2017年5月に日本上陸、6月に「Spring-Summer Collection17“APOLLO”」とともにグランドオープンを果たしたサンフランシスコ発のストリートブランド「NERDUNIT(ナードユニット)」。
2011年からアジアを中心に世界7ヵ国で展開してきた同ブランドを日本に招致、ファッションシーンに新しい風を吹き込んだのが、現在NERDUNIT JAPANの代表を務める松岡那苗氏です。
9月に展開されファッショニスタのあいだで話題となった渋谷・原宿でのジャックイベントやポップアップストアなど、日本独自の展開を仕掛けることでアジアから世界へストリートファッションを発信したいと語る那苗さんのお話からは、ブランド理念からファッション×カルチャーの重要性、ストリートファッションの少し先の未来が見えてきました。
Interview:松岡那苗
——これまでマーケティングやキャリア系のお話をされる機会も多かったそうですが、今回は那苗さんのパーソナリティをとおしてNERDUNITの魅力や現在のストリートファッションのかたちを探っていければと思っています。まずは、現職に携わるまでの経緯を教えていただけますか?
大学卒業後は一度日本の企業に就職したんですけど、しょっぱなから海外勤務をすることになり、フィリピンのマニラで新規事業開発のポジションを任せていただきながら仕事をしていました。そこから、ハイブランドのデジタルマーケティングに関わる仕事に移り、今回独立というかたちでNERDUNIT JAPANを立ち上げました。
——NERDUNIT本社に移籍ではなく、あくまで独立なんですね。
そうですね。ブランドって、イメージやコンセプトに差異が出てしまうといけないからローカライズするのは厳しかったりするんですよね。でも、日本のファッションのマーケットは特殊なので、海外から持ってきたことをそのままやってもうまくいかないんじゃないかと思ったんです。なので、NERDUNIT JAPANを立ち上げることで完全に権限をいただいて、国内でのイベントなどもちゃんと日本人に合うことを自由に企画してやらせてもらっています。
——なるほど。NERDUNITを国内展開するにあたって、他国のファッションシーンも間近に見てきた那苗さんの目に、今の日本のシーンはどう映っていますか?
他国と比べて日本の若い人たちのファッションに対する熱って本当にすごいんですよね。お金の掛け方も違いますし、街を歩いていてこんなにおしゃれな人ばかり。そこは、アジアの中で特に突出していると思います。それに、日本のストリートファッションってすごく強い力を持っていて。原宿・渋谷で盛り上がっているシーンには熱があるし、裏原っていう名の知られた場所があったり。それなのに、ストリートブランドってそんなに生まれていなくて。NERDUNIT自体、もともとは西海岸で立ち上がったブランドなんですけど、代表がアメリカ系アジア人ということもあってマレーシアに本社を置いていて。アジアからファンを増やして拡大させていくっていうのがモットーではありますね。
——ハイブランドなんかだとアジアからも活発にスタイルが発信されていますけど、ストリートファッションにおいては生産国というイメージが強いアジアを発信地としてブランドを展開していくのは、革新的だと思います。NERDUNIT JAPAN立ち上げに関しては、那苗さんが本社へ直接提案を持ちかけたそうですね。NERDUNITのどんなところに可能性を感じましたか?
今ってSNSでもまずフォトジェニックなものが注目されるじゃないですか。その点でNERDUNITって、オンラインに強いんです。たとえばコレクションに関しても、典型的なものではなく積極的に音楽やダンスシーンと絡めましょうっていうスタンスがあって、DJの大会を開いちゃったりするようなブランド。それくらいアンダーグラウンドの人たちとも絡んで一緒になにかを作っていく。そして、それを映像や写真で発信したりていたので「これは今の時代にすごく合うな」と感じました。音楽業界ってすごい力を持っているし、音楽とファッションの関連性もすごく重視されてきた。NERDUNITは、ブランドとしてそこをしっかりカバー出来ている印象があったし、アジア発信のブランドということもあって、日本での展開をお声がけしてみました。
——音楽と紐づく、バックグラウンドがあるファッションには説得力があると思います。個人的には、ここ数年そこがすっぽりと抜け落ちたまま象徴化されたロゴやアイテムだけが一人歩きしている印象だったので、NERDUNIT JAPANの目指すところは新鮮でもあるし、本来あるべきかたちに立ち戻ったように感じます。
これまで西海岸から持ってきたブランドっていうのが多かったんですけど、NERDUNIT JAPANを立ち上げることで日本の人たちみんなでブランドを作っていく、ストリートファッションの熱を上げていきたいし、やっぱりアジアのストリートブランドを引っ張る日本でありたいっていう気持ちはあります。それに私、あまのじゃくなんです。赤が好きでも他の人が赤を好きになると、青が好きになっちゃう。青が盛り上がったら、次は緑を作りたい。その勢いで今までやってきたのかなって思います。
——ハイブランドに携わっていたのにストリートブランドを手掛けるようになったのも、あまのじゃく的な感覚だったり?
それもあるかもしれないですけど、もともとファッションブランドは他のシーンと絡むことに意味があるし、全部が絡まることによってスタイルが出来上がると思っているので。そういう点で言うと、スタイルが確立されているハイブランドではなくて、音楽好きやダンサーにとって馴染みの深いストリートファッションに可能性を感じたというか。アンチテーゼやメッセージを提示する姿勢は、音楽とも通じる部分だし、どちらも似ているべきだと思うんです。
——そういった那苗さんのファッション観やカルチャーへの好奇心はどこから影響を受けたものですか?
両親がモード系のファッションブランドを持っていたこともあって、そこから受けた影響は強いですね。ただ、純粋に音楽もすごく好きだったので、意識はストリートに惹かれていたというか。Linkin Park(リンキン・パーク)とかRed Hot Chili Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)とか、海外のバンドをよく聴いていたんですけど、洋楽や楽器に親しんだのも両親の影響ですね。私もドラムを叩いたりベースやギターを弾いたりしていて。両親とは、最近やっと仕事の話を出来るようになりましたね。