コロナ禍に始まり、人種差別や性差別、気候変動問題、そして武力を用いた紛争の勃発など、今世界では数え切れないほどの分断が生まれている。今年2月24日には、ロシアによるウクライナへの侵攻が開始。すでに侵攻開始から4ヶ月以上経つ中、目を覆いたくなる映像や錯綜した情報がテレビやSNSで数多く伝えられるばかりで、言いようのないもどかしさや遣瀬なさを抱えている方も少なくないはずだ。
そんな中、悩む一人ひとりの想い・声を掬い取るような展示プロジェクト<WAVES>が国内5都市で開催。本展示では、世界で起こるさまざまな問題に対して「態度表明」する各作家の作品がポスターとして掲出された。マヒトゥ・ザ・ピーポー、河村康輔、白濱イズミといったアーティストをはじめとし、アクティビストやデザイナー、写真家、映像ディレクター、漫画家、編集者、果ては会社員・服飾学生など、展示の趣旨に賛同した作家が多数参加。東京、名古屋、大阪、京都、北海道の5つのギャラリーでは、世代や肩書きにとらわれない多数の作品が展示された。
今回Qeticでは、<WAVES>の企画を担当した嶌村吉祥丸と、編集として携わった西山萌にインタビューを敢行。彼らが開催に際し公開したステートメントには、こう書かれている。
「小さな声が、波動となり
交わり共鳴する力になると信じて。
これはわたしたちの、態度表明。」
2人は、一体何を「態度表明」したかったのか。そして、その「態度表明」の結果、何が生まれたのか。小さいけれど、はっきりと目に見える一つひとつの波動を<WAVES>で受け止めた彼らが見据えるこれからの社会の展望とは。
INTERVIEW:<WAVES>嶌村吉祥丸、西山萌
same gallery(東京会場)
<WAVES>の態度表明 ── 共に生きること
──まずは<WAVES>を企画したきっかけからお伺いできればと思います。ロシアによるウクライナへの侵攻が契機にはなったと思いますが、世間を騒がせる問題や出来事が起きた際に、普段からお2人で想いを共有する機会は多くあるんでしょうか?
嶌村 普段からディスカッションしているわけではありませんが、プロジェクトの進行にあたって西山さんに編集という立場で協力してもらう機会が何度かあり、そんな中で近しい考えを持っていることや、僕が知らない知識やコミュニティを共有してくれることで何度も助けてもらうことがありました。今回<WAVES>という企画を思いつき実現しようと思ったタイミングで、どうしても1人でやるには限界があったので、ぜひ西山さんを巻き込みたいなと声をかけさせてもらい、共に取り組んだことでプロジェクトを通じて考えさせられることも多くあったのではないかと思います。<WAVES>に至るまでには、マヒト(GEZAN)さんを筆頭に実施していた<NO WAR 0305>というデモに参加したことや森美術館で行われていた<Chim↑Pom from Smappa!Group展: ハッピースプリング>を見て、その瞬発力に自分も何か行動を起こさなければと背中を押されたことも大きいですね。西山さんと制作しi-D Japanで敢行した<NO WAR 0305>の街頭インタビューでも記事を進めるにあたって、お互いに感じていることや考えていることを話し合う時間もあり、そこで意思共有をしていたことが<WAVES>を始めるきっかけにも繋がったのではないかなと思います。
西山 2月の終わり、ロシアによるウクライナへの侵攻が大々的に報じられた日に始まり、今なお目を背けたくなる報道を目にする日が続いています。けれど「戦争」という言葉がニュースのテロップに流れるその傍らで、目の前には生きていかなければならない日々の生活がある。受け入れ難い光景を前に自分には何ができるだろう?と自問自答しながら、遠くの国での出来事を現実として理解するのも簡単なことではありませんでした。ひとりでも多くの人の命が守られますようにと祈りながら募金をしても、それが正解かどうかもわからないし、自己満足に過ぎないかもしれない。何もできていない無力感を強く感じていたし、友人をはじめ、自分以外の人は今この状況をどう捉えているのか、報道や正論ではない、一人ひとりの声を聴きたいと思っていました。
