この冬、BARカルチャーの魅力を広く伝えていくためのメディア『グラスと[ ]』が本格始動。お酒の楽しみ方を体験できる機会を提供するとともに、その背景にある文化やストーリーを深掘りするプロジェクトだ。
今回、『グラスと[ ]』の動画シリーズの中で、BARを訪れ「おすすめ」をオーダーしてみる企画『グラスと[おすすめで]』に芸人・ヒコロヒーが登場。芸人として多数の番組に出演するほか、今年は自身初の短編恋愛小説集『黙って喋って』を発表するなど、その多彩さで幅広い分野からの注目を集めている。大のお酒好きであり空間そのものに特別な親しみを感じている「BAR愛」をもとに、その奥深さや価値について語ってもらった。
INTERVIEW
ヒコロヒー

BARは、一日の終わりに打つ「句読点」
ときには仕事終わりに、ときには休暇中の海外でもBARを訪れるというヒコロヒー。ありとあらゆるお酒に親しみ、さまざまな場所やスタイルでお酒を楽しむ日々のなかで、BARは「今日はここで、この一杯で終わり」と思わせてくれる、句読点のような存在なのだという。
「BARには、週に2〜3回くらい行ってるんじゃないですかね。スナックや居酒屋ももちろん好きですけど、しっかりお酒を飲みたいときはBARに行きたくなります。ひとりのときは、一杯飲みながら仕事の番組アンケートに答えたり、行きつけの店であればマスターやママとワイワイ喋ったり。ワケありカップルが多いお店だと、あまり大声で喋りづらいな〜と思うこともありますけど。自分にとってBARは、句読点のような場所。“今日のお酒はここで終わり”とか、“次に行くにしても一回区切ろう”とか、そう思わせてくれる空間ですね」
仕事終わりに「ちょっと飲みたいな」と感じるときも、BARはちょうどいい存在なのだそう。
「この前は仕事先の京都で、一番有名なオーセンティックバーに行ったんです。たまたま席が空いていて入れたんですけど、一杯がまあいいお値段で。でも、そこで好きなお酒を頼んで、ゆっくり飲めている時間に『ああ、がんばって働いてきてよかったなあ』って思いました」
海外に行った際も、ネットで気になるBARを探して足を運ぶことが多いとのこと。
「お酒って世界共通のものがすごく多いじゃないですか。基本的には、飲みたいものを頼んで、つくってもらって、飲むだけ。やっていること自体はどこのBARでも同じなんですよね。でも、お店やバーテンダーさんによって、つくり方や細かいニュアンスが少しずつ違う。その違いを感じられるのが、BARの面白さだと思います」


「おすすめで」がくれた、新しい一杯との出会い
今回の『グラスと[おすすめで]』の舞台となったのは、目黒駅からほど近い『Bar E.A.T 目黒本店』。シックで落ち着いた店内では、季節のフレッシュフルーツを使った本格カクテルや、豊富なウイスキーを楽しむことができる。隠れ家的な雰囲気も魅力の一軒だ。

普段は、自分の気分や体調に合わせて飲みたいお酒を考え、オーダーすることが多いというヒコロヒー。そんな彼女にとって、本企画『グラスと[おすすめで]』は、少し新鮮な体験でもあったのだとか。『Bar E.A.T 目黒本店』で味わう一杯目のマティーニ。その感想はいかに。

「『Bar E.A.T』は今日が初めてなんですけど、すごく落ち着く雰囲気で、インテリアも素敵ですよね。居心地のいい空間で、レモンピールマティーニをいただけて嬉しかったですし、とにかく美味しかったです。マティーニって、見た目がすごくシンプルじゃないですか。いやらしさのない、素直な装いというか、ああいう佇まいがすごく好きなんですよね」
今回提供されたのは、ジャパニーズクラフトジンROKU〈六〉をベースにしたマティーニ。ヒコロヒーにとって、これもまた初めての体験だったという。
「ジャパニーズクラフトジンのマティーニは初めてだったんですけど、飲みやすさと爽快感のバランスがすごく良くて。これはきっと、日本人ならみんな好きなんじゃないかなって思いました。食事にもよく合いそうですよね」
BARでいただくお酒ならではの特別感についても、こう語る。
「BARのお酒って、バーテンダーさんがその一杯を大事にしてくれている感じがするんですよね。今日のマティーニも、氷の冷やし方からレモンピールの分量まで、いろいろと手をかけてくださっていて、その積み重ねが美味しさにつながっているんだと思います」
そして、本企画のテーマでもある「おすすめで」というオーダーについても、あらためて話を聞いた。
「BARで『おすすめで』って言うと、バーテンダーさんが自信を持っているものを出してくれる安心感がありますよね。私はもう36歳で、ずっとお酒を飲んできているので、自分の好みやその日のコンディションで“今日はこれ”っていうのがだいたい分かるんです。だから普段は『おすすめ』をお願いすることって、実はあまりなくて。でも、もうちょっとお酒の味を知りたいなっていう若い人には、BARで冒険してみるのもすごくいいと思います」
今回の体験を振り返りながら、最後にこう続けた。
「今日みたいに『おすすめで』って言ってみることで、今まで知らなかった美味しさに出会えることもあるんだなって思いました。私自身も、またちょっと挑戦してみたいですね」

