幼稚園や保育園など、子供が沢山いる場でDJをする機会が多い僕ですが、子供に向けてどんな音楽を聴かせるか? は当然1番重要な問題です。所謂“子供が好きそうな曲”、“子供向けの曲”というものはあるのですが、子供はそれだけが好きな訳ではないし、むしろ僕のDJを通して、子供たちには未知との遭遇をして欲しいと思っています。そこで今回は、実際に僕が子供たちに聴かせたいと思っている音楽を10曲紹介します。

#1. WINX – “Don’t Laugh (Original Live Raw Mix)”

鬼才、Josh Winkによる延々と笑い声がループするハウスミュージック。子供たちにとっては、身近に親しんだ楽器の音などは一切出てこない音楽です。リズムを刻む笑い声が鳴り始めると最初は子供たちも真似して笑ったりしますが、それもさらに延々繰り替えすうちに音のゲシュタルト崩壊が起こって、子供たちは「この音は笑い声である」という認識すらも薄れて音に没頭してきます。“音と音楽”の境目を広げていく音楽。

WINX – “Don’t Laugh (Original Live Raw Mix)”

#2. Angelique Kidjo – “Batonga (Album Version)”

ベナン共和国出身の女性アーティスト、アンジェリーク・キジョーによる91年の大ヒット曲。リズムも言葉も、子供たちがおそらく殆ど触れてこなかったものだと思うのですが、本能的な気持ち良さは伝わるようで、子供たちがよく踊ってくれます。何語か分からないのに2まわし目からは真似する子が出てきたり。ちなみにこの歌、アンジェリーク・キジョーが考えたオリジナルの言語だそうで、響きの気持ち良さだけで意味はないそうです。音楽は言語を超える事の好例。

Angelique Kidjo – “Batonga (Album Version)”

#3. Cornelius – “Drop”

日常の中で必ず耳にしている洗面所の水音が音楽を奏でます。立体音響なども取り入れたステレオの音の処理も面白いので、スピーカーの調整がよく出来ている時にかけたい曲です。言葉じゃない形で“多重録音”というものの面白さや不思議さを伝えるのにもコーネリアスの楽曲はバッチリだったりします。1音1音の響きが細かく作り込まれているところなんかも、子供に聴いて欲しいポイントですね。

Cornelius – “Drop”

#4. Jorge Ben Jor – “Taj Mahal (Fatboy Slim Presents Jorge Ben Jor) (Felguk Remix)”

ブラジルの国民的シンガーソングライター、ジョルジ・ベンが71年にリリースした楽曲をFelgukがリミックスしたもの。スクエアなグルーヴと、ブラジル音楽特有の細かく揺れるリズムの2重構造になっていて、どちらのノリでリズムをとっているのか、フロアで子供たちが2つに割れることもあって面白いです。音の質感も、アコースティックな部分とデジタルな部分がはっきり2層に分かれていて独特です。高揚感あふれるサビのフレーズ、こちらもまた音楽が言語を超える好例といえるでしょう。

Jorge Ben Jor – “Taj Mahal (Fatboy Slim Presents Jorge Ben Jor) (Felguk Remix)”

#5. DCPRG – “GONDWANA EXPRESS”

いくつもの拍子が組み合わさった複雑なリズムです。大人だったら、「どこがリズムの頭?」とか、「何拍子?」とかついつい考えてしまいそうですが、案外こどもの方がこういう曲では素直に音を聴いたままにノレたりします。こういう時、子供の柔軟性ってやっぱいいなって思いますね。意外と、キッズダンスを習っていたりして、身体の中で「1、2、3、4」でカウントをとる習慣がついている子は、大人と同じように混乱してしまったりして面白いです。

DCPRG – “GONDWANA EXPRESS”

#6. Royksopp – “Eple”

