10月26日に1stアルバム『Bad Memory』をリリースした、Young Kee。素晴らしいアーティストの登場だ。

それまでにリリースした4曲も歌やメロディセンスに光るものを感じさせ、ライブ映像でも画面越しにスター性が伝わってくるほど、音の中で溺れながら自分の生命力を解放させているような存在であったが、1stアルバム『Bad Memory』ではさらなる高次元で音楽を探究している。

聴いた人の心の奥深くまで伝わる音楽を作るために、タイトル通り「悪い思い出」も含めて「悪い記憶力」を呼び覚まして自分の人生を振り返り、仲良い友達にすら言っていない部分もさらけ出して表現することを決意。そうして生み出された新曲12曲から成る1枚のコンセプトアルバムは、Young Keeの人生と聴き手の人生が交差し、蓋をしていた負の感情や自分への否定が葬られるようなエネルギーが宿っている。
サウンドはポップを主軸に、ふと口ずさんでしまうようなキャッチーさもある中で、単調にはいかないビートがそこらじゅうに忍び込んでいるオルタナティブな仕上がりに。このインタビューでYoung Keeの音楽に対する信念と覚悟を聞いて、私はこの先の作品も心底楽しみになっている。

INTERVIEW:
Young Kee

━━1stアルバム『Bad Memory』は音楽の中ですべて語っているような作品で、改めてインタビューでわざわざ言葉にする必要のあることとないことがあるなと思っていて。なので今日はYoung Keeさんがその中でしゃべりたいと思うことを話してくれればなと。

ありがとうございます。歌詞には自分が経験していないシチュエーションや情景も描いているんですけど、嘘か実かでいうと、実の感情を書いてますね。情景描写やストーリーが本当かどうかは聴いてくださる人次第ですけど、「気持ちに嘘はない」という姿勢で作り上げました。

━━ポップミュージックを作りたいという意志をYoung Keeさんの音楽から強く感じます。自分のことを歌いながらも、その曲が聴き手のものになってほしい、というような姿勢を。

そうですね。小さい頃からずっと「ポップミュージック」と言われるような、キャッチーで大衆性のあるものに惹かれてきたので。小中の頃はクリスティーナ・アギレラ(Christina Aguilera)、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)とか海外のメインストリームのポップスがすごく好きで。

中3のときに邦楽ロックが好きだったお兄ちゃんから米津玄師さんのアルバム『YANKEE』をおすすめしてもらって、それまで日本の音楽を聴いてもそんなにハマらなかったんですけど、『YANKEE』には日本の風土とか、日本でしか感じられないエモーショナルな気持ちとか、日本の独自性がリリックで表現されていてすっごく感動したんですよね。プラス、メロディ、ギターとか、楽曲の全部がよくて、自分が知らなかっただけで日本の音楽でもこんなにかっこいいものがあるんだと思って。もともとハリウッドスターになりたかったんですけど(笑)……「自分は何でもできる、最強」と思う時期あるじゃないですか?

━━ありますね、根拠のない自信がある年頃。

そう。「ハリウッドスターになるぜ」ってずっと信じてて、でも「あ、難しいかも」と思った時期に兄から『YANKEE』をおすすめされて、そのタイミングで女王蜂さん、東京事変さんとかも知って。その流れで音楽を目指すようになって、軽音楽部のある高校に進みました。

━━Young Keeというアーティスト名にしたのは……?

米津玄師さんの『YANKEE』に日本の音楽というものの魅力に気づかせてもらったので、リスペクトと感謝もありつつ。ヒップホップも聴いていたので、ヒップホップアーティストの「Young〜」を意識したのと、一見して日本人だとわかるよりは謎めいた感じというか、アジアのアーティスト感を出したいなと思って「Young Kee」にしました。あと僕は「ヤンキー」と言われるような見た目じゃないのに、「初めまして、ヤンキーです」って言ったら面白いなと思って(笑)。

━━Young Keeとして大事な1枚目のアルバムはどういう内容にしたいと考えたのでしょう。それまでに出した4曲を入れずにアルバムを作ったことも、この1枚で表現したいものがはっきりあったということの表れだと思うんです。