そんな矢先マヒトさんが<NO WAR 0305>が開催することを知りました。それまで私自身はひとつの大きな意見に個人が飲み込まれてしまうと感じてデモにも積極的に足を運んだこともなかったのですが、マヒトさんの「熱狂はいらない。大切なのは一人ひとりが何を思い、行動するかだ」という言葉に強く共感して。同時期にもやもやした気持ちを相談していた嶌村さんから「<NO WAR 0305>を記録しに行こうと思う」という話を聞いたとき、記録するなら、この場所に集まる一人ひとりの声を可能な限り聞きたいし記録したいと、取材企画としてi-Dで記事を書かせてもらえるようお願いしました。もしあのとき嶌村さんと話さず、1人で考え込んでいるだけだったら行動に移すことはなかったかもしれない。そこで自分ごととして悩んでいることも含めて言葉を交わした経験が<WAVES>を考えることに繋がりました。
──あらためて<WAVES>を開催するにあたってのコンセプトは何だったのでしょうか? ステートメントは西山さんが書かれたと聞きましたが、念頭に置いていたのはどんなことだったのでしょう?
西山 <WAVES>に取り組む以前、自分たちに何ができるのだろう?と考えながらも、「NO WAR」と声をあげるだけで思考が止まってしまうことに対して強い危機感を抱いていました。というのも、同じ「戦争反対」という言葉でも、その先にどんな世界や状況を思い描いているかできっとそれぞれの行動が全く変わってくると思うから。実際に身近な人たちと意見を交わしている中でも、同じく「戦争反対」を唱えている人の理想としている政治やアクションが全く異なる状況も目にしましたし、デモのようなひとつの明確な正義や目標を掲げた活動に対して拒否反応を示している人たちもいた。そうした状況を踏まえた上で、さまざまな立場や思想の中間地点を探りたいと考えていて。その上で私たちが一個人として何を思い、悩んで、何を大切にしたいと考えているのか、それを人と共有できる場所を作りたいという思いから<WAVES>のコンセプトが固まっていきました。明確なひとつの答えを導けていなくてもいいはずですし、必ずしも言葉を交わす必要もないかもしれない。絵を描いたり音楽を創ったり、ダンスで表現しても作品を作っていてもいいし、そうでなくてもいい。「YES or NO」を示す必要もなくて、グレーゾーンでいいからみんなの意見を聞かせてほしいと。そうしたことを踏まえた上で<WAVES>は参加いただく一人ひとりの「態度表明」として開催することにしました。
嶌村 <WAVES>には、もともとプラカードを掲げたり旗を振るなどの意味がありますが、複数形にしているのは、「自分たちが大きな波を起こして変えてやる!」ということではないというスタンスを示したかったから。大きな波を起こしていくというより、一人ひとりの小さな波をどう連鎖させていくか。会場に来てくれた方々にも、一人ひとりの波を連鎖させていってほしい、という想いを大切にしていました。
西山 最後まで悩んだのはステートメントに「連帯」という言葉を入れるかどうかということ。元々個人よりもその個人の属しているコミュニティが重視されている言葉というイメージが強かったので、嶌村さんに「連帯」という言葉を使いたいと提案してもらったとき、私自身もその言葉の意味についてあらためて考えることになりました。結果的には「連帯」という言葉を入れることにしたのですが、実は会場に来てくれた人の中でも、その言葉に対する賛否が分かれたこともあり、期間中ももやもやと考えるきっかけになり良かったと思っています。
──嶌村さんは「連帯」という言葉をどういう意味合いで捉えられていたんですか?
