フランスのエレクトロニック・シーンを牽引する<Ed Bangar>から中毒性のあるフルートの音が印象的な”Aulos”でデビューを果たし、スティーブ・ジョブス似の男性がリコーダーを演奏し続けるという狂気的な演出の楽曲ミュージック・ビデオがここ日本で驚異的なバズを起こしたアーティスト、ウラジミール・コシュマール。

Vladimir Cauchemar – Aulos

正体不明の謎多きアーティストとしてネットを騒がす人物の正体とは?骸骨マスクの裏側に隠された正体に迫る世界初のオフィシャル・インタビューを行いました。

Interview:ウラジミール・コシュマール

——日本のみんな気になっていると思うんですが、まずはウラジミール・コシュマールの正体について、教えてもらえる範囲でうかがってもいいですか?

ウラジミールの正体だと巷で囁かれている、“Aulos”のミュージック・ビデオに登場するリコーダー奏者の男性は、エリックという俺の音楽の先生なんだ。俺に音楽のすべてを教えてくれたといってもいい存在だよ。だからまず、彼はウラジミール・コシュマールとは別人だということを伝えておく。ウラジミールは実のところ、中世のハウス・ミュージック・プロデューサーで、死後の世界から舞い戻って来ているんだ。ちょうどマーベル・コミックの『ゴーストライダー』みたいな感じでね。たまたま俺のところへ悪霊がやって来て憑依しているみたいなものさ。そして今後その魂がどこに行ってしまうのかは、今はまだ誰にもわからない。

——それは……予想もつかない答えでした!

これ、今即興で考えたんだけどね。同じ質問をされるたびに設定が変わるから注意しておいて。

——やはりその正体はまだまだ謎に包まれていますね (笑)。さて、ウラジミールは〈Ed Bangar〉からのデビューとなりましたが、ある意味でこれまでの〈Ed Bangar〉カラーとは異色の作品だと感じました。リリースはどのような経緯で決まったのですか?

まず“〈Ed Bangar〉らしくない”ということに気づいてもらえたことがうれしいよ。実は今まであまりそういう風な指摘されたことがないんだ。自分でもかなり驚いたんだけど、ペドロ・ウィンターの方から電話があって、「是非リリースさせてくれないか?」と言ってきてくれたんだ。フランス人のプロデューサーとして、エレクトロニック・ミュージックのレフェランスといえばもちろん〈Ed Bangar〉だから、自分にとっては奇跡みたいな出来事だったよ。ミュージック・ビデオに象徴されているように、どちらかというとユーモラスさが売りの奇妙な曲をこうやって〈Ed Bangar〉に受け入れてくれること、そのペドロのオープンな人間性と懐の深さに改めて感銘を受けたね。

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——僕としては、これまで〈Ed Bangar〉に足りていなかったニッチな音をウラジミール・コシュマールが補完したという感じを受けました。

アメリカのラッパー、フューチャーの楽曲に“Mask Off”っていうのがあるんだけど、そこにフルートの音のループがあるんだ。その音にすごく魅了されて、それがずっと気にかかっていたんだ。さらにその曲をきっかけに、去年あたりからアメリカ発信のラッパーの楽曲にたくさんフルートの音が使わるようになって、自分がフランス人として、ヨーロッパのプロデューサーとして、それに対する回答というか、どんな表現ができるんだろうかってことを突き詰めて考えてみた。そこで中世音楽や映画のサントラからヒントを得て、“Aulos”が完成することになったんだ。

Future – Mask Off

ウラジミール・コシュマールの「コシュマール」には、フランス語でナイトメア=悪夢という意味があるんだけど、実はフランス人の有名な映画音楽家にウラジミール・コスマという人物がいて、アーティスト名はリスペクトも込めてそこから文字っているんだ。ディー・ブイ・エヌ・オーに楽曲を聴かせたときに、彼が「ウラジミール・コスマっぽい!」って言い出したのもきっかけになったんだよね。でもコスマというよりはコシュマール(悪夢)だろ! ってなってさ。そういう意味ではディー・ブイ・エヌ・オーもちょっとは役に立ってくれたよ。はは(笑)!

——レーベルの先輩をそんな風に言っていいんですか(笑)? さて、“Aulos”もそうなんですが、ほかに手がけられた“The Magician”のリミックスでもフルートの音色が印象的ですよね。今後もフルートの音を使った曲というのがこのプロジェクトの軸となるんですか?

