Yogee New Wavesの鳴らす音楽の根源には、ロマンティシズムがある。
イメージに身を委ねることで、音楽が、今まで見たことのない場所に連れていってくれる。想像力への無上の信頼が宿っている。だから、彼らの音楽は、今までシティ・ポップとかメロウ・サイケとかいろんなジャンル名で括られてきたけれど、むしろ、そういうマインドが醸し出す恍惚感や心地よさのムードが通底している気がする。《ねえ 月まで行こうか》と歌う表題曲“to the moon”を筆頭に、さまざまなタイプの楽曲を収録したEP『to the MOON e.p.』はそういうことを改めて感じさせてくれる一枚だ。
この秋には台湾、タイ、マレーシア、中国をめぐるアジアツアーも開催し、各地で大きな盛り上がりを生んできた彼ら。国境を超えて支持を広げるバンドの今とこの先について語ってもらった。
Interview:Yogee New Waves
━━1stアルバムの『PARAISO』から2nd『WAVES』、3rd『BLUEHARLEM』という過去3枚のアルバムは「島三部作」という位置づけだったと過去に語っていました。それを経て、“to the moon”はどんなタイミングで生まれた曲なんでしょうか。
角舘 健悟(Vo/Gt 以下、角舘) 『BLUEHARLEM』というアルバムが出た後すぐにはもうできてました。「BLUEHARLEM」に滞在している時期はとっくに過ぎていて、もう船で出発している。でも、まだ向かう先は暗中模索だというのをなんとなく認識していて、その矢先に“to the moon”ができた。それで「ああ、月に行くんだ」って思ったんですよね。昔から漠然と月に対しての興味はあったんですけれど、それが実った作品だと思います。5月の頭にNYに一人で行ったんですけど、夜中にスパニッシュ・ハーレムという結構治安が悪いところを歩いていたら、地面に「to the moon」ってスプレーで書かれていたのを発見して。
━━今作のジャケット写真になっているのがまさにその写真?
角舘 そうですね。「ああ、ここから月なんだ」って思って、それで全てが合致したというか。今まで持っていた自分の月に対する興味と、作っている曲と、この「to the moon」という魔法の言葉が合わさって「あ、できたな」って思った。もうリフもあって、歌いたい気持ちもあったけれど、それを言語化できないもどかしさがずっと続いていたんです。そのモヤモヤが地面を見た瞬間に解決したという。
“to the moon”配信ジャケット画像
━━月への興味があったというのはいつ頃からなんでしょう。
角舘 2、3年前くらいからです。最近になって「月に行きたい」っていう気持ちが出てきた。お金さえあれば行けるんだなって思ったんです。
━━それこそZOZO前社長の前澤友作さんが月旅行のプロジェクトを発表してますもんね。ある種の夢物語だったことが、一気に現実になった。
角舘 前澤さんがアーティストを募集しているらしいというのは最近やっと知ったんです。前澤さんの良いところって――「月に行きたいです」なんて言ったら、みんなに絶対バカにされるじゃないですか? 「行けるわけないよ」とか「バカ言ってんなよ」みたいなことを口を揃えて言われる。でも、前澤さんは本当に行こうとしているし、それを言う。言った時点で「行けるな、この人は」って、強く確信めいたものはありました。
━━角舘さんも、みんなに「バカ言ってんなよ」みたいに言われそうなことをやっちゃう側の人間ですよね。
角舘 そうですね、何も考えずに「俺、やります」みたいなことを言っちゃう。
━━そういう意味でも共感はあった?
角舘 めちゃくちゃありましたね。なんか、みんな目標を近いところに設定しすぎていると思うんですよ。それを達成したからオッケーっていうのはわかるけれど、どちらかっていうと、たとえば「月に行きたい」とか「俺は神様になりたい」みたいな気持ちがあったら、プロセスを考えずにそこに真っ直ぐ歩いていけばいいのにな、と思う。そうすれば神になれなくても、近いものにはなれるから。これは、全ての人に対して思うことではあるかな。
━━そういう感覚って、バンド全員で共有してるもの?
