「もっと深淵で人間のダークサイドに迫った真摯なシンガーソングライターを聴きたい。」プリミティブなロックンロールが勢いを増しつつある英国で、そんな思いを抱くリスナーにピタリと応えている、ということかもしれない。不穏なビデオ・クリップが印象に残る“Nothing Arrived”を聴くと消費社会からの疎外を歌ったR.E.M.屈指の名曲、“エレクトロライト”を思い出さずにはいられない。それはピアノ・フレーズが酷似しているからだけではなく、あれから20年近くが経過し、更に全てが不確かになった現代においてヴィレジャーズのコナー・J・オブライアンは、「疎外後」の我々について歌っているように聴こえるからだ。

海外では先頃リリースされたばかりの2作目『アウェイランド』はしかし、絶望だけを歌っているわけではない。ジャケットに表される通り未来の子供たちへ希望を託したアルバムでもある。その世界観に筆者は、作家のカート・ヴォネガットを想起した。また特筆すべきはコナーの声で、時折ジェフ・バックリーの片鱗すら感じるほど。こうして書くと「言葉と声」のアーティストに聞こるかもしれないが、音楽的には十分にスキルフルで、セカンドではアコギ主体の伝統的なソングライティングに加え、エレクトロニックな要素も持ち味を邪魔せずに巧く融合させている。

先日開催された<Hostess Club Weekender>では2日目のトップバッターとして出演。丹念に楽曲を奏でていくその様は、曲間に静まり返りがちな日本のオーディエンスとの相性も良く、2日間の中でも最もインテンスな雰囲気を生み出した。この来日のタイミングで、残念ながら筆者は時間が合わなかったのだが、代わりに編集部スタッフがコナーにインタビューを実施。以下の通りお届けする。

text by Keigo SADAKANE

Interview:Conor O’Brien(Villagers)

Villagers – Nothing Arrived(Official Video)

――初めて訪れた日本はいかがですか?

とても楽しんでるよ。東京にいるだけだけど、六本木や原宿へ行って、明治神宮にも行ったんだ。新宿も行ったし、基本的には都内をぶらぶらしてるよ。東京はすごいクールな場所だね。

――昨日(3月2日)に出演された<HCW>はいかがでしたか? 日本のファンにどんな印象を受けましたか?

とても良かったよ。すごく自然な感じのショーで、後半になってだんだん盛り上がっていったんだけど、同時に手ごたえも感じて楽しかった。観客はみんなとても丁寧で静かな印象を受けたよ。僕は、皆が音楽に耳を傾けて聴いてくれているっていう所が日本のファンの良いところだなって思ったんだ。

――本作のコンセプトなどあれば教えて下さい。また、アルバムタイトル『{Awayland}』に込められたメッセージをお聞かせください。

本作は、子供の時に戻ったような、自分にとって全てが新しくて、色んなものを新しく経験して行くと言う感覚をコンセプトにしているんだ。大人になって様々な事を経験していくにつれ、考え方が狭くなったり、童心を忘れてしまったりするのだと思うんだけど、そうなるのを拒否して違う方向に進んでいく、常にオープンマインドな感覚を持つっていうことさ。なぜそういった子供に戻った時代を思い起こすような曲を作ろうと思ったのかはわからないんだけどね。

――ちなみに前作について、ご自身の中ではどう評価していますか?

もっと「希望」を感じさせるような雰囲気を持った、元気でポジティブなものをつくりたいっていうのがあったかもしれないね。もし悲しい事について歌っているとしても、音楽ってものは常に喜びとか希望を持っているものだと思うから。そういった考えを持っているから、このような作品に至ったのかもしれないね。

――セカンドアルバムはあなたが10代の頃から夢中になっていたというエイフェックス・ツイン、ポーティスヘッド等のレジェンドからドレクシアのデトロイト・サウンド、そしてフライング・ロータスやカリブー等現代屈指のビート・メイカー達からの影響を取り入れたという超意欲作だと聞きましたが、貴方が最もインスパイアされるアーティストは誰ですか?

