今、アジアの’90年前後生まれで、ことにインディーズを出自に持つアーティストは国をまたいでツアーやライブを行い、交流を果たし、全世界的な音楽シーンの地図を着実に塗り替えつつある。USで最短距離の成功を果たすといったビッグ・ビジネスとはまた違う温度と文脈で育ちつつある興味深い動向だ。

9月にライブで来日したチャーリー・リム(Charlie Lim)はシンガポールの新たなポップシーンを代表するシンガーソングライターで、日本では<SUMMER SONIC 2018>に出演した他、香港、オーストラリア、インドネシア、韓国などのフェス/イベントにも出演している。愁いを帯びたネオソウルにポストロックやエレクトロポップなどを融合した音楽性と、柔らかなボーカルは狭義のジャンルにカテゴライズするのはナンセンスに感じられる。

そこで今回は〈キャロライン・インターナショナル(Caroline International)〉のレーベルメイトでもあり、エクレクティックな音楽性でリンクする部分も多いWONKのメンバーと、同世代ならではの音楽観や同じアジアのアーティストとしての共感、異なるバックグラウンドについて対談を実施した。

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Photo by Kana tarumi

Interview:
Charlie Lim × WONK

──WONKの皆さんとチャーリー・リムさんが並ぶと5人バンドっぽいですね(笑)。皆さん同世代ですか?

井上 幹(Ba.&Syn. 以下、井上) そうです。多分30歳前後。

──では同世代としての共通項や、同じアジアのアーティストとしてのビジョンなどを伺えればと思います。まずWONKの皆さんがチャーリー・リムさんの作る音楽に共感できる部分は?

井上 僕は昨日、ライブを拝見して、オリジナルの曲の他にもカバーでマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の曲と、あとJ・ディラ(J Dilla)が所属していたスラム・ヴィレッジ(Slum Village)の“Fall In Love”をやっていたと思うんですけど、それが結構、衝撃でした。というのも、僕らはJ・ディラの音楽をバンドサウンドでやるというところから始めたバンドなので。

Slum Village – Fall In Love

チャーリー・リム(以下、チャーリー) 実は僕がメインで一緒にやってるバンドのメンバーからずっとWONKのことは訊いていたので、WONKがスティーヴ・マックイーン(The Steve McQueens、シンガポールのネオ・ビンテージ・ソウル/ジャズバンド)と共演したショーも観に行きました。とても素晴らしかったし、ショー自体もエネルギッシュですごく楽しめました。

荒田 洸(Dr. 以下、荒田) あと、インタビューでソウルクエリアンズ(The Soulquarians)をチャーリーさんが聴いているというのを読んだんですけど、僕らもめちゃくちゃ聴いてて、その点もかなり被ってますね。

チャーリー コラボレートすべきですよね、僕たち(笑)。

──チャーリーさんはメルボルン大学ではジャズ・パフォーマンスを専攻していたとか?

チャーリー ジャズ・パフォーマンスを専攻していたんですけど、3年生ぐらいになってから、あんまり勉強したくなくなったんです。自分の音楽を作ってる方が楽しくなっちゃって、そっちに集中してましたね(笑)。一応、卒業できるぐらいの勉強はして卒業したんですけど、本当にジャズ・パフォーマンスを真剣に勉強していた訳ではないんですよ。

──同世代のジャズの音楽性にピンとくるタイミングってあったと思うんですよ。

井上 それこそチャーリーが、オーストラリアのメルボルンで勉強していたなら、ジョーダン・ラカイ(Jordan Rakei)とかハイエイタス・カイヨーテ(Hiatus Kaiyote)とか、新しい世代のジャズを代表するアーティストがしっかりシーンにいたんだろうなと思う。

チャーリー うん。ハイエイタス・カイヨーテはアメイジングなバンドですね。皆さんのスタイル的にも通じるところがあると思うし。残念ながら、ハイエイタス・カイヨーテは最近あまり活動していないみたいですが、もしかしたら何か企んでいるのかな? と思っているのでこれからの動きはとても気になります。

