シンガー・ソングライター河原太朗によるソロ・プロジェクトTENDREと、福岡を拠点に活動するダンサーyurinasiaによるコラボステージ「TENDRE x yurinasia」が、来たる9月に横浜・象の鼻パーク特設ステージにて行なわれる。

本ステージは、横浜アーツフェスティバル実行委員会が主催する<Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021>のプログラムとして開催されるもの。TENDREとyurinasiaに加え、公募により選抜された次世代ダンサー19人が参加。「音楽×ダンス」をコンセプトに掲げる本ステージに相応しい、特別な一夜になるだろう。

かねてよりミュージックビデオやライブなどでのコラボを通して親交を深めていたTENDREとyurinasiaに、ステージへの意気込みはもちろん、音楽を「視覚化」する拡張表現としてのダンスの魅力や意義について語り合ってもらった。

対談:
TENDRE
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TENDRE
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セッションするたび、ただの融合だけではない化学反応がある。

──お二人の交流はどんなきっかけで始まったのですか?

TENDRE 今から2年前、yurinasiaがTENDREの楽曲“DOCUMENT”と“DRAMA”を使って踊っている動画をInstagramでたまたま見かけたんです。おそらく「#TENDRE」か何かで検索していたときだと思うんですが、「この人、めちゃくちゃ面白そうだな」という直感がそこで働いたんです。yurinasiaのダンスはもちろん、いつも撮影に使っているスタジオの雰囲気や、撮影も含めた「見せ方」にもすごくオリジナリティがあって。それで、「ありがとうございます」みたいなDMを送ったところからやりとりが始まりました。

yurinasia 私はこれまで自分がシンプルに「踊りたい!」と思った曲は、ジャンルを問わず踊っているんですけど、まさかアーティスト本人からこうして直接メッセージをもらえるとは思わなかったので、最初はびっくりしました(笑)。

TENDRE 実際にお仕事を一緒にするようになったのも、割とすぐだったよね? 確かDMをしてからひと月経ったか経たないかくらいのタイミングだったと思います。“SIGN”という曲のミュージックビデオを制作するときに「ダンサーを起用したいね」という話になり、すぐ頭に思い浮かんだのがyurinasiaだったんですよ。

TENDRE – SIGN

──“SIGN”のミュージックビデオは、どのように制作を進めていったのですか?

TENDRE ビデオの監督はVIDEOさん(VIDEOTAPEMUSIC)にお願いしたのですが、本当に現場でイメージを膨らませながら、とりあえずセッションするような感じで作っていく感じでしたね。

yurinasia 大抵のミュージックビデオって、事前に振付を考えて踊る場合が多いんですけど、TENDREさんがおっしゃったように当日までほとんど何も決めず(笑)、本当にその場のフィーリングで踊らせてもらいました。砂利の上だから踊りにくかったり、道端の花を踏まないように気をつけたり(笑)。そういう環境も込みで身体を動かしていくような、いい意味で「ラフ」な雰囲気でしたね。

TENDRE その後も何度か共演していますが、基本的にはそういうノリで一緒にやっています(笑)。ライブに参加してもらう時も、やる曲だけ事前に伝えておいてその場で合わせていく感じ。実際のところ、TENDREのライブも出たとこ勝負というか、その環境でしか鳴らせない音ってあると思っていて。こうやってyurinasiaとの交流が続いているのは、おそらく彼女もそういう環境の変化を楽しめる人だからじゃないのかなと。

yurinasia 光栄です。私は小さい頃から音楽が大好きで、いろんなライブに連れて行ってもらってその高揚感を味わってきたので、自然とそこに合わせられるようになっているのかなと思います。一緒に踊っていると、バンドの皆さんのテンションがぐわっと上がってくる感じがすごく伝わってくるんですよ。「ああ、そういう音の解釈をしているんだ」「そういうアプローチで音を表現しているんだ」と感じながら踊るのが楽しくて。

TENDRE バンドでもダンスでも、一緒に演奏したり踊ったりすることで相手の調子が分かるというか。「お、今日こいつめちゃくちゃ調子いいな」みたいなことを、表現の中で確かめ合うのが面白いですよね。

──これまでにもアーティストとダンサーのコラボが「単発」で行われることは多々ありましたが、TENDREとyurinasiaさんのように継続してその関係が続いているのは珍しいケースなのかなと思います。