ヒコロヒーが語る、BARデビューのすゝめ
居心地の良さが、いい一杯をつくる
ヒコロヒーといえば、閉店してしまう行きつけのワインバーを“お店ごと買い取った”という、少しダイナミックなエピソードでも知られている。お客さんとしてだけでなく、経営する側の視点も持つ彼女が考える「美味しいお酒が飲める場所」とは、どんなところなのだろうか。
「BARで一番大事なのって、やっぱり居心地だと思うんですよね。どんなに高級でオーセンティックなお店でも、気取られるとちょっと居心地が悪くなっちゃうし、逆に、ちょっとスカして飲みたい気分のときに気さくに話しかけられるのもしんどい。剣道でいうところの“居合”みたいなものが、水商売の根幹なんじゃないかなって思います」
そう語るヒコロヒー。自身が買い取ったバーについても、こんなエピソードを明かしてくれた。
「それで言うと、私が買ったバーのマスターは、決して“居合”が上手なタイプではなかったんですけど、それが逆に心地よかったんですよね。好き放題、言いたいことを言ってくる感じが。だから結局、居心地って空間と人がつくるものなんだと思います」
居心地の良さは、店側だけでなく、そこに集う人たちによっても生まれるものだという。
「店員さんだけじゃなくて、お客さんにも知性が必要だと思うんです。常識とかモラルとか、そういう“最大公約数”みたいなものが一致したときに、心地の良さが生まれる。自分がいい人間でいられたら、きっといいお酒の楽しみ方ができるんじゃないかなって思います」

最後に、「BARに入るのはちょっと緊張する」という人たちへ、背中を押すメッセージをもらった。ヒコロヒー流・BARデビューのすゝめだ。
「BARにまだ馴染みがない若い人は、社会科見学みたいな感覚で行ってみるといいと思います。私も最初は“BARってカッコいいな”くらいのところからでしたし。お酒が弱くても、詳しくなくても、正直に伝えれば、バーテンダーさんはプロなのでちゃんと応えてくれます」
その日の気分や目的に合わせて、店を選ぶ楽しさもBARの魅力だという。
「しっかりお酒を味わいたいなら、バーテンダーさんが真剣につくってくれるお店に行くと面白いし、友達とたくさん喋りたいならカジュアルなお店がいい。ちょっと色っぽい時間を過ごしたいときは、洒落た一杯を勧めてくれる雰囲気のあるお店に行くのもいいですよね。最近はノンアルコールカクテルも増えてきているので、どんな人でも楽しめる場所だと思います」
最後に、こんな言葉も添えてくれた。
「いいお酒の飲み方を知らないまま歳だけ重ねている人も意外と多いので、若いうちから“イケてるお酒の飲み方”をBARで見ておくのは、きっといい経験になるんじゃないでしょうか」

「おすすめで」から始まる、BAR体験
居心地のいい空間で、丁寧につくられた一杯を味わう。ヒコロヒーの言葉からは、シンプルでありながらも奥深い、BARという場所の魅力と面白さが浮かび上がってきた。本インタビューと連動する『グラスと[ ] 』の動画も参考にしながら、今夜はBARの扉をノックしてみてはいかがだろうか。きっと、思いがけず心に残る一杯との出会いが待っているはずだ。
本日のおすすめカクテル
今回提供されたのは、サントリーのジャパニーズクラフトジンROKU〈六〉をベースにしたマティーニに、レモンピールを添えた一杯。
ROKU〈六〉ならではの繊細でバランスの取れた香りと、キリッと冷えたマティーニのシャープさが合わさり、爽やかさと奥行きを同時に楽しめるカクテルに。レモンピールの香りがふわりと立ち上がることで、シンプルながらも印象に残る味わいに仕上がっている。

・カクテルレシピ
ベース:ジャパニーズクラフトジンROKU〈六〉/ドライ・ベルモット
スタイル:マティーニ
ガーニッシュ:レモンピール
・今回の動画はこちら
ストップ!20歳未満飲酒・飲酒運転。妊娠中や授乳期の飲酒はやめましょう。
お酒は何よりも適量です。
Interview:野中ミサキ(NaNo.works)
Photo:Yukitaka Amemiya
