由薫が1st EP『Reveal』を引っ提げ、Qeticに登場したのは、今年の2月。それから、約3ヶ月の時が経ち、彼女の環境は大きく変化した。

1つは、メジャーデビューが決定したこと。そのメジャーデビューシングルが映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』の主題歌として抜擢されたこと。そしてその楽曲をプロデュースしたのがONE OK ROCKToru氏ということ。

一見すると、普通の女の子のように見えていた由薫は、たった数ヶ月でよりアーティストとして確固たる信念を持ち、ひと回りもふた回りも成長していた。今回は映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』の主題歌として書き下ろされた“lullaby”の制作秘話を中心に、由薫にたっぷりと話を聞いた。

シンデレラストーリーと表現して差し支えのない彼女のアーティスト物語に刮目してほしい。

INTERVIEW:由薫

由薫──私にしか歌えない心の叫び|メジャーデビューで映画主題歌抜擢、Toru(ONE OK ROCK)プロデュース“lullaby”を語る interview220622_yu-ka-04

「映画主題歌」「Toruプロデュース」の驚き

──Qeticでは、今年の2月ぶりのインタビューになりますが、最近どうですか? 何か変化したことはありますか?

逆にどうですか? 何か、私、変わりましたか?

──おっ! 逆質問ですか(笑)。なんだろう、すごく大人っぽくなったというか、自信が表情から垣間見られるというか。

あはは(笑)。そう言っていただけると思っていました!

──2月のインタビュー後、興味を持ったことや音楽的に変わったことはありますか? ライブもかなりの数をこなされている印象ですが。

ここ最近、自分の作りたい音楽についてすごく考えたりしました。そういう意味では、以前より視野が広くなったというか、少しずつですが、より自分を理解できるようになったかなと思います。

──具体的には、どんなことを考えていたんですか?

歌詞について悩んでいたんです。その結果、ちゃんと書けるようになったことが1つ成長したことかなって。聴く音楽も少しずつ深掘りして聴くようになりましたし、聴き方も、こういう曲が作りたいなというような聴き方に変化したというか。もちろんピュアにこの曲が好きだということもあります。どちらかというと今までは、ただただ楽しく音楽をやっていたんですけど、これからのことを意識してより音楽に向き合うようになったのかなと思います。

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──よりアーティスト然としてきた感じですね。では、早速“lullaby”について聞いていこうと思います。大きなトピックとしては、やはり映画の主題歌に抜擢されたこと、ONE OK ROCKのToru氏が楽曲プロデュースしたということだと思いますが、この流れはどっちが先だったんですか?

同時進行でしたね。私はなんの予想もつかないまま、会議室に呼ばれて。「映画の主題歌を由薫ちゃんがすることになりました」、「プロデューサーはToruさんです」と言われました。

──率直にそのお話を聞いてどう思いました?

正直、都合が良すぎるでしょうと思いました(笑)。Toruさんにプロデュースしていただけるなんて、これはもしかしたら現実ではないのかもしれないって。

──ドッキリにかけられたみたいな?

明らかにドッキリではない雰囲気だったんですけど、そこからかなり長い間、信じられなくて。「やっぱり違いました」と言われるんじゃないかなって、ずっと思っていましたね。

──それほど予想できなかったことだったんですね。今回は、いつもの制作とは異なり、歌詞は共作、サウンドはToru氏が手がけるということで、初めての経験だったと思うんですけど、制作はどのように行われたんですか?

初めてお会いしたときには、すでにToruさんがデモをいくつか作ってくださっていて。ただ、これでいこうという感じではなく、私の反応や声との相性を知るために、とりあえずデモに声を吹き込んでいこうという感じのスタートでした。そこから歌詞がないとなかなか歌えないよねということになって、いちばん最初のラフの歌詞はその場で書きました。それで仮歌を入れて。

──なるほど。じゃあ、今の歌詞の元となっているのは由薫さんが書いた歌詞ということ。

そうですね。いくつかデモがあったんですけど、サビの《So could you fly with me?》っていう部分とかは最初から変わってないです。

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“レクイエム”というオーダーの中、
“ララバイ”をテーマに制作

──歌詞にはどういう感情を乗せていこうと思ったんですか?