皆さんはロバート・グラスパー(Robert Glasper)もクリス・デイヴ(Chris Dave)も知っていると思うけれど、J・ディラっぽいサウンドがリバイバルとして色々な人が自分たちなりに消化しているのはすごく楽しみですね。

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Photo by Kazma Kobayashi

──今、代表的な名前が出たと思うんですが、世界的に同時進行で起こっていたムーブメントですね。

チャーリー 先日、ジェイコブ・コリアー(Jacob Collier)が来日していたみたいだけど、彼もアメイジングだよね。ジャズっていうのは今やユニバーサル・ランゲージになっていると思います。

井上 僕らも割とそうかもしれないですね。ユニバーサル・ランゲージという意味でもそうですし、僕らのバンド内でも共通項は割にそこにあると思う。ジャズをそんなに深く聴いてない僕みたいなメンバーもいるし、詳しいメンバーもいる。で、その次のディアンジェロ(D’Angelo)といったネオソウルの時代からは僕もみんなも同じように影響を受けているんじゃないかと思う。

チャーリー アルトサックス奏者でモダンジャズの創始者であるチャーリー・パーカー(Charlie Parker Jr.)を高校時代に知るきっけかになったのも、日本のジャズバンドのurbのアルバム『urb+bru』で。いわゆるオーセンティックなジャズ音楽というよりも別のフィルターを通してジャズの歴史みたいなものを知って育ってきたんです。

──あと、他にはチャーリーさんはレディオヘッド(Radiohead)の音楽的な影響も大きいとか。

チャーリー そうですね。昔から聴いているんだけど、トム・ヨーク(Thom Yorke)は素晴らしいソングライターだし、アレンジメントも素晴らしい。様々なジャンルを融合させる力というか、実験的にエレクトロニックやロックを融合しながらも、必ず軸としてエモーションやソウルがあって、それを歌を介して伝えられるという素晴らしい才能がある人だと思う。ソウルって言ってもソウル音楽という意味じゃなくて、魂の部分をきちんと正直にありのままに表現できることが素晴らしい人だと思うし、僕も色々な音楽を混ぜながらも魂の部分を表現していきたいと思う。

──WONKの皆さんはオルタナティヴなロックからの影響はどれくらいあるんですか?

井上 僕個人ではかなり影響を受けていますね。むしろ、僕はずっとロックを聴いて育ってきまたんです。ロックとディアンジェロを同時に聴いてきたので、そこはWONKのプロダクションにも少なからず影響してるかなと思うところはあると思いますね。

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Photo by Kazma Kobayashi

──メンバー各々、影響を受けてきた音楽は違う?

江崎 文武(Key. 以下、江崎) 僕はロックバンドに関しては一切通ってこなかったので、レディオヘッドもオアシス(Oasis)もブラッド・メルドー(Brad Mehldau)を通じて知った感じで(笑)。

だから、彼(チャーリー)は1人でやっているけど、僕らは4人でやっているからそれぞれ全然違う音楽を聴いてきて、その結果が色々混ざっているんです。でも、結局みんなの折衷をいい形で出す、いろんなジャンルをまとめていいものを作るっていう姿勢は、かなり近しいものがあるのかなと思います。

チャーリー 実はソロ・アーティストであるというのは幸運でもあり、不幸でもあるときがあって、バンドの方々を見ているとバンドのメンバーで色々とクリエイティヴなことをするときっていうのはみんなで協力し合うこともできる。もちろんバンドは、違うクリエイティヴな志向があってぶつかり合ってしまうことがあるかもしれないけども、それがうまく融合されたときって、とてつもなく素晴らしいものが生まれるだろうから、そういう意味では羨ましい。やっぱり、1人でやっていると部屋でずっと悶々とすることがあるからね。

──長塚さんにお聞きするんですけど、ご自身がソロのシンガーソングライターだったらいかがですか?

長塚健斗(Vo.、以下、長塚) チャーリーのライブを見て思ったのは、バンド形態だったんですけど、途中で「タバコ・ブレイクだよ」って言ってバンドを休ませて1人で弾き語りしていたんです。僕はその曲にすごく痺れたんですよ。そこが僕にはできない。僕らはバンドなので、シンガーソングライターのライブってできないから、それは羨ましいというか。

井上 どういうことだ?(笑)

荒田 やればいいじゃない(笑)。

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Photo by Kazma Kobayashi

──話題を変えるんですが、今、皆さんが音楽でも音楽を含めて気になっていることはなんですか?

