたりの共作となる『Jasmine』の制作に至るわけですね。お互い、相方のどんな部分が自分にフィットすると思いますか?

唾奇 俺、結構ラップで暗いこととかネガティヴなことを言うじゃないですか。でも、Sweet Williamのビートだと、自分が言ってることが良い意味で軽くなる、というのが一番あるかな。僕がこのリリックをそのまま暗いビートでやってたら、曲のイメージも変わっちゃうと思うんですよ。僕自身、書いてることはネガティヴでも実際はめちゃくちゃ適当な人間で。『軽く聴き流してくれ』ぐらいな気持ちで書いてるし、別に重たい気持ちで書いてるワケでもないんで。

——『Jasmine』というアルバム・タイトルにはどんな意味合いが込められているんですか?

唾奇 こっち(東京)の人も普段、お茶を飲むと思いますけど、沖縄の家にあるお茶はさんぴん茶(ジャスミン茶)なんですよ。常に飲んでるモノだし、僕も一日に2から3本飲んでます。自分に一番近いところにあり続けたモノだし……単純に、僕とSweet Williamのルーツが違いすぎるし、アルバム・タイトルを決めるときも僕の方から小汚い言葉しか出てこなくて(笑)

Sweet William でも、「沖縄を連想させるワードがいいね」というのはあって。

唾奇 俺の口からは「ファック・ザ・バビロン」みたいな言葉しか出て来ないんですよ、正直(笑)。で、そんなことを考えながらたまたま飲んでたのがさんぴん茶だったから、「じゃあ、“Jasmine”で」って適当に言って。後付けですけど、ジャスミンって「香りの王様」って呼ばれてるんですよ。あと、“ジャ”って言葉も好きで、この言葉には神様が宿ってるんですよ。(ラスタファリアンが言う)“ジャー”とか“ジャパン”とか(笑)。まあ、それは後付けなんですけど、俺的にもこの言葉がしっくり来たんですよね」

——Sweet William君のソロ・アルバム『Arte Frasco』のような、いろんなアーティストを呼んで作るプロデュース・アルバムと、今作のようにひとりのアーティストをフル・プロデュースするアルバムでは、トラックの作り方に違いはありますか?

Sweet William 『Arte Frasco』に関しては、僕が好き勝手にやった感じですね。僕が一緒に演りたい人を呼んで、完全にこっちの意図で『このビートでやったら面白いな』という考えを前面に押し出してた。『Jasmine』は、唾奇と僕が合わさって初めてひとつの作品になる、という考え方ですね。

——『Jasmine』の方が、よりラッパー/トラック・メイカーが寄り添ってる?

Sweet William ニュアンス的にはそんな感じですね。

——今作の客演には“Good Enough”でkiki vivi lily、“Girl”ではJinmenusagiが参加してますね。

Sweet William “Good Enough feat. kiki vivi lily”は、『Arte Frasco』でも参加してもらったし、唾奇のラップが出来上がった時点で「サビはkikiちゃんだな」って思って、僕が決めました。唾奇も、サビに女性シンガーの歌が載ってる曲は作ったことがないと思うし、どういう楽曲が出来るのか僕もワクワクしたんで。

唾奇 ウィルさんが共有してくるアーティストは全部好きなんですよね。俺もkiki vivi lilyの曲は好きだし、「面白いの、出来そうだね」ってなって。Jinmenusagiは、単純に俺が昔からずっと好きなラッパーなんですよね。昔からシンパシーを感じてる。彼も“現実的”な視点のラッパーじゃないですか。最初、ウィルさんから送られてきた別のビートがあったんですけど、そのビートだと俺もJinmenusagiも書けなくて。ウィルさんの家で作業してたんですけど、たまたま流したビートがバッチリとハマった。そのインストの仮タイトルが“Girl”だったんですよね。で、「じゃあ、そのテーマで行こう」となって出来ました。

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——ふたりが同世代で共感するラッパー/クリエイターはいますか?

