“テクノの皇帝”として長きにわたり、シーンを牽引してきたDJ・プロデューサーのリッチー・ホウティン(Richie Hawtin)は2024年来日30周年を迎えた。記念ツアーを実施し、その勢いそのままに、今年オープン25周年の東京・WOMBで、<WOMB 25TH ANNIVERSARY PARTY>に出演することも決まっている。
リッチー・ホウティン名義で数々のミニマルテクノの名作を生み出しながら、プラスティックマン(Plastikman)名義やF.U.S.E.名義などでの実験的な音楽アプローチで、多くの日本のファンの心を掴んできた彼。実は、無類の日本酒好きとしても知られている。
初来日以降、日本酒の虜になったリッチーは、自ら日本酒づくりの現場に赴き、杜氏として日本酒づくりに参加した経験もある。また自身のオリジナル日本酒ブランド〈ENTER.Sake〉では、本醸造の「BLACK」、純米吟醸の「SILVER」、そして純米大吟醸の「GOLD」の3つをベースに、さまざまな種類の日本酒を展開するなど、音楽制作に向き合う姿勢と変わらない熱量で日本酒と向き合ってきたのだ。
2014年には日本酒文化を広く世界に伝えるキーマンとして、日本酒造青年協議会から「Sake Samurai」にも任命。自身の拠点でもあったベルリンでは、日本酒専門店「SAKE36」をオープンするなど、日本酒を通したその活動は多岐にわたっている。
そんな彼が、クラバーなら誰もが知る東京・WOMBの25周年記念パーティー開催に合わせて、新潟の老舗酒蔵である「阿部酒造」とコラボレーションし、特別にオリジナル日本酒「SPARK」を発売することを発表。今回このオリジナル日本酒「SPARK」について、リッチーにインタビューを実施した。オリジナル日本酒発売の背景には、昨年リッチーが敢行した30周年記念ツアーが関係していた。
INTERVIEW
Richie Hawtin

昨年、来日30周年のツアー<RICHIE HAWTIN 30 YEARS JAPAN TOUR>をリッチーが実施するに至ったのは、長年親交が深いWOMBとの交流がきっかけだった。
リッチー「このツアーのアイデアが生まれたのは、今思えばとても自然な流れだった。昨年6月、東京でWOMBのチームと食事をしていた際、2024年が来日30年目になると気づいたんだ。そこでみんなと盛り上がり、『秋に小さなツアーを企画できないかな?』と相談したことが、30周年ツアー実施のきっかけになったよ」
リッチーとWOMBの交流は、WOMBのオープン当初から続いている。25年にわたり絆を深めてきたなかで、リッチーはWOMBで現在のパートナーと出会い、結婚披露宴もWOMBで行うほどの関係にまでなった。この両者の関係が、リッチーの日本への深い愛着につながっている。
リッチー「この25年間、(WOMBのオーナーである)中川さんやWOMBのチームとともに過ごすなかで、僕の日本文化への理解と愛情はますます深まっていった。彼らと共有してきた数々の人生を変えるような体験にとても感謝しているし、大きな誇りを感じているよ」

2014年にリッチーが「Sake Samurai」に任命された際、日本酒造青年協議会との縁を紡いだのが中川徳章氏だった。またWOMBのブッキングを担当するYuuki氏は、リッチーがオーナーを務める日本酒専門店「Sake 36」の立ち上げの際にも協力。リッチーが日本酒の世界に踏み込むうえで、WOMBのメンバーは欠かせない存在だった。
オリジナル日本酒「SPARK」の実現に至った経緯について「WOMBの特別なアニバーサリーを「日本らしい形」で祝うこと、つまり僕たちが長年関わってきた『音楽と日本酒』を組み合わせることはごく自然な流れだった」と、リッチーは語っている。

昨年の来日30周年ツアーでリッチーはフィナーレとして、中川氏が営む恵比寿のBar Blissで、日本酒を通じて関係を築いてきた多くの関係者を招き、親睦会を開催。自身の日本酒ブランドである「ENTER.Sake」で展開する3つの日本酒を振る舞いながら、訪れた客人たちと親睦を深めたリッチーは、その場でWOMB・阿部酒造とともに新たなプロジェクトを始動することを発表した。

今回「SPARK」でリッチー・WOMBとコラボレーションする阿部酒造は1804年から続く、新潟県柏崎市の酒蔵だ。6代目を務める阿部裕太は、20代を中心とした若い蔵人らとともに、2015年に自ら立ち上げた新ブランド「あべ」シリーズなどのさまざまな日本酒を手がけながら、日本酒に興味を持つ層を広げるため、阿部酒造として初めてノンアルコールドリンクづくりにも挑戦。また日本酒づくりの関係人口を増やすことを目的に、酒蔵を作りたいという目標を持った人たちを研修生として受け入れる研修制度を取り入れている。
「SPARK」でのコラボレーションを実現するにあたって、未知の領域に果敢に挑戦する裕太氏と対話を重ねたというリッチーは「日本酒づくりに新しい価値観をもたらす次世代の酒蔵だ」と実感したという。
リッチー「彼の哲学や醸造スタイルに心から感銘を受けたんだ。多くの人を巻き込み、そして誰に対してもオープンでいる彼の姿勢は本当に素晴らしいと思ったし、僕たちの考えにも合うものだった」

彼が今回「SPARK」を世に出すうえで、最も望んでいること。それはクラブに繰り出し、音楽に熱中する若者と、自身が愛する日本酒との接点を作ることだ。だからこそ、WOMBと阿部酒造とのタッグが欠かせなかった、とリッチーは語る。Bar Blissでの親睦会でも、今回の特別なコラボレーションについて、こう締めくくっている。
リッチー「今回のWOMBとのコラボレーションで中川さんと僕は、音楽シーンやナイトライフでの僕らの立場を活かして、日本の若いクラバーたちにもっと日本独特の文化のひとつである日本酒への理解を広め、熱意を持ってもらうことを目的としているんだ。阿部さんと協力することで、彼らに共感してもらえる味や姿勢を届けることができると信じているよ」





INFORMATION
WOMB 25TH ANNIVERSARY PARTY
2025.4.19(土)
23:00-4:30
DOOR ¥7,000/ADVANCE ¥6,000
RICHIE HAWTIN, GONNO, MACHÌNA 他
MUSIC:TECHNO, HOUSE, DRUM&BASS