――音楽の聴かれ方や業界そのものが大きく変化している中で成功のロールモデルを見つけるのが難しい時代だとも思うのですが、敢えてロールモデルとして挙げることができるバンドやアーティストは存在しますか?

A:僕らはあくまでも僕ら自身でしかないと思ってるよ、基本的には。僕らはどちらかというと新しい道を切り拓くパイオニアになりたいと考えてるんだ。新しい音楽へのアプローチを見つけたい。マーケティングの方法、音楽の売り方や、ショーのやり方、ツアーの仕方とかあらゆる面でね。自分たちが責任を持って新しいビジネスの形を創りださなきゃいけないと思うんだ。それはアーティストとしてだけでなくて、ビジネスマンになるということでもあって、お金のことや音源のリリースのこと、オンラインの活用の仕方とかあらゆることのプラニングを含むと思うんだよね。人のやり方で上手くいっても意味がなくて、自分たちが見つけた方法でやることが真の成功なんだよ。

K:時代がどう変わって、スタンダードっていうものがどうであったとしても自分たちに合った方法を見つけなきゃいけないし、それは他の誰とも同じではないんじゃないかな。誰も正しい方法なんて分からないし、時によって変わるものだよね。自分たちのやり方を見つけるために色々と実験することは楽しいし、エキサイティングなことだと思うんだよね。

S:怖くなる時だってあるよ。今はどんな情報にもアクセスできちゃうし、ソーシャルメディアでファンが僕らのことをどう思っているかすぐ見えてしまうわけだから(笑)。それってかなり怖いことでもあるし、凄く責任があるなって思ったりすることもある。凄く奇妙でもあるけど、面白いことでもあるよね。ロールモデルって意味だとザ・ストロークスは凄く上手くやっているように見えるし、「ホント、クールだな!」 って思うバンドだね。

――これが最後の質問です。TDCCは日本でも人気があり、大きなファンベースがあるので例外なのですが、日本では特に若い世代の中でここ10年くらい海外の音楽がどんどん聴かれなくなっています。海外のアーティストとしてよりリスナーと関係を深めたり、色んな音楽へアクセスしてもらうためにアプローチできることってあると思いますか?

S:へぇ!、それは凄く興味深いことだね。僕らがキッズの頃はずっと海外に目を向けていたし、特にアメリカからの影響は大きかったから。勿論、ローカルのバンドやアーティストをサポートすることは大事だと思うけど。そうなんだ、それは凄く奇妙だね。

K:世代から世代へ伝えていくことに影響があるかもしれないよね。やっぱり親とか兄弟が何を聴いているかは身近な影響として大きいし、親が興味のあることには興味を持ちやすいだろうから。分からないな、どうしてなんだろうね?

S:じゃあ日本のみんなはどんなものを聴いているの? 日本のポップ・ミュージックとか、ロックなんだよね?

――そうですね。かつての日本は音楽業界もそれほど大きくなくて接することができる音楽のバリエーションも少なかったから、海外の音楽を探さないと十分でなかったという側面はあると思います。

A:基本的には良いことなんだと思うよ。日本や他のアジアの国が発展していく中で、自分たちの文化にアイデンティティを形成していったんだと思うし、それは音楽においても同じなんだと思う。だから今は日本の若い人たちにとってはエキサイティングなときなのかも知れないよね。色んなタイプの音楽を発展させていって、その国の人たちとコネクトしていくというのは素晴らしいことだから。

K:日本でもどんどん色んな音楽が発展していて、ヨーロッパとかアメリカ含めてインターナショナルな存在になっていくということもあるんじゃないかな。

A:江南スタイルとかも居るしね(笑)。彼みたいにアジアの音楽が世界を席巻することも出てきてるしね!

