国や大企業の“偉い”人は、なぜ失言をしてしまうのか? 近年多くの人が抱いている疑問に、The Breakthrough Company GO(以下、GO)クリエイティブディレクターの三浦崇宏は一つの仮説を立てた。「日々アップデートされていく世界の常識、未来の主役である若い人の感覚を理解できていないからなのではないだろうか」と。

そんな考えをもとに7月19日(水)に開催されるのが<Z特区>だ。イベントでは「サスティナビリティ」や「エンターテインメント」など6つのテーマでトークセッションを実施。登壇するのはZ世代の有識者で、ベテランである企業の意思決定層が客席で学びを得る。

そんな一風変わった構造の本イベントの見どころを探るべく、登壇者の一人である3ピースバンド・Dios(ディオス)のボーカル・たなか(前職ぼくのりりっくのぼうよみ)と、三浦崇宏による対談を実施。<Z特区>が企画された経緯や、Z世代の世代観、これからのクリエイティブなど、幅広く語り合ってもらった。

対談:三浦崇宏×たなか(Dios)

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「若い人が活躍できないのも、ベテランが“老害”になるのも損失」

──お二人は友人同士だと伺いました。

三浦崇宏(以下、三浦) もともとはただのファンとしてライブに行ったりしていただけなんです(笑)。9年ぐらい前、彼が“ぼくのりりっくのぼうよみ(以下、ぼくりり)”名義でニコニコ動画でデビューした頃に「すごいラッパーが出てきたな」と。言葉の選び方とか、組み合わせ方が天才的なんですよね。それから共通の友人を介して知り合って、友達になりました。

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──たなかさんは三浦さんの魅力をどう感じていますか?

たなか マーケティング的に見て、あえて下品さを受け入れるところがすごいです。例えば、元も子もないですけど“Z特区”っていう直球な名前とか、僕はあんまりつけたいと思わない(笑)。でも、そういうある種の下品さって多くの人に届けるためには必要で。飲み込まなきゃいけない“毒”を全面に引き受けてしまうパワーが素敵だなって思います。

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三浦 本来はZ世代って括ること自体が誠実じゃないからね。でも、スピード感を持って伝えるためには、ミスディレクションする可能性も踏まえつつ多少乱暴に振り切る必要があったんです。僕がダサいこととか、「良くない」と思われかねないことをやってる時って、自覚済みなことが多くて。たなかくんはそういうことをセンシティブに察してくれるのがありがたいです。その反面、人のことを安易に分かった気にならない。要するに誠実なんです。人付き合いも音楽も、一回一回ちゃんと悩んで、自問自答している。イベントに来られる方はたなかくんのそういうところを見てほしいですね。

──そもそも<Z特区>を開催することになったきっかけはなんだったのですか?

三浦 2022年から2023年の間に、知り合いが表に出られなくなるような出来事が重なって。また、オリンピックの組織委員会での政治家の失言など、今の常識から考えると不適切な表現を平気で使ってしまったり…。もちろん、僕自身も人前で話す中でよくお叱りを受けます。でも致命的なことにならず生き残れている。なぜかというと、年下に学ぶ機会が多かったんですよ。例えば、TikTokで若い人に届く言葉とか映像を作るとなったら、Z世代の方が僕よりも経験があるじゃないですか。そもそも表現の世界って若い人の方が優れていることが多いですしね。だから僕は若い人向けの広告を作るときもインターン生に意見を求めたりしていて。GOは見渡す限り年下しかいないんですけど、僕はその中で“社長係”をやっているだけだと思っています。たなかくんのことも全然年下と思ってない。迷惑かもしれないけどね(笑)。

たなか いえいえ(笑)。

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三浦 それは広告業界に限った話ではないと思うんです。組織作りや、社会の仕組みを考え直すときにだって、“分かってる”若い人はたくさんいる。メディアとかで間違えてしまった僕の先輩や友人は、そういう若い人たちと関わったり、対等に接する経験が少なかったからアップデートできてなかったんじゃないかなと思うんです。それって、将来的に日本社会の損失になると思うんですよ。若い人が活躍できないのは損失だし、経験があって優れている部分がたくさんあるはずの人が、感覚をアップデートできないために世の中から“老害”扱いされて活躍できないのも損失。それをどうにか変えたいなと思って、こういうイベントを企画しました。

「今の時代、誰も分からない」。“リバースメンター”が求められる訳

──<Z特区>のキーワードは“リバースメンター(優秀な若い人材がメンターとなり、上司や先輩に助言や相談を行う概念)”です。台湾のデジタル担当大臣のオードリー・タンさんが2010年代に広めた言葉ですが、その重要性は以前から感じられていましたか?

