2017年に渡米して以降、NYでの生活や街の様子、知り合った仲間たちについてなど、ご自身とアメリカの“今”をSNSで多彩に発信し続けているピースの綾部祐二さん。

以前から綾部さんが発信するNY、アメリカのカルチャーにまつわる投稿についてチェックしていました。そして今回、綾部さんが訪れた“ある場所”について唐突ながらも「いまなぜそこへ?」という疑問から編集部よりコンタクトをとってみましたーー。

綾部さんにとって「ずっと訪れたかった、夢のひとつ」であるその場所、アイオワ州ダイアースビル。知る人ぞ知るこの土地に存在するのは、1990年代初頭に話題となったあの名作、ケビン・コスナー主演『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台。2021年現在、念願の地に降り立ってみた綾部さんの想いについて、オンライン・インタビューにて語っていただきました。

INTERVIEW:YUJI AYABE

──綾部さんのSNSで拝見しました“あの場所”、映画『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台ですね? いまも残っているんですね!

そうなんです。映画の舞台となったロケ地ですが、いまは宿泊もできるミュージアムになっていて、誰でも訪れることができます。僕もアメリカに渡ったら絶対に行きたいと思っていたので、念願の夢のひとつが叶いました。ほんとに僕個人の思いつきというか、ちょうどタイミングが良かったのもあって思い切って行ってきました。

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──この映画にはどんな思い出があるのでしょうか?

僕の親父は少年野球のコーチだったんです。なので兄貴も俺も子どものときから野球三昧でした。それで、僕が中学1年くらいの時に『フィールド・オブ・ドリームス』が公開されて、当時は映画館に簡単に行けなかったので茨城の地元にあるビデオショップ「テイクオン」でVHSを借りてきて観たんです。当時の僕はこの映画を“野球映画”だと思ってたんです。でも観ていても野球のシーンがなかなか出てこない……「あれあれ?」と思って観てると、ものすごい展開になっていく。中学生の僕からしたら今までこんな映画を観たことないわけで、脳みそがキャパオーバーしたのをよく覚えてます。すごく難しいんだけど、でもなんかめちゃめちゃすごいっていうのは分かる、そんな状態でした(笑)。

──中学生にとっては分かりづらい映画のストーリーではありますよね(笑)。

そうなんですよ。当時すでにスターだったケビン・コスナーが主演だったり、映画の舞台になっているアイオワの世界観、登場してくる昔のメジャーリーガーだったり……ストーリーのなかにとんでもなく色々な要素が入っていて、その全てが僕の脳内をかけ巡るというか。田舎の中坊だった僕の理解を完全に超えていました(笑)。そのくらい衝撃的というか、当時の僕の心にグッときたわけです。

──当時から洋画は他にも観てましたか?

小学校のときに初めて観た洋画は『スタンド・バイ・ミー』でした。自分にとってこの作品もすごく影響を受けた映画なんですが、『フィールド・オブ・ドリームス』は、僕の人生で初めて2回観た映画でなんです。

そこからハマっちゃって、友達にもすすめまくって、僕らのなかではすごく流行りましたね。その後も、元々好きだったケビン・コスナーの作品、『アンタッチャブル』や『さよならゲーム』とかを次々と観ていきました。当時の幼い自分のなかにある「アメリカってなんなんだろう?」という疑問というか、未知の大国である「アメリカ」について知りたいって思う欲求、そういうのが芽生えるキッカケになったのがこの映画『フィールド・オブ・ドリームス』だと思います。

【映画のあらすじ】
映画『フィールド・オブ・ドリームス』
アメリカのアイオワ州でトウモロコシ農家を営むレイ・キンセラ(ケビン・コスナー)は、ある日自分の農場で不思議な声を聞く。「それを作れば彼はやってくる」

その意味を、野球場をつくることだと解釈した彼は、育ててきたトウモロコシ畑の一部を刈り取り、野球場を作る。周りからは変人扱いされ、お金も底をついたある日、野球場に一人の男が立っていた。それは、父のヒーローで今は亡き伝説の大リーガー“シューレス”・ジョー・ジャクソン(レイ・リオッタ)だった。36歳の妻子ある男が、夢を叶えるために冒険ができるのは今しかないと、“声”に導かれるまま、自分の夢に挫折した人々に会っていく。

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──私も小さい頃にこの映画を観た記憶があるのですが、改めて大人になってこの映画をみたらすごい“深み”のあるストーリーなんだと感じました。綾部さんご自身も幼い頃と大人になってから観たときの心境というか印象の変化はありましたか?