粕谷 哲司(Dr 以下、粕谷) (角舘)健悟が「月に行く」って言ったら、たぶん行くんだろうなって思うところはあります。現実的なところでリアルに月の行き方を調べているわけではないんですけど、見ているだけのものが行けるところに変わるっていうのはすごく魅力的なことだと思うし。一緒に月に行きたいなって思うようにはなってますね。
上野 恒星(Ba 以下、上野) 僕はタイプとして月は眺めているのが好きだし、実際に行くかどうかは分からないですけど、ただ、そういう話にはすごく興味があります。バンドって、誰かが考えていることに乗ってみて、それをやってみて気付かなかったことを学ぶところもあるから。本当にみんなで月に行こうってなったら、行ってみようかなって思うかもしれませんね。
竹村 郁哉(Gt 以下、竹村) 僕も上野くんと似ていて。それが月に行くという本当の行為なのかはわからないですけれど、この“to the moon”をレコーディングしている段階でも、感覚をみんなで共有して曲ができた。そこに嘘はないなって思いますね。
━━これ、すごくいい話だなって思うんですよ。たとえばバンドの目標とか夢を語るときに「武道館に立つ」とか、いろんな言葉があると思うんです。でもYogee New Wavesの場合は「月に行きたい」というキーワードがある。しかも、それを現実の日常の地続きなものとして捉えている。つまり、これって思っていることを言葉にすることで、一歩踏み出せるということを示す曲になっていると思うんです。角舘さんって、昔からそういう考え方を持つタイプの人だったんでしょうか?
角舘 意識し始めたのは最近ですけど、イメージがすごく大事だとは思います。漠然としすぎてイメージできないのもわかるけど、そこに行っている自分がイメージできたら、緩やかに自分の人生はそこに向かっていくものだと思っているから、悲観的にならないことが大事。「どうせ僕なんてあそこのステージに立てないんだ」って思っているヤツは誰も立てないけれど、そこにいる自分を想像できたら、そこに近いものにまでは絶対に行くと思う。
━━そういう考え方が共有されているのは、バンド自体のムードの変化もあるんじゃないかと思うんですが、そのあたりはどうでしょう?
粕谷 このメンバーになってもう2年で、一緒にいる時間が長くなってきて、その中で全員がいろんな変化をし続けていると思うんです。人間的にも、好きな音楽とかも。でも、それはすごく良いことだと思っていて、停滞している感じが全くない。みんなどんどん新しい面白いものを見つけようと動いている感じが素敵だなと思います。
角舘 Yogee New Wavesは、最初のメンバーがいて、直紀くん(矢澤直紀)、粕谷くん、みっちゃん(松田光弘)が入ってきて、2人(矢澤直紀、松田光弘)が辞めて、この2人(竹村郁哉、上野恒星)が入って来てとか、いろんな変化があったんですけれど。今のところ同じメンバーでやってきている時期が最長なんですよね。それを実感する瞬間が最近あるんです。ちゃんと信頼関係があるから言いたいことが言い合える関係性になってきている。バンドだな、って感じがします。音と、思想と、言葉と、メンバーと、全てが一致しているからこそ、こうやってスムーズに作品ができたなって思ったんですよね。
━━“to the moon”は、東京をモチーフにした曲ですよね。歌詞にも「ここは東京 いかれた気分さ」というフレーズがある。これはどういうところから出てきたものなんでしょうか。
角舘 幼少期の記憶に戻るんですけど、俺、早稲田の出身なんです。で、子供の頃、夜11時に家の前で大学生達が騒いでいて「うるせえなあ」って思ってました。けれど、ここは東京でそういう街だから仕方ないって思ったんですよ。うるさいのはここに住んでいるからだ、仕方ないかって、子供ながらに。その時に、都市のうるささみたいなのと向き合うことをやめたというか。たとえば最近はハロウィンでみんな騒いでいるけど、渋谷でみんなで仮装したら楽しいに決まってるし、それはもう街の特性として仕方なくて、それをどうこう言うこと自体がナンセンスだなって俺は思っています。そういうことを書きました。
Yogee New Waves – to the moon (Official MV)
━━なるほど。都市の狂騒を離れたところから見ている自分みたいな視点が、子供の頃からの原風景としてあった。
角舘 そうですね、どうやったってそこは拭えなくて。だから仕方ない。「イかれた気分だから、お前はクソだ」じゃなくて「イかれた気分だよね」でフィニッシュで良いんです。それを判断する気は別にないっていうか。
━━ハロウィンに関して言うと、僕はハロウィンって現代の百鬼夜行だと思っているところがあるんですよ。平安時代の百鬼夜行も、あれが出たとされる場所って、当時の平安京で一番人が行き交う、今の渋谷のスクランブル交差点みたいな場所なんですよね。で、そこで死者や八百万の妖怪が行き交っている。そうやって、あれは1000年前からあったものだろうなと考えると、「仕方ない」という気持ちはすごくよくわかる。
角舘 たぶん、そこに神様がいないだけですよね。それこそメキシコに「死者の日」を見に行ったこともあるんですけど、あれは本当に神様とか霊とかを信じている上で行われているものだったんですよね。もちろん、ナンパしたり、痴漢したり、センスがないことをするやつがいっぱいいるなとは思いますけど、ハロウィンで盛り上がるのは仕方ない。
━━『BLUEHARLEM』までは、ある種の逃避的なイメージもありましたよね。東京に対しての視点は、今までとでちょっと変わってきた感じはあるんですか?