唾奇 やっぱりJinmenusagiですかね。あと、Ryugo Ishida君(ゆるふわギャング)とか、凄い良いな、って思って最近聴いてますね。同世代ではないですけどC.O.S.A.さんとかもここ最近、ずっと聴いてました。だけど、最近はあまりHIP HOPは聴いてなくて、最近はずっとSuchmosとか聴いてるっすね。HIP HOPは重たいんで(笑)。

Sweet William 海外の人で全然マニアックなんですけど、Eli Wayっていう、〈Night Owl Collective〉というレーベルからフックアップされてた人がいるんですけど、最近だとその人が良かったですね。僕、Soundcloudとかで音楽を聴くことも多いんですけど、そういうところから好きな音楽の情報を集めてます。

——最近の日本語ラップについてはどう感じていますか?

唾奇 良い意味でも悪い意味でも、頭を使わないで聴けるような曲が多いな、とは思います。逆に、俺にはそういう曲は作れないから自分で聴くこともあるし。とは言え、トータルとしては日本のラップはそんなに聴かないです。MVを1から2回観るぐらいで。仲間の曲はよく聴いてますけど。それぐらいな感じでも、俺に情報が入って来るような人はそれだけ動けてて分かりやすい形で世間にアプローチできているワケだから、日本中に向けてアプローチしているアーティストはスゲェな、って思いますし、俺もそうなりたいと思ってます。

——じゃあ、今以上にどんどん大きな存在になっていきたい、という想いはある?

唾奇 今まではアルバムを作ったことがなかったから、『Jasmine』が俺にとっては“入口”なんですよね。ここから何枚もアルバムを出していかないと大したカネにもならないし、ここからどれだけ出来るか? というのは思ってます。でも、「自分の身の丈に合ったことを歌う」ということを一番大事にしてるんで、自分が作品を出し続けて進んでいくことで見えていくモノっていっぱいあると思います。

——Sweet William君の目標は?

Sweet William ラップというジャンルだけじゃなくて、例えばシンガーの人と作品を作ったりとか、ビート・メイカーというよりもっとプロデューサーとしての動きがもっと出来たらいいな、と思いますね。メジャー仕事……とまではいかないんですけど。僕は、自分の好きな人としか作品を作りたくないんで。だけど、例えばCMとか映画音楽とか、そういうモノは昔から好きなんで、そういう仕事はいつかやってみたいな、と思ってます。

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EVENT INFORMATION

唾奇×Sweet William “Jasmine”RELEASE IN STORE LIVE!!

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2017.05.28(日)
開催時間 後日発表
マンハッタンレコード渋谷店
観覧自由

4/19(水)発売『唾奇×Sweet William / Jasmine』(LEXCD17008)をお買い上げで本券お持ちの方は、イベント終了後に特典引換させて頂きます。※本券は、タワーレコード渋谷店、マンハッタンレコード購入者のみの共通先着特典です。

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RELEASE INFORMATION

Jasmine(ジャスミン)

【インタビュー】ジャジーでグルーヴィーなサウンド+生々しいラップ!唾奇×Sweet William『Jasmine』を語る LEXCD17008-JK-1-700x700

2017.04.19(水)
唾奇×Sweet William
LEXCD17008
¥2,300(+tax)
(P)2017 Pitch Odd Mansion
1. South Side Ghetto
2. 語リ
3. 白内
4. Kikuzato(Pianiment Remix)
5. 街から街
6. The Girl From Yosemiya
7. Good Enough feat. kiki vivi lily
8. Made My Day
9. Frenchness
10. Girl feat. Jinmenusagi
11. Let Me
12. 道 -Tao- (Soulera Remix)

タワーレコード&マンハッタンレコード限定特典「街から街(Remix)」の音源CD-R付き!!

※タワーレコード、マンハッタンレコードどちらで購入されましても同内容の特典になります。

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