いや〜それはもう、受け取り方は全然違いますよね! 実は、オードリーの若林くんもこの映画が好きで、僕があの場所の写真をSNSに投稿したときも若ちゃんから連絡くるんじゃないかな〜って思ってたんですよ。数日経ってようやく反応あって、それで連絡くれたんですよ(笑)。「あそこそうだよね!」って話からはじまって、映画の色んなシーンを振り返って1時間半くらい電話で話込んじゃいましたよ。大人になって、観れば観るほど溢れ出してくるものがあるし、誰かと語りたくなるような本当に深いメッセージがたくさん入ってる映画です。

──若い頃には気付かなかったメッセージに気付いたりしますよね。

作中で、重要な“3つの声”(※1)があるんですが、この年齢になって理解や共感できたことがたくさんあります。『フィールド・オブ・ドリームス』って一見ファンタジーの要素が強い映画なんですけど本質はそこではなくて、年を重ねるにつれてこの映画が伝えたかったことがわかってくるというのはありますね。

(※1)「If you build it,he will come.(それを作れば、彼はやってくる)」「Eace his pain.(彼の痛みを和らげろ)」「Go the distance(やり遂げろ)」この3つのセリフ(声)に導かれて主役のレイ(ケビン・コスナー)は行動を起こしていく。

──90年代初頭の時代背景、あの時代ならではな表現も面白いですよね。

主役のレイ・キンセラが、自分の平凡な暮らしや、父親と同じ様な人生を歩んでいる自分に嫌気がさして“行動”を起こす、行動というより、お金になるコーン畑を刈るっていうのは、もはや“奇行”ですよね。笑い者になりながらも、でもその結果、彼のまわりに物事や人が集まってきて何かを得ていくーー。90年台初頭、当時のアメリカで、“3つの声”を通して人々に問いをなげかけていて、その表現の形がすごいなって思います。この訴えかけかたが肝ですよね。ファンタジーだけどきっちりバランスがとれているというか。

僕自身も、椅子工場で朝8時から夕方5時まで毎日働いていた時、当時は同じような思いがあったんで。この声にあるメッセージやレイ・キンセラの生き方に共感するわけです。

映画はすでに古い作品ではありますけど、現代の若者でも、当時の人でも感じられる人には感じられるし、わからない人には全くわからない、そういう映画だと思うんですよね。野球が好きかどうかとかでなくて、男が一個自分のしょうもないことを信じて貫き通してっていう、それだけの映画でもあるわけです。

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──そんな思いの深い作品の聖地に降りたってみて、一番やりたかったことはなんですか?

やっぱりまずは、作品を象徴する“コーン畑からの登場”ですね。その憧れのシーンを再現したくて、ロケ地に到着して「いざ!」と思ったら……なんと、コーンが膝下までしかなくて……! 僕がSNSにアップしたコーン畑に埋もれている写真、実は膝をついて撮っています(笑)。

自分の頭のなかのイメージは、あたり一面背の高いコーン畑なわけです。実際、アイオワのダビュークという小さな空港に到着したときの景色は、ほんとにあたり一面がコーン畑の景色だったんです。だから映画のあのシーンにあるコーン畑は当たり前にあるものだと思ってたんで、ロケ地に到着して「えぇ……?」って、膝下のコーンを前にビックリしましたね。

──えー! それはガーンってなりますね。

でも実際、コーンの成長ってやっぱり時期があったり難しいみたいで。この映画が作られた当時、地元の人が協力して現場を作ったそうなんです。球場作りやコーン畑の整備も。地元の人たちがミシシッピから水を運んできてコーンのお世話をして、当時は水をあげすぎて逆にコーンが成長しすぎちゃったというエピソードもミュージアムで聞きました。映画撮影中のケビン・コスナーも、コーンが伸びすぎちゃったもんだから実は台の上に立って撮ってるそうです(笑)。

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──その撮影秘話はレアですね。他にロケ地での思い出はありますか?

今回訪れたら一番実現したかったことがあって、あの球場で、僕が子どものときに親父に買ってもらったグローブでキャッチボールをすることだったんです。それで、ロケ地に着いた時、ちょうど地元の子どもたちが野球していて、到着した瞬間に、子どもに混じってキャッチボールしましたね。「30年越しの夢が叶った!」と実感したのと当時に、日本から来たコメディアンと現地の子どもがキャッチボールしているっていうすごく不思議な感じで。なんというか、そういう人種や国境を超えたグローバルな状況に感慨深い気持ちになりましたね。涙が出るような感動じゃないんですが「あぁ、本当に存在するんだな……」とか、色々な思いが頭をかけ巡りました。

実際に僕はあのロケ地に泊まったんですが、部屋のなかも映画に登場したキャンドルや階段、キッチンもそのまんま。夜はナイターの電気も自由に点けてよかったので、その窓からの景色とか……、30年前にここでケビン・コスナーが撮影してたんだと思ったら何かすごい不思議な気持ちになって、また脳みそがキャパオーバーしちゃう感覚でしたね。