角舘 変わってきていますね。これまで5年くらい、都市から逃避をし続けてきたので。新宿で人身事故があるとか、サラリーマンが痴漢して逃げたとか、喧嘩したとか、ハロウィンで車がひっくり返ったとか、もう全然見たくなかった。そういう汚い部分を見るより、美しいものを見て、心が豊かに満たされていく感覚を楽しんでいたいって思ったんです。でも、改めて、ちゃんと向き合わなければいけないなっていう気持ちになってきた感じがする。それは時代性もあるし、バンドに自信がついたのかもしれない。前まではもっと、島に逃げたくなるような精神状態だった。タフになろうとしているのかもしれないですね。
━━ちなみに、この曲は『ひとりキャンプで食って寝る』の主題歌ですが、ドラマ主題歌的なことはどれくらい意識しました?
角舘 声をかけてもらって、タイトルとか企画書を見て「このムードに合うんだったら、僕らのこの曲はきっとぴったりですよ」っていう感じでレコメンドする感覚でした。だから「こういう曲を書いてください」とか、そういうものではなかったんです。でも、見事にマッチしたと思っています。キャンプしながら、月を見てサバ缶食って「月、行きてえな」って思ったら、最高じゃないかって思うし。
━━EPには表題曲以外にも“あしたてんきになれ”、“Honey Pie”、“Sweet Melodies”という曲が収録されていますが、これはだいたい同じような時期にできた曲?
角舘 そうですね。完成はそれこそ全曲、ほぼ同じタイミングくらいだったけど“あしたてんきになれ”のサビだけはヨギーを始めた頃から作ったものです。デモだけがずっとファイルの奥底にあったんですけど、それを忘れられなくて、引っ張り出して作りました。今じゃなきゃこの曲は書けなかったと思います。
Yogee New Waves – あしたてんきになれ(Official MV)
━━“Honey Pie”と“Sweet Melodies”はどうでしょうか?
角舘 “Honey pie”は詞が先にできていて、それでボンちゃん(竹村郁哉)がコードを持ってきてくれたんですよね。レゲエのフィーリングなんですけど、これはあっという間にできました。リフも超良いし、リズムと歌のノリも良い感じだし、サビも良いし、詞も至近距離という感じがあります。で、“Sweet Melodies”は他の曲ができあがった後に、絶対に1曲弾き語りを入れたいって思っていた中で作った曲ですね。
━━“to the moon”がメロウなポップソング、“あしたてんきになれ”がアップリフティングなモータウン・ポップ、“Honey pie”がダブ、“Sweet Melodies”が弾き語りと、スタイルは全部バラバラですよね。でも、フィーリングとしては不思議な統一感がある。このあたりってどう捉えていますか?
角舘 順番的には、“to the moon”ができて、“あしたてんきになれ”と“Honey pie”がドドドドってできて「あれ? なんか全部違くね?」みたいな感じだったんです。でも、全曲好きだし、全部が気に入ってるサウンドだから、これは僕らにしかできないなって思います。Sen(Morimoto)くんのリミックスもものすごく今っぽいんです。ちゃんとトラップの音作りを使って、ベースの音でコードを作ってるやり方とか、自分たちだと絶対にやらないけど、Senくんだからやってくれたことだし。最高のEPが出来ましたね。
━━Sen Morimotoさんとはどう知り合って、どんな風に進めていったんですか?
角舘 リミックスしてくれる人をずっと探していたんです。みんなでアイデア出したりとか、韓国のエージェントに連絡してみたりとかしたんですけど、いまいちしっくり来なかったんですよね。で、シンプルに元々好きだったのもあって、ダメ元でみんなに「Sen Morimotoってどうかな」って言ったら「良いじゃん、それでいこうよ!」ってなって。たまたまその週末にSenくんのライブが代官山UNITあったので会いに行ったら、すごくフランクで良い人でしたね。内気な感じとかもすごくピンときたんです。会ってみて「この人はすごく考える人だ」と思ったし。基本は、ディレクターがSenくんのエージェントとやりとりしてくれたんだけど、僕も「最高だったよ」みたいにDMで直接連絡してました。
━━Yogee New Wavesはここ最近、中国やアジア各国でのライブも増えてますよね。行ってみてどうでしたか?
