BE AT TOKYOが昨年ラフォーレ原宿6Fにオープンしたオンラインとリアルの双方向でコンテンツを発信するコミュニティスペース・BE AT STUDIO HARAJUKU。BE AT TOKYOのコンセプトでもある“発掘・掛け算・物語”をもとに実験的な取り組みが散見されるBE AT STUDIO HARAJUKUのコンテンツ群のなかでも、一際注目されているのが<illmatic sense>だ。毎回異なるテーマのもと招聘されるセレクターたちが独自の視点で選んだ古着を販売し、古着の魅力を多角的に紐解いていくという本企画。これまでに音楽やファッションなどさまざまな分野から才能豊かなクリエイターたちが参加している。

3回目となる今回は、“ツマミになるグッドミュージック”を掲げ、身近な存在としてのシティポップを体現する4ピースバンドのYONA YONA WEEKENDERSと、個性派集団であるBEAMSきっての名物バイヤーであり、SSZのディレクターとしても知られる加藤忠幸氏がセレクターに選出された。ポップアップ形態で開催された本イベントでは、セレクターそれぞれがバイイングした古着も販売。また今回特別に2組のコラボレーションによるTシャツや柄シャツの製作、さらにはYONA YONA WEEKENDERSによる完全録り下ろしのオリジナル楽曲の提供、そして楽曲と共にリリックビデオの公開と、盛りだくさんのコンテンツが展開された。

期間中には、YONA YONA WEEKENDERSによるスペシャルミニライブも開催されるなど、大盛況のうちに幕を閉じた<illmatic sense vol.3>。本記事では、改めてそのスペシャルなイベントを振り返りつつ、対談を通して世代や分野こそ異なえど邂逅した両者の意外な共通点を探っていく。

INTERVIEW:YONA YONA WEEKENDERS × SSZ 加藤忠幸

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意外な共通点が生んだ新たな物語

──まず今回で3度目となるillmatic senseの企画で、ゲストに選ばれたのがYONA YONA WEEKENDERSとBEAMSの加藤さんという組み合わせ。意外に感じられた方も多かったと思うのですが、実は相思相愛だったそうですね。

加藤 きっかけで言えば、まずBE AT TOKYOの企画チームから「加藤さん、illmatic senseの企画やりませんか?」って声をかけられたのが始まりで。最初はあまり乗り気じゃなかったんですが、コラボレーションがテーマにもなっているイベントであると聞き、それなら今一番気になるバンドのYONA YONA WEEKENDERSと一緒に何かやれるなら! と条件付きで了承したんです。まさか一緒にやれるなんて思わずに依頼したので、実現した時は嬉しさと驚きが半々でしたね(笑)。

磯野 最初に加藤さんとお会いした時は、illmatic senseの顔合わせの時だったんですけど、物凄く腰の低い方だなという第一印象でした。出会い頭に「めちゃくちゃファンです」って言っていただけて、僕らも憧れの存在でもあったので、めちゃくちゃ恐縮しちゃって。

その後、いろいろとお話していくなかで、共通点があったことで、結構盛り上がったのを覚えています。互いにお酒が好きだったり、加藤さんはBEAMSでスケートボードやサーフィンというカルチャーを発信している方でもあると思うんですけど、僕らもそういったカルチャーが好きだったり。

小原 スケートボードが好きな自分にとっては、もちろん加藤さんと一緒にお仕事ができる喜びもあるんですけど、それ以上にスケーターとしての加藤さんが所持しているアーカイブのスケートビデオとかがすごく気になっちゃって(笑)。

加藤 おお、それはそれで嬉しいですね。

──<illmatic sense>では実際に皆さん、古着の買い付けをされたんですよね。

キイチ 卸業をしているような倉庫のような場所で選定の作業をしたんですけど、その作業自体が新鮮でしたし、日本製の古着も沢山あって純粋に面白かったですね。

加藤 古着って聞くと自分を含めUSをイメージする人がほとんどだと思うんですけど、日本の古着をメインで扱っているのは珍しいんですよね。だからデザインの元ネタが身近なものも多くて、結構みんな楽しそうに選んでいたのが印象的でしたね。

磯野 他にも松浦亜弥のフォトTとか、飲食店のユニフォームとか、懐かしさもあって盛り上がっちゃいましたね。宝探しみたいな感覚に近かったです。

加藤 僕らだとバイイングを生業にしていることもあって、普段は売れるか売れないかという視点も指標として重要になってくるんですけど、純粋に好きなものだけを選ぶっていう感覚は改めて大切だなと感じました。

磯野 確かに初めは売れそうなものを意識して選んでいましたけど、最後の方はふざけているグラフィックとか面白いデザインのものを選ぶようになっていましたね。小原が選んだファッション玄人向けのケンタッキーのTシャツを、実はファンの人が買っていたなんて後日談もあって。意外と意識していないものが売れたりすることもあるんだなって、そんな発見もありました(笑)。

キイチ 例え売れなかったとしても、俺らのそういうノリが伝わってくれていたのなら嬉しいですよね。自分の好きなものを肯定されたような感覚というか。

加藤 イベントの最終日に僕は会場で野菜を売っていたんですけど、その近くのブースで古着を販売していて、チラチラと横目にチェックしていたら、意外と彼らのバイイングのアイテムも売れていて、嬉しかったですね。

──今回古着をセレクトして販売するというYONA YONA WEEKENDERSのみなさんにとっては新たなチャレンジでしたが、音楽の中でも古着のようにレコードやCDといったアーカイブとして残っていくモノの良さもあると思います。活動の中でそうしたモノの大切さを実感することはありますか?