今のところはなんとも答え難いんだけれど、もともとこのプロジェクトには明確な方向性があったわけではないんだ。“Aulos”が大ヒットして、さっき挙げてくれた“The Magician”やデヴィット・ゲッタの曲もフルートを使ってリミックスしたからこういう風な展開になっているけれど、もっと柔軟に冒険していきたいと考えているよ。でも今こうしてせっかくフルートにみんなが注目してくれているし、ほかの種類の笛の音も集めたりしているんだ。クラシックなものだけでなくて、もっとオリエンタルな雰囲気が出せるのもいいと思っていて、日本の尺八なんかにもすごく興味がある。日本にも来るし、この前ちょうどYouTubeで演奏をみたんだ。とりあえずは笛をメインにフィーチャーしたEPを3枚、トリロジーみたいな形でリリースしてから、別のことに挑戦してみようかなんて考えているよ。

The Magician – Las Vegas feat. Ebenezer (Vladimir Cauchemar Remix) [Ultra Music]

——新しい挑戦についても楽しみですね! 今SNS上で“Aulos”のフルート・チャレンジっていうのが流行っているのをご存知ですか? たくさんの人がいろんな楽器でカバーをしたり、楽器でないものを使ってフルートのメロディーを演奏をしてみたり。

もちろんだよ! でもあのメロディーを再現するのは実際すごく難しいんだよ。それをギターでやってみようとか、思いついてそれを行動に移してくれるのがすごくうれしいよね! 実はファンが送ってくれたいろんなビデオをつなぎ合わせてショート・ムービーを作ったんだ。これ、あとでチェックしてみて!

デヴィット・ゲッタやDJスネークをはじめ、たくさんのDJが楽曲をかけてくれてたおかげで、この曲がこうやって思わぬ方向にまでどんどん拡散されていって、本当にありがたいことだよ。

——ぼくもギターで今度チャレンジしてみます!

最高! ビデオ送ってね。

——そういえば、先ほど『ゴースト・ライダー』の話も出ましたが、日本のマンガがすごくお好きだとか。日本のカルチャーで興味があるものについて聞かせてもらえますか?

実はこのウラジミール・コシュマールの骸骨マスクは日本のマンガ、『ONE PIECE』に登場する骸骨のキャラクター、ブルックの影響なんだよね。俺の1番好きなキャラクターだよ。ブルックはマンガの中でソウル・キングって呼ばれてるんだけど、ブルックがソウル・キングだっていうならウラジミールは差し詰めソウル・キングってとこだな! 一緒に来日しているオレールサンっていうフランスのラッパーと仲がいいんだけど、彼もマンガが大好きで、ふたり合わせるとすごいコレクションの数になるんだ。俺たちは東京に来るたびにいつも、子どもがおもちゃ屋さんに来たときみたいな気持ちになってはしゃいでるよ。

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——オレールサンとプライベートでも仲がいいんですね。先ほどDVNOの名前も挙がりましたが、ほかに仲のいいアーティスト仲間は誰なんでしょうか?

特別仲がいいのはザ・マジシャンかな。彼はベルギーの人だけど、自分にとってはすごく近しい存在なんだ。それから今、インターナショナルな繋がりも増えてきていて、アメリカ人のラッパーが自分の曲にゲスト参加してくれることになってたりね。このプロジェクトについて今はまだ詳しくは話せないんだけど、実は今日のDJセットでそのコラボレーション楽曲の一部を初披露しようと思ってるんだ! 注意深く聞いていたら、誰なのか分かるかもよ?

——それは要注目ですね!

ついこの前〈Ed Bangar〉の15周年パーティーがあって、そのときに本当に短いセット、基本的には“Aulos”のお披露目をしたんだけど、それ以外で人前でウラジミール・コシュマールとしてオフィシャルなDJセットをするのは今夜が初めてのことなんだ。

——実はYouTubeでも探してみたんですが、全然見つからなかったんですよ!

普段フランスのド田舎にいるのに、デビューが東京なんてカッコよくない? はやくプレイしたくてもうさっきからウズウズしてるよ!

——初めてのセットを日本でやってくれるなんて光栄です。

それからそのうち、俺もフルートを勉強して曲に合わせて吹ければいいなと思ってるよ!

——ライブ・セットですね! それおもしろいし絶対に盛り上がりますよ。ところで、日本でも話題になったコミカルで中毒性の高い“Aulos”のミュージック・ビデオを監督したのは日系のアリス・クニスエさんですよね。彼女とはどういった繋がりがあったんですか?

アリスは日本とフランスのハーフで、“Aulos”が彼女にとって初めてのミュージック・ビデオだったんだ。ビデオを作ろうとしていたけど、予算が全然なくって困っていた時に、ペドロが紹介してくれたんだよ。制作費が10万円くらいしかなかったから、全部iPhoneで撮ったんだけど、結果として300万回以上っていうすごい再生数になっているし、彼女には感謝しかないな。愛してるよ! しかも美人だし、文句のつけようがないよね!