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──この映画に影響を受けた綾部さんも、実際に思い切って渡米したり、いまも行動をし続けている人だなと感じました、まさにレイ・キンセラのように。

「なんでそんなことするの?」ってまわりの人から思われるのもそうですが、結局は自分のためなんですよね。自分のなかで引っかかっている何かを確かめたくて。家族のためとか、観衆のためとかじゃないんです、きっと。この映画では、自分の感覚に従って信じたことに賭けた人がどういう結果になるか?をうまく描いていると思います。

──まわりを気にせず自分を信じるというのに振り切った映画ですよね。サクセスストーリーというだけでない登場人物にもメッセージを感じますしね。

作中のキーマンでテレンス・マンという作家が出てくるのですが、単に夢を追いかけている人じゃなくて、闘い続けて世間が嫌になってしまった人の話でもあります。いつか晴らしたい想いがあって、閉じていた蓋を開けるタイミングを見計らっているっていう。

僕はこのインタビューを読んでくれている人に「この映画をめちゃめちゃおすすめします! 絶対見て!」って言いたいわけじゃなくて、どんな人にも何か感じるところがあるんじゃないかと思うんです。何かを我慢して行動できてないでいる人に、行動することへの選択肢になったらいいなと。

我慢というか、“何もしない”ことはある意味カロリーを使わなくて、“何かをする”ってカロリーが必要なわけです。でも、レイ・キンセラのようにコーン畑を刈ってみて何か変わるかもしれないし、もしかしたら何も変わらないかもしれない。結果はどうあれ、やってみるというのが大事なんじゃないかと思うんです。

──なるほど。行動しきれずモヤモヤしている人や、挫折があったり、環境を変えたい人にもということですかね?

すごく難しい表現ではあるんですが、例えば、「チャレンジ! 何か新しいことを始めよう!」というキャッチフレーズはよくあると思うんです。でも、「さぁ、なにかをやめてみよう!」っていうのはあまり聞かないですよね。何かを始めるには、いま、目の前にあるものや、やっていることをやめないと基本的に始められないと思うんです。新しい生活のために離別する人がいたり、家を売る必要があったり……。それってすごくカロリーが高い。だからこそ、状況を“変えられないでいる”、この状況をやめるってことが僕は大事だと思います。「始めよう! 行動を起こそう!」ってことじゃなく、「今の状況をゼロにしてみる」ってことだけでもできると良いんじゃないかと。

──確かに、マインドセットというか、結果云々への行動でなく、単に「やめてみる」「ゼロになってみる」ことへ切り替えるのは大事な意識ですね。

もちろん実際に、経済的なことや身の回りの環境において我慢しなければならない方々がたくさんいると思います。けれど、「自分はどうだろう、自分次第で環境を変えることはできるのでは? でもまわりの人になにか言われないかな……やっぱりやめとこう。我慢しよう……」こういう悪循環ってあると思うんです。この“変えられないでいる我慢”、これって良い方向に向かっていく“我慢”とは違うんじゃないかと。僕が伝えたいのは、コーンを刈ることでゼロになることも得たものもあるように、とりあえずゼロベースになってみる、やめてみるっていう考えも大切なんじゃないかと思うのです。

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──何かを成功させようと考えるとハードルが高く感じますが“やめること”を選ぶ、それだけでも感覚とか、景色が変わることはあると思います。

僕ももちろん、今もまだまだ何にもなれてないですし、同じだと思います。
芸人としてテレビに出させてもらって、いっときは人気芸人とも呼ばれてっていう人生も歩ませてもらいましたけど、2000年のデビューから自分の思い描いている芸人になるまでには10年はかかりました。

そして今こうしていますが、小さい頃の僕は、まさか自分がアメリカにくることになるなんて全く想像してなかったし、当時自分が観てた映画の舞台に実際に来れたのも一歩だと思いますし、今回の旅で色々と再確認できたような気がしますね。

──次にどこかへ行く予定はありますか?

映画で言ったら、僕の生涯ベスト映画2本のうちのひとつ『フィールド・オブ・ドリームス』巡りは実現できたので、もうひとつのベスト映画『スタンド・バイ・ミー』の地ですかね。しかも今年、『スタンド・バイ・ミー』映画公開35周年なので、できれば年内にはオレゴンを訪れたいです。もちろん、行きたいところは山ほどありますけど!

──それは楽しみですね。この後も綾部さんの聖地巡りや旅の話、聞かせてください!

はい! また旅の情報伝えますね。ありがとうございます!

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写真提供:YUJI AYABE
取材・文:Qetic編集部

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