——ご両親以外で影響を受けた人や理想とする人は?

ファッションブランド「JOYRICH」のデザイナーのTOM HIROTAさんには個人的にすごくインスパイアされました。LA発のブランドなのにデザイナーが日本人だっていうことはあまり知られていなくて。本場でブランドを成功させて、逆輸入するかたちで日本でも人気が出るっていうのは、なかなか出来ないことなので。お会いしたことはないですが、すごく憧れています。ファッションとか音楽とか、感性の世界って日本人はすごいものを持っているのに、まだまだ外に発信出来ていないと思っていて。最近になって、ONE OK ROCKやCrossfaithが海外のミュージシャンを呼び寄せるかたちでコラボレーションしたりしていますけど、ようやくこういう時代になったんだなって。音楽はすごい速さでデジタル化されましたけど、ファッションはまだそこに余地があるし、ストリートにこれだけの熱があるんだったら、次は日本から海外に寄せていきたいなって思っています。

——そういった意識を持って、男性がメインターゲットのストリートファッションシーンに20代前半の女性が先陣を切って飛び込んだということも注目すべき点だし、那苗さんの先見力と自ら仕掛けて理想を掴みにいく行動力にすごく驚いています。ちなみに、判断に迷ったり「これはダメかも」って思ったとき、なにを指針にしていますか?

うーん、なんだろう……。「もうダメかも」って思わないようにしています。ものすごいプランニング人間なので、ダメかもって思う前に逃げられる道を探すんです(笑)。そういう意味では、消極的だし臆病なんです。いつも不安ばかりで目の前が見えなくなっちゃうことがあるので、3年・5年先まで計画は立てますけど、意識的に目先1ヶ月を見るようにはしていますね。じゃないと、お客様への対応なんかも煩雑になってしまうし、そういうところから終わりに繋がってしまうので。神経質で心配性、典型的なA型なんです(笑)。

——(笑)でも、それって結局は最終的に自分の判断を信じられるための逃げ道を用意しているっていうことだとも思うんです。

たしかに「自分しかいないな」とは思っています。こうしてブランドの仕事をしていると、いろんな人と出会って頼れる人もたくさんいるんですけど、人によって経験もアドバイスも絶対に違うし、結局「やるしかない!」って感じです。自分の決定がすべてだから。

——大きな責任と期待を背負っていますもんね。さて、そもそもNERDUNITの名が広く知られるキッカケのひとつに、クラブの現場で注目されたリフレクティブ ジャケットがありますが、これって今のご時世だと珍しい現象でもあると思うんです。たとえば、テレビやSNSで著名人が着ていて火がつくのとは違って、まるで地底で弾けた火種が地上で火事を起こしたような現象だなって。この、地底というところにすごく意味があるというか。

音楽ファンって、その音楽をいきなり嫌いにはならないと思うんです。そういう人たちが集まるアンダーグラウンドの現場で少しずつ火をつけて、それがSNSを通してオンライン上で広がっていっているのは感じているし、たとえ影響力は大きくてもすぐに消える火はつけたくないっていう気持ちはあります。日本って特にそうだなって思うんですけど、たとえば自分の好きな俳優やモデルのマネをして服を着ていても、その人たちになにかスキャンダルなんかがあると急に嫌いになるし、それが服にも影響したりするじゃないですか。音楽って一度好きになったらなかなか嫌いにはなれないし、絶対に消えない好きだと思っていて。

【インタビュー】新鋭ストリートブランド「NERDUNIT」代表・松岡那苗が語るファッション×カルチャー nerdunit-1709293-700x476

——そういった音楽との親和性の高さに加えて、バックグラウンドを限定せず誰が着てもただ直感的にカッコいいと思えるスタイルを提案しているブランドだなと感じています。

それはうれしいですね。たしかに仰る通りで、いろんな人に好きになってほしい、いろんな人にとってカッコいいものでありたい、というのは捨てたくないところです。それは性別にもいえることで、今は圧倒的に男性の支持が多いですけど、個人的には女性にももっとストリートカルチャーが広がればいいなって思っています。今年はストリートファッションがトレンドでもあったし、ファストファッションのブランドもそこを組んで展開したりしていたので盛り上がってきているとは思うんですけど、やっぱりアンダーグラウンドシーンで活躍する女性って男性ほど多くはないから、もっとガッと盛り上がればいいなって。女子、一緒にがんばろう! って(笑)。

——個人的なイメージですけど、ファッションやカルチャーをビジネスとして展開出来る人が、そこに愛情を持っているかっていうと、それは別の話だったりするじゃないですか。那苗さんのお話の端々にちゃんと愛が感じられて、なんというか……すごく安心しました。

(笑)。やっぱり本当に好きなファッションや音楽のことをちょこまかしたくはないっていう気持ちはありますね。そこがうやむやになるのがイヤで、思いっきり独立に舵を切ったっていうのもありますし、ファッションって好きが仕事になる世界なので。マーケティングうんぬんは、自分の好きなものを支えるために必要なものっていう感覚ですね。せっかくいいものがあっても、それを支えるものがないからガタガタって崩れ落ちちゃっているとも思っていて。そこがあるからこそ続くわけだし、ファッションも音楽もスポーツも、左脳で考えることは必要だと思うんです。でも、結局最後はやっぱり右脳。どれだけ好きでカッコいいと思えるか、じゃないかなって。

——その一番純粋なところでファッションとカルチャーがつながれば、持ちつ持たれつの関係も成り立って可能性がさらに広がりそうですね。今後、ストリートファッションもひっくるめた日本のカルチャーをNERDUNIT JAPANでどう導いていきたいですか?

NERDUNIT自体は世界に向けて「ストリートといえばこのブランド」という領域に入っていきたいっていうビジョンはあります。ただ、それよりもこのカッコいい日本の音楽やスポーツのシーンを他のものに負けないようにブランドとして引っ張っていく存在になりたいなと思いますね。NERDUNITを着ることでバンドのフォロワーが増えたりすることもうれしいですし、一緒になにかをした人たちとは、お互いががんばることで成長したりプラスになる関係になりたいと思っていて。それをファッションだけじゃなく音楽やスポーツとも一緒に作っていくのが、私が一番望んでいる空間です。逆に、どれだけ影響力のある人でもNERDUNITに対して興味がないのであれば、私たちにとっては関係なくて。お互いが好きだって思い合えてなければ、なにもやっちゃダメだと思うんです。私たちはまだ日本に上陸して日数も少ないのでまだ引っ張ってもらっている立場かもしれないんですけど、いつかファッションでアンダーグラウンドシーンを底上げ出来る立場にもなれたらって思っています。

【インタビュー】新鋭ストリートブランド「NERDUNIT」代表・松岡那苗が語るファッション×カルチャー nerdunit-1709297-700x465

オフィシャルサイト

interview & text by 野中ミサキ(NaNo.works)
photo by Michale Holmes