記憶がかなり前後しているんですけど、1つ覚えているのは、ちょうど制作の時期に沖縄に戻っていて、沖縄で歌詞を考えていたんです。“lullaby”という楽曲に大きなテーマには「孤独」というものがあって、自分なりに「孤独」を理解するとき、沖縄の海岸で光ひとつない海の情景が少なからず影響しているのかなと思います。都会にいると、夜でも明るいけど、夜になると暗くなるんだなと改めて実感しましたし、その景色に「孤独」をはらんだ言葉を引き出されたのかなと。

──西谷弘監督のコメントの中には、登場人物の心の叫びで“レクイエム”とオーダーしたと話されています。しかし、仕上がったのは“ララバイ”。“レクイエム”は死に対するテーマで、“ララバイ”は子守唄を意味していて、どちらかというと生を意識したものだと思うんですが、曲の着地点が、“ララバイ”になった経緯について教えていただけますか?

脚本や仮の映像を観たときに、すぐに“ララバイ”という言葉を歌詞に入れたいなと思いました。この映画にピッタリな単語だなと。ララバイって子供が眠るときに親が歌ってあげる子守唄という意味があって、映画の登場人物たちに、愛情や優しさのようなものを感じてほしい、そういったものを感じられるような曲にしたかったんです。歌詞も同様のイメージで書き進めていったので、ララバイは私の中で大きなテーマでした。

──そう思えたのは、きっと人に寄り添った音楽を届けたいという由薫さんの根底にある思いが影響していると思いますね。今回は、自分の成長も感じられる現場だったと思うし、気づきも多かったのではないですか?

気づきだらけでしたね。それこそ曲の作り方も今回の制作に影響されて変わってきていますし、歌詞についても1つ単語を変えるだけで、表現の色彩や広がりがここまで変わるのかと勉強になりました。楽曲を聴いたときにビジュアルとしてその情景が頭に浮かんでくることまで考えて作詞・作曲をするということを体験できたので、これからの自分にとてもプラスになる制作だったと思いますね。

──歌唱面でも、かなりパワーアップしてますよね?

そうですね。声の部分では、今まで使ったことのない喉の使い方をしました。ここまで力強く歌唱をしたことがなかったので、正解が分からず不安になったこともあるんですけど、由薫のこの声の成分がいいねとか、意外と低音が魅力なんじゃないか、などToruさんに寄り添っていただきながら、自分の知らなかった声について知れた機会でもありましたね。その結果、声の輪郭がいちばん出ている楽曲になったと思うし、今までは自分の声には特徴がないと思っていたんですけど、新たな自分の可能性に気づけた感覚はあります。

【最新予告】『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』予告【2022年6月17日(金)公開】

──由薫さんファンも“lullaby”を聴いたら絶対驚くと思います。

自分も試写のとき、“lullaby”が流れてナイフで刺されたような衝撃があったんです。手汗も止まらなくて(笑)。今までは、0から自分で曲を作ってきたので、そういう意味では“lullaby”は自分と少し距離感があるのかなと思われるかもしれないですけど、自分的にはそんなことなくて。ちゃんと地に足がついているし、自分の成分が入った楽曲として完成したと思っているんですよ。確かにスケール感でいえば、「小さな部屋から世界へ」みたいなテンションですが、それでも1曲1曲に対する自分の気持ちは何も変わってないんです。

──以前のインタビューでは、映画の音楽を作りたいと言っていたけど、その夢が叶ったわけですもんね。

そうなんですよ。よく「プレッシャーを感じなかった?」と聞かれるんですけど、私は純粋に映画が好きだし、この話をいただいたときすごく興奮したんです。もちろん、このタイミングで主題歌ができるとは思ってもなかったですけど。ただ、事務所に所属するきっかけとなったオーディションも映画主題歌を作ってみるという題材だったので、自分の転機には、映画というワードが出てくるなって。

──いやあ、本当にシンデレラストーリーだと思います。

自分の音楽の要素がなぜかぐっと集まってきて、信じられない部分もあります(笑)。ONE OK ROCKのカバーもしていましたし、映画も大好きで、映画の主題歌を作りたいと思っている中で、それがセットで自分の元へやってきた。本当にすごいことですよね。

──改めて、由薫さんにとって“lullaby”はどんな楽曲ですか?