嶌村 「連帯」という言葉を意識するようになったのは、パンデミックが始まった頃。尊敬するアーティストが英語で“Solidality”という言葉をアートプロジェクトに使っていました。それもあって、コロナ禍の真っ只中にi-D Japanで編集者の平岩さんと「離れても連帯」と銘打って連載企画を実施しました。その企画では、さまざまなジャンルのアーティストやミュージシャンなどにそれぞれのお家や日常で撮ってもらった写真とともに、今何を考えていて、どういう社会になってほしいかを聞いたのですが、この頃から自分の中での「連帯」という言葉のイメージは「それぞれの想いが均一でなくていい」ということなんです。綺麗な円を描いているわけではなく、いびつであってもいい。それぞれの温度感で、という前提のまま、ただ分断されているわけではない。そういう意味合いで、「連帯」という言葉を<WAVES>でのステートメントでも用いようと思いました。
西山 「それぞれの想いが均一でなくていい」という考えにはとても賛同しています。ぶつかり合いがあったり、理解しあえなかったりすることはあって当然だし、違いを持っている人同士が向き合うことすらできない状況にこそ問題がある気がしています。異なる立場や意見の両極端にいる人たちがそれぞれの違いを違うままに、否定ではなく「こういう意見の人もいるんだ」と共生できる形を目指していけたらいい。
嶌村 そういう意味では「連帯」よりも「共生」の方がいいのかもしれませんね。<WAVES>と並行して、先日まで<Symbiosis>というタイトルで個展を開催していたのですが、展示にあたって“Symbiosis(共生)”という言葉について調べていて。そこでわかったのは生物学用語では寄生虫のように一方が搾取するような場合でも「共生」というカテゴリーに分類されるということ。視点を変えてみるとそれは人間の社会に置き換えても起こりうることかもしれない。展示でも「共に生きている」ことを俯瞰した目で見ることを意識していたのですが、実は<WAVES>の開催の決め手になったのは、C7C gallery and shop(<WAVES>の名古屋での展示ギャラリー)のオーナーの伊藤さんが、その<Symbiosis>の会場にいらっしゃったことなんです。伊藤さんから「今、戦争やこの世界で起きていることについて語る場が必要だと思うんだよね」と話してくださって、僕の方から「3日後空いてますか?」と。そうした対話がきっかけになり、ハプニング的に<WAVES>に繋がっていったことも、態度表明としての<WAVES>のスタンスに繋がったのかもしれません。
理解し合えないからこそ生まれた対話
──今回の展示は先ほどもおっしゃっていたように、意見が分かれる内容でもあると思います。開催するにあたって、それぞれの作家さんにオファーされた時はどんな反応が返ってきましたか?
西山 協力いただいた作家さんには、一人ひとりになぜあなたにお願いしたいのかという理由をお話しし、依頼をしていました。ただ、私たちのスタンスとして実現したかったのはあくまで「態度表明」。「今、何を考えていますか? 何ができると思いますか?」という質問に対してレスポンスをしていただくための手段として、半ば意図して突発的なお声がけをしなければならなかった(※実際に作家へのオファーから2日後に展示が実施された)。展示が目的化して、次に繋がらないまま終わってしまうことを避けるためには、そうするしかありませんでした。そんな中で「なぜこんな突発的な方法で開催されるんですか?」と聞かれることはもちろん、コンセプトに賛同はするけれど、参加はできないという方もたくさんいらっしゃいました。ただ、自分にとっては参加するしないではなく、そこで生まれた対話にとても意味があると感じています。
中でも考えさせられたのは、ベルリンに住む友人に<WAVES>の話をしたとき「連帯することも態度表明することも当たり前。その先に何をするのか?」と言われたこと。ウクライナから避難してくる人を多く受け入れ、物資や住居も譲り合い協力することが当たり前のベルリンで、日本人として生きる上でも多くの人に助けてもらいながら生きているからこそ、何もできていないことに申し訳なさを覚えるし、今必要なのは具体的なアクションだと感じていると話してくれて。SNSで発信されている情報を見ているだけではわからなかった友人の置かれている環境や心境について知ることができた。自分の中でも、まだその質問に対する答えや方法を導けていないのですが、対話することでしか見えてこないことがあるなと。
嶌村 戦争だけではなく、気候変動などさまざまな問題が複雑に絡まっている中で、それぞれの問題に対する精神的な距離感は人それぞれですし、その時々によっても違ったりします。世界のどこかで何か問題が起きた時でも、その当時と1年後では全く考えや温度感は違いますし、もし仕事や家庭の事情など、他の何かに追われていたとしたら、ほとんどの場合、精神的なエネルギーやプライオリティは個人の問題に集約してしまうと思います。
今回僕が声をかけた方々の中にも不参加の意思を伝えてくれた方もいましたが、その中には今まで考えもしなかったことを考えるきっかけになったと伝えてくださる方もいました。逆に参加してくれた方からは、手を動かしたり、参加することでどこか救われたという言葉もいただきました。参加していただいたアーティストの方もそうですし、鑑賞してくださった来場者の方々一人ひとりにとって何かを考える小さなきっかけになれたらと思っています。今回この展示を開催したことで、世界中で苦しんでいる人や戦争で被害を受けている方々が直接的に救われるかというと、それはまた別問題だと思いますが、ちょっとでもモヤモヤしている気持ちに向き合うことや、何か小さな変化や気づきが生まれていたら嬉しいです。
──実際に会場にはどのような方が足を運ばれていたのでしょうか? 嶌村さんは京都会場にも在廊されていたかと思いますが、京都の方々からはどんな受け入れられ方だったんですか?
嶌村 haku kyotoには普段からギャラリーに集う人たちもたくさん来てくださいました。2階が美容院でもあるため、ランダムに人が入って展示を見てくださる場所でもあるのですが、<WAVES>という企画を知らずに入ったお客さんが会場にあるステートメントやそれぞれの作家のコメントをじっくり読んでくださって、そこから絵やメッセージを描いてくれる方もいたり、SNSで会場風景とともに自分の思っていることを書いてシェアしてくださる方もいました。
西山 私はsame galleryに在廊していたのですが、参加してくれた作家のみなさんはもちろんのこと、ギャラリーにもはじめて来たという方、学生の方やご高齢の方、ご家族で来てくださる方やふだん展示などは見ないという方まで、幅広い方が日々足を運んでくださいました。来てくださった方にはなぜ展示に来てくださったのかを聞くようにしていたのですが、一人ひとり、おそらく1時間から2時間かけて会話していたので、オープンから気がついたら日が沈んでいて。自分にとっても忘れられない時間になりましたね。
印象的だったのは、はじめてお会いしたあるお客さんが話してくれた言葉。最初はじっくり展示を見てくださっていて、なぜ展示に来てくださったのかを質問した上で、私自身悩んでいるというお話をしたんです。そしたら「実は今まで、ニュースを見ていても何も感じられなかった」と正直に話してくれて。
「何か行動しなくてはいけないと頭では理解していても、ニュースで報じられていることは精神的にも物理的にも距離があって、悲しいとも思わないし、何かをするべきだとも思えなかったんです。ただ一般的に“こうあるべき”という主語が大きすぎる意見ではなく、今回展示されている一人ひとりの作品やテキストを読んでいるうち、自分が感じる幸せや日常をどうしたら守っていけるのかを考えました。自分にとってなくなってほしくないものは、今ある生活だったり、家族だったり、恋人だったりする。そのために自分に何ができるか、まだ答えは出てないけど、考えたい」と。そう話してくれたことがとても、嬉しかったですし、私自身はどうだろう?とあらためて自問自答しました。
haku kyoto(京都会場)
Lian(大阪会場)
C7C gallery and shop(名古屋会場)
ie(北海道会場)
対話が作り出す新たな“WAVES”
──そんなに対話が生まれる展示ってなかなかないですよね。嶌村さんは普段ご自身で展示される機会も多いと思いますが、展示会場で対話が生まれることについてどのように考えられていますか?
嶌村 そもそも展示というフォーマットが会話を生み出しにくい設計であることが多いですし、むしろ作品と来場者の方々がそれぞれの距離感やペースで対話できるようにデザインされていることが多い。今回<WAVES>は態度表明としての展示という名目でスタートしましたが、さまざまな対話が起きてほしいと思い、誰でも座って長居できるように、どの会場でも机や椅子を配置しています。展示という特性を持ちつつも、ワークショップ的な側面もある展示になっていたとも言えるかもしれません。
しかし、人と人との対話は誰かが誰かに語りかけることによって起こることなので、じっと眺めてそのまま帰る方もいる中で、一言こちらから寄りそうような語り手がいたり、聞き手がいるということが<WAVES>にとって一番大事な要素でした。「生きた」展示になったのはそういう人たちが協力してくれたからだと思います。僕が設営のために各都市を回っている中で、手伝ってくださった方が会期中東京会場のsame galleryにスタッフとして在廊してくれました。そこでは、そのスタッフがいたからこそ生まれた会話もあるでしょうし、それはきっと各都市でも同じで、ギャラリーの方々が展示内容やコンセプトを押しつけるのではなく、オープンに人を迎え入れてくれて、限定しない会話や問いかけることを心がけてくれたからこそ実現できたことだとも思います。
西山 突然の態度表明にも関わらず参加してくれたみなさん一人ひとりの作品はもちろんのこと、<WAVES>が一過性のもので終わらぬよう、これから先も続いていくようにと思いを込めてロゴを作り、ステートメントもリソグラフ印刷をして人に届けるところまでデザインくれた浅井美緒さん。態度表明としてのスタンスを邪魔しないよう、壁張りではなく読み物として手にとれる形に作家のみなさんのキャプションをレイアウトし、ZINEとしてデザインしてくれた沖山哲哉さん。大量の印刷に丁寧かつ迅速に対応してくださった印刷担当者の鶴田舞さん、展示の設営に駆けつけてくれたsame galleryや、荏原界隈にゆかりのあるみなさん。そうした一人ひとりの思いや協力が<WAVES>を形作っているし、関わってくださった一人ひとりの想いの連鎖が、対話を生む空間にも繋がったのではないかなと思います。
──会場では来場された方が参加作品の紙を組み合わせることで、思い思いのZINEを作成できるという仕掛けもあったりしましたが、そうした対話のきっかけのひとつにもなっていそうですよね。ZINEを作成してもらうという行為にはどういう意図があったんでしょうか?
西山 「展示を鑑賞する」となるとどこか距離を感じてしまう。けれど「自分で選んで持ち帰る」となると距離も自然と縮まる気がして。なぜそれを選ぶのか? 無意識に手にとった一枚から、自分の考えや感覚に気がつくこともあるかもしれないし、持ち帰って身近に置いておくことが、何か思い出したり考えるきっかけになるかもしれないなと。
嶌村 ヴァージル・アブローがキュレーションした<Coming of Age>という写真展のレセプション時に、さまざまな作家の写真をZINEとして持ち帰れる企画があって、その体験を今回応用しようと思って用意しました。誰か特定のアーティストの作品を見にきてくれた方でもいいので、実際にそれを選んでZINEとして持ち帰れる体験をしてほしいなと思いました。ただものを渡されるということではなくて、自分でZINEの順番も含めて選択する行為が、来場してくださった方々にとっても能動的に考えるきっかけになればと思っています。
──想像・創造する力を示すことで、態度表明するということをステートメントにも書かれていましたが、そのきっかけにもなり得るし、とても魅力的な仕掛けだなと思っていました。今展示がひと段落ついて、その想像・創造する力に対するご自身の想いというのはより強固になったんでしょうか? もしくは何か変化したことはありましたか?
西山 ひと段落して感じているのは、私自身、まだ<WAVES>という態度表明自体がよいものだったのか、よくないものだったのか、今の時点では判断できないということです。<WAVES>自体は特権的なものでもなければ正解を示すものでもない。あくまで対話するための「場」でしかないのではないかなと。その上で、この試み自体は誰がどこで始めてもいいですし、全く異なるフォーマットで開催されても良い。強いて言うなら、今回私たちがはじめた小さな波が連鎖した先に、さまざまな形で<WAVES>のように、流動的なグレーゾーンで揺らぐことができる場所が広がっていけば良いなと思っています。「場」は物理的な場所でなくていいと思うんです。オンライン上のメディアでもいいかもしれないし、展示という形でなくてもいいかもしれない。いかに考え続けることができるのか、明確な正解などないグレーゾーンで否定するでも肯定するでもなく対話を続けることができるのか。自分自身も考えながら常に行動に移していけるようにしたいですね。
嶌村 <WAVES>を企画していく過程や実際に展示をしていく中での対話でさまざまな視点に気付くことができました。短い期間の中で参加してくださったアーティストの中には、展示にあたって100%賛同できていない部分もあったと思います。西山さん含め各展示会場やギャラリーの外側で様々な対話が起きていたことや、今まで自分が見えていなかった視点があったということ。反省すべき点が多々ある展示ではありましたが、この展示そのものを終着点にはしたくないと思っていますし、<WAVES>のコンセプトに掲げていることは、正解もなく、ずっと問い続けなければならないことでもあります。だからこそやるべきテーマだとも思うので、今後展示という形式に限らず、対話を生み出すような場づくりやプロジェクトを進めたいと思っています。
<WAVES>の北海道での展示は、ieというスペースを運営している方から声をかけてくれたことがきっかけで突発的に実施することになったのですが、予定調和的にならずに人とのご縁や小さなきっかけが積み重なって、今後もプロジェクトが産まれてくれればと思っています。<WAVES>がきっかけになったかどうかは別として、今回アーティストとして参加してくださった方や来場してくださった方々が日々の小さな巡り合わせから、自然な流れでさまざまな対話やプロジェクトのきっかけを見出してほしいなと思います。それこそ、小さな波が少しずつつながっていくような感覚で。
最後になりますが今この記事を読んでくださっているあなたも含め、<WAVES>に携わってくださった全ての方々に感謝致します。ありがとうございました。
インタビュー・編集:竹田賢治
写真:嶌村吉祥丸
PROFILE
嶌村吉祥丸
東京生まれ。国内外を問わず活動し、ギャラリーのキュレーターも務める。主な個展に“Unusual Usual”(Portland, 2014)、“Inside Out”(Warsaw, 2016)、“photosynthesis”(Tokyo, 2020)など
西山萌
編集者。多摩美術大学卒業後、出版社入社。雑誌『PERK』のエディター、デザイナーを経て独立。『TOKION』のリニューアル創刊に携わる。編集を基点にリサーチや企画立案、取材執筆、キュレーションや場所作りなど。フィールドを横断して人や物事、価値観が交わることで生まれる新たな価値観や考え方に出逢う編集を心がけている。
EVENT INFORMATION
Exhibition “WAVES”
東京:same gallery(東京都品川区荏原4-6-7)
名古屋:C7C gallery and shop(名古屋市千種区千種2-13-21 2F)
大阪:Lian(大阪府大阪市西区南堀江1-12-2 東栄ビル503)
京都:haku kyoto(京都府京都市下京区中之町566)
北海道:ie(北海道札幌市中央区南八条西1-13-75)
<Logo Design>
Mio Asai
<Caption Design>
Tetsuya Okiyama
<Artists>
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