〈キツネ〉に見初められ、全曲シングル・カットが出来る強力な楽曲で一気にエレクトロ・ポップの時流に乗ったデビュー作『ツーリスト・ヒストリー』から2年。ここ日本でもしっかりとファンベースを築き上げたトゥー・ドア・シネマ・クラブ(以下:TDCC)が音楽的な幅を広げ、時代の流れに負けない骨太な成長を見せたセカンド・アルバム『ビーコン』を携えて去る12月、3度目の来日を果たした。
彼らの順当な成長とそれに比例する成功のステップは偶然もあれど、業界の動きやより移ろいやすくなったリスナーと自分たちの距離感をしっかりと客観視しながら、自分たちの歩む道を決めてきたその生真面目さに裏打ちされている。そんな確信を抱いたメンバー3人へのインタビューをお届けしよう。
★次ページでは、昨年の来日公演で満員御礼となった新木場スタジオコーストの熱いライブレポートを掲載。 行った人もそうでない人もあの日の熱気を感じよう!
Interview : Two Door Cinema Club
A:アレックス(Vo/Gtr/Key)、K:ケヴ(Bss)、S:サム(Gtr)
――既に大阪と横浜でプレイしているけど、感触はいかがでした?
A:どちらも凄く良かったよ。前回プレイしてから随分経っているけど、日本では他の場所よりもライブをしているし、とてもエキサイティングでエナジーに満ち溢れてたね。
S:変な気分でもあるよ(笑)。3時にサウンドチェックして、7時にはステージに立ってる。十分に準備できていないって感じるときもあるけど、サポートバンドも居るし楽しんでるよ。
K:今夜の東京ではシチズンズ!と一緒にプレイするからより楽しいものになるんじゃないかな。
――前作「トゥーリスト・ヒストリー」は大きな成功を収め、恐らく想像以上の大成功だったと思いますが、そのことはセカンドを制作する上でプレッシャーになったりしましたか?
K:余り感じなかったんじゃないかな。なぜなら僕らはアルバムを作る準備が本当にしっかりできていたからなんだ。ファーストの後2~3年ツアーをしたけど、成功のおかげもあって色んな機材を手に入れたり、サウンドについても実験ができた。そのことはファーストの時より制作に取り組むのを簡単にしたと思うんだ。
――新作の『ビーコン』は、基本的には前作の延長線上にありながらも”サン”のようなスィング、ジャズ的な要素であったり、”ビーコン”のように典型的なポップソングの構造を持たない曲だったりとかなりソングライティングやサウンドの幅が広がったと思います。また特にあなたたちの魅力であるメロディのスケール感が増して、より「歌」にフォーカスが置かれたように感じました。バンド自身でセカンドにおけるソングライティングでどんな意図や影響があったのでしょうか?
A:周りの環境に影響を受けたと思う。個人的な体験だったりとか、人間関係とかね。歳を取ったし、物理的にも心理的に色々な所に行ったし、それが違う音楽を作らせたんだと思う。ファーストと同じレコードを作ろうとも思っても作れなかったと思うし、自然な成長をしたということじゃないかな。
K:“スリープ・アローン”や”ハンドシェイク”は前作に近い作り方だった。セカンドを作っている中で段階的に発展していって、新たな試みに集中していった感じなんだと思う。僕らはそれぞれ色んな音楽を聴いて、自然と影響を受けているからそれは曲作りにも反映されているだろうしね。
――先ほどアレックスは個人的な体験や人間関係が影響を与えたと言っていましたが、歌詞の面で今作は前作よりもパーソナルさが増したと思います。疎外感や孤独感のような感情を扱ったリリックが目立ったように思いましたが。
A:「孤独感」という言葉は適切ではないと思う。旅をしていると巨大な感情に襲われる時があるんだよね。自分の周りで起こることへのエクスタシーとかエキサイトメント、純粋な喜びとかね。世界中で大きなショーをやって、知らない人たちと沢山会う生活を続けることは、継続性とか安定がないということなんだよね。僕はそういう不安定な環境の中で感情的なバランスを取ることを学んでいったんだと思う。よりヘルシーな心理状態になれるように。だからこのアルバムで扱っているのは極端な感情の間で葛藤することについてなんだ。それは躁鬱的な状態を扱ったものでもあると思う。
――なるほど。やはりそうした葛藤があった訳ですね。今作は制作に当たってプロデューサーとしてジャックナイフ・リーを起用しましたが、彼の貢献はソングライティングのプロセスまで及ぶものだったのでしょうか? それともポスト・プロダクションにおける貢献に留まるものだったのでしょうか?
A:ソングライティングには関わっていないね。ただ彼は「曲」に凄く影響を与えたんだ。結果的に「曲」を決定づけた雰囲気というかムードみたいなものを上手く捉えてくれたんだ。彼は僕らのヴィジョンを前に推し進めてくれたし、僕らが行き詰まって何をすべきか分からない時にも何をどうすべきかはっきりと分かっていたしね。とても上手く行った共同作業だったよ。
S:彼はめちゃくちゃ音楽に詳しくて、iTunesのライブラリも世界で一番なんじゃないかな(笑)。僕らが何か上手く例えられないことがあっても、色んな例を引き合いに出して説明することができるし、僕らの知らない音楽を教えてくれる。そこから学ぶことは多かったし、今までにないくらい色んな音楽に触れることができたと思うよ。
――今作はアルバムの前半がファーストに近い性急なエレクトロ・ポップで構成されていて、中盤くらいからメロウでじっくり聴かせるような曲が増えていくように、アルバム全体の流れがよく練られているように感じました。アルバムの流れを通してどんなことを表現したかったのでしょうか?