TENDRE yurinasiaのダンスには、ダンスだけでは語りきれない何かがあって。音楽とダンスをただ融合させただけでは生まれない化学反応みたいなものが毎回ある。「楽器の一部」というか、入るだけで音楽の見え方や聴こえ方がガラリと変わってくれる。そういう意味でyurinasiaにはバンドメンバーとして参加してもらっているような気分でいますね。

──ダンスによって、音楽の見え方や聴こえ方がガラリと変わる経験はぼくも何度も味わったことがあるのですが、そこはyurinasiaさんも意識しながら踊っていますか?

yurinasia 例えば、みんなが聴こえている音や、聴きたい音を「取りに行く」というか、表現することももちろんあるんですけど、なんていうか、「自分にしか聴こえないリズム」みたいなものもすごくあって。それをどう表現するかを考えています。

TENDRE 「リズムに合わせる」というのは、例えば拍子に合わせて体を動かすとか、手拍子をするとかが最もシンプルな方法だと思うんですけど、音楽って実はもっと複雑なリズムフレーズが組み合わさって成り立っているんですよね。きっとyurinasiaは、そういう音楽の中にある些細なフレーズやグルーヴを、身体の中に取り入れながら体現している。なので、見ている人も「あ、ここでこんな音が鳴ってたのか」とか「そうかこういうリズムの取り方があるのだな」みたいな、楽曲に対する新たな発見をダンスによってしている。ある意味でyurinasiaのダンスは、人のイメージを拡張させる行為なんですよね。

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Photo by 大野隆介

「商品」としての作品だけではない表現活動が必要

──このところ、ダンスの中でも特にコンテンポラリーダンスをミュージックビデオでフィーチャーするアーティストが増えているように感じますが、その背景には何があると思いますか?

TENDRE 今の話とも重なりますが、音楽の持つ「抽象性」を視覚化する上で、コンテンポラリーダンスがすごく相性が良かったのかなと思います。コンテンポラリーダンスの持つそういう可能性……抽象性即興性に、多くのアーティストも注目するようになっていったのかなと思いますね。ダンスって、表現としては最も直接的でプリミティブなものの一つだと思うんですよ。そういう身体性みたいなものが、音楽の最もコアな部分を表現することで、人の心を掴むというか。そういう相乗効果もあるのかなと感じていますね。

──とても興味深いです。ところで最近お二人は「表現活動」において、何かインスパイアされたコトやモノってありますか?

yurinasia 私は普段からいろんなものに影響を受けていますね。例えばドラマとかでもダンスのヒントになる時はありますし、一緒に暮らしている猫や、それこそ子どもたちの動作にもインスパイアされます。

TENDRE ぼくは最近、植物を買ったんです。名前は忘れちゃったんですけど(笑)、小さい木を購入したんですよね。それを育てているのがすごく楽しいです。それを愛でることで、今まであまり言葉にしていなかったことが案外すらっと言えるようになるかもしれないし、それは歌詞にも生かされるかもしれない。そういう意味では、例えば友人と話をしたり映画を観に行ったり、中古のインテリアショップを巡ったり、そういう日常の些細なことがきっと自分の音楽に様々な影響を与えているんだろうなと思いますね。

インプットもそうですが、アウトプットも別に一つに限らなくてもいいと思っていて。自分の中の感情で「これは音ではなく、絵にした方が伝わりやすいな」と思うこともありますし。もともと絵を描くのも好きだったんですよ。「商品」として世に出す作品以外にも、表現者としては普段から様々な形でアウトプットするのは必要なことだなとも思います。

──なるほど。

TENDRE もちろん作品を出すときのアートワークやアーティスト写真もひとつの表現ですよね。そこはぼく自身が一人で作るのではなく、色んな人たちとの関わりの中で「こんな表現もできるかもしれない」みたいな可能性が広がる。それはyurinasiaと掛け算していくのと同じことですよね。メロディやサウンド、歌詞だけでは伝えきれない部分をアートワーク映像が大切になってくるのかなと思います。

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TENDRE『NOT IN ALMIGHTY』ジャケットは、イラストレーター・norahiとイメージを共有して粘土で製作したという