三浦 そうですね。僕が古巣の博報堂に入社した頃、諸先輩方に対して「分かってないな」と思っていましたから。そして、今となっては自分もそう思われている側だと考えると、分かってないことに自覚的でありたいと。

たなか ぼくりりとして活動していた19歳くらいの頃、レコード会社やマネジメントの方に対して「思っていたより分かってないな」と感じていました。それは無能みたいな意味ではなくて。音楽ってまだ世にないものを作って、それを知らない人たちに届けていくっていう作業じゃないですか。僕にとってはそれが未知の仕事だったので、経験のある人がいい感じにやってくれるのかなと思っていたんです。そしたら、みんなも分かってないし、手探りな感じで。そういう意味で、リバースメンターの考えにも通じるような“全員対等”の意識はありましたね。

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三浦 たなかくん、今すごいいいこと言っていて、新しい仕事をするとか、本当にいいものを作ろうとする時って、みんな分からないでやってると思うんですよ。分かってることがみんなそれぞれ違うから、そこをすり合わせてやっていこうぜっていうことだと思ってるので、その感覚はすごい大事かもしれないですね。ましてや今なんてコロナを乗り越えて、日本はどんどん高齢化して……という時代だから、どう考えても誰も確かなことは分からないんですよ。

たなか 上の世代の一部のひとは “みんな分からない”っていう中でのすり合わせが、ちょっと下手なのかなって感じもします。

三浦 つい“分かってる側”でいようとしてしまうんだよね。

幸福の概念すら異なる。Z世代から学んだこと

──三浦さんがZ世代から学んだことはありますか?

三浦 大きく分けて3つありますね。1つ目はメディア観やクリエイティブ観。Z世代に電話のイラストを描かせたら多分黒電話ではないし、動画といえば横長じゃなくて縦長という人の方が多いかもしれない。普段はテレビ派の人がYouTube見るのと、YouTubeがメインの人がテレビ見るのとでも、絶対捉え方が違うと思うんですよ。そういう人に向けて広告を作る場合、僕が人生で何百本と作ってきた15秒のテレビCMの技術が役に立たない場面もあると学びました。2つ目は、ジェンダーやサステナビリティみたいなモラルの意識が全然違うこと。僕が会社で「女はこう、男はこう」って言うと失笑されますからね。

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たなか 最高の環境ですね(笑)。ここ最近のジェンダー観の変化はいいことだと思っていて。例えば書類の性別の記入欄が「男」「女」の2択から1個増えたってやっぱりデカいのかなぁと。様々な性自認が存在することを、僕のようなマジョリティはそもそも認識すらできていなかった。それが変わっていくということなので、小さいけど大きな違いなんじゃないかなあと感じてます。そういうことに目が向けられるようになったのは嬉しいですよね。

三浦 サステナビリティへの意識も変わってきていますね。例えば冷蔵庫の選び方ひとつとっても、50年前だったら価格と「どれだけ冷えるか」「ものが入るか」といった機能でしか選ばれていなかった中、途中でデザインの要素が加わった。「1、2万高くてもこっちはかっこいい」という感覚は、それまでありませんでしたから。それと同じように5年か10年かけて、サステナビリティとかトレーサビリティがない物はなんとなく買いづらくなっていくと思っています。「価格」「機能」「デザイン」の次の基準になっていくんだろうなと。

たなか なるほど。

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三浦 最後はコミュニティ感覚。大企業で偉くなるのも大事ですけど、信頼されるコミュニティがたくさんある人の方が幸福という価値観も増えているように思えて。例えば博報堂の中でリーダーになることも大事だけど「地元の仲間とこういうことやってるんだよね」「家族とはこういう関係なんだよね」と信頼されているコミュニティが複数ある方が幸福につながっている。そういうことをZ世代は感覚的に知っているんじゃないかなと思います。たなかくんをはじめ、登壇者の人と話してるとびっくりするんですよ。「すごいね、君」って言うのもおこがましいくらいです。

固定観念を刺激する。“OSが違う”Z世代の価値観

──今回の登壇者はどのように選ばれましたか?