S:アルバムの流れはとても重要だね。僕はティーンエイジャーのドライブを意識したんだ。ベルファストから車で出掛けて行って、ギグを観て、バーに行って、家に帰るっていう流れに合うような雰囲気をイメージしていたんだ。僕の頭にはそんな情景が浮かんでいたよ。
K:アルバムを「旅」と捉えるということかもね。アルバムの前半はファーストに近い雰囲気で、リスナーを段々そこから遠くへと連れていこうとしている。そしてアルバムの最後では次の作品への道標を示している。そんな流れだと言えるんじゃないかな。
――かなりアルバムとしての流れを意識しているということですね。ただiTunes以降、人々の音楽の聴き方は楽曲単位にアンバンドルされていて、アルバムというフォーマットの意義が薄れているとも思います。作り手としてこうしたリスニング形態に対してどんなジレンマを感じたり、アプローチを取るべきだと考えていますか?
A:僕はアルバムのコンセプトっていうのは、僕らの「心」に近いものだと捉えているんだ。アルバムの構造とかアートワークも含めた一貫性は僕らにとってはとても重要な意味がある。アルバムを作るときはそうしたことを全て考えて作るし、それを理解して、楽しんで欲しいと思ってる。iTunesとかストリーミングで音楽を聴くことはこれからも発展するだろうけど、それはそれで構わない。ただ僕らはアルバムの作り方は変えないと思うし、アルバムという形態を僕らと同じように重要視して楽しんでくれる人は居ると思うし、残ると思っているよ。
S:iTunesとかでシングルを買ってもらえるのは幸運なことだし、それを色んな人にシェアしてくれること自体は良いことだと思うよ。曲単位で音楽を聴くことがメインストリームになるかどうかはわからないけど、それでも僕はアルバムというフォーマットが好きなことに変わりはないね。
――TDCCのファースト、そしてセカンドでの大きな成功について僕が個人的に嬉しいのは、音楽シーンがどんどんフラグメンタルになっていく中、意図的に色んなトライブを横断するような音楽を「ポップ」とするならば、その可能性に挑戦していて、実際にそれが成功しているという気がしたところなんです。あなた達自身では意識的にチャレンジしているっていう認識なのでしょうか?
A:より包括的でジャンルレスであろうというのもあるけど、それよりもあらゆるアイデアを融合したいというか境界を融解させたいんだ。僕にとってはジャンルって余り意味がないし、聖域みたいなものもなくて、あらゆる音楽が何かしらオファーしてくるものがあるというか、ある種のオリジナリティとかスピリットみたいなものがあると思ってるんだよ。最近では多くの音楽が、限定的というかその対象を定めているのかもしれないけど、僕にとってはそういうのは気にする必要がないという気がするし、他の人にも自分のように捉えて欲しいと思うよ。
K:意識して決めたことではないと思う。何よりも僕ら自身は様々なタイプの音楽を聴いているし、色んなタイプの音楽を作ってる。メンバー同士でも色んな方向性に興味があるし、それが互いに影響を与え合うのが普通だから、何か特定の影響だけが音楽に現れるってことはないしね。
――あなた達のように特定のシーンに出自があり、キャリアをスタートしながら段々とファン層を拡大し、着実にグローバルにスケールを拡大していったバンドとしてキングス・オブ・レオンやキラーズなどが挙げられるのかなと思うのですが、バンドの発展のさせ方の姿勢として共感する部分はありますか?
A:まずどちらのバンドも大好きだね(笑)。特にキラーズは僕らの世代にとっては凄く重要なバンドだし、ティーンエイジャーの時はどのアルバムも影響を受けて、一緒に旅をしてきたような気がするくらいなんだ。彼らがしてきたことって全部意味を成しているというか、色んなタイプの音楽をやっているけど、どれもキラーズになっているというところが偉大なところだよ。
S:どちらのバンドも自分たちがスタートしたところに固執せずに段々と発展させることが出来ているよね。彼らが素晴らしいのはずっとバンドで居られている、つまりメンバーの力を合わせることで進化しながら成功を収めているというところは僕達とも共通点かもしれないね。
――例えばピッチフォークは基盤としているシーンがどれほど小さいものであれ、ポップの可能性に賭けている音楽を「スモール・ポップ」という概念で表現したりしているけど、この考え方ってしっくりくる?
S:僕らは自分たちのことを「オルタナティブ・ポップ・バンド」だと考えているよ。「ポップ」の定義がメロディックで、キャッチーで、みんなに届きやすいという意味で、「オルタナティブ」が、インディペンデントに全てを自分たちで判断して物事を進めるということを意味するならね。うん、そう定義するなら僕らは「オルタナティブ・ポップ・バンド」というのが適切じゃないかな。
K:「ポップ」をどう定義するかだろうね。単にとにかく超コマーシャルでTVとかでも流れまくってるものをポップとするのか、力強いメロディやコード・プログレッションを持っているものをポップとするのか。僕らは後者に当てはまるから、後者をポップとするならば、僕らは「ポップ」ってことになるんだろうな。