2005年に子供に向けたDJ活動をはじめた当初から、何故かどの現場でもウケが良かった曲です。僕のDJを聴いた後に「マンガを聴いてるみたいだった」みたいな感想をくれる子がいるのですが、最初にそういう事を言われた曲がこれでしたね。エレピのループのキラキラと可愛らしい感じは確かに夢心地にさせてくれます。また、音そのもの以外にも、エコーの残響音の心地よさなども子供に紹介出来る一曲ですね。

Royksopp – “Eple”

#7. AFRA & INCREDIBLE BEATBOX BAND – “APACHE”

ヒップホップの古典的名曲であるブレイクビーツ”APACHE”をAFRA & INCREDIBLE BEATBOX BANDがヒューマンビートボックスでカバーした楽曲。口で出せる音だけでこれだけ幅広い音楽表現が出来るんだっていう衝撃があります。これも真似をしようとする子がよく出て来る曲ですね。ヒューマンビートボックスは楽器や機材を買わなくても身体一つではじめられるので子供がチャレンジするには持ってこいな演奏法かもしれませんね。

AFRA & INCREDIBLE BEATBOX BAND – “APACHE”

#8. Kraftwerk – “Musique Non Stop (2009 Remastered Version)”

クラフトワークも、子供たちが盛り上がる曲が多いですね。その中でも特に反応が良いのがこれ。当初はクラフトワークというと、やはり独特の電子音が子供たちの心をとらえるのだと思っていたのですが、色々子供から話をきいてみると電子音もさることながら、そのファンキーなリズムがむしろ子供たちの心をとらえていたみたいです。この曲は、2枚使い(同じレコードを2枚使う事によって曲の1部を繰り返したり、リズムを組み替えたりするかけ方)でプレイすることが多いです。
Kraftwerk – “Musique Non Stop (2009 Remastered Version)”

#9. Steve Reich – “Piano Phase”

ミニマルミュージックの巨匠、スティーブライヒの代表曲ともいえるこちら。この曲は2台のピアノで短いフレーズを延々と繰り返し弾き、演奏が重なったり、微妙にズレたりした時におこる音のうねりが心地よい曲です。ミニマルミュージックは、聴くだけじゃなくて子供たちと一緒に実践しても面白いです。楽器が出来ない子でも、なにか簡単なフレーズを繰り返し演奏するというのは出来たりするので、身近な楽器で簡単な同じフレーズを繰り返す遊びをすると時間を忘れて没頭する子が多いです。
Steve Reich – “Piano Phase”

#10. The Beatles –“All You Need Love(愛こそはすべて)”

そもそも僕が幼稚園などでDJをしはじめたきっかけは、有名な曲だから盛り上がるとかではない、先入観の無い現場でDJしたかったから。そういう意味ではビートルズは世界で最も有名なバンドですが、子供の現場では他の音楽と変わりません。この曲は子供の現場ではウケたりウケなかったりなんですが、その場では分からなくても、後年絶対どこかでまた耳にして「そういえばこの曲どんな曲なんだろう?」とか思って改めてこの曲に触れて欲しいという願いを込めてよく選曲します。愛こそすべてなのです。
The Beatles –“All You Need Love(愛こそはすべて)”

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PROFILE

青森県八戸市出身。1998年、14歳の頃にDJ/トラックメイカーとして活動を開始。幼稚園からageHaまで、大箱/小箱関わらず、ジャンルやシーンの壁すらも包み込むような“無偏見”なプレイで全国津々浦々の老若男女を日々踊らせ続けている。ライフワークにしている子供に向けてのDJ活動は、TBSラジオ、朝日新聞など数多くのメディアで取り上げられ、大きな話題を呼んだ。サウンドクリエイターとしてもダンストラックのみならず、美術作品のための音響製作やファッションショーや映像作品のための音楽/音響製作も手がけている。また、2013年からはDJ YUMMYと共にDJスクール「桜木DJアカデミー」を立ち上げ、DJ講師としても活動中。

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