2006年にカナダ・モントリオールにて結成、日本でも2009年にシンプル・プラン(Simple Plan)のジャパン・ツアーに帯同し、アクションゲーム『ディシディア ファイナルファンタジー』のサウンドトラックに参加するなどして人気を獲得したユア・フェイバリット・エネミーズ(Your Favorite Enemies)。インディーからハードロックまであらゆるロックの要素をベースにした、エモーショナルかつエクスペリメンタルなサウンドで、今や孤高の存在を放つ彼ら。そのフロントマンであるアレックス・ヘンリー・フォスター(Alex Henry Foster)が初ソロアルバム『Windows in the Sky』をリリースした。自身の吐き出せなかった感情や不安や葛藤などを、ポエトリー・リーディングなどを交えた圧倒的なボーカル、そしてドラマティックなバンド・サウンドで表現している作品。すでに地元カナダにおいては、ミューズ(Muse)、イマジン・ドラゴンズ(Imagine Dragons)、レディー・ガガ(Lady GaGa)や、クイーン(Queen)などをおさえ配信チャート1位を獲得するなど、大きな反響を呼んでいる。そんなアルバムについて、また自身が活動において大きな影響を与えている「日本」について、動画メッセージを交えて熱く語る!
日本は心の「故郷」のような存在
──日本には何度も訪れていますよね?
以前は年に何度も来日することもあったけど、最近は一年に一度くらい。だけど、常に来るたびに、自分はそれまで何をしてきたのか? 行動を省みることができるというか。それまでの自分をクレンズしてくれる効果を感じるよ。
──日本がセカンド・ホームみたいな?
心の故郷という感じ。穏やかでいられるんだ。だから、自分が何をすべきなのかを、自然にフォーカスさせてくれる。
──どういうきっかけで、そうなったのですか?
人々の存在が大きい。初めて来日したのも、日本のファンのみんなの熱狂的なリクエストによって実現したものだし。大抵、日本というと煌びやかなネオンとか、カルチャーみたいなものを注目する人が多いけど、僕はそこよりも人々の暖かさ。初めて会ったのに家族のように接してくれるその姿勢に感銘を受けたんだ。カナダとは遠く離れた場所なのに、とても身近な気分を味わえることを初めて知ったよ。
──日本のファンは、どのようにしてあなたとコンタクトを取ったのでしょう?
当時はMyspaceというコミュニティ・サイトがあって、そこに音楽はもちろんだけど、自分のパーソナルなことも綴ったんだ。絶望とかダークな部分を含めてね。それを見てくれていた日本の皆さんが反応してくれたという感じだね。
音楽が「自分が孤独ではない」と感じさせてくれた
──音楽を始めたきっかけは、絶望などネガティブな感情から?
そうだね。日常でなかなか吐き出せない思いを発散させるために、サウンドやメロディを駆使していたという感じ。ただの自己表現だと思っていたから、まさかこれで生活をするとは思っていなかった。
──どういうものに影響を受けて音楽を制作しているのでしょう?
僕は幼い頃は、家族の都合でいろんな場所を転々とする生活をしていた。だから、友達を作るのが難しくて、唯一の救いになってくれたのが音楽や書籍だったんだ。ここには、自分が口に出せない感情がたくさん詰まっていた。そして自分がひとりじゃないんだということを教えてくれたんだよ。
──そして、2006年にはユア・フェイバリット・エネミーズを結成します。どういう経緯で活動をスタートさせたのでしょう?