予告編で“lullaby”が流れたりして、ようやく実感を伴ってきている状態ではあるんですけど、レコーディングのときに悔しい思いをしたんです。「もっと自分の声を自由自在に出せればいいのに」と、少し苦しい思いを抱えながらレコーディングをして。そのときはすごく不安だったんですけど、今聴いてみると、新人の私にしか出せない本物の必死さ、食らいつくしかないという思いが、そこにはあったなと思うんです。心の叫びを歌ったこの“lullaby”という楽曲の中で、その余裕のなさがうまく作用したのかなと。私にしか歌えないものなのかもと後々聴いてしっくりきたというか。自分で書いたはずの歌詞なのに、気づかない部分で物語とリンクしていたり、この曲自体が私を表現している。これがメジャーデビュー曲である意味を今は感じています。

──YouTubeを見るとコメントでの反響もすごいですね。

実は、私もコメント欄を見たんですけど、本当に嬉しいです。正直、「誰だこいつ?」ってなるのかなと思っていたんですけど、ちゃんと皆さんに届いているんじゃないかなと思うことができたので。それって本当にすごいことだと思うし、やっぱり嬉しいですよね。

──もっと、たくさんの人に聴いていただきたいですね。

そうですね。この楽曲が世に出たときにどんなリアクションがあるのか、まだ予想がつかないですけど、ちゃんと届いてくれたらいいなと思います。

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“lullaby”とは真逆のカップリング曲“my friend”

──今後の作品について、お伺いできますか?

“lullaby”のカップリング曲の“my friend”は自分が作った曲で、“lullaby”とは真逆の曲なんです。そこでまた違った自分を見せられたらいいなと思っています。これからも皆さんにちゃんと届くような曲を作りたい、たくさんの人に由薫の曲を聴いてほしいなと思います。

──ちなみに、“my friend”はどんな曲なんですか?

21歳になって、友達のみんなはちょうど将来について考えたりして。そんな友達の様子を見て、背中を押すような曲が作りたいと思って制作を始めた曲なんですけど。ただそういう友達を見ていたら「頑張れ」という言葉はなかなか出てこなくて、どちらかというと、頑張っているのは分かっているから頑張りすぎないでねという言葉出てくるなと思って。大切な友達を思って書いた曲です。聴いてくれた人の気持ちが少しでも楽になってもらえたらいいなって。

──いいですね。サウンド的にはどんな感じなんですか? 

横ノリの曲なんですけど、この曲も“lullaby”の制作の影響を受けていて。“lullaby”で得たエッセンスを入れたというか。いつもなら、アコースティックギターの弾き語りで作るところ、この曲はエレキを手に持って、音をループさせて、いろんなメロディを吹き込んでいって、その中から自分でいいなと思ったものを選んでいくという、今までやったことない方法で楽曲を作って。それは確実に“lullaby”がなかったらできなかった新しい私の作り方です。

──ここまで音楽的に影響を受けると、ライブも楽しくなってきそうですね?

今までずっと弾き語りだったんですけど、少し前にベースが加わったライブをやらせてもらって、ちょうど5月からギターの方も入ってライブをするっていう機会をいただけたんですよ。もう楽しくて仕方なくて、リハ中からずっとニヤニヤが止まらない。ずっと一人でやってきて、誰かと音楽をやっているって実感しただけでニヤニヤが止まらないんです。本当に楽しいです!

──なんだか、由薫さんが音楽を始めた学生時代の頃に似ていますね。学生時代もどんどん仲間が増えてバンドになっちゃったという。

そうです! 最近、そのときのことを思い出します。ピュアに音楽がただ楽しいと言う感情を何度も何度も感じられる今日この頃です。

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由薫 – lullaby (Official Music Video)

Text by 笹谷淳介
Photo by Maho Korogi

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PROFILE

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由薫

沖縄出身。2000年生まれ、次世代のシンガーソングライター。

幼少期をアメリカ、スイスで過ごす。15歳の頃、テイラー・スウィフトを始めとするシンガーソングライターに興味を持ったことからアコースティックギターを 手にする。それをきっかけにカバーユニットやバンドを始め、17歳頃にはオリジナル楽曲の制作を開始。海外生活の経験から日本語と英語のバイリンガルであり、かつグローバルなセンスを備えている。

2021年11月には、 自身初となる3ヶ月連続デジタルシングルリリースを掲げ、その第1弾として『Fish』をリリース。その後、第2弾『Yesterday』、2022年1月に第3弾の『風』、そしてインディーズとして、1st EP『Reveal』を2月にリリース。この度6月に新人としては異例の、映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」の主題歌に『lullaby』が大抜擢された。メジャー第1弾シングルとして6月10日に先行配信 & MV公開、そして6月15日にシングルCDがリリースされた。

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由薫
2022年6月15日(水)

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