三浦 最初は中枢になるボードメンバーを数人決めたんですよ。茶道家の岩本(涼)くんや、Under23サミット(『未来を担う若者が集い、議論し、熱狂する場』をテーマにした23歳以下のための合宿型カンファレンス)の運営員だった船野(杏友)さんとか。その方に「信頼している方っている?」「多くの人に知ってもらいたい人っている?」と聞いて、候補を挙げてもらって。その中で僕が「この人の話を聞くことがいい刺激になる」と思った人にオファーしました。そういえばサステナビリティのセッションに登壇してくれるビオタ(BIOTA inc.)の伊藤(光平)くんとか、知ってる?

たなか どんな方ですか?

三浦 山形県で授業をさぼってフラフラしている中で、今めっちゃ伸びているスパイバーという会社の研究者と知り合って、うんこの研究を始めたんだって。そこから、うんこの中にいる微生物の凄さに気づいた。人間の細胞って60兆個あるんだけど、その半分くらいには微生物が住んでいるからね。で、地球の生物って人間より昆虫が圧倒的に多いっていうじゃないですか。でもその昆虫よりもはるかに微生物は多いんです。そう考えると、今の世界の生物多様性って昆虫くらいからしか認識されてなくて、つまり氷山の一角でしかない。微生物も含めて地球のことを考えたら人間の存在なんて誤差でしかないと(笑)。で、伊藤くんは微生物を含めた生態系のマネジメントを企業やデベロッパー、行政にコンサルするって会社をやっていて。彼と話していて思うのは、コンピューターのOSが違うみたいに、もう僕らの世代とは見えてる世界が違うんだよ。

たなか めちゃくちゃ面白いですね。

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観客は新しい価値観を、Z世代はチャンスを。Z特区の展望

──<Z特区>に参加する人はどのようなことを得られると思いますか?

三浦 観客席に来ていただく意思決定層に関しては、若い人たちと対等に交流する大切さですね。経験や何かを積み上げていくことが持つ価値は否定しないけど、今の時代という誰も解いたことがない難題に向き合うにはそれだけでは戦えない。今は新しいルールがたくさんあって、それを得意としているのが若い世代なんです。とはいえ、偉い人たちもレバレッジを持っている方々ですから。Z世代の人たちもそういった方々とつながることによって何かのチャンスになればいいですね。

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──たなかさんはどう思いますか?

たなか 僕は全人類対等だと思っているところがあるので。例えば、谷川俊太郎さんと六歳の子どもが紙に書いた作品はどちらも同じ創作物じゃないですか。そういう意味で誰かに何か教えてあげたいというような、大それたことは言えません。ただ、僕の世界に対しての物の見方が何かのヒントになったりしたら、それはすごく嬉しいですね。そんな優等生的な回答で締めさせていただきます(笑)。

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三浦 今みたいに悩みながら丁寧に答えて、最後に自分に対してちょっと揶揄を入れるっていうのも、たなかくんの誠実さですよね(笑)。やっぱりそれを体感してほしいです。僕が尊敬するZ世代の人は、みんな誠実なんですよ。

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取材・文/山梨幸輝
写真/Kazma Kobayashi

INFORMATION

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リバースメンター・カンファレンス『Z特区』

[開催日時]7月19日(水)11:30〜20:00(11:00開場予定)
[会場]東郷記念館(リアル参加限定)
[アクセス]東京都渋谷区神宮前1-5-3
JR山手線「原宿」駅より徒歩4分
東京メトロ「明治神宮前」駅より徒歩5分
[主催]The Breakthrough Company GO

チケットのお申し込みについて
当日参加チケットは、2023年7月14日(金)23:59 まで販売しています。
※予定枚数に達し次第終了となります。予めご了承ください。

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