チャーリー シンガポールって国として若い国であるので、日本と違って国民すべてがまだアイデンティティを模索してる段階なんですね。政府から第一言語を英語にしろということで、アーティストが音楽を作る時は英語で歌わなくちゃいけない。そして、その音楽を欧米に持っていくと、ネイティブの発音とは違うのですごく批判をされたりすることは事実としてあるんです。そういった意味ではシンガポールのローカルのアーティストはすごく苦労していると感じますね。

──そういう実情があるんですね。

チャーリー 先日まで台湾でパフォーマンスをしていたんですけど、台湾にはいわゆるローカルな言語で歌っているアーティストをサポートしている動きは自然とありますね。今、東南アジアはすごく成長しているじゃないですか。その中で、自分たちのアイデンティティにもっと誇りを持って、それをサポートしあえる状況が生まれるといいですね。

僕たちは欧米の音楽から影響を受けてはいるけれども、そこから生まれるのはオリジナルな音楽だっていう誇りを持って、地元の人が応援してくれる動きが生まれたら嬉しいなと思います。

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──日本とはまた状況が違いますね。

井上 日本は日本語という歴史の長い言語を使ってきた国なので、そこで生まれた僕たちが英語で歌っているということは国内の人から見ると受け入れられにくいというか。日本語じゃないから聴かないって人はかなり日本にはいます。だから、その悩みは近いようで遠いようで面白いなと思いましたね。

日本は、言語だけじゃなくてあらゆる面で問題があって、どうやったら自分たちの音楽を外の人に聴いてもらえるか? という所を今なんとかしようとしていますよね。もしかしたらその問題に近しいのかもしれない。

江崎 言語でいえば、チャーリーさんの“Zero-Sum”って曲は京急の駅の音がサンプリングされていて、あと“Welcome Home“のMVでは日本語の字幕が流れたり、すごく日本寄りだなと思いました。

チャーリー 僕が日本を尊敬するのは、文化的な部分でこだわりを見せて貫く職人的な繊細な部分で、それは音楽だけじゃなくあらゆる部分で感じるからなんです。

Charlie Lim – Zero-Sum

Charlie Lim – Welcome Home [Japanese Subs]

──どうやら隣の芝生は青く見えるというジレンマが付きまとうようですね。

チャーリー 例えばアメリカなんて、僕たちミュージシャンにとっては一つの夢で、子供の頃からグラミーとかを見て、受賞したいって夢を持ちながらやってきているけど、取れたら取れたで、「中国の方がマーケットが大きいから、中国に行った方がいい」なんて言われるのがオチで。そういうジレンマはあると思います。でも、そんなことより大事なのは、ミュージシャンとしての旅をして、新しいファンに1人ずつ出会って、少しずつ成長していくことだから。

──WONKの皆さんがシンガポールでライブをされた時の印象はいかがでしたか?

井上 僕らがやっている音楽のリスナーの人口はまだまだシンガポールでは少ないのかなと思ったんですけど、それは日本でも同じことが言えると思います。ただ、間違いなくシンガポールのシーンみたいなものはあるなと感じましたね。ライブをやっていた側の僕らからすると渋谷でやるのもシンガポールでやるのも、パリでやるのもあんまり違いは感じないんです。

江崎 日本って割とサブカルチャーというかアンダーグラウンドなシーンを国が支援していくことはないので、エスプラネード(シンガポールにある総合芸術文化施設)や、公的な機関が関わっているような場所で、国として僕らのようなバンドを招いて交流を産もうという気概がすごくいいなと思いましたね。これから成熟していく市場だし、めちゃめちゃいい姿勢だなと思いました。

チャーリー シンガポールが最近、アンダーグラウンドのシーンだったり、サブカルチャー的なところを国が少しずつサポートするようになってきたっていうのは、今、この時代に一番重要なのは文化的な交流であるということを国自体が認めるようになってきたからなんです。例えば、自分が海外ツアーに出るときは旅費の一部を少し援助してくれたりするようになってきて。でも当然、申請がすごく多いから援助をもらうことはすごく大変なんだけど、そういうシステムが一応できているというところは国としてあるかな。

──ところでWONKは〈キャロライン・インターナショナル〉日本第1弾アーティストですし、これからもし一緒にできることがあれば何をやってみたいですか?