当時、僕は大学生でありながらも、ソーシャル・ワーカーとしても活動をしていて、英語がなかなか話せない移民をサポートしていたんだ。そこに、お手伝いとしてセフ(Sef)がやって来たんだ。彼はギターを弾いていたけど、それまで誰ともセッションをしたことがないと言うから、ならば一緒にやろうということになり、彼の弟であるベン(Ben)もベーシストとして加わってバンド編成になったんだ。二人は完全なメタル・キッズで、僕はソニック・ユース(Sonic Youth)などのインディー系のロックが好きだったりとか、趣味が全く異なる部分はあったけど、音楽に対する情熱は変わらなかった。また、お互いをリスペクトする気持ちがあったから、その壁はすぐになくなったし、今後長い付き合いになる関係だと確信したよ。結果、現在ではさらに深い関係になって、お互いが家族のようなかけがえのない存在になっている。
Your Favorite Enemies “The Early Days – Evolving in Reversal Frames (Anthology 2006-2009)”
──バンドでは、数多くのヒット作を発表。世界中に多くのファンを抱えるほどになっています。そんななかで2018年よりソロ活動をスタートさせましたが。
結成以降、ありがたいことに世界中からライブのオファーをいただいて、忙しくしているうちに、ふと「自分に取って大切なものは何か」を考えたんだ。また、それを考えることに恐怖を感じていたことにも気づいた。(ソロ活動を始める直前に)父親がこの世を去ったという出来事も重なって、精神的にも肉体的にも疲弊していたし、ちょっとバンドから離れた時間を作ろうと決意したんだ。それで、僕は身ひとつでモロッコへと旅立ったんだ。そこは、僕が愛するミュージシャンや詩人などが、次へ向かうためのステップを得るための場所として訪れていたから、自分も何かを吸収できるのではないかと思ってね。文化や言語も異なるけど、とても刺激的な出来事の連続で、当初は数週間の予定が、1ヶ月、半年、そして1年と経過し、そこで湧き出たものを音楽として表現していた。それをバンドのメンバーと構築したら、どのようなケミストリーが生まれるのかを試してみたくなって、最後にはみんなを呼んでレコーディングしていたら、自然とアルバムが完成したという感じなんだ。
「痛み」を乗り越えて完成した初ソロアルバム
──そして完成した初ソロアルバム『Windows in the Sky』は、カナダの配信チャートで1位を獲得、ミューズやイマジン・ドラゴンズ、クイーンなどと肩を並べるほどの上位にランクインしました。
自分に必要だと思ったから、アルバムを発表したまでで、ヒットとかそういうことは一切頭になかった。また売れたとしても、ユア・フェイバリット・エネミーズのファンばかりが注目してくれるだけだと思っていたから、特にプロモーションとかせずにいたんだけど、SNSを通じてたくさんのメッセージが届いたんだよ。多くの人が、この音に自分の経験を重ねて聴いていることを知ったんだ。アルバムとして発表して良かったと思っているよ。
──アルバムは深みのある内容ですよね。
僕の父親は、僕に血の繋がった関係であるという実感を与えずに、この世を去ってしまった。何も答えを与えてもらってないような思いがあったんだ。それを、どのようにして解決していいのかの「過程」を描いたのが、このアルバム。また、自分の中にあるネガティブな感情をありのまま受け止めなくてはいけないと、自分に自分を言い聞かせるリマインダーのような存在の作品でもあるんだ。
──ソロということで、作り方に違いはありましたか?
これまでバンドでも、ダークな部分を表現することもあったが、そこに自分のパーソナルな感情を投影させるのは違うと思った。だからソロ名義にしただけであって、奏でているのは同じメンバーだから、制作に違いは特にないね。
──カナダでの熱狂を経て、ついに日本でも『Windows in the Sky』が解き放たれました。日本のリスナーにはどう響いて欲しいですか?
僕は好きな音楽に触れた時、作り手から楽曲解説とかされると残念な気持ちになってしまう。例えば僕は、ザ・キュアー(The Cure)の『Pornography』というアルバムが好きなんだけど、多くの人はこの作品をダークと言うが、僕に取っては光にあふれた音楽として耳に残っている。人によってさまざまな聴き方ができるのに、解説をしてしまうとそれが限定されてしまう。だから、自由にこの作品に触れて欲しい。
収録曲より“Summertime Departures”ミュージックビデオ
“Summertime Departures/Sometimes I Dream”のライブ映像
日本のファンとのつながりが「希望」を導いた
──今後はどんな音楽を追求したいですか?