磯野 僕らはCD世代なので、学生時代はバイトしたお金でCDを買ったりしてましたけど、お金がなかったので中古のCDをブックオフとかディスクユニオンで見つけたりしていたんですよ。そんな中でもジャケがかっこいいから買うっていうアートワークそのものの良さも大切だなと感じていました。だから僕らもリリースしたEPはちゃんと紙ジャケで出すようにしたり、フルアルバムだと歌詞カードを広げるとポスターのようになるように仕掛けを作ったり。そういうアイデアをみんなで出し合いながらリリースするようにしていますね。

キイチ モノとして残ることの良さって、そのモノを通して会話が広がることだとも思います。古着をピックしている中で、ASPARAGUSのベースを担当されている原直央さんが率いていたSHORT CIRCUITっていうバンドのTシャツもあったりして。そういうつながりってやっぱりモノの力としてあるんだなと今回実感しました。

加藤 自分もモノが好きだから手にしたいという気持ちが強い方なんですけど、なかなか手に入らなかったりする。でも手に入ると、すごくハッピーじゃないですか。手放したくない、って思えるし。そういうモノが身近にあると、「これを作った人はこんなことまでやってのけたんだ」って思いを巡らせる機会もよくあるんです。そう考えると、作る身としても「変なモノ作れないな、俺もこれを超えるモノを作らなきゃ」とやる気になれますね。

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“好き”が詰まったYYW×SSZコラボ

──買い付けた古着の販売に加えて、今回はコラボのアイテムも制作されたんですね。

加藤 そうなんです。コラボでなにか洋服を作ろうとなり、せっかく作るならみんなが好きなものをギュッと詰めたものがいいよねって話していて。そこで“ツマミになるグッドミュージック”という彼らのキャッチコピーがあるんですけど、僕も彼らもお酒が好きなわけだし、好きなオツマミのイラストを総柄にした柄シャツを作ろうと。それとプラスしてみんなの好きなお酒もイラストにして、シャツのボディに散りばめました。シャツは僕が昔から好きなブラックウォッチ柄のチェックシャツ。

磯野 僕もブラックウォッチ柄は好きで、SSZのオリジナルのシャツを買ったりもしていました。

加藤 元々の背景がミリタリーから着想を得ているブラックウォッチ柄のチェックシャツは、プレッピーなスタイルにも頻用されていたり、上品で端正な印象を持つ人が多いと思いますが、実は男らしい無骨なアイテムなんですよね。昔からストリートでも愛されているアイテムですし、ビール缶がすっぽりと収まる胸ポケットなどのディテールも加えていて、どこか抜け感のあるYONA YONA WEEKENDERSにもぴったりなシャツになりました。

シンゴ あとはTシャツも作らせてもらいましたよね。

加藤 Tシャツは僕からのアイデアでもあります。彼らの音楽性がシティポップと形容されることも多いんですけど、実は彼らの背景にはハードコアやパンクの精神が根付いている。同時に古着好きということもあったので、その掛け算で出てきたキーワードが、僕も敬愛するヘンリー・ロリンズ(Henry Rollins)とイアン・マッケイ(Ian MacKaye)がアルバイトとして働いていたアイスクリームメーカーの「Häagen-Dazs」だったんですよね。

磯野 アイデアを出し合うなかで、僕たちと加藤さんが好きなバンドを沢山挙げていったりして、ブラック・フラッグ(Black Flag)とマイナー・スレット(MINOR THREAT)というレジェンダリーなバンドに辿り着いたんですけど、そのサンプリングの仕方が「さすが加藤さんだな」というアレンジで。

加藤 根っこがスケーターとかサーファー的なマインドでもあるので、どうしてもパロディものは凝っちゃうんですよね(笑)。

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──さらにスペシャルなオリジナルの音源とリリックビデオも作られたみたいですね。

磯野 音源に関しては、今回の企画に僕らが便乗するような形で作らせてもらいました。というのも、加藤さんが先ほど仰っていたような「好きなものを詰め込む」という感覚が、サラリーマンとしても普段働いている僕らが好きという気持ちだけでバンドをできている現状ともリンクして、すごくシンパシーを感じたんですよね。なので、自然とそういった曲を作りたいなと思えて、自ら提案させていただきました。リリックでも好きなスニーカーとか色についても言及していたり、僕らの“好き”が詰まった作品になっているので、そういった聴き方をしても楽しめる作品になりましたね。

キイチ 曲のタイトルにもしているように僕らはみんな同じ1989年生まれなんですけど、その年代の人なら共感できるTV番組も歌詞に含めていて。ファンの皆さんから今までの楽曲にない共感が得られたのは新たな発見でしたね。