すっごくたくさんあるよ。特にエレクトロかな。あとクラシック。ジョージ・ハリスンとかハリー・ネルソンとか。ジョージ・ハリスンは友達なんだ。クラシックは例えばコール・ポーターとか。1930年代とかの作曲家なんだけど、ファンキーでグルーヴィーなドラムンベースの感じの曲からも影響を受けていてね。だからといって本作が彼らの音楽ように聞こえる訳では無くて、彼らから受けた影響がいっぱい混ざって、本作のサウンド自体が仕上がっているんだ。全員の音楽が聴こえる感じ。

――本作の曲を書いている時に東日本大震災が起こり、「その恐ろしい映像に声も出なかった。」そうですが、“waves”がその影響を受けている曲でしょうか? この曲は本作の中でも他の曲とは違った雰囲気を持っていますね。

そう、“waves”は震災の影響を受けているよ。最初に東日本大震災を見た瞬間、みんなが感じたのと同じようなことを感じたよ。映像を直視できないぐらい酷いもの(津波)が、頭にこびり付いて離れないようなイメージがあったんだ。でも、この曲を作りながら、“波”っていうものは自然の脅威でもあり、人間はその自然の中でとてもちっぽけなんだけども、“波”が自分の中の想いを洗い流してくれて、希望や明るい気持ちもそこから出てくる。だから、それを乗り越える、という歌詞と内容になったんだ。

――最新作『{Awayland}』に収録されている“Nothing Arrived”のミュージック・ビデオを見ました。宝くじしか楽しみが無い孤独なサラリーマンが地味な生活を繰り返す様、宝くじが外れたらまた新しい1日がはじまる、そんな光景を見て物寂しいなと思いました。このミュージック・ビデオはどんな意味を込めて制作されたのでしょうか?

自分が幸せになりたいとか希望を見つけたいと思ったときに、物とかを見ても実は幸せにはなれなくて。自分自身を見つけようとした時っていうのは、何か外のものを探そうとするのではなくて、それは自分の中にあるんだよっていうのがこの曲のメッセージなんだ。このミュージック・ビデオでサラリーマンの人が幸せになる為に宝くじを買い続けるんだけども、やっぱり自分がそれではハッピーになれないって気づいてやめるといった物語が描かれているんだ。

――あなたの作る曲はどこか哀愁漂うフォーキッシュ・サウンドと、胸を打つ歌詞で人々の心を捉えて離さないのだと思いますが、歌詞はどういったところからインスピレーションを受けるのでしょう?

存在しているいろんなものから(笑)。ちょっと説明するのが難しいんだけどね、曲によって違うんだ。12歳から曲を書いているんだけど、曲を書いて音楽を作るっていう行為は自分の中で考えていることをまとめるというか、何を考えているのか自分自身で理解するためのもの。僕にとって成長するための一歩でもあるんだ。そして、音楽っていうものは悲しい状態の人に希望を与えるような、そういったものだと思うんだ。震災や災害に遭った時には、特に音楽というものが大切になってくる。自分が小さい時にいつも音楽に救われていたというか、音楽のおかげで前向きな感じになれたり孤独を感じなくなったりすることがいっぱいあったから、希望を与えるようなものにしたい、と考えながら曲を作ってるよ。

――それでは、最後に2013年の野望や今後の活動について教えて下さい。

煙草を始めようかな…(笑)。冗談冗談。マスコミに嘘をつくのをやめる(笑)。あと、日本に戻ってきたいと思う気持ちはあるよ。ただ、具体的な目標を立てるのが苦手で…。「何年後にこうなってたい」とかじゃなくて「日々どうするか」という気持ちでどんどん自分が変わっていくので、抱負とか目標というものはちょっと苦手なんだ。とりあえず、今から1年以上はツアーを企画していて、その後に関しては全く分からないけど、日本もツアーに入ってる・・・と自分の中では思ってる(笑)。そう願っているよ。

Interview by Yuki Michinaka

Release Information

2013.03.06 on sale!
Artist:Villagers(ヴィレジャーズ)
Title:{Awayland}(アウェイランド)
Domino/Hostess
HSE-19146
¥2,490(tax incl.)

Track List
01. My Lighthouse
02. Earthly Pleasure
03. The Waves
04. Judgement Call
05. Nothing Arrived
06. The Bell
07. {Awayland}
08. Passing a Message
09. Grateful Song
10. In a Newfound Land You Are Free
11. Rhythm Composer
12. Memoir(ボーナストラック)
13. Shards(ボーナストラック)
14. The Waves(LIVE SESSION)(ボーナストラック)
15. Nothing Arrived(LIVE SESSION)(ボーナストラック)
16. Becoming A Jackal(from The Workmans Club LP)(ボーナストラック)