彼女の奏でる音楽に耳を傾けると、胸の奥を突かれるような不思議な感覚と、どこか見覚えのある情景を想起させる。これは2000年生まれ、Z世代のシンガーソングライター・由薫が生み出す楽曲を聴いたときの率直な感想だ。

一見すると普通の女の子のように見える彼女がなぜここまで人の琴線に触れる楽曲を生み出すことが出来るのか。その答えを探るべく、彼女のパーソナルな部分に焦点を当てながら、シンガーソングライター・由薫が辿ってきた軌跡、そして彼女の魅力について紐解いていく。

INTERVIEW:由薫

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日本、アメリカ、スイスで過ごした幼少期

由薫の軌跡を辿る前に、まず彼女の生い立ちについて触れておく必要があるだろう。2000年に沖縄県で生まれた彼女は、2歳のとき父の仕事の都合でアメリカに移住。3年過ごしたのちに石川県金沢市に1年間、そののち、スイスへ3年間、そして9歳のときに日本に戻るという、多くの場所を行き来する幼少期を過ごした。

そんな中で彼女のアイデンティティが形成されたのは、スイスでの3年間。インターナショナルスクールに通っていたこともあり、周りにはさまざまな人種の人間がいた。本人曰くスイスでの生活がめちゃくちゃ良くて。同じ学校にとてもフランクな感じで地元のお嬢様がいたりもして(笑)。それが当たり前だと思っていたし、いろんな個性があって楽しかった」という。

さまざまな多様性を感じながら生活をしていたスイスでの3年間を経験し、日本に帰国した彼女。日本に戻ってから感じたのはカルチャーショックに似た感情だった。「クラスのみんなからしたら私は宇宙人だった」と本人が話すように、今まで普通だと思っていたことが理解されないことも多々あったという。そんな環境を一度ゼロにしたいと思った彼女は中学受験を決意。中高一貫校に入学し、新たな人間関係を構築して当初抱いていたカルチャーショックから抜け出していく。

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転機となったオーディション

多くの音楽ルーツを持ちながらも、彼女が自発的に音楽と向き合うようになったのは、日本の生活にも慣れた15歳の頃。父と訪れた楽器屋で見つけた中古のアコースティックギターに出会ったことがきっかけだ。

「もともとテイラー・スウィフト(Taylor Swift)が好きだったこともあり、ギターには興味がありました。でもギターを買った日は、別に買うつもりはなくて。携帯の修理を待っている時間にたまたま入った楽器屋さんで、父に『いいギターだから』と言われて買ってもらったんです。それまで何をやっても続かない性分だったんですけど、ギターだけは熱中して続けることができたんです」

ギターの魅力に取り憑かれた彼女は、親友とカバーユニットを結成。のちにメンバーを増やしていき、バンド形態で文化祭のステージにも上がった。その後も音楽活動を続け17歳になった彼女は“雨少女”というオリジナル楽曲を制作する。本人曰く「雨女のこと歌った、変な歌です(笑)」とのことだが、その楽曲を友人に聴かせたところポジティブな反応が返ってきたという。

「《いつも一人で傘の中、前も見えずに歩いてた》みたいな歌詞から始まって、雨女なのでずっと雨が降っちゃうんですけど。晴れ男が来て、虹がかかったよみたいな感じで終わる曲なんです。それを歌ったら、友人はまず笑ってくれて。その後、褒めてくれてすごく嬉しかったんです」

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バンド活動やオリジナル楽曲の制作などギターを続けていく中で、彼女はひとつのオーディションに出会うこととなる。それはGYAOとアミューズが共同で主催した「NEW CINEMA PROJECT」。由薫はこのオーディションに応募したときのことをよく覚えていると話す。

「当時は部活も辞めてしまい人間関係でも悩んでいる時期で、学校から家に帰って何時間もギターを弾いていたんです。ふと、これだけ時間を費やしているものだから一度しっかりと挑戦してみようと思って。パソコンを開いて検索しているときに見つけたのが『NEW CINEMA PROJECT』でした。映画も好きだったし、好きなアーティストの事務所がやっているオーディションだったので興味を持ちました。グランプリを取りたいとは思ってなくて、純粋に評価されてみたかった。だから、1次、2次と通過するだけで嬉しかったんです」