このアルバムを制作するまでに出した4曲は、自分がこれからやっていく音楽性や表現したいもの、音楽をやる意味に気づくまでの旅という感じでした。それはサウンド面でもそうだし、リリックもそう。4曲ともジャンルを変えていたのは、自分の歌声とか、自分のアーティスト性にフィットする音楽性を探っていたからで。

でも結局、ジャンルとか関係ないなというところに辿り着きました。自分の経験や感情から出てきたメロディや、それにつけるリリックを、より自分のイメージ通りに聴いてくださる方へ伝わるように音作りするのが一番大事だと思ったので。ジャンルはあとからついてくるから囚われなくていいんだなって。

━━本当に大事な音、メロディ、言葉、心を際立たせるために、他は削ぎ落としているような音作りをされている印象を受けました。だから描きたいものだけが色濃く出ている作品が完成しているなと。

そう言っていただけることがとても嬉しくて。愛着や熱意のないものは削ぎ落として、自分が心を向けているものだけで構築することを意識して作りました。リリックに関しても今までは、本当のことを言ってしまったらジャッジされてしまうんじゃないかって、聴いてくださるみなさんに自分の奥まで知られてしまうことへの恐怖心があったんですけど、そういうものも取っ払って、本当に思っていることやさらけ出したくないことも歌詞に入れようと思って。

それをジャンルにとらわれずに美しい音楽に昇華させていくことが自分の理想だなって、そういう想いで全編を作りました。自分の内なるものとか、抽象的じゃない歌詞とか、核心を突いたところとか、自分の人生の闇の部分とか……本当に思ってることを歌詞に投影するのは、自分からしたらすごくハードルが高かったんですよ。

━━相当な勇気と覚悟のいることですよね。それをさらけ出して、世に放って、しかも永久に残る作品にするという行為は。

そうですよね。本当に仲良い友達にも話したことないようなことも表現したいなと思って。

━━そういうふうに音楽を作ろうと決めたのは、どういう想いがあったからですか。

やっぱり、自分が本当に思っていることではないこととか、ちょっと言い回しをおしゃれにして伝わりにくくしちゃったリリックは、伝わることが少ないなと思って。レイヤーを重ねてぼかしちゃうと、聴いてくださる方に何が真意なのか、こちらが思っている以上に伝わらなくなっちゃうなって。ネガティブな内容であってもポジティブな内容であっても、さらけ出して伝えた方がより鮮明に共感してくれる方が増えるかなと思ったんですよね。

あと自分の好きなアーティストが、歌詞のレイヤーがすごく近いというか、生々しくて、嘘のないものを書いている方が多くて。せっかく自分も音楽をやるんだったら、自分が生き甲斐を感じられる姿勢で作品を作るためにも、嘘のない歌詞を書いて自分が本当にいいと思ったメロディだけを吟味して作るということをやるべきなんじゃないかと思うようになりました。

━━作り手がどうしても伝えたいことや、自分を丸裸にして書いた音楽・言葉には、無視できないくらい惹きつけられる力が宿りますよね。でも本質とは別のところでジャッジされる危うさもあるから、本当に怖いことだと思います。

自分にとってハードルが高かった「自分をさらけ出す」ということが、このアルバムでできた実感はあります。まだ全部はできてないけど、自分がやりたいことや伝えたいことの表現手法に近いものを成し遂げられたことが、このアルバムで得たいい経験だし成長だなと思います。どういう意志で音楽や言葉というものの力を借りて、表現者として何を伝えたいのか、伝えていかなきゃいけないのか――音楽をやっている意味みたいなものに気づけたことが、このアルバムを制作して得た一番いい経験ですね。

━━今回のアルバムを作る上で、とっかかりとなったのはどの曲でしたか?