──yurinasiaさんは、福岡に自身のダンススタジオ「jABBKLAB」を持ち、そこを拠点に活動されています。そのメリット、デメリットはどう感じていますか?

yurinasia 東京は呼ばれたら行くんですけど、子どもたちを置いていくことになるので長期では難しい。その代わり、いいタイミングで出会えた人たちと濃く仕事ができていると思います。「福岡」というレア感も大事にできているし(笑)、ちょうどいいバランスじゃないかなと。

福岡を離れたくない理由の一つとして、私が高校生くらいの頃から教えている生徒たちがいることも大きいんです。彼らと一緒に成長してきたという思いもあるし、そういう人たちをこれからも大事にしていきたいんですよね。最近では地元の子どもたちが気軽にダンスを習いに来ていますし、いい音楽が聴けるような環境を作るなどいろいろ頑張っています(笑)。結果、福岡のダンスシーンや音楽シーンが盛り上がればそれも嬉しいですね。

──住む地域に囚われることなく自由に活動ができるのは、インターネットやSNSの力も大きいのかなと。yurinasiaさんも、Instagramなど有効的に活用されていますよね。

yurinasia やっぱり配信するものはクオリティの高いものを目指しているし、そこは夫が主に考えてくれています。毎週配信しているのですが、すごい熱量で作ってくれていますね。お互いそこはリスペクトしながら続けていけたらいいなと思っています。

──そもそもyurinasiaさんの経歴は、誰かに師事してダンスを習い、バトルやコンテストなどで名を成していく他のダンサーとかなり違いますよね。ダンスと映像を組み合わせたハイクオリティなコンテンツをSNSに投稿し、そこから注目を集めていったという。そのことについてはどんな思いでいますか?

yurinasia 全てのダンサーが、私のようなやり方で活動すべきとは思わないです。でも、自分の生徒たちには「こういう人もいるよ?」みたいなことは伝えていかなきゃなとは思いますね。あと、私自身はSNSで注目される前からバトルコンテストにめちゃめちゃ出場してきたし、そこで実績を積んできたんですよ。そのことの大切さは生徒たちにも教えていますし、実際バトルやコンテストの全国大会で賞を獲っているメンバーが「jABBKLAB」にはいます。「こうなりたい」という目標のために踏まなければならないステップについては、今後もしっかり教えていくつもりですね。

botanic_JAPAN DANCE DELIGHT VOL.23 FINAL_2016.8.27

yurinasiaのパートナーであり、レッスン動画の映像ディレクターを務めるayumuguguとのチーム「botanic」

──コンテストやバトルは、評価基準が「他者」になるわけじゃないですか。「自分自身を表現する」という、ダンスのコアな部分を大切にしているyurinasiaさんの教えと矛盾することはないですか?

yurinasia ダンスのコアな部分は変えずに貫き、その上で結果を残している。そういう部分ってあまり取り上げてもらえないんですけど(笑)、自分としてはそこが一番誇れるところだと思っているんですよね。ダンサーの本質は何も変えず、それでもコンテストやバトルで賞を獲ってくる。「jABBKLAB」はそこが凄いんです……!  と主張したい。それに、自分らしさや本質を貫いて欲しいという思いは、全てのダンサーに伝えたいことでもありますね。

──そういう意味では、メジャーとかアンダーグラウンドという枠組みもそんなに意識していない?

yurinasia いや、自分たちはめちゃめちゃアングラだと思っています。アングラ代表みたいな(笑)。今はテレビとか出たりしてるけど、魂はアングラだ! という思いはあります。ちょっと偉そうに聞こえるかもしれないけど、時代が追いついてきてくれたというか。そういう感覚もありますね。

──さて、今年9月に開催される<Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021>、会場である横浜は、太朗さんの出身地でもあるわけですが、何か思い入れなどはありますか?