このオーディションこそが、由薫が自分と向き合うきっかけ。ずっと蓋をしていた音楽をやりたいという気持ちが開放された瞬間だった。

「多分ずっと音楽をやりたいって思っていたんです。でも無理じゃないかなと自分で否定してしまっていて。自分の知らないところで自分を無視してしまっていたんですよね。そこに向き合うのには勇気が必要だったし。気付くのに時間はかかったけど、本当はずっとやりたかったことなんです」

由薫はこのオーディションで審査員特別賞を受賞。ここからシンガーソングライターとしての道を歩むことになるのだった。

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ジャンルレスな1st EP『Reveal』

ずっと胸の中にあった「音楽をやりたい」という気持ちをついに叶えた由薫。ここからは彼女の生み出す楽曲について紐解いていく。楽曲を通して感じるのは、彼女の内から出てくる言葉の豊かさ。人に寄り添い、情景を想起させる言葉の羅列は彼女の武器であり魅力だ。

中でもこのたびリリースされた1st EP『Reveal』は彼女の名刺代わりの作品であり、これまで彼女が抱いてきた思いが余すことなく反映されているように感じる。

「なんとなく分かってくださったら嬉しいんですけど、自分は今まで気持ちを抑えてしまったり、言いたいことが言えない性格で。私の音楽って、感情の自己処理で解決したところから始まっているんです。でも、作品として残すということは初めて自分の中にあったものを外に出すということ。それって自分にとってすごく大事な瞬間なんですよね。だから、隠されていたものが明かされるという意味がある『Reveal』という言葉が合うんじゃないかって思ったんです」

内に秘めた思いを解放した本作には、ピアノを主にした楽曲や横ノリのグルーヴィーな楽曲、往年のロックサウンドを思わせる楽曲など、ジャンルレスに彼女が音楽を楽しんでいることが分かるラインナップになっている。その理由を彼女はこう語る。

「私は自分がたくさんいると思っていて。その日に聴きたい曲もジャンルも変わるし、気分によっても変わると思うんです。それと同じように曲を作るときもその日の抱いている思いで変わってくる。例えば、“Fish”という曲なら、『月曜日まで生き残れるかしら』と自分がぽつりと思ったことをきっかけに書き上げた曲だし、”Yesterday”では《I’m not the same person I was yesterday》というフレーズとメロディを思いついてそのまま作りました。収録される5曲、すべて違う作り方なんです」

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生活をする上でそのとき感じたことや気づいたことを言葉にし、それと同時にメロディに言葉を乗せていくという由薫。だからこそ、等身大の彼女の思いがナチュラルに歌になっていくのだろう。そのナチュラルさが全面に出ているのが“Fish”という楽曲。これは彼女が19歳のときに、もしお酒に酔ったらと想像しながら書いた楽曲だ。この楽曲について由薫は19歳の頃じゃないと書けなかったと話す。

「やったことないからこそ湧く想像力ってあるじゃないですか。手が届かないからこそというか。でも実際にお酒を飲んでみると自分はお酒が強いみたいで……。全然酔えなくて(笑)。お酒飲む前の私だからこそ書けた歌詞ですね」

今まではこういった感情を言葉にし、歌にしてきた彼女だが、今回のEPの制作中、変化もあった。

「今まではナチュラルに言葉を紡げていたんですけど、少しずつ変化もしていて。自分が何をしたいのかというのを考えるようになったんです。言葉とより向き合いたい気持ちが芽生えたというか。SNSとかに流れる言葉じゃなく、詩のように言葉を言葉として紡ぎ出した言葉を書きたいと思うようになった。これからもどんどん曲の作り方は変わってくると思うんですけど、今はより自分で考えて作る段階に突入した感じです」

楽曲を制作するたびに成長を続ける彼女。きっと今回のEPを皮切りに彼女の生み出す音楽は強度を高め、多くのリスナーに認知されていくことだろう。さまざまなこと多角的に考え、それを音として表現できる優れた才能が由薫にはあるのだ。

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本、映画、ファッション
等身大の感情を作品に

そんな才能を持つ彼女も、普段は21歳の普通の女の子。どんなカルチャーに触れてきたのか聞いてみた。

生業としている音楽に関しては多くのジャンル、アーティストに触れてきたようだ。幼少期に観劇したミュージカル『ウィキッド』のサウンドトラックや自宅の車の中で聴いたカーペンターズ(Carpenters)やマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)、ダニー・ゴーキー(Danny Gokey)などさまざまな音楽が彼女のバックグラウンドには存在する。その中でもシンガーソングライターの存在とカバー曲の存在は彼女にとって非常に大きい。