正直な音楽を作りたいだけ。そうすれば、どんな聴かれ方をされようが、必ず聴いた人に何かを導くようなものが生まれると思うから。ロックスターになりたいとか、そう言う野望は全くないね。
──バンドとソロとの活動のバランスは、どうなりますか?
バンドと僕は一心同体。ソロ名義でも彼らは必ず関わるから。彼らほど、自分の深い部分を知り、サポートしてくれる人はいないからね。ただ箱が異なるだけで、中身は一緒なんだよ。
──またソーシャル・ワークの活動とのバランスは?
どちらも自分にとって欠かせないものであり、共に連動している感じだから、切っても切り離せないよ。いろんな手段を通じて、世界中の人々に「ひとりじゃない」ことを伝える活動をしているんだけど、それを最も効果的に表現できるのが「音楽」なのだから。今後も音楽を通じて世界と繋がっていくつもり。
──最後に、日本の印象を教えてもらえますか?
泣きそうな話をしちゃうけど、いい? 実は、人生で最も心を動かされた経験を日本でしているんだ。先にも述べたように、僕あてに日本のリスナーとSNSでメッセージのやり取りをするんだけど、それまで交流していたひとりと突然連絡が取れなくなったんだ。そう言うことはSNS上よくある話だから、そっとしていたんだけど、ある時そのファンのお母さんからメッセージが届いたんだ。「自殺してしまった」という。それで来日の際にはぜひお会いしたいとも。それで、お母さんを含めたご家族や友人の方にお会いしたんだけど、彼らから「音楽がもたらすエネルギーは何かを教えて欲しい」と言われた。「あなたとのメッセージのやり取りを通じて勇気をもらっていた様子だが、最終的には自らこの世を去ってしまったけれど、そこには何があったのか」という。本当に心が打たれたし、また自分自身で音楽を通じて世界に何をもたらすことができるのか? を真剣に考えるきっかけを与えてくれた。そしてある時、日本でもライブで彼らをステージに招いたんだ。オーディエンスに彼らがなぜここにいるのかを説明してね。すると、そこにいる人々が、彼らを暖かく迎え入れてくれたんだよ。そこに答えがあったというか。音楽の持つエネルギーを感じることができた。皆さん、東日本大震災などさまざまな試練を乗り越えて、ここに立っているんだってね。そこにいられたことによって、自分の音楽に対する思いがガラリと変わった。つまり自分に誠実な音楽を作り続けていくことの大切さを教えてくれたんだ。この経験がなかったら、自分のソロアルバムは生まれなかったと思う。今の自分を作ってくれたルーツだと言えるね。
“The Hunter (By the Seaside Window)」”ショートムービー
アレックス・ヘンリー・フォスター 独占動画コメント
こんにちは、日本のみんな。
アレックス・ヘンリー・フォスターだよ。
ここはカナダ、モントリオールにある僕のスタジオなんだ。
僕のアルバム『Windows in the Sky』が日本でリリースされたことを伝えられて嬉しく思ってる!
インターナショナル・リリースでは日本が最初の国だよ。
このアルバムはとても個人的なもので、嘆きや絶望について歌っているけど、
そういう危機的状況の中で希望を見つけることについてでもある。
まさに今、世界中のみんなが経験しているよね。
だからこのアルバムをシェアするのが何となく特別な気がするよ。既にいくつか動画がアップされているんだ。
日本で撮影した“Shadows of Our Evening Tides”とか、“Summertime Departures”。
そしてつい最近“The Hunter”をリリースしたから、ぜひ観てみてね!またライブなどで、みんなに会うのが待ちきれないよ。
この機会を与えてくれたQeticに感謝!
すぐに会おう。
RELEASE INFORMATION
Windows in the Sky
MAGNIPHより発売中
日本盤は対訳+ライナーノーツ、ボーナス・ディスク『Live From Montreal International Jazz Festival, July 5, 2019 』付きの2枚組