“Escape Car”がアルバムの中で最初に作った曲なんですけど、そこから本当に、今までと全然違って自分の気持ちに嘘がない歌詞を書き始めて。本当に伝えたいことしか入れていない作り方をして大体形になってきたときに、「あ、めっちゃいいじゃん」って自分でも思えるようになったんですよね。自分のことをさらけ出してもいいんだって思えたし、むしろさらけ出した方がかっこいいじゃんって。さらけ出すことに対する快感とこだわって精査して楽曲を作ることで得られる達成感は、このアルバム全編通してありました。

━━そもそもこのアルバムは、最初の挨拶を除くと「ごめんね」という言葉から始まるわけじゃないですか。「ごめんね」で始まる1stアルバム、なかなかないと思うんです。

これは一人に話しているようで、実はみんなに話していて。今までの人生で関わってきた人みんなと会話しているつもり。それには、自分自身も含まれています。今まで自分が傷付けちゃった人、迷惑かけちゃった人とか、いい思い出や経験をくれたのに自分の中でないがしろにしちゃっていたことに対する、いわゆる謝罪みたいな気持ち。それと一番大きいのは自分自身について「認めてあげられてなくてごめんね」という気持ち。自分というものを愛せてなくて、見つめられなくて、周りと違う自分が嫌だなと思っちゃってごめんね、という感じですね。

━━表題曲“Bad Memory”の〈拙い過去も悪い思い出も/今までのこと忘れたくない/誰かに触れて傷付いたこと/生きてることを許したいよ〉は、アルバム全体を端的に表しているラインだと感じたのですが、いかがですか。

そうですね。アルバムの表題曲だからリリックではアルバムのことをちょっと解説しちゃおうと思って。どういう意図を持って『Bad Memory』という表題にしたのかの説明役も担っている楽曲だと思います。このアルバムの核となる考え方の、弱い自分、好きになれない自分、認めてない自分、見られたくない自分、自分を愛せていない自分とかを全部さらけ出すという姿勢を取ってますね。

〈忘れた歩き方上手な喋り方/自分の名前すら聞きたくないよ〉という歌詞があるんですけど、実際に自分は人の意見やその場の雰囲気に感化されやすくて、あとから自分の行動を振り返って「何かやっちゃってないかな」とか考えなくていいようなことまで考え込んじゃったり、「自分って周りの人から見たらどうなんだろう」って第三者の視点を気にしすぎちゃったりして、自分が自分を一番見られていなくて。自分自身なのに本当の自分を知りたくないみたいな、自分自身を理解してあげることが大事だってわかってるけど、でもそれが怖い。そうやって、自分のことを認めてあげられない人って多いと思うんですよ。

━━〈それでも笑い方教えてくれた/あなたは絶対〉と続くところは、Young Keeさんにとってどういったことが救いになったのだと言えますか。

いろんな人に支えられて自分を肯定できるようになったとも言えるんですけど、どれだけ信頼してる人や大好きな人から「あなたは素晴らしいよ」と言われても、一番大事なのはそれを自分で自分に思うことで。「自分は弱いんだ」「自分は人と違うんだ」と認めて、それを「いいところじゃん」「それも僕だしあなただし」みたいに言えることができてから笑えた、という意味で書きました。〈あなた〉というのは第三者でもあり自分でもあるという感じですね。

━━自分で認めていないと、大事な人から言われた言葉でも疑っちゃったり流しちゃったりすることがあるんですよね。

今おっしゃったことが、このアルバムのタイトルを決めたことにも繋がってくるんですけど。僕って、忘れることで逃げてきたんですよ。自分が傷付いたり嫌だなと思うことをされたりしても、怒る、悲しむというより、忘れて自己防衛をするという手段を小さい頃から取ってきたんです。

でも、そうしていると、大切な家族や仲良い友達に言ってもらったいいこととか、大切な人たちと一緒に過ごした素晴らしい時間に対する記憶力もどんどん落ちていくんです。忘却という逃げの形を取っていたから忘れることが癖になってしまっていて、いいことも悪いことも全部一緒くたに忘れていく。それがずっと、すごく嫌だったんですよね。

━━〈デリカシーのない発言(“H.S.P.”)〉、〈笑えないジョーク(“Anthem”)〉とかを受け流す自己防衛の手段を繰り返していると、いいことでさえも自分の心に刻み込む方法を見失っちゃいますよね。