「ギターを手にするきっかけになったのは、テイラー・スウィフトやYUIさん、あとエド・シーラン(Ed Sheeran)とかですね。あとは、ミュージカルの存在も大きくて、『glee』というドラマにハマったんですけど、そのドラマではカバー曲が多くて原曲も知らないままカバーを聴いていました。だからGoose houseとかも好きで、カバーからいろんな楽曲に触れるようになったんです」

自身のYouTubeチャンネルでもテイラー・スウィフトなどの楽曲をアップしている彼女。カバーをすることで、「いざ曲を作ってみようと思ったときに、自分の引き出しになっていた」と話すように、カバーをするということがある種、曲作りのヒントなっている。

Love Story – Taylor Swift (cover by 由薫)

由薫
公式YouTubeチャンネル

好きなことは音楽だけでなく、本や映画、ファッションと多岐に渡る。

「日本に来た当初、自分の居場所を探すのに必死だったとき、本の存在が助けでした。今でも読みますね。あとは、映画が好きです。実は一度映画を作りたくなっちゃったときがあって、映画研究会に入って助手として映画の撮影を手伝っていたことがあるんです。多分、モノを作ることが好きなんだと思います」

自分の感情を具現化したいという思いが強い彼女。溢れ出たアイディアをなんとか形にして誰かに見てもらいたいという精神は、現在のシンガーソングライターという生業に通ずるものがあると言えるだろう。続けてファッションについて聞くと、若者らしい答えが返ってきた。

「実は、最近物欲とかを抑えていて(笑)。一応まだ学生ですし……。でもイギリスのファッションが好きで、ヴィヴィアン・ウエストウッドが最近好きなんです。だから夜な夜なネットで調べてて。見てるだけでも幸せなんです」

また、セカンドハンドの品に魅力を感じるという彼女。物欲を抑える一方で古着屋を巡ることも多いと語る。

「初めて買ったギターも中古だったんですけど、中古のギターって新品よりも想像力が湧くというか、本当に“子”って感じなんです。その感覚が忘れられなくて、洋服に関しても同じように感じますし、古本も好きなんです。時代的にも再利用しようという風潮があるし、前の人の思いを想像する部分もある。一度は選ばれたものってそれなりの魅力があるんだなって思う。本にしても、楽器にしても、服にしても、そういうところに魅力を感じます」

最後にどんな人に音楽を届けたいかと問うと、アーティストとしての明確な思いを語ってくれた。

「歌詞を書くときに意識していることがあって。例えば、恋愛の曲なら恋愛してない人が聴いても思いが通じる歌詞を書きたいと思っているんです。一方に刺さる曲ではダメというか、聴いている人が傷つくようなものではダメだなって。だから出来るだけ年齢も性別も関係なく、届けられたらいいなと思っています。まだまだ努力しなきゃいけないですけど、人に寄り添う楽曲が作れたらいいなって思います」

人に寄り添う。言葉では簡単だが、実践することはとても難しい。しかし由薫が生み出す楽曲なら、この混沌とした世の中の希望となってくれるかもしれない。これからも彼女が紡ぎ出す言葉と音に期待をしながら、由薫のアーティスト・ストーリーに刮目していきたい。

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Text by 笹谷淳介
Photo by 柴崎まどか

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由薫
沖縄出身。2000年生まれ、Z世代のシンガーソングライター。幼少期をアメリカ、スイスで過ごす。15歳の頃、テイラー・スウィフトを始めとするシンガーソングライターに興味を持ったことからアコースティックギターを手にする。それをきっかけにカバーユニットやバンドを始め、17歳頃にはオリジナル楽曲の制作を開始。
2021年11月には、自身初となる3ヶ月連続デジタルシングルリリースを掲げ、その第1弾として『Fish』をリリース。その後、第二弾『Yesterday』、さらに年明け2022年1月には第三弾の 『風』をリリースした。そして今回1st EP『Reveal』をリリース。

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INFORMATION

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Reveal

2022年2月18日(金)
CD発売&配信スタート
由薫

収録曲
M1.Fish / M2.Leon / M3.風 / M4.Yesterday / M5.ヒヤシンス

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