(Interview & translation by Keigo SADAKANE)

Report : Two Door Cinema Club

2012.12.15(SAT)@新木場スタジオコースト

【Interview】音楽産業を取り巻く大きな変化の渦の中、若干23歳の戦略家アレックス・トリンブルはその決然たる意思で新たな「ポップ」のあり方の開拓を試みる シチズンズ!のセットが終わり、約30分。高揚感に包まれた会場にいよいよ3人が登場する。緩やかにスタートし、徐々にビルドアップしていくセカンドからのファースト・シングル”スリープ・アローン”がオープナー・ソングだ。そこから1時間弱、全18曲の間に起きたことを事細かに記しても仕方ないだろう。TDCCはヨーロッパではかつてTDCCが前座を務めたフォールズやクラクソンズもチケットを捌くのに苦労する中、6万人のフェスでプレイし、数分でチケットが売り切れてしまうバンドなのだ。

艶と伸びのあるアレックスのボーカルは朗々とメロディを歌い上げ、ジョニー・マーのようなフレージングにU2のジ・エッジを思わせる煌めくディレイを巧みに操るサムのギター。歌うように跳ねるドラムと粘りのあるベースでグルーヴを支えるケヴ。デビュー時から巧いほうではあったが、長いツアーで更に底力を上げた演奏は正に完璧。2曲目以降は前作からのアンセムトラックを立て続けに配置。フロアを一気に最高潮へ持って行き、中盤以降からは要所にセカンドからのバラッドも織り交ぜじっくり聴かせていく。特筆すべきはこの日集ったクラウドが本当にTDCCの楽曲を聴き込んでいて、どの曲でも見事な大合唱が起こったこと。この一体感には思わずバンドも何度もコーラスをクラウドへ預けていた。

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アンコールを挟み”サムデイ”では真っ白なバルーンがフロアに舞い降り、会場に高々とクラウドの無数の手が伸びていく。言い知れぬ多幸感が会場を満たす。畳み掛けるように”カムバック・ホーム”、そしてラストの”ホワット・ユー・ノウ”の美しいフィナーレへと雪崩れ込み、ライブは終わりを迎える。過剰も不足もない極上の構成。この日のライブに満足しなかった者など居たのだろうか。

結果的にはセットリストの2/3がファーストからの曲というのも、ライブでの盛り上げやすさとクラウドへの浸透度を考慮しながらも、上手くセカンドの楽曲を配置することで馴染ませていこうという意識の表れだったと思うし、それはツアーの初期としては正しいチョイスだ。こうしたところにもインタビューからも感じた彼らの戦略性と生真面目さがよく現れているなと思う。

ライブ中にも何度か感極まったような表情でボーカルのアレックスは言葉数は少ないながらも謝辞を述べていたが、その面持ちは自分たちが短い間に積み上げた成功の大きさを噛み締めているようでもあり、同時にリスナーのアテンション・スパンの短縮化と共に益々加速するトレンドの消費スピードを肌で感じながらもバンドを前に進めていく難しさ故の懸念と憂いも帯びているように感じ取れたといえば大袈裟だろうか。

彼らが進もうとしている道の先が「今らしい」のか、「正解」なのかは良く分からないし、それが彼らに何をもたらすかも分からない。しかしTDCCも敬意を払うキングス・オグ・レオンやキラーズが3、4枚掛けて到達した地点に彼らは早くもアルバム2枚で到達しつつあり、未だ誰も見ぬその先をパイオニアとして歩もうとしている。そのことだけは確かだし、僕は「その先」の景色を彼らと一緒に見たいのだ。そしてまた日本を含む世界中のリスナーの多くにも同じ思いを抱かせるモメンタムをTDCCは今、迎えつつあるのだ。その見事なスナップ・ショップとなったこの日のライブは、恐らくバンド自身の心にも深く刻まれたに違いない。

(text by Keigo SADAKANE)
(live photo by Yosuke Torii)

Release Information

Now on sale!
Artist:Two Door Cinema Club(トゥー・ドア・シネマ・クラブ)
Title:Beacon(ビーコン)
Kitsune
デラックス盤(ライヴ音源を収録したCD 付):¥2,730 (tax incl.)/TRCP 98-99
初回限定価格盤:¥2,100(tax incl.)/TRCP-96
通常価格盤:¥2,415(tax incl.)/TRCP-97
※日本先行発売、ボーナス・トラック収録

Track List:DISC1
01. Next Year
02. Handshake
03. Wake Up
04. Sun
05. Someday
06. Sleep Alone
07. The World Is Watching (with Valentina)
08. Settle
09. Spring
10. Pyramid
11. Beacon

DISC2
01. Cigarettes In The Theatre
02. Undercover Martyn
03. Do You Want It All?
04. This Is The Life
05. Something Good Can Work
06. Handshake
07. Costume Party
08. You’re Not Stubborn
09. Settle
10. Eat That Up, It’s Good For You
11. What You Know
12. Sleep Alone
13. Come Back Home
14. I Can Talk