嫌だった思い出だけを忘れるって、人間、なかなか難しくて。蓋をし続けていくと、いいことも悪いことも一緒くたになってどんどん薄れていってしまいますよね。過去も全部掘り起こして、一個一個認めて愛してあげて、ということをいつかしなきゃいけないと思っていて、このアルバム制作をトリガーにして初めてちゃんと自分の人生に向き合いました。

嫌な過去もいい過去も思い出して、全部全部自分を見つめて認めて愛してあげるって、すっごく体力がいるんですけど、アーティストとして音楽の力を借りて人に共感してもらうということをやっているんだったら、それくらいのことをまず自分ができてないと何も伝えられないわと思って。それで気合いを入れてこのコンセプトにしました。

━━この音楽を作ることは、Young Keeさんにとって、それまでの4曲を作ったときとはどのように異なる喜びや解放感などの感情がありました?

このコンセプトで作っていると、少しずつ自分を愛せるようになっていくんですよ。それに、一緒にスタジオに入って楽曲制作をしてくれている岩本岳士さんと内山貫太さん(EVI)、あと今回から新たに編曲に加わってくれた宮内シンジさん(Wu Mang)に、アルバムの核となる部分や「音楽という力をお借りしてこういう表現をしたいです」みたいな話をしたことによって、深いところまで分かり合える仲間になれたと思います。一緒に音楽を作っている方たちとの信頼関係みたいなものができて、それがよかったなと思いますね。

今まで以上に、楽曲を作っていて楽しいなと思ったし、完成したときに「あ、音楽っていいな」ということを強く思いました。これからは本当に、表現方法に枷がない状態でやっていけるんだろうなと思って、もうワクワクしてます。

━━リスナーとも人生の深いところで繋がることができる音楽が完成していると思います。このアルバムを聴いていろんな状況にいる人たちが自分の人生を投影して救われる気持ちになるだろうし、人生レベルで必要とする歌がいくつもあるアルバムだなと。

めちゃくちゃ嬉しいです。それについては結構考えて。独りよがりの音楽になっちゃうのかなと思った時期もあるんですけど、自分自身のことを歌ってもどこか共通する感情を経験してきた方たちがいると思うので、包み隠さずに自分の彩度・明度高めで作っていくことによって共感の度合いが深くなるのかなというふうには思いました。

レイヤーが近くなったというか、より自分というものを理解してもらえたのかなというふうには感じています。普通に仲良い友達でも芯食った話とかってなかなかしないじゃないですか。でも芸術として見たら、やっぱり生々しかったり、本当のこと歌っていたりするものの方が自分も面白いと思うので。

━━本当にその通りだと思います。

その点で「この曲でなきゃいけない」みたいなパワーは上がったかなと思います。やるせないこととかどうしようもないことって人生にはたくさんあると思うんですけど、同じ経験をしてる人がここにもいるし、聴いてくれるみんなが人生を丸ごと愛せるようになってくれればなって。これを聴いて自分と同じようにスッキリしてもらえる方が少しでもいたら、それはもう、自分が生きて音楽をやっている意味だと言っていいと思います。

Text by Yukako Yajima

Young Kee

2021年8月に“Young Kee”として活動を開始した21世紀生まれのSSW。
作詞・作曲を手掛け、耳に残るギターサウンドとキャッチーなメロディー、ラフでストレートな歌詞、そして、アンニュイな容姿とは裏腹な甘さと渋みを併せ持つ歌声に反応するファンが急増中!

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RELEASE INFORMATION

Bad Memory(バッドメモリー)

Young Kee
発売&配信中

1.Summer Vibes(Intro)
2.Escape Car
3.Forgotten Memory 1(Interlude)
4.Heavens Like A Sauna
5.Abyss
6.Bad Friends
7.H.S.P.
8.Peach
9.Bad Memory
10.Forgotten Memory 2(Interlude)
11.Anthem
12.Yours Truly(Outro)

All Music & Lyrics : Young Kee
Mix : Daisuke Takizawa(Track 2,4,5,7,9,11)
Ayaka Toki(Track 6,8)
Takeshi Iwamoto(Track 1,3,10,12)
Mastering:Daisuke Takizawa

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