TENDRE 例えば<GREENROOM FESTIVAL>では横浜赤レンガ倉庫で演奏するなど、ここ最近は「帰ってきた」感が強くて。ぼくが横浜のカルチャーについて何か語るほどの知識は持ち合わせていないんですけど、少なからず横浜には安心感があるというか。単純に景色がいいし、海風を感じながらTENDREの曲を聴いてもらえるのは嬉しいです。ひょっとしたら、yurinasia含むダンサーの皆さんにとっても横浜の空気感は一つのインスピレーションになるんじゃないかなと思っていますね。

──では最後に<Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021/ TENDRE x yurinasia>出演に向けての意気込みを聞かせください。

yurinasia 今回、応募して選抜された19人のダンサーにも、私と同じように音楽を聴いて高揚する感覚を共有してもらいたいです。何か一つでも扉を開けてあげることで、今後のダンス人生がいいものになるようにしてあげたいと思っていますね。

TENDRE ぼくとyurinasiaで作り上げたいショーというのは、バチッと揃った一糸乱れぬダンスというよりも、表現の豊かさというか。集団で投げかける塊の種類をたくさん作っておきたいんですよ。それぞれに当たり前にスポットライトが当たっていいわけですから。とにかく、ひたすら「すごい掛け算」をしていきたいし、このステージからまたさらに他のダンサー、他のミュージシャンの「掛け算」が生まれていったらいいな、という気持ちもありますね。

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Photo by 大野隆介
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Photo by 大野隆介

TENDRE x yurinasia WS Audition

Text by Takanori Kuroda

PROFILE

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TENDRE

ベースに加え、ギターや鍵盤、サックスなども演奏するマルチプレイヤー、河原太朗のソロ・プロジェクト。

2020年9⽉、先⾏配信されたシングル「LIFE」「HOPE」「JOKE」を含む2枚⽬となるフル・アルバム『LIFE LESS LONELY』をリリース。「HOPE」は、今年1 ⽉に放送されたテレビ朝⽇系列「関ジャム 完全燃SHOW」で年間ベスト10 に選出され、サウンドデザインのセンスやメロディーのキャッチーさが⾼く評価された。4⽉7⽇、満を持してEMI Records / UNIVERSAL MUSICよりメジャーデビュー。

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yurinasia(ユリナジア)

福岡県生まれ。JAPAN DANCE DELIGHT vol.23 FINALIST 他数々優勝、受賞。
同じくダンサーである夫のayumuguguと福岡県・水巻町でダンススクール「jABBKLAB(ジャブクラブ)」を主宰。そこから毎週SNSで発信している独創的で高い表現力のダンスレッスン動画が話題を呼びフォロワーが急増。数々の著名ミュージシャンのミュージックビデオへの出演や、TVCMの振付を手掛けるなど、活動の幅を広げている。2児の母。

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INFORMATION

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Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021
TENDRE×yurinasia

2021年9月2日(木)

START 18:30〜
象の鼻パーク 特設ステージ
ADV ¥2,000
U24¥1,000
LINE UP:TENDRE/yurinasia/次世代ダンサー/jABBKLAB etc.
詳細はこちら

Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021

2021年8月28日(土)~10月17日(日) <コア期間51日間>

<プレ期間5月1日(土)~8月27日(金)、ポスト期間10月18日(月)~11月30日(火)>

会場:横浜市内全域(横浜の“街”そのものが舞台)
ジャンル :バレエ、コンテンポラリー、ストリート、ソシアル、チア、日本舞踊、フラ、盆踊りなどオールジャンル
プログラム数:約200
ディレクター:小林十市
主催 横浜アーツフェスティバル実行委員会
共催 横浜市、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団
後援 観光庁、神奈川県、公益財団法人神奈川芸術文化財団、公益財団法人横浜観光コンベンション・ビューロー、横浜商工会議所、一般社団法人横浜青年会議所、神奈川新聞社、NHK横浜放送局、tvk(テレビ神奈川)、アール・エフ・ラジオ日本、FMヨコハマ、横浜市ケーブルテレビ協議会
助成 令和3年度 文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業、一般財団法人地域創造
協賛 日産自動車株式会社、三井不動産グループ、三菱地所グループ、コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社、株式会社JVCケンウッド、スターツグループ、株式会社そごう・西武 そごう横浜店、株式会社髙島屋 横浜店、株式会社横浜銀行、上野トランステック株式会社、株式会社キタムラ、株式会社崎陽軒、クイーンズスクエア横浜、株式会社サカタのタネ、J:COM、凸版印刷株式会社、NEC、NTT東日本
協力 キリンビール株式会社、京浜急行電鉄株式会社、相鉄グループ、東急電鉄株式会社、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社、横浜高速鉄道株式会社、横浜信用金庫
認証 beyond2020プログラム

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