上野 たとえばタイに行ったときも、行く前は「どれくらいのお客さんが自分たちの音楽聴いているんだろう」とか「本当に人が来るんだろうか」とか思ってたんですけど、いざライブをやったらすごく盛り上がりました。最初はチャレンジだと思ってやっていたけど、今は現実の話になってきていますね。中国も今度3回目のツアーを回るんですけど(取材日は11月14日)、「そんなこと本当にできるのかな」って思っていることをみんなで乗り越えてきた。だから“to the moon”で「月に行く」という話になっても、「ああ、今度は月か」っていう感じで。全然違う視点だとは思うんですけど、音楽的にも、やっていること的にも、そういうことの積み重ねのような気がするんですよね。
角舘 初めて行った時は訳がわからなかったんですよ。Spotifyも入っていない中国で、自分たちの音楽をどうにかして聴きつけて、こうやってライブに来ている若者がいるのかって、謎すぎるなと思っていました。後から聴いたら、違法ダウンロードだったらしいんですけど。でも、今はだんだんそのあたりが整ってきて、シンプルに観にきてくれているんだなって思います。
思想がわかるとか、言葉がわかるとか、中国の民度に合っているとかじゃなくて、本当に平等に音楽として見ている。演奏している僕らの表情とか動きを見て「この人たち素敵だな」と思ってくれている。音楽好きな人達がその日を楽しむために来ているから、考え方がシンプルなんです。俺らの音的には、タイが一番合いましたね。タイはフランクなノリで「いいよ、いいよ、もっと踊らせてよ!」みたいな感じがあったんです。こっちも思いっきりいけるし、一緒に場を作るムードがあった。中国は俺らのステージングを観ている感じがする。韓国もそうで、東京もそう。東京以外の都市はそんなことないけど。場所によって、そこに住んでいる人のムードが違う感じがする。
━━いろんな場所でライブをやって、自分たちの音楽がユニバーサルに受け入れられてきたわけじゃないですか。言葉で通じ合うわけでもないし、J-POPファンが集まっているわけでもない。すごく広いところでいろんな都市のお客さんと共有できるムードがあるというのは、自信に繋がるものなんじゃないかなと思うんですけど。そのあたりはどうですか?
角舘 そうですね、自信に繋がっています。ここからまた中国ツアーに行って、さらに自信に変わると思います。だけど、俺の気持ちとしては、今はアジアだけど、ヨーロッパとかアメリカとか、あとはイスラエルとかパレスチナとか、いろんな場所、孤独な人がいる場所でライブがしたいですね。そこで感じることをまた作品に持って帰ってきて、それを繰り返していけたら、めちゃくちゃ最高ですよね。
子供の頃の夢が「同じ場所で仕事をし続けたくない」というものだったんですよ。世界中で仕事がしたいとずっと思っていた。サラリーマンには絶対にならないって決めていました。で、今は着実にそうなっている。子供の頃に親に言っていた言葉の通り、アジアに行ってライブしたり、メキシコに旅行に行ったりしながら、作品を作っている。そういう有言実行をみんなで一緒にやれているのがいいな、不思議だなって思います。
Photo by トヤマタクロウ
Text by 柴 那典
Yogee New Waves
2013年に活動開始。2014年4月にデビューe.p.『CLIMAX NIGHT e.p.』を全国流通でリリース。その後『FUJI ROCK FESTIVAL』《Rookie A GoGo》に出演。
9月には1st Album『PARAISO』をリリースし、年間ベストディスクとして各メディアで多く取り上げられる。これまでに国内の多くのフェス、中国や台湾、韓国、タイ、香港などアジア各国でのツアーの成功など、海外での活動も広がる中、2019年3月には3rdアルバム「BLUEHARLEM」をリリースし、全国14公演に及ぶワンマンツアー「TOUR BLUEHARLEM 2019」を開催。
9月からは初のマレーシア公演、そして中国主要7都市を含む4カ国10都市に及ぶアジアツアーを開催中。さらに、最新曲「to the moon」が自身初のドラマタイアップ(テレビ東京系ドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」主題歌)に決定し、同楽曲を収録した4th e.p.「to the MOON e.p.」が12月4日に発売。
RELEASE
INFORMATION
to the MOON e.p.
2019.12.04(水)
Yogee New Waves
【CD+DVD】
VIZL-1657
¥2,500(+tax)
<CD>
01. to the moon(テレビ東京ほかドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」主題歌)
02. あしたてんきになれ
03. Honey Pie
04. Sweet Melodies
05. to the moon [Sen Morimoto Remix]
<DVD>
「C.A.M.P. DA HOI」
【7inch】
VIKL-30011
¥1,700(+tax)
Side A. to the moon
Side B. あしたてんきになれ