磯野 エゴサーチしたら、歌詞の意味を深読みしている人がいたりね(笑)。今までは僕らの職場の愚痴とか働く人を応援する曲が多かったので、また違った景色を見られた作品になったなという実感がありました。

加藤 まさか自分が参加する企画で、大好きなアーティストが曲を作ってくれるなんて。僕が社内でディレクションしているSSZというレーベルがあるんですけど、昔上司にそのレーベルのテーマソングを作りたいって相談したことがあって。その時は「アーティストに失礼だ!」って怒られたんですけど、月日を経てこうした形でアーティストさんの音源作品とも関われて夢みたいです。

YONA YONA WEEKENDERS “1989’s” selected with Tadayuki Kato(SSZ) Lyric Video

──分野や世代を超えてのコラボレーションは、まさに<illmatic sense>の根幹にあるテーマでもありますよね。改めて今回協業を通して感じたことなどありますか?

加藤 改めて世代ってあんまり関係ないんだなって感じましたね。やっぱり昔から好きなスケートボードのカルチャーを見ても世代間のボーダーってほぼ皆無だし、好きなコトだったり、モノだったり、ヒトだったりで人ってすぐに繋がっていけるんですよね。彼らとは音楽、ファッション、お酒という“好き”の共通点があり。しかも僕もBEAMSに所属しながら兼業で実家の農家を手伝っていたりするので、彼らがサラリーマンをしながらバンドをしている姿にも勝手に共感しています。

キイチ バンドのなかでも結局そこが大事なんですよね。バンドが違ったり、普段聴く音楽のジャンルが違ったりしても、結局音の鳴る現場にいたらみんな仲良くなれたりするし。だからコラボレーションって音楽やファッションに限らず、その延長線上にあるものなんだなって再確認できましたね。

磯野 特に加藤さんとこうした機会を通してコラボレーションできたのはとても意味があるなと思っていて。決してそんなスタイリッシュなバンドではないと自分たちでは思っていますが、そんな僕らが加藤さんのような人とご一緒できて、色々と通じ合えるものもあって、幸せなことですよね。

加藤 むしろ僕も勝手に価値観が近いのかなって感じている部分もあるので。だから僕の作る洋服もYONA YONA WEEKENDERSや彼らのファンたちが着てくれたりしたら嬉しいですし、そういった部分でもリンクしあえる関係になっていけたらいいですよね。

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Text by Yuho Nomura
Photo by MIYU TERASAWA

PROFILE

YONA YONA WEEKENDERS

磯野くん(vo, g) | キイチ(g) | スズキ シンゴ(b) | 小原“Beatsoldier”壮史(ds)
“ツマミになるグッドミュージック”を奏でるメロコア・パンク出身の4人組バンド。
2021年4月7日(ヨナの日)にスピードスターレコーズから「いい夢」でメジャーデビューし、同年11月に1st Full Album「YONA YONA WEEKENDERS」を発表。2022年には、1st Full AlbumのLP盤、bonobos・蔡忠浩とのコラボ楽曲「夜行性 feat. 蔡忠浩(bonobos)」をリリースし、6月開催の恵比寿・LIQUIDROOMでのワンマンライブはソールドアウト。磯野くんの表現力豊かな歌声と骨のあるバンドサウンド、長きにわたってアンダーグラウンドなシーンの最前線で活躍した彼らが作り出すステージは必見。

SSZ DIRECTOR 加藤忠幸

1973年生まれ。神奈川県出身。大学卒業後ビームスに入社し、販売スタッフとアシスタントバイヤーを経て、2012年「SURF&SK8」部門のバイヤーに就任。2017年に“Surf & Sk8 Zine”のイニシャルをとったブランドSSZを立ち上げ、デザイナー/ディレクターとして活躍。家業である加藤農園の4代目であり、農家と二足のわらじを履く。

Instagram:@katoyasai

INFORMATION

Illmatic sense

さまざまなカルチャー情報を発信するメディア、BE AT TOKYOサポートのもと 、東京・ラフォーレ原宿6Fにオープンしたコミュニティスペース・BE AT STUDIO HARAJUKUが手掛ける新たなプロジェクト「illmatic sence」。
その名の通り「ヤバいセンス」を意味する本企画は、BE AT TOKYOが注目するスタイリストやミュージシャン、デザイナー、ショップオーナーを軸に、それぞれの視点から古着をセレクトし、それを展示・販売するというもの。次回は今年12月の開催を予定している。

BE AT TOKYO

2020年に始動した「BE AT TOKYO(ビーアット トーキョー)」。ビームスの「目利き力」「カルチャーの創造」、フロウプラトウの「実装力」「リアルとオンラインを横断したクリエイティブ」といった、両社がもつオリジナリティの高いノウハウを相互に活用し、これからの世界に相応しい「全ての表現者が創造することによって生きていける社会」の実現を目指して設立。

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RELEASE INFORMATION

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SSZ×YONA YONA WEEKENDERS Tシャツ

2022年7月6日(水)
BE AT STUDIO HARAJUKUにて発売

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