井上 日本でもシンガポールでも対バンしたい。

チャーリー 歌を一緒に作れたら嬉しいし、いつでもバンドの人たちと仕事をすると楽しいんです。新しいバンドみたいに、みなさんと一緒に1曲作れたらすごく嬉しいなと思う。

長塚 やりましょう(笑)。

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Photo by Kazma Kobayasi

<BIG ROMANTIC JAZZ FESTIVAL 2020 PRE-EVENT
Charlie Lim Japan Tour「Charlie Lim x Tendre」
~ Big Romantic Jazz #2>

Charlie Lim SETLIST

Welcome Home
Zero-sum
What Can I Do
Choices
Blah Blah Blues
Human Nature(Michael Jackson cover)
Bitter
Pedestal
Light Breaks In

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Photo by Kana tarumi

Text by 石角 友香
Photo by Kazuma Kobayashi、Kana Tarumi(Moon Romantic)

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Charlie Lim
シンガポール出身のシンガー・ソングライター/プロデューサー。幼少期からピアノを始め、14歳の時にオーストラリアに渡り、メルボルンの大学でジャズ・パフォーマンスを専攻、現在はシンガポールを拠点に活動している。2011年にメジャー・デビューEP、2015年にリリースしたデビューAL『TIME/SPACE』は、シンガポール最大手メディア、ザ・ストレーツ・タイムズ紙から“ベスト・ポップ・アルバム”と称され、シンガポールのiTunesチャートで1位を獲得した。3年後の2018年には2nd AL『CHECK-HOOK』をリリースし、シンガポール建国記念パレードを含む海外の主要な音楽フェスティバルに出演、チャーリーの音楽はアジア全体に渡り、広まった。更に、今だにシンガポールのアーティストが成し得たことのないモザイク・ミュージック・フェスティバルでのショーを完売を達成し、エスプラネード・コンサート・ホールでヘッドライナーのショーを実現するという2つの大きな出来事を成し遂げた。

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WONK
東京を拠点に活動するエクスペリメンタル・ソウルバンド。2016年9月に全国リリースした自身初のフルアルバム『Sphere』は第9回 CDショップ大賞 ジャズ賞を受賞。ジャズやソウル、ヒップホップなど様々な音楽に影響を感じさせる彼らの幅広い音楽性は多方面から注目されておりデビューわずかながら、2017年夏には第16回 東京JAZZやBlue Note JAZZ FESTIVAL 2017、SUMMER SONIC 2017、FUJI ROCK FESTIVAL 2018等に出演。また米Blue Note Recordsを代表するシンガーJosé Jamesの最新アルバム『Love in a Time of Madness』のリードトラック 『Live Your Fantasy』のリミックスを担当、ヨーロッパ2大都市公演を成功させるなど、国内に留まらず海外からも多くの注目を集めている。

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WONK – Orange Mug(Official Audio)

WONK – Sweeter, More Bitter(Official Audio)

WONK – Blue Moon(Official Audio)

RELEASE INFORATION

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CHECK-HOOK

2018.10.12(金)発売
Charli Lim

TRACKLIST
1. Welcome Home
2. Circles
3. Zero-Sum
4. Better Dead Than A Damsel
5. Least Of You
6. Premonition
7. Unconditional

SpotifyApple Music

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Moon Dance

2019.07.31(水)発売中
WONK
¥2,000(tax incl.)

TRACKLIST
1.Blue Moon
2.Orange Mug
3.Sweeter, More Bitter
4.Mad Puppet
5.Phantom Lane

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EVENT INFORMATION

WONK’s Playhouse

2019.12.02(月)
OPEN 18:30/START 19:30
LIQUIDROOM
ADV ¥3,800/DOOR ¥4,500(1ドリンク別)
LINEUP:WONK and many special guests
TICKET:チケットぴあローソンチケットイープラス

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