最近はあのビデオをきっかけにフランツ・フェルディナントの最新ミュージック・ビデオの監督をすることになったみたいで、彼女にとってもいいチャンスが巡ってくるきっかけになったんだとしたら最高さ。

Franz Ferdinand – Feel The Love Go

——ビデオに人気が出すぎていろいろなパロディーも制作されていますよね。

おもしろいGIFなんかもよく見かけるよ。フランスの古典的な言い回しで、嘘をつくことを「フルートを吹く」って言うことがあるんだけど(日本語の“ホラを吹く”と同様の表現)、なにかくだらないデタラメなことを言われた後に、あなたが今言ったのはコレでしょ? と“Aulos”のフルートのメロディーで切り返す動画があったりして、現代のSNS世代ならではのイジられ方をしている感じ。おかげで、本当におもしろいブームになっているよ。

——先ほどラッパーとのコラボレーションや“Mask Off”の話題もありましたが、ヒップホップが音楽のバックボーンとしてあるのでしょうか?

自分が今おもに聞いている音楽はヒップホップだね。ウラジミール・コシュマールとしてはダンスフロア向けの曲でいきたいと思ってるから、今はハウスやテクノをメインにやっているけど、さっきも言った通り今後はアメリカのラッパーとのコラボレーションも予定しているし。まあすべては俺に今取り憑いている悪霊の気の向くままに進むから、この先どういう風に変化するのか俺にも全然わからないんだけど。ヤツがマリファナの味を覚えたら急にレゲエを始めるかもしれないよ!

——では、日本人のアーティストでウラジミールが憑依するとしたらどんな人でしょうか?

実はヤツはその気があるみたいだよ! 君も注意して! なんて冗談はさておき、本当に日本人とコラボレーションをしたいと思っているんだ。曲のアイデアも具体的に考えていて、日本語のワードをサンプリングしてハウス・ミュージックに入れ込みたいんだ。こうして今日本人と話していてぐっとイメージが湧いて、本当にやる気が出て来たよ! よし、次は日本でヒット曲を出すぞ! どのみち日本が大好きだから、今後も来る機会をたくさん作りたいしね。

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——〈Ed Bangar〉の他のアーティストとのコラボレーションなんかも考えていたりするんですか?

まだ具体的に決まってはいないんだけど、毎年〈Ed Bangar〉はレーベルのコンピレーションを出しているから、リミックスなんかはわりと早いうちに話が出てくるとは思う。個人的に〈Ed Bangar〉で1番好きなのはセバスチャンで、彼は天才だと思うし〈Ed Bangar〉のサウンドを創り上げた人物と称して過言でないと思うくらい、尊敬してる。だから彼とのコラボレーションが叶ったら最高だし、彼もワインを飲むのが大好きって聞いてるから俺たちきっと気が合うんじゃないかなんて勝手に思ってるんだ(笑)。本当に「セバスチャン先生!」って呼んでるんだよ。

——DVNOは先輩と呼ばないのにSEBASTIANは先生なんですね (笑) 

そりゃあレベルが違うからね (笑) 。あ、これもウラジミールが俺に言わせてるだけだから真に受けないでよ!

——個人的にはBreakbotとのコラボレーションでフルート・ディスコ・サウンドなんかも見てみたいです!

それもいいアイデアだね! これまで思いつかなかったけど、是非やってみたいよ。

——今回日本では観光する時間なんかもあるんですか? どこか行きたいところはありますか?

実は今回で日本に来たのは5回目になるんだけど、これまでは東京と大阪にしか行ったことがないから、もっと郊外の海や山、自然を感じられるような場所にも行ってみたいな。宮崎駿監督のアニメのトトロが大好きだから、あの作品の舞台になっているような田舎の風景が自分の目で見てみたいんだ。東京ほど刺激的ではないかもしれないけど、きっと美しいよね。あとこれまでに日本に来たタイミングがたまたま毎回暑い時期だったんだけど、漫画やアニメの世界では雪が降っていたりして、それがとても印象的だから、次は寒い季節にも来てみたいな。あったかい洒落たコートを着て、雪の降る田舎の風景の中を歩いてみたいよ。

——今年の冬にぜひまた遊びに来てください!

もちろんだよ! あらためて、今日はウラジミールの初めてのオフィシャル・インタビューを担当してくれてどうもありがとう!

——本当に光栄です! ありがとうございました。

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オフィシャルサイト

interview by U NGSM
text by bacteria_kun
photo by 横山マサト