INTERVIEW

Wild Nothing

Photo by Kodai Kobayashi
Text by Takanori Kuroda

     

米国ロサンジェルスを拠点に活動するジャック・テイタムのプロジェクト、ワイルド・ナッシング(Wild Nothing)が6年ぶりに来日し京都 CLUB METROと東京Shibuya WWW Xにてライブを行った。

アリエル・ピンクやギャング・ギャング・ダンスなどを手がけたホルヘ・エルブレヒトをプロデューサーに迎え、昨年8月にリリースされた現時点での最新作となる通算4枚目『INDIGO』は、ブラック・ミュージックのイディオムを大々的に取り入れた前作『Life of Pause』から一転、「原点回帰」ともいえるような憂いを帯びた80年代ニューウェイブ、ドリームポップ、シューゲイズを鳴らしている。「AIと人間の融合」などSF的なテーマを掲げながらも、どこか箱庭的な、ジャックの脳内世界をそのままトレースしたかのようなサウンドスケープや歌詞の世界が印象的だ。

今回から自宅以外の場所にプライベート・スタジオを構え、よりプロフェッショナルに「今、ワイルド・ナッシングが鳴らすべき音」を追求したというジャック。そんな彼に、アルバム『INDIGO』についてはもちろん、今年1月にリリースされた新曲「Blue Wings」の制作エピソードなどを聞いた。

Interview:Wild Nothing

インタビュー|ワイルド・ナッシングが語る、いま自分が鳴らすべき音 interview190507-wild-nothing-1

──昨年リリースされた最新作『INDIGO』が、どのような経緯で生み出されたのか教えてください。

ジャック・テイタム 僕は今ロサンジェルスに住んでいて、家の外にプライベート・スタジオを作った。それって人生初のことなのだけど、おかげでいつもとは仕事のスタイルが大きく変わったんだ。それまでのやり方というのは、日常生活の中でアイデアが浮かんでくるのを待って、それをいかにキャプチャーするかに重きを置いていたのだけど、今回はスケジュールを立てて定期的にスタジオへ通い、その限られた時間の中でどれだけクリエイティヴなことが出来るか?を試したんだよ。

──なるほど。前作『Life of Pause』(2016年)よりもパーソナルな印象なのは、制作スタイルの変化も影響していると思いますか?

ジャック それもあると思う。僕の音楽づくりにアイデンティティは大きな位置を占めているし、自分が好きなジャンル、ルーツを自分なりにどう表現するか?はとても大事なことだからね。今作では、歌詞もパーソナルな要素が強い。自分自身の人生や、自分と近しい人たちとの関係について、より深く向き合いながら書いているからね。そうすることで、自分や「他者」をより深く知ることが出来たと思う。

──前作にあったソウル・ミュージックのエレメントが控えめになったのも、この制作スタイルが影響している?

ジャック おそらくね。もちろん僕はソウル・ミュージックの大ファンだし、君の言うように前作ではその部分にフォーカスすることを試みたのだけど、今回はもう少し「原点回帰」というか、以前やっていたアプローチに戻ろうとしたんだ。80年代ポップやニューウェイブのエレメントは、僕にとって最も自然に心地よく出せるものだからね。

それに、もうこのプロジェクトを始めて10年以上経つんだけど、そうなってくるともうワイルド・ナッシング自体が「僕個人のもの」ではなくなってきていると思うんだよ。いろんな人が関わっているし、リスナーが僕に期待していることもある。そうやって考えたときに、「今必要とされているもの」「今やるべきもの」を考えてみたんだ。

──『Indigo』というアルバム・タイトルは、スマートフォンのブルーライトの比喩だと聞きました。これはそもそも「AIと人間が融合した姿」をテーマにした、“The Closest Thing To Living”という楽曲の歌詞から思いついたものだそうですね。「テクノロジーによる人間性と、その変化」をアルバム全体のテーマにしたのは何故だったのでしょう。

ジャック 説明が難しいな……(笑)。何故だか自分でもよく分からないのだけど、以前からAIやVR、未来世界なんかにすごく興味があって、そういう書物も色々読んできたんだよね。それって僕の中の「オタク的な要素」の一つなのだけど(笑)。将来的には肉体という「容れ物」も要らなくなる、みたいな話を聞くと「人生って一体なんだろう?」「意識とは?」なんて考えざるを得ない。

──そんな未来について、あなたはポジティブに考えていますか?

ジャック ポジティブとネガティブ、どちらの道もあり得るよね。医学が進歩すれば、人はもっと長生き出来るようになるかもしれない。その反面、肉体が消失したディストピアが広がる可能性だってある。ただ、僕個人の意見を言わせてもらえば、人類はこれからも様々な局面にぶち当たりながら、その都度対処し力強く生きていくんじゃないか?と思っているよ。「起きたことは受け入れる」という姿勢が大事なんじゃないかな。

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──ちなみにSFは好き?例えば『ブレードランナー』とか……。

ジャック 好きだよ。タルコフスキーの『惑星ソラリス』とかね。『ベルリン・天使の詩』のようなファンタジー映画も大好きだし、自分の音楽への影響も、多少はある気がするな。作品に漂うムードだったり、流れている音楽だったり。今回『INDIGO』の“The Closest Thing To Living”で取り上げたテーマはものすごく規模が大きいものだけど、アルバム全体では他にも色々なところから影響を受けているんだ。最初に言ったように、非常にパーソナルなことも歌っているしね。

──そういえば、「Wheel of Misfortune」という曲では“ヴェローナ”というフレーズが出てきます。対訳を読んだら、「スズキ・ヴェローナ(スズキが米国・カナダで販売している中型セダン)」のことだと注釈がありました。

ジャック いやいや、“Chewing gum stuck to Verona”は、“スズキ・ヴェローナにガムをひっつけて”という意味じゃない(笑)。ヴェローナっていうのは『ロミオとジュリエット』の舞台としても知られるイタリアの街で、ジュリエットの家が観光地になっているのだけど、訪れた人たちは小さな紙切れに自分の願い……幸運や恋愛成就を書いて、チューインガムで壁にそれを貼り付けるのが慣わしになっているんだ。

ものすごい数の紙切れが貼り付けられているのだけど、それって綺麗な場所をわざわざ汚くする行為だと思わない?そういう矛盾について歌っている。その前段のライン“Blown a kiss or blown a bubble(投げキスか、シャボン玉か)”も、投げキスやシャボン玉は「キレイなもの」とされているけど、見方を変えれば唾を飛ばしたり、シャボン液を撒き散らしたりしている行為ともいえるよね(笑)。

──そういうことだったんですね(笑)。前作には「Japanese Alice」という楽曲もあったので、日本がインスピレーションの元になることが多いのかなと勘違いしていました。

ジャック ちなみに「Japanese Alice」は、初めて日本を訪れた時の喜びをそのまま歌っている。ずっと前から僕は日本にものすごく興味があったし、行ってみたいと思っていたから物凄くインスピレーションが湧いたんだ。いつも付けている日記を引っ張り出してきて、そこに書いてあったことにそのままメロディをつけたよ。

──ところで、『INDIGO』アートワークはどんな意味があるんですか?

ジャック なんの意味もないよ(笑)。

──(笑)。ちょっと人にも見えますよね。メタリックだし、さっきおっしゃっていた「AIと人間が融合した姿」なのかと。

ジャック ああ、なるほどね。でも、これは見た人それぞれの解釈に任せる異にするよ(笑)。作者はアーロン・デントンというアメリカのポスターデザイナーだ。アルバム・ジャケットでは、他にもアシッド・ダッド(『Acid Dad』2018年)やエイミーO(『Elastic』2017年)などの作品も手がけている。今回は「写真ともドローイングとも取れるような、不思議なデザインにしてほしい」とだけリクエストした。そうしたら何パターンか用意してくれたので、その中からセレクトしたんだ。

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──今年1月には新曲「Blue Wings」をリリースしましたよね。キュアーやスミスあたりを彷彿とさせるサウンドだなと思いました。

ジャック 実をいうと、この曲は『INDIGO』のレコーディング中に作ったんだ。最後の最後まで候補に残っていたのだけど、アルバムの中ではしっくり来なくて外した。シンセ色がちょっと強いんだよね。まずベースラインが思いついたのだけど、君のいうようにキュアーっぽいなと思った。そこから色んなフレーズを重ねていく中で、キュアー以外の要素も含まれていったよ。

──掛け合いで入っている女性コーラスは誰ですか?

ジャック いや、実は僕なんだ(笑)。結構高い声が出せるんだよね。メイン・ボーカルであんなに高い声を出すことは滅多にないけど、レコーディング中に思いついた女性コーラスのパートを、誰かを呼んできて取る時間ももったいないし探すのも面倒だと思ったら自分で歌ってしまうことはよくあるよ。

──『INDIGO』のレコーディング中に出来た曲ということは、これが次のアルバムの布石になっているわけでもないんですね?

ジャック どうだろうなあ(笑)。割とすぐに気が変わるタチなので、で今の時点ではなんとも言えない。ただ、他にもまだ良さそうな曲が『INDIGO』のレコーディングでできたので、それも今年中にEPで出したいと思ってる。楽しみに待ってて。

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Text by Kuroda Takanori
Photo by Kodai Kobayashi

INFORMATION

インタビュー|ワイルド・ナッシングが語る、いま自分が鳴らすべき音 OTCD-6463_cover

INDIGO

PRICE:¥2,300 +tax
FORMAT:CD
PRODUCT NUMBER:OTCD-6463
LABEL:BIG NOTHING / ULTRA-VYBE

1. Letting Go
2. Oscillation
3. Partners In Motion
4. Wheel of Misfortune
5. Shallow Water
6. Through Windows
7. The Closest Thing To Living
8. Dollhouse
9. Canyon on Fire
10. Flawed Translation
11. Bend
12. Letting Go (Instrumental) *
13. Oscillation (Instrumental) *
14. Partners In Motion (Instrumental) *
15. Wheel of Misfortune (Instrumental) *
16. Shallow Water (Instrumental) *
17. Through Windows (Instrumental) *
18. The Closest Thing To Living (Instrumental) *
19. Canyon on Fire (Instrumental) *
20. Flawed Translation (Instrumental) *
21. Bend (Instrumental) *
*日本盤ボーナス・